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31,2020
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2020年最初の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
今回は新年の門出に相応しいベテランと新進気鋭揃い踏みの強力なラインナップが出揃いました。
今やフラワーキングスのロイネ・ストルト、或いはスティーヴ・ハケットやニール・モーズと肩を並べる位のシンフォニック・ロックマイスターに成り得たと言っても過言では無いウクライナのAntony Kalugin率いる“カルファゲン ”通算11枚目の最新作は、名実共に21世紀プログレッシヴの先鋒を担うであろう順風満帆の気運と上昇気流の波に乗った充実感溢れる好作品に仕上がっています。
オランダからは待ちに待った期待の新星降臨ともいえる久々のニューカマー“ジャンクション ”の登場です。
2017年のデヴュー作と共に日本に初到着した昨年末リリースの2枚目は、前デヴュー作よりも格段にパワーアップした、往年のダッチプログレッシヴが持つ伝統…人懐っこくてホットな雰囲気が感じられるクラシカルで良質なポップス感に加え、ソリッドで且つエッジの効いたハードでシンフォニックな風合いは、今日の凡庸なメロディック・シンフォとは一線を画した光と煌きすら覚えます。
北欧と西欧とが隣り合ったデンマークからも期待の新星“フォール・オブ・エピスティーム ”がめでたくデヴューを飾りました。
ブリティッシュ・プログレッシヴの大御所並びカナダのサーガから多大なる影響を受けたシンフォニックでキャッチーなメロディーラインは、21世紀ネオプログレッシヴでもありメロディック・シンフォニックの範疇ながらも、どこかしら懐旧の佇まいと相まって70~80年代イズムの作風をも偲ばせる、メンバー各々がバンドを結成する以前に培われた長い音楽経験を物語る燻し銀の如き渋さと魅力を纏った注目デヴュー作です。
新たな一年の幕明けを告げる、秀逸で荘厳なる楽師達の魂が響鳴し感動的な旋律を謳い奏でる夢舞台に暫し時間を忘れて身を委ねて頂けたら幸いです。
1.KARFAGEN/ Birds Of Passage
1.Birds Of Passage (Part 1)
a)Your Grace/b)Against The Southern Sky/ c)Sounds That Flow/
d)Chanticleer/ e)Tears From The Eyelids Start (Part 1)
2.Birds Of Passage (Part 2)
a)Eternity's Sun Rise/b)Echoing Green/
c)Showers From The Clouds Of Summer/ d)Tears From The Eyelids Start (Part 2)
3.Spring (Birds Delight) ※Bonus tracks
4.Sunrise ※Bonus tracks
2019年の幕明けに2枚組超大作『Echoes From Within Dragon Island』をリリースし、多分その後は次回作の為の準備期間で膨大なる時間を費やすであろうと思っていた矢先、昨年末に突如青天の霹靂の如くにリリースされた、ウクライナ・シンフォニックの筆頭格にして21世紀プログレッシヴの牽引をも担うカルファゲン 通算11作目の新譜が到着した。
余計なお世話ながらも、あまりにハイペースな半ばやっつけ仕事とでも言うのか突貫工事にも似た新作リリースに、作風のレベル低下をも懸念する向きは否めないが、そんな外野の杞憂や取り越し苦労なんてどこ吹く風の如く童話の絵本を思わせるファンタジックで美麗な意匠も然る事ながら、過去の作品と同等(同等以上)クオリティーの高さは今作も不変であり、ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローとウィリアム・ブレイクの詩をコンセプトに、Antonyのキーボードワーク始め、女性Vo、ギター、アコギ、リズム隊、ヴァイオリン、フルートやバスーンの管楽器パートに至るまで、ウクライナという異国の香りを湛えつつもインターナショナルに視野を向けたメロディーラインとリリシズムが絶妙な音空間を醸し出しており、かつてのトレースの『鳥人王国』にも匹敵するシンフォニーを構築している。
Antony=カルファゲンが織り成す音の夢幻世界が、願わくばこのまま未来永劫果てしなく続いていってほしいと私を含めた世界中のファン誰しもが希望する限り、彼等の旅路が終わる事だけは決してあってほしくは無いものだ…。
Facebook Karfagen
2.JUNXION/ Stories Of The Revolution
(from HOLLAND )
1.Polyalphabetical Substitution Cipher/2.Epiphany/
3.Compulsion To Psychogenesis/4.Breaking Waves(Bonus track)
突如オランダのシーンより彗星の如く登場し、一躍次世代のダッチシンフォニックを担うであろう期待の新星として昨今注目を集めているジャンクション の、本作品は昨年リリースされたばかりの2作目に当たる新譜である。
2017年のデヴュー作『Inevitable Red』と共に最近入荷され、彼等が創造する音世界並びYoutubeに於けるヴィジュアルセンスに触れられた方々も多い事だろう。
どこか斜に構えた視点とニヒリズムで人と社会に対し啓蒙と警鐘を提唱しつつ、ヘヴィでハードなソリッド感と硬派で正統なユーロシンフォニックとが共存した唯一無比なサウンドワークは、21世紀ネオプログレッシヴという範疇でありながらも、凡庸なメロディック・シンフォとは決して交わる事無くあくまで一線を画した独自の道を歩む潔さと決意表明すら垣間見えて、一筋縄ではいかない曲者感有り気な姿勢に好感を覚えてしまう。
プロフィールフォトからしてメンバー全員まだ30代前後の若手世代かと思えるが、キーボードにギター、リズム隊という基本的な4人編成で、2人の女性ヴォーカリストとチェリストをゲストに迎えたスタイルで、今風でポップがかった線描画のアートワークに一瞬戸惑うものの、意表を突いた予測不能な展開と曲作りの上手さに驚愕する事必至であろう。
彼等然り若手のプログレッシヴ系アーティストがこれからも道を繋ぎ続ける限り、オランダのシーンの前途はまだまだ眩く輝き続けるであろう。
Facebook Junxion
3.FALL OF EPISTEME/ Fall Of Episteme
(from DENMARK )
1.Love Will Stay/2.Experience Oblige/
3.Accelerator/4.Punchline/5.Invisible Crusader/
6.Guiding Star
グレーカラーに彩られた終末世界観さながらの意味深なシチュエーションのアートワークが、彼等の音世界を雄弁に物語っていると言っても過言ではあるまい。
フォール・オブ・エピスティーム と名乗るデンマークから登場の、久々に骨のある有望で秀逸なニューカマーが昨年デヴューリリースを飾った本作品からは、ブリティッシュ・プログレッシヴ界の大御所並びカナダのサーガといった影響下が窺えて、21世紀という時流相応のスタイリッシュで且つメロディアス&キャッチーなフィーリングの作風ながらも、メンバー各々バンド結成以前より培われた長年の音楽経験が裏打ちされているだけに、曲調の要所々々からどこかしら懐かしさにも似た70~80年代イズムの息遣いや佇まいが偲ばれて、流石に一朝一夕では為し得ない燻し銀の様な渋みと深さが堪能出来る齧り聴き厳禁な秀作に仕上がっている。
ジャーマン系やポーランドのメロディック・シンフォといったシンパシーにも相通ずる哀愁と抒情性が作品全体を色濃く染めており、物悲しさと仄かな光明が同居した筆舌し難いサウンドスカルプチュアを織り成している。
15分超の5曲目の大作含め全曲総じて素晴らしいが、やはり管弦セクションをバックに切々と謳い上げるバラード調のラストナンバーが胸を打つ。
時代や世紀がどんなに移り変わろうとも、やはり悲哀感と激情あってこそのユーロ・プログレッシヴであると改めて痛感してならない。
Facebook Fall Of Episteme
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29,2020
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2月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
新型コロナウイルス肺炎やらインフルエンザの蔓延が巷に不安の影を落としている昨今ですが、そんな暗澹たる空気と風潮をほんの少しでも…暫しの間だけでも(ほんの気休めでも)音楽の力で和んで頂けたらと思います。
この場をお借りして、新型肺炎で生命を落とされた方々に慎んで心より深く哀悼の意を表すると共に、一日一刻も早い収束が訪れる事を願わんばかりです。
今回は長い歴史を誇るであろう真の正統派ユーロ・シンフォニックたる王道と流れを脈々と継承したベテランとニューカマーによる強力ラインナップが出揃いました。
今や大御所アンジュと並ぶであろう、フレンチ・シンフォニック界きっての吟遊詩人にして大道芸にも似通ったエスプリとトラディショナルを纏った至高の楽師へと上り詰めた“ミニマム・ヴィタル ”の通算8作目の2020年スタジオアルバムは、改めてロックバンドとしての初心と原点回帰に立ち返った繊細さと豪胆さが同居した最高の充実作に仕上がってます。
久し振りのスイスからは21世紀シンフォニックやネオ・プログレッシヴといった概念をも超越した、文字通りシンフォニック・ロック+オーケストラというプログレッシヴたる基本の雛型を、膨大な時間と日数を費やして実践した新鋭“スパイラル・オーケストラ ”衝撃のデヴュー作は白眉の出来栄えと言っても過言ではありません。
イエス、ジェネシス、クリムゾン、果てはスポックス・ビアードからアフター・クライングといったエッセンスに管弦楽と現代音楽までもが見事に融合した、ハイレベルにしてハイテンションな宇宙創生神話は必聴必至で感動と興奮以外の何物でもありません。
北欧フィンランドからも名は体を表しているといった感で、さながらキャメルばりの抒情性と泣きを孕んだ眩い白夜の陽光と森の神話を謳い紡ぐ“サンヒロー ”のデヴュー作がお目見えしました。
21世紀北欧物というと漆黒の森の暗闇を思わせるクリムゾンばりのヘヴィでダークさが主流といった感が無きにしも非ずですが、そんな作風や佇まいとは全く真逆なヴァイオリンをフィーチャーした時にクラシカルで時にフォーキーな牧歌的で詩情溢れる世界観は聴く者の心を清らかに洗い流してくれることでしょう。
冬からいよいよ春へ…季節の移り変わりを奏で告げる真摯で清廉なる音の匠達の響鳴に心震わせ、去りゆく冬に訣別の思いを馳せながら耳を傾けて下さい。
1.MINIMUM VITAL/ Air Caravan'
(from FRANCE )
1.La Compagnie/2.Air Caravan'/
3.Praeludium Tarentella/4.Tarentelle/
5.King Guru/6.Le Fol/7.Sliman/
8.Vole(Voyageur Immobile)/9.Jongleries/
10.El Picador/11.Djin Alzawat/12.Nimbus/
13.Hugues Le Loup
1983年のバンド結成以降、実に30年選手のキャリアを誇るフレンチ・シンフォニックの雄ミニマム・ヴィタル 。
本作品は数えて通算8作目となる2020年の新作に当たり、2015年の前作『Pavanes』ではPayssan兄弟にバンド結成当初からのオリジナルベーシストEric Rebeyrolによるトリオスタイルで2枚組という長尺なヴォリュームながらも重厚にして流麗、従来通りのヴィタルサウンドが存分に堪能出来た好作品であったが、今作は4作目『Esprit D'Amor』に参加していたドラマーのCharly Bernaが再びバンドに加わり、改めてロックバンドという意識に立ち返って…デヴュー作『Les Saisons Marines』始め『Sarabandes』、『La Source』の頃を彷彿とさせる様な、原点回帰と初心に戻るという意味合いが窺える変幻且つ緩急自在で一曲毎がヴァラエティーに富んだ力強い意欲作に仕上がっている。
今までの彼等の作品と比べると些か似つかわしくない様な一見するとモダンでカラフルな意匠ながらも、さながらステンドグラスをも想起させるイメージ通り(見開きデジパック内側も彼等なりのユーモアセンスとジョークが微笑ましい)、フランスらしい小粋なエスプリと吟遊詩人(大道芸人)にも似通っているトラディショナルな趣が全面に押し出された粒揃いの小曲で占められており、聴き手を決して飽きさせる事無く曲作りの上手さと巧みさで惹き付ける彼等の持ち味は今回も不変で健在である。
ラスト終盤でGGの『In A Glass House』のエンディングを連想させる流れに思わずニヤリとしてしまうのは私だけだろうか(苦笑)。
Facebook Minimum Vital
2.SPIRAL ORCHESTRA/ Atlas Ark
(from SWITZERLAND )
Part 1:
I.Dawn
1.Overture/2.Seven Parsecs From The Sun/3.Exodus Games
II.Zenith
4.Hesperides Gardens/5.Ghost Memories/6.Atlas Ark:Arrival
Part 2:
III.Twilight
7.The Sephirot Artefact/8.Fractal Breakdown/9.Uprising
IV.Midnight
10.Voidseeker
Artefact I/Artefact II/Artefact III/Hesperian Sunrise/
Atlas Ark:Revival/Awakening Of The Voidseeker/
The Battle Of Atlantis/Atlas Ark:Apotheosis/Epilogue
昨秋辺りから大々的な触れ込みでリリースの告知がされてはいたものの、様々な諸事情で製作が遅延し年明けに漸くその全貌を現した21世紀スイス・シンフォニック期待の新鋭スパイラル・オーケストラ 。
シンフォニック・ロックとオーケストラとの融合というプログレッシヴの定番にして鉄板という一度は避けては通れないであろう普遍的な命題に臆する事無く果敢に挑んだ本デヴュー作であるが、まさしく看板に偽り無しの…アートワーク総じてもう如何にもといった否応為しに期待感が高まる、広大な宇宙と悠久の神話世界をも想起させるイメージと寸分違わぬダイナミズムとスペクタクルが同居した重厚で深遠且つ荘厳で圧倒的な音の壁に、聴く者の心はいつしか鷲掴みにされ時間が経つのも忘れてしまう位にのめり込んでしまう事必至であろう。
イエス、ジェネシス、クリムゾン、果てはスポックス・ビアードやアフター・クライングといったプログレッシヴ界の巨匠達からの影響下にクラシックと現代音楽がハイブリッドにコンバインした、ネオプログレッシヴやメロディック・シンフォすらも凌駕超越するであろうハイレベルな完成度を物語る音世界観に加え、ギタリストでもありバンドの中心人物でもあるリーダーThomas Chaillanの秀逸なコンポーズ能力が光り輝く、改めてプログレッシヴ・ロックを創作するとはこういう事であると言わんばかり、徹頭徹尾プロフェッショナルで素晴らしい仕事ぶりが存分に堪能出来る事だろう。
作風の差異こそあれどウクライナのモダン・ロック・アンサンブルと互角に亘り合える逸材が登場した事に心から惜しみない拍手を贈りたい。
Facebook Spiral Orchestra
3.SUNHILLOW/ Eloise Borealis
(from FIN LAND )
1.Intro/2.Eloise Borealis/3.No New Words/
4.Beyond The Dreams/5.Out There/6.For A Moment/
7.Kuovi
白夜の国北欧フィンランドより新たなる抒情の調べが届けられた。
あたかもジョン・アンダーソンのソロアルバムをも連想させるサンヒロー なるニューカマーの2020年デヴュー作。
心穏やかな陽光が降り注ぐ北欧の森を夢見心地に彷徨う…そんなイメージすら思い起こさせる、北欧プログレッシヴ伝承の旋律にキャメルばりの泣きのメロディーラインが実に素晴らしく美しい。
男女混声ヴォーカルによるハーモニーの絶妙さも然る事ながら、ヴォーカルも兼ねる女性ヴァイオリニストのリリシズム高らかに奏でられる旋律に、ヴィンテージ感と相まってどこかしら懐かしさを感じさせるオルガンとエレピの残響、広大な草原の風を思わせるスカンジナビアン・フォーキーな佇まいにトラディショナルで温もりのある土臭さが聴く者の心を惹き付けるであろう。
5人編成によるメンバー全員が過去にフィンランド国内幾つかのプログレッシヴ・ロックバンドで培われた音楽経験者であるが故、言わずもがな素人臭さ皆無のしっかりと安定した演奏力に私を含めリスナーの誰しもがいつしかゆったりと身も心も委ねてしまいたくなる。
クリムゾン影響下のヘヴィでカオスなダークシンフォが主流といったイメージの昨今の北欧勢に於いて、幽玄且つたおやかに詩情と浪漫を謳う彼等の存在はノルウェーのウィンドミルと並んで今後も抒情派シンフォニックの重要なポジションとして注視される事だろう。
Facebook Sunhillow
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10,2020
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今週の「夢幻の楽師達」は、幾多もの困難と辛苦、そして挫折を乗り越えて21世紀の現在もなお孤高の輝きを放ち続けているブリティッシュ・ポンプ~メロディック・シンフォ界きっての燻し銀を思わせる漆黒のマエストロの称号に相応しい“パラス ”に焦点を当ててみたいと思います。
Euan Lowson:Vo
Nial Mathewson:G
Ronnie Brown:Key
Graeme Murray:B
Derek Forman:Ds
ここ近年の傾向として、80年代初頭にデヴューを飾った当時の新鋭=所謂ブリティッシュ・ポンプムーヴメントの屋台骨となった主要バンドが、結成30周年云々を機に(記念する意を含めて)続々と燻し銀の光沢を放つ作品をリリースするといった動きが顕著に見られる様になった。
ポンプシーンの先導役となったマリリオンを筆頭に、IQ、ペンドラゴン、ソルスティスといった第一世代が結成以降…紆余曲折やら暗中模索といった繰り返し等を経て、活動30周年という節目を契機に今までの総括といった自らの集大成的な意味合いを含めて、あるバンドは原点回帰に立ち返ったかの如く、またあるバンドは今の時代に則した(決して時流の波に乗るという意味ではなく)新たなアプローチのシンフォを試みる…etc、etcと枚挙に暇が無いが、過去に何度も言及されてきた“プログレッシヴの歴史に悪しき汚点を残したA級戦犯”などと揶揄され嘲笑を浴びせられたかつてのポンプ・
ロックも、何だかんだ言っている内に世界各国に大勢のファンを増やしつつ、更にはその第一期ポンプシーンの洗礼を受けた世代からフォロワーバンドが続々と世に輩出されるといった今日にまで至っている次第である。
70年代のブリティッシュ5大バンドに影響を受けた世代とはまた違った方向で、独自に進化(深化)しファンやリスナーと共に成長し、ネットの時代と上手く同調する事によって自らのスタイルと運営方針をも確立させたポンプエイジの申し子達。
それはいつしかネオ・プログレないしメロディック・ロック(メロディック・シンフォニック)と呼称される様になり、21世紀のプログレッシヴ・ムーヴメントを形成する上で一つの流派として周知・認識されていると言っても過言ではあるまい。
そんな百花繚乱な活況と様相を呈している全世界規模の21世紀プログレッシヴに於いて、一度は夢敗れて表舞台から消え去ったものの、自らの充電期間と併せて音楽の熟成を信じ待ち続けて起死回生の復活を遂げ今日まで独自のスタイリッシュな路線とストイックなまでの創作意欲と姿勢を貫き通し続けているブリティッシュ・ポンプ孤高の雄パラス。
リッチーがパープルに見切りを付けレインボー結成へと至った1976年、ブリティッシュ・プログレッシヴも当時席巻しつつあったパンクロックやニューウェイヴといった勢力に押され、かつての勢いに翳りが見え隠れしつつあった同年、スコットランドの港湾都市アバディーン出身の5人の若者達によってパラスの歴史は幕を開ける事となる。
前述のパープルを始めユーライア・ヒープ、イエス、ジェネシス…等といった70年代の大御所からの洗礼を受けた若い彼等にとって、時流の波に背を向けて王道たるブリティッシュ・ロック本来のスタンスで臨みつつも、その前途は多難続きであった事と思える…。
時代遅れの音楽だのと悪口雑言叩かれて、過去の遺物的な音楽に見向きする者なんぞ皆無に等しいプログレッシヴ斜陽化が叫ばれつつあった当時のブリティッシュ・シーンに於いて、肩身の狭い思いをし苦汁と辛酸を舐めさせられながらも、それでも彼等は決して臆する事も卑屈に陥る事無く地道にイギリス国内のライヴハウスやクラブを転々とサーキットしつつ、徐々に理解と支持、知名度を得ながら“その時が来るまで”虎視眈々と機会を待ち続けるのだった。
余談ながらも結成当初は、かの切り裂きジャック+レイプ犯をモチーフにした「The Ripper」が、ライヴで人気の呼び声が高いレパートリーだったものの、ハードコアパンクバンドも真っ青になる位にコスチュームとパフォーマンス、歌詞を含めてあまりに内容が過激だった為に会場側が演奏の自粛を申し入れた事がしばしばあったそうな(彼等なりのパンクとニューウェイヴに対する皮肉とアンチテーゼが込められていたのかもしれない。当然「The Ripper」は録音されていない幻の名曲(迷曲)である。もし出していたら当然発禁処分だった事だろう)。
そして機は熟し…時代は80年代激動期を迎えパンク・ニューウェイヴが衰退・停滞期に差し掛かる頃と前後してミュージックトレンドはNWOBHMが主導権を握り、時同じくしてあの熱き70年代ロックスピリッツとプログレッシヴ・ロックの復権・再興の気運と呼び声が高まりつつある中、1981年パラスは満を持してスコットランドにてライヴ収録したプレデヴューライヴ盤『Arrive Alive 』で世に躍り出る事となる。ちなみに同期バンドでもあるトゥエルフス・ナイトも同年ロンドンのマーキークラブにて収録したプレデヴューライヴ『Live At The Target』をリリースしており、CDやDVDがまだ無かったあの当時はデモカセット作品よりもアナログ盤の魅力に加えてダイレクトに自らのサウンドスタイルをアピール出来る格好の手段だった事が頷けよう。
アナログ盤時代は白地に銅版画を思わせる意匠が施されているが、後年はデジタルリマスタリングでCD化され音質がより向上しアートワークも大幅にリアレンジされて、ドイツのSPVを経て現在はアメリカINSIDEOUTから入手可能なので彼等の初期の時代に触れてみたい方は是非とも一聴して頂きたい。
思い起こせば…19歳の頃地図を片手に一人単独で上京した時のこと、右も左も分からず東新宿のディスクユニオンへふらりと足を運んだ際に、壁に掛かっていた新譜コーナーのパラスのライヴ盤と初めて出会った時の事を鮮明に記憶している。
マリリオンのデヴュー作に意気消沈しポンプロックなるものに些か懐疑的な思いを抱きつつも、騙されたつもりで今再びといった気持ちでパラスのライヴ盤に針を落とした時の興奮と衝撃は今でも忘れられない。
確かに70年代の大御所勢から比べると見劣りやら荒削りな演奏と今一つな音質は否めないが、当時久しく忘れかけていたロックの醍醐味と熱気が呼び覚まされた懐旧な思いだけが両耳を通じて脳裏に響鳴していたのを、まるで昨日の出来事の如く覚えている…。
嗚呼、そういえば同じ頃に買った歌物哀愁シャンソン風12インチシングル『Paris Is Burning』もなかなかの異色にして佳作だったことも付け加えておかねば…。
プレデヴューの『Arrive Alive』リリース以降、知名度が大きく浸透し期待感に注視される中でも彼等は地道に牛歩なペースを崩す事無く黙々と演奏活動に没頭していく日々であったが、3年後の1984年『Arrive Alive』が予想を上回るセールスを伸ばしているという事を嗅ぎつけたイギリスEMIは、既にメジャーデヴューを果たしているマリリオンに次ぐ二匹目のドジョウを世に送り出さんと早急に契約を持ちかけてくる。まあ…俗に言われるポンプロックの青田買いみたいなものである(苦笑)。
プロデューサーには往年のイエスやEL&Pといった数多くの名作を手掛けた名匠エディー・オフォードを迎えてパラスのメジャーデヴュー戦略に向けたお膳立ては全て整ったかの様に思えたが、早くもデヴューアルバムの根本的なコンセプトやら作品の方針やら方向性を巡ってバンド側とプロデューサーと会社側とで喧々諤々な衝突が繰り返されたそうな…。
曲の尺の短縮やらコマーシャリズムな曲の追加を命ぜられたり、ややもすればイエスの物真似的なサウンドアプローチを持ち掛けられたりと、よく言うギャップジェネレーション、考え方の相違と相まってバンド側と名匠エディーとの関係は決して円満良好では無かったと思える。
試行錯誤と難産の末に漸くリリースまでに漕ぎ着けた待望の記念すべきフルレングスのメジャーデヴュー作『The Sentinel 』は、ロジャー・ディーンと並ぶファンタジックアーティストのパトリック・ウッドロフ(残念ながら彼自身2014年に突然の病で急逝している)を起用したアートワークはモロにイエスワールドを拝借したかの様な意匠に賛否が分かれるところであるが、出来栄えやクオリティこそ決して悪くないもののバンド側やファン、レコード会社共々どこかしらしっくりと来ない言葉に出来ないしこりみたいな後味の悪さが残る作品になった事だけは否めない。
特に日本のプログレリスナーの間では、とてもエディーが手掛けた仕事とは思えない…なんて否定的な意見まで飛び出る始末だったから、印象的なジャケットとは裏腹に何とも割に合わない皮肉な話でもある。
あの当時アルバムに収録された楽曲以外にもまだまだ収録済みであるにも拘らずお蔵入りになってしまった未発の楽曲があったものの、後年バンド側とSPVレーベルの手でリマスタリング完全収録版(但しエディーの名前はしっかりと外されている)という形でリイシューされているが、儲け優先とセールス至上主義だったあの当時のEMIに2枚組大作のデヴューリリースなんて無論馬の耳に念仏みたいな話であって、パラスのメジャーデヴューは不本意にして理想と現実の狭間であがきながら悩み苦しむという残酷な洗礼そのものだったに違いない。
バンドの思惑とは裏腹にライヴは常に満員御礼で拍手喝采を浴びるという様相を呈していたが、そんな虚飾にまみれた日々の生活にほとほとうんざりし嫌気が差したヴォーカリストのEuanがバンドを去り、パラスは2作目のレコーディングに向けて新たなヴォーカリスト探しに奔走する事となる。
Euanに代わる新たな後釜として人伝を頼りにバンド間の旧知の間柄でも会ったアベルガンズのヴォーカリストだったAlan Reedを迎え入れて製作された1986年の2nd『The Wedge 』は、前デヴュー作での何かしらスッキリとしないモヤモヤ感が完全に払拭された、良い意味で漸くパラスらしさが開花した、一聴すると開き直りとも取れそうな脱ポンプロックを狙ったかの如く多少のコマーシャリズムを加味した小曲集的な趣の作品に仕上がっている。
…にしても、あの何とも安っぽいアートワークだけは何とかならないものか!と激昂したくなる位の当時のデザインの劣化には辟易してしまうのが正直なところでもある(苦笑)。
21世紀の今だからこそ笑って許せてしまう部分もあるが、あの当時は如何にも大衆受けを狙った安作りなデザインに頭を抱えたくなる思いに何度苛まれた事だろう…。
多くのプログレファンはもはやこの時点でパラスは終わりを迎えつつあると予感していたに違いあるまい。
正直なところ、マリリオンを除いてパラスやペンドラゴンは契約先のEMIから事実上の解雇に近い形で放出されるという憂き目に遭っており、改めて思うに商業主義やら儲け優先の音楽会社なんて所詮血も涙も無い卑劣でロクなもんじゃないと悟ったのもこの時であろう。
こうして…一時的ながらもあれだけ隆盛を誇っていたポンプロックシーンは、80年代半ばから後期にかけてあっという間に尻すぼみの如く表舞台から遠ざかり、マリリオンを除くポンプバンドの大半が消滅ないし路線変更したり、一時的に消息を絶って隠遁に近い状況へと追いやられてしまった次第である。
この時を境に多くの痛手を受けたポンプロックバンドが得た結論と教訓は「大手メジャーなレコード会社なんぞ信用出来るか! 」ということ…。
この意識の変革と自我の目覚めは、後年プログレッシヴ・ロックを新たな時代へと繋げる為に創り手側、専門のファンジン+メディア、世界各国の大勢のファン、そしてプログレ専門に門戸開放したインディーズレーベル側が一致団結し、今日の21世紀プログレッシヴムーヴメントの根幹へと押し上げていった起爆剤の様に思えてならない。
IQ始めペンドラゴン、ソルスティスといったポンプ第一世代が逆境を乗り越えて、90年代に自主レーベルを立ち上げトップクオリティーを維持しながらシーンをのし上がり、今日までの大躍進と確固たる地位と栄光を築き上げているのは言うに及ばず、第一世代に追随するかの如くギャラハド、ジャディス、果てはマジェンタやモーストリー・オータム、シーヴス・キッチン、クレドといったリアルタイムで活躍している世代が台頭している昨今、CD売り上げ不振に悩む大手レコード会社を尻目に、プログレないしメタル系を専門とする各々のインディーズ系ばかりが着々と業績を伸ばしているという逆転の現実に、筆者である私自身も筆舌し難い感慨に耽ってしまうのはいた仕方あるまい。
話が横道に逸れてしまったが、肝心要のパラス自体も『The Wedge』の売り上げ不振でEMIから放出された後も、決してただ黙って凋落していた訳ではなく、いつかまた何年か後に再起動するため自らを敢えて冬の時代へと沈黙し長きに亘る充電・冬眠期間を要さなければならなかった。
その間もメンバー間同士で密に連絡を取り合い、本来の生業を兼ねながらセッションやらサポートメンバーとして参加したり、パラス再開の為のリハーサルを重ねながら力量を蓄えていったのである。
そして消息を絶ってからおおよそ13年後の1999年、20世紀が終わりを迎えつつあり、そして彼等パラスがすっかり世間から忘却の彼方へと追いやられつつあった中、10年以上もの沈黙を破って当時新興だったプログレッシヴ専門レーベルSPV+INSIDEOUTからリリースされた待望の復活作『Beat The Drum 』は、まさに彼等の起死回生に相応しい会心の一作として再び世界各国の多くの聴衆達から喝采と賞賛を受けるのだった。
Graeme Murrayを筆頭にNiall Matthewson、Ronnie Brownのオリジナルメンバーに加え、2代目ヴォーカリストAlan Reed、そして新たなドラマーにColin Fraserを迎えた新たな布陣で『Beat The Drum』から、21世紀以降の2001年に『The Cross & The Crucible 』、そして4年後の2005年フィドル奏者と3人の女性ヴォーカルをゲストに迎えたコンセプト大作『The Dreams Of Men 』といった素晴らしい好作品を立て続けに発表していく。
99年の活動再開以降…その荘厳で且つ冷徹な感すら抱かせるクラシカル・シンフォニックさとブリティッシュロックの王道を地で行くヘヴィ&ハードな側面とが同居した、ドラマティックでダークなヴィジュアルを湛えた揺るぎ無い世界観は、もはやかつての80年代で痛手を受けたジレンマとカタルシスを完全に払拭する位、10年以上ものブランクなんぞ感じさせない威厳と風格をも取り戻し、幾数多ものシンフォニック・バンド、メロディック・ロックバンドの追随をも許さない一線を画したストイックなスタイルと、時流の波やトレンドとは一切無縁な妥協の無い研ぎ澄まされた頑ななまでのアーティスティック・スピリッツで第一線に返り咲いたのである。
このまま順風満帆な上り調子で継続していくのかと思われたが、ツアーや精神面での度重なる疲弊に加えてパラスでの自らの役目は終えたとばかりに程無くしてヴォーカリストのAlanが5年後の2010年に脱退してしまう。
長年苦楽を共にしてきたAlanというフロントマンが脱退という出来事はパラスの面々に大なり小なりのショッキングと暗雲をもたらすが、臆する事無く前進あるのみを決めた彼等は度重なる選考の末、新たにPaul Mackieをヴォーカリストに迎えて、翌2011年メジャーデヴューの際のアートワークにもなった半馬人型のメカロイドを再登場させ、まさしく『The Sentinel』の後日譚にして続編的なカラーを持たせた『XXV 』をリリースし(発売元も心機一転アメリカのMascot Musicからリリースされている)、Alan脱退を含む過去の因縁との決着・訣別を意識したかの様な、今までの思いの丈を込めた集大成的なカラーと趣が存分に詰め込まれた久々に会心の一作となったのは言うまでも無かった。
そして3年後の2014年の暮れにリリースされた通算第7作目の『Wearewhoweare 』は、メカニカルでカタストロフィーなイメージが強かった前作から一転して、ロシア人アーティストが手掛けた(キモ可愛いと言うには程遠いかもしれないが)何とも摩訶不思議にして奇妙で不気味なクリーチャーが用いられた意匠のイメージ通り、ダークで仄暗いエモーショナルなモダンヘヴィ・シンフォニックに仕上がっており、全曲のイマジネーションを想起させる40ページに及ぶデジブックスタイルの初回限定版はパラスのファンならずとも、プログレッシヴを愛する方なら願わくば是非とも直接手に取ってお聴き頂きたい(今回の本作品から念願の自主レーベルによるリリースでもある)。
さながらダーク・ゴシックな雰囲気漂う妖しいフェアリーテイルといったところだろうか。
ちなみに今年2020年にはプレデヴューの『Arrive Alive』から2014年の『Wearewhoweare』に至るまで、彼等の全作品の中から10曲がチョイスされリアレンジと新録音が施されたレトロスペクテブ・アンソロジーな趣の『The Edge Of Time』がリリースされている事も付け加えておく。
ここまで駆け足ペースでパラスの足跡を辿っていった次第であるが、今日までに至る道程は決して平坦でもなければ順風満帆でもなく、むしろデヴュー当初から幾多もの困難と矛盾に苛まれ、事ある毎に挫折や葛藤の繰り返しで、10年以上もの活動休止期間というブランクを経てもなお“己”を信じ続
けて見事に甦り、そのストイックなまでの鬼気迫る精神とがむしゃらで真摯な創作意欲を堅持し続けて、現在も飽くなき探求心で貪欲に孤高のプログレッシヴ・フィールドを歩み続けている彼等に、心から拍手を贈るなんて見え透いたお世辞めいた事なんぞ所詮無用であろう。
我々が出来る事は…彼等の構築する世界というフィルターを通じて現実を凝視すること、そして彼等のこれから目指すべきヴィジュアルとは何か?彼等がこれから何を見据えて歩んでいくのか…それを私達はしかと見届けていかねばなるまい。
パラス…まさしく彼等こそプログレッシヴという無限大の荒野を彷徨う崇高な夢織人そのものと言っても過言ではあるまい。
彼等に問いかけ、そして挑み続けることこそ最大の賛辞にして礼儀であろう。
それはおそらく初心者マーク的な若い世代のプログレッシャーにとっては、少しかじって聴きました程度だけでは到底理解出来ない迷宮的な奥深さが待ち受けている事だろう。
彼等の飽くなきプログレッシヴの挑戦をこれからも私は受けて立とうと思う…。
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31,2020
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今月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
コロナウイルス肺炎の脅威と蔓延に翻弄され、不穏で暗澹たる時代の雰囲気に包まれ、兎にも角にも不安と恐怖に怯え苛まれた一ヶ月間だったと思えてなりません。
この度のコロナウイルス災禍で日本及び世界中で尊い生命を落とされた方々、そして亡くなられた志村けんさんの御霊に際し、この場をお借りして心より慎んで御冥福をお祈り申し上げます。
今回はコロナの猛威が吹き荒れるヨーロッパ大陸から、災禍に抗い闘うべく前途有望なニューカマー3バンドの揃い踏みとなりました。
イタリアからは、70年代イタリアン・ヘヴィプログレッシヴの伝統と熱気を脈々と継承した期待の新星がまた一つデヴューを飾る事となりました。
3年前にアンレアル・シティを抜けた女性ギタリストを中心に結成された“クエル・キ・ディセ・イル・トゥオノ ”のデヴュー作は、初期フロイドばりのサイケな佇まいにムゼオとビリエットのダークさとヘヴィサウンドが融合した…もう如何にもといった感の、イタリアン・ファンの誰しもが想起するであろう、胸を掻き毟られる様なパッションとダイナミズムが存分に堪能出来る意欲作にして豪華な野心作、必聴作に仕上がってます。
久し振りのポーランドからは、21世紀ポーリッシュ・シンフォならではの、メロディック・シンフォのエモーショナルさとクールな透明感を纏いながらも、ジャズィーな側面を湛えた昨年末デヴューを飾った“セグー ”が登場です。
女性キーボーダーが奏でる端整で瑞々しい感性が光るピアノをメインにギターとリズム隊が追随する、クリアでセンシティヴな旋律に時折UKばりの変拍子が垣間見える極上のシンフォニック・ジャズロックの真髄が熱い位に伝わってくる入魂作です。
かのロジャー・ディーンを意識したであろうアートワークに包まれた…言わずもがなプログレッシヴ・スピリッツ全開のフランス出身期待のニューカマー“アパイリス ”のデヴューも聴き処満載。
ヴォーカリストに、ギター&ベース、ドラム&キーボードといった変則タイプのプログレッシヴ・トリオで、フレンチ・シンフォにはやや珍しいラッシュ影響下のシンフォニックからプログメタルの両方面に至るまで、世代を越えた幅広いロックエイジへ大々的に強くアピール出来る傑出の一枚と言えるでしょう。
こんな仄暗い…まだ収束の先すら見えてこない悲愴感漂う現代(いま)の御時世だからこそ、音楽の未知なる力と可能性で希望を見い出し、強く明るく逞しく前向きに乗り越えられるよう、渾身の魂で謳い奏でる生命の楽師達のハーモニーに酔いしれ、過酷な現実を忘れて暫しの間ほんの少しでも夢想し、至福なるひと時に触れて頂けたら幸いです。
1.QUEL CHE DISSE IL TUONO
/ Il Velo Dei Riflessi
(from ITALY )
1.Il Paradigma Dello Specchio(Primo Specchio)
2.Figlio Dell'uomo(Secondo Specchio)
3.Chi Ti Eammina Accanto?(Terzo Specchio)
4.Il Bastone E Il Serpente(Quarto Specchio)
5.Loro Sono Me(Catarsi)
2017年リリースの『Frammenti Notturni』を最後に、結成以降苦楽を共にしてきたアンレアル・シティを(一身上の都合で)辞めた女性ギタリストFrancesca Zanettaを中心に新たに結成された、70年代イタリアン・ヘヴィプログレッシヴの王道と伝統を脈々と受け継いだ正統派クエル・キ・ディセ・イル・トゥオノ 衝撃的にして渾身のデヴュー作が遂にお目見えと相成った。
単刀直入に申し上げるが…ハイクオリティーなレベルの完成度の素晴らしさも然る事ながら、以前在籍していたアンレアル・シティを遥かに凌駕し、数段上回るダークでサイケな音世界観に改めて溜飲の下がる思いですらある。
前出のアンレアル・シティではバンド自体が未成熟な印象を湛えたまま、重厚感に欠ける嫌いに加え付け焼刃みたいな(早い話薄っぺらな)ダークさに正直なかなか感情移入出来なくて、Francescaのギターが全く活かし切れてなかっただけに、彼女自らが立ち上げた活躍の場が出来た分…漸く思い描いた通りのサウンドスタイルに水を得た魚の如く活き々々としたギターワークが縦横無尽に繰り広げられている事にやはり喜びと嬉しさは隠せない。
そうかと言って決してワンマンバンドに陥る事無く、彼女を支える卓越したキーボードの活躍、ヴォーカルをも兼ねる力強いベーシスト、屋台骨的役割をも担っているドラマーに加え、フルートとバックコーラス等のゲスト参加が栄えあるデヴューに華を添えていると言っても過言ではあるまい。
「私、こういう音が創りたかったのよ」と言わんばかりなFrancescaの気迫が満ち溢れていて、言わずもがな前のバンドを辞めた事は本当に正解だった思えてならない。
彼女そしてバンドの彼等に輝かしい未来と幸あれ!心から祝福の拍手を贈ろうではないか。
Facebook Quel Che Disse Il Tuono
2.THE SEGUE / Holograms
(from POLAND )
1.Segue/2.Questions/3.Torrent/
4.Exosphere/5.Future Ways/
6.Broken Mind/7.Time Space Illusion
紅一点の女性キーボーダーを擁する、昨年末に待望のデヴューを飾ったポーランド期待のシンフォニック・ジャズロックの新星セグー 。
21世紀ポーリッシュ・シンフォらしい陰影を帯びたメロディアスさとクリアな透明感、ドラマティックでエモーショナルな空気を伴ったサウンドワークながらも、かのUKをも彷彿とさせる変拍子を利かせたジャズィーでクロスオーヴァーな側面をも垣間見せるスタイリッシュさがバンドの身上と言っても異論はあるまい。
艶麗にして才媛のKarolina Wiercioch奏でる端整で且つ瑞々しい感性が発露したピアノ(+エレピ、シンセ)の美しい響きに導かれ、テクニカルなギター、強固なバッテリーを組むリズム隊という4人編成でヴォーカルレスのオールインストで構成された、徹頭徹尾ヨーロッパ大陸のイマージュと美意識を湛えた…一見クールな感で冷徹ながらもヒューマンな温もりと熱気の籠もったパッションが各曲毎に滲み出ている好作品へと打ち出している。
従来のポーランド出身らしい一本調子なメロディック・シンフォ路線に寄り掛かる事無く、あくまでただひたむきに自らの音とオリジナリティーを追い求め、純粋なまでに音楽的希求を物語っている燻し銀の様な光沢を放つ近年稀に無い傑出した珠玉のデヴュー作と言えるだろう。
Facebook The Segue
3.APAIRYS / Vers La Lumière
(from FRANCE )
1.Ritual
2.La Machine
3.Vers La Lumière
4.Sur Le Bitume
5.Recueil
もう如何にもいった感のロジャー・ディーンないしパトリック・ウッドロフをモロに意識したアートワークに思わず惹かれてしまう、フランス出身プログレッシヴ・トリオのニューカマーアパイリス の2020年デヴュー作。
ジャケットはイエス風ながらもサウンド的にはフランスではやや珍しいラッシュからの影響が窺えて、ヴォーカル、ギター&ベース、ドラム&キーボードという変則トリオスタイルのシンフォニックを構築しており、ゲディ・リーの様なハイトーンヴォイスよりもむしろ大御所アンジュのクリスチャン・デカンを思わせる典型的フレンチ・ロックスタイルの歌唱法に加え、ドラマーが弾くメロトロン、オルガン、エレピ、シンセ系も前面に出している辺り、そこは敢えて模倣を避けた差別化を図っているのかもしれない。
彼等も本家ラッシュと同様、プログレッシヴとハードロック両方面のファンへのアプローチを試みている意図が見受けられ、近年の凡庸なメロディック・シンフォやプログメタルとは完全に一線を画し自らのアイデンティティーを打ち出した意欲的で秀逸な作品と言えるだろう。
メンバー自体もヴォーカリストを除き、ギタリストとドラマーの両名だけが明確になっているので、実質上はバンドのサウンドスタイルとイニシアティヴは2人がメインになっているものと思われる。
願わくばどうかワンオフな一枚で終わらない事だけを祈りたい(苦笑)。
Facebook Apairys
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30,2020
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4月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
世界中に蔓延しているコロナウイルス感染は、一向に収束と衰えの兆しが見られず…日々感染者の増加や亡くなられた尊い人命の数が報じられ、さながら私達は先の光明すら見えない暗く長いトンネルの中を手探りで彷徨っているかの様な今日この頃です。
私を含め誰しもが挫折感や不安に苛まれ心折れそうになりますが、緊急事態宣言が継続されている今だからこそ辛抱、忍耐、我慢を合言葉に大なり小なりの希望を胸に抱き、前向きに困難を乗り越えねばならないと思います。
世界中のプログレッシヴの匠達が謳い奏でる“音楽の力 ”を糧に信じて待ち続けましょう!
今回はヨーロッパ諸国勢に負けず劣らずプログレッシヴ・メインストリームを誇るイギリス始め日本、そしてアメリカから強力なるラインナップが出揃いました。
イギリスからは実に3年ぶりの新譜3rdをリリースした“アイ・アム・ザ・マニック・ホエール ”に要注目です。
御大ジェネシス直系をも窺わせるであろう、往年の正統派ブリティッシュ・プログレッシヴの王道と伝承を堂々と受け継いだ、まさしく一点の曇りや迷いも無いジェントリーで力強く繊細なるシンフォニックワールドは今作も健在で、文字通りデヴュー作と前作をも上回る必聴必至な最高潮に達しています。
こちらも久々の日本からは、レヴューが遅くなって本当に申し訳ないと言わんばかりにお詫びするしかない…昨年秋にリリースされていながらも、新譜リリースされていた事すら知らなかった私自身の無知さ加減を恥じると共に、自戒と反省の念を込めて綴る東京きってのシンフォニック・ロックのトップへ上り詰めたと言っても過言では無い“マシーン・メサイア ”3年ぶりの新譜2ndも聴き処満載な最高作に仕上がってます。
アメリカからも今日の21世紀プログレッシヴを支えているであろう、名うての実力派バンドのメンバー達が結集した期待の新星“アミュージアム ”のデヴュー作も、イエス始め同国のスター・キャッスルといった流れと系譜を汲んだ、アメリカンらしい抜けの良いリリカルで且つキャッチーでファンタスティックなメロディーラインが聴き手の心の琴線を揺り動かすことでしょう。
季節は春から初夏へと移り変わり…コロナウイルス災禍に負ける事無く前向きに歩み続ける魂の楽聖達の饗宴に暫し耳を傾けながら、Stay Home の精神で心穏やかに過ごしましょう。
1.I AM THE MANIC WHALE / Things Unseen
(from U.K )
1.Billionaire/2.The Deplorable Word/
3.Into The Blue/4.Celebrity/5.Smile/
6.Build It Up Again/7.Halcyon Day/
8.Valenta Scream
2015年に衝撃のデヴューを飾って以降、上昇気流の波に乗るかの如く上向きのカーブを描き今や本家ジェネシス系譜を継承したビッグ・ビッグ・トレインと並ぶイギリスきっての正統派ブリティッシュ・シンフォニックの担い手となった感すら窺わせるアイ・アム・ザ・マニック・ホエール 。
本作品は前作2nd『Gathering The Waters』から実に3年ぶりとなる、まさしく満を持して期待の二文字を背負ってリリースされた3作目に当たるもので、看板に偽り無しの言葉通り期待に違わぬ…否!期待以上の素晴らしい出来栄えを誇るであろう、バンドの充実感と最高潮を物語る万人の期待を裏切らないリリシズム溢れジェントリーで且つ力強く繊細さが際立つハイクオリティーで時代相応にアップ・トゥ・デイトされたメロディーラインが徹頭徹尾繰り広げられている。
メンバー間のコーラスワーク含め、瑞々しくて繊細なピアノ始めハモンド、メロトロンといったヴィンテージカラー、ギターワークにリズム隊の安定感、フルートからストリングセクションの好サポートが光る最高の逸品に仕上がっており、耳にした瞬間心は躍りいつの間にか感動で胸が熱くなる事
必至であろう。
21世紀プログレッシヴでありながらも、要所々々でどこかしら懐かしさにも似たノスタルジックな空気感すら覚えてしまう、あきらかにネオ・プログレやらメロディック・シンフォとは一線を画した大英帝国本来のロックが持つ実力とプライドが垣間見えると言ったら言い過ぎであろうか…。
激動の2020年、今年のプログレッシヴ・アワードへと繋がる一枚がここにまた決まったと言っても過言ではあるまい。
Facebook I Am The Manic Whale
2 .MASHEEN MESSIAH / Another Page
(from JAPAN )
1.Turning The Page (Prelude)/2.Fanfare For The Eastern Feast/
3.Flying High (Learn To Be Afraid)/4.This Greatest Ride/
5.A New Beginning/6.I Will Hold On/7.Peace (Is The Word)/
8.Another Page
私自身言い訳がましい事をとやかく言うつもりはないものの、昨年秋にリリースされながらも私の許に情報が入ってくる事無く、つい最近漸く新譜リリースされた事に気付くという体たらくと無知さ加減に、遅くなったとはいえこの場をお借りして自戒と反省の念を込めて…バンドメンバー並び関係各位の方々に深くお詫び申し上げます。
嗚呼…兎にも角にもアートワークと収録された全曲総じて、何と劇的で崇高且つ荘厳なる音世界であろうか!
2016年にセンセーショナルなデヴューを飾って以降、その後の動向に多くの注視が寄せられていたマシーン・メサイア 、3年ぶり待望の2019年新譜2ndが今こうして届けられた事にやはり喜びは隠せない。
エマーソンを強く意識したオルガンにシンセ系、コーラスメロトロン系を配した深遠で重厚感溢れるキーボードワークのテクニカルな巧みさも然る事ながら、曲作りの上手さからコンポーズ能力、スキルの高さを物語るハードでシンフォニック、キャッチーなメロディーライン、フロントヴォーカリスト棚村のドラマティックな歌唱法とパーソナリティーとしての存在感、プロフェッショナルなギターとリズム隊の素晴らしい仕事っぷり、フルートを含めたゲストサポートの好演と相まって、オープニングからエンディングに至るまで申し分無い位の完成度を物語るマスターピースが、またここに一つジャパニーズ・プログレッシヴ史に堂々と刻まれる事となったのは言うに及ぶまい。
同じ関東圏の大御所ケンソー始めTEE、そしてユカ&クロノシップに続くワールドワイドな視野と焦点を見据えた、今まさに王手をかけそうな意気込みと期待感に綴り手でもある私自身も心が熱くなりそうだ。
余談ながらも、未聴の方はどうか先ず2曲目そして5曲目の大曲をお聴き頂けたら幸いである。
Facebook Masheen Messiah
3.AMUZEUM / New Beginnings
(from U.S.A )
1.The Challenge/2.Changing Seasons/
3.Birthright/4.Naysayer/
5.Shadow Self/6.Carousel
マース・ホロウ、ヘリオポリス…etc、etc、今日の21世紀アメリカン・プログレッシヴを担う名うての実力派バンドのメンバーが結集した、文字通りのスーパーバンドと言っても過言では無い期待の新星アミュージアム 堂々たるデヴュー作がお目見えとなった。
幻想的な佇まいながらもシンプルな印象のアートワークとは裏腹に、サウンドを拝聴して真っ先に思ったのは、メンバー全員が並々ならぬイエスへの愛情にも似たリスペクト精神に満ち溢れており、同国のスター・キャッスルばり…否それ以上に幾分アンダーソンを意識したかの様な歌いっぷり(決してそっくりな物真似レベルではないが)、ハウを敬愛して止まないギター、初期のケイやウェイクマンのセンスに近いオルガンやメロトロンを主体としたキーボードの活躍、均衡の取れた強固なリズム隊の絶妙な掛け合い…等、ブリティッシュなスピリッツにアメリカンなマインドが違和感無くコンバインしたハイブリッド・スタイルなシンフォニックと言えるだろう。
ネオ・プログレッシヴやポストロックといった現代風な流れとはあくまで真逆な、ヴィンテージカラーをも内包したプログレッシヴ本来の王道を踏襲した極めて純粋でファンタスティックな、北米大陸らしい抜けの良さと爽快感が体感出来る事だろう。
なるほど…ミキシングを手掛けたのはスクワイアの弟子にして現イエスのベーシストでサーカのリーダーでもあるビリー・シャーウッド、ここにもイエス愛が色濃く反映されているのも頷ける。
Facebook Amuzeum
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30,2020
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5月もいよいよ終盤、風薫る初夏から日に々々本格的な夏へと季節は移り変わり、コロナウイルス禍で不穏に大きく揺れ動いた一ヶ月間…様々な不安要素こそ否めないものの、漸く全国規模で緊急事態宣言が解除され、新たなる前進と再生への一歩を歩み出したそんな感すら窺わせます。
ほんの僅かな明るい兆しの光明と背中合わせに、コロナウイルス蔓延第二波といった懸念と不安感が拭い切れない昨今ですが、こんな時こそ音楽の力を借りてでも更なる気持ちで臨み心身を引き締め、希望を胸に前向きに歩んでいかねばと願わんばかりです。
今月のラインナップは、今や21世紀イタリアン・ロックシーンに於いてラ・マスケーラ・ディ・チェラやイル・バシオ・デッラ・メデューサと並ぶベテランの域に達したと言っても過言では無いヘヴィ・シンフォの雄“ウビ・マイオール ”の実に5年ぶりとなる通算4作目の新譜が到着しました。
デヴューから一貫してリリシズムとミステックな雰囲気を湛えつつ、70年代ヴィンテージ・スピリッツを踏襲したダークエナジー迸るヘヴィサウンドは今作も健在で、更なる自己深化(進化)を遂げた極上で優雅なる音空間に暫し時を忘れる事必至でしょう。
久々のドイツからは嘘偽り無しの新たなる期待の新星現る…そんなフレーズすらも寸分違わぬ、アマチュア臭さ一切皆無な弩級のニューカマー“アンセストリー・プログラム ”のセンセーショナルなデヴュー作がお目見えです。
日本のSFコミック或いはジャパニメーションをも意識しつつエコロジーな視点すら垣間見える意味深なアートワークを含め、クリムゾン、GG、果てはスポックス・ビアードへのリスペクトをも予見させるヘヴィ・プログレッシヴに幾分ポスト的な雰囲気をも兼ね備えたハイブリッドさは、まさしく驚愕の新世代登場を告げる決定打と成り得るでしょう。
北欧スウェーデンからもムーン・サファリの元ドラマーを擁する要注目のニューカマー“ウインダム・エンド ”堂々のデヴュー作が登場しました。
ムーン・サファリの優しくも甘美で陽のイメージすら感じさせる音楽性とは真逆な、予測出来ない展開に加え起伏と陰影を帯びたドラマティックで北欧らしいイマージュとヴィジュアルが色濃く反映されたメロディック・シンフォは、かのIQにも匹敵するマインド感で徹頭徹尾埋め尽くされ、単なる一介のポッと出なメロディック系とは一線を画した醍醐味と充実さはリスナー誰しもが至福なひと時を味わえる事でしょう。
平穏な日常と清々しい開放感が徐々に戻りつつある今日この頃、新生活スタイルの浸透に相応しい2020年夏の到来を奏でる誇り高き匠達の荘厳且つ深遠なる調べに暫しの間耳を傾けて頂けたら幸いです…。
1.UBI MAIOR / Bestie, Uomini E Dèi
(from ITALY )
1.Nero Notte/2.Misteri Di Tessaglia/
3.Wendigo/4.Nessie/5.Fabula Sirenis/
6.Bestie, Uomini E Dèi
2005年のデヴューから一貫して、バレット・ディ・ブロンゾないしビリエット・ペル・リンフェルノ…等といった70年代イタリアン・ヘヴィプログレッシヴの系譜を脈々と継承し、かのラ・マスケーラ・ディ・チェラ始めイル・バシオ・デッラ・メデューサと並ぶであろう、ヴィンテージスタイルの21世紀イタリアン・ヘヴィシンフォニックの担い手として、ベテラン格という確固たる地位を築き上げたウビ・マイオール 。
2015年の3rd『Incanti Bio Meccanici』から実に5年ぶりとなる新譜4thとなるが、前作のメンバーチェンジで女性ギタリストMarcella Arganeseが加入し音楽的にも更なる幅が広がり格段の成長を遂げ、今作ではベーシストがGianmaria Giardinoに交代しリズム隊の強化を図った甲斐あってか、収録された全曲とも従来通りに大作主義の趣を留めつつもコンパクトで尚且つタイトに仕上がっており、曲毎によってリリシズムとミステリアスが同居した様々な表情と側面が垣間見られ、聴き手を飽きさせないグイグイと惹き付ける楽曲作りの上手さとその健在ぶりは嬉しくも頼もしい限りである。
ヴォーカリスト(+ヴァイオリンとトランペット)にしてフロントマンでもあるMario Moiの技量も然る事ながら、バッテリー的なポジションのキーボーダーGabriele Manziniのコンポーズ能力とスキルの高さがバンドの士気を高めていると言っても過言ではあるまい。
彼等の様な個性と存在あってこそ今日の21世紀イタリアン・ロックは支えられているのだろう。
世界的なコロナウイルス禍の暗澹たる昨今ではあるが、改めて今年も彼等の様な素晴らしき良い作品に巡り会えて幸せである。
Facebook Ubi Maior
2.THE ANCESTRY PROGRAM / Tomorrow
(from GERMANY )
1.Silver Intro/2.Silver Laughter/3.Pun Intended/
4.Another Way To Fly/5.Easy For Us/6.Tomorrow/
7.More To This/8.Tangerine Parties/9.Human Key/
10.No Chorus No Home/11.Ship To Shore
限定版デジブックCDを引っ提げて、2020年華々しくも力強いデヴュー作を飾ったジャーマン・プログレッシヴ期待の新星THE ANCESTRY PROGRAM=通称TAP ことアンセストリー・プログラム 。
バンドのネーミングも然る事ながら、『ブレード・ランナー』或いは『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』を意識したかの様なコンセプトに、エコロジカルな視点とSFジャパニメーションなヴィジュアルに満ち溢れた何とも実に意味深なアートワークに目を奪われてしまうのは決して私だけではあるまい。
豪華絢爛なジャケットのイメージに寸分違わぬ、ポストロック風な浮遊感とイマジネーションに加え、クリムゾン始めGG、果てはスポックス・ビアードから多大なる影響を受けたであろう変拍子全開で息つく暇すらも与えないくらい複雑且つ緻密に展開されるテクニカル・ヘヴィシンフォなアンサンブルの応酬が存分に堪能出来る事だろう。
メインヴォーカリスト始めギター、ベース、ドラムスの4人編成でヴォーカリストを除くメンバー3人がキーボードを兼ねるといった変則的なスタイルながらも、メインもサブの楽器パートどれ一つ取っても完全無欠で少しもクオリティーが落ちる事無く、70年代イズムを踏襲したハモンドとシンセの効果的な使い方が良い意味でドイツ的(プログレッシヴとハードロック両方面を内包した)なのも実に微笑ましい限りである。
もはやメロディック・ロックもネオ・プログレッシヴといった次元すらも超越した、ここにあるのは70年代イズムと21世紀イズムとのせめぎ合いが織り成す、唯一無比なる重厚でハイブリッドな音空間のみである。
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3.WINDOM END / Perspective Views
(from SWEDEN )
1.The Dream/2.Starless Sky/3.Walk This Way/
4.Within The Shadow/5.Revolution/6.Ghosts Of The Past
バンド結成以降…紆余曲折と試行錯誤を経て元ムーンサファリのドラマーを迎え、今年2020年に漸くめでたくデヴューを飾る事となった、北欧スウェーデンより要注目のニューカマーとして各方面から期待の注視を集めているウィンダム・エンド 。
ややもすればプロパガンダなタッチを思わせるジャンル畑違いなアートワークに些か躊躇してしまいそうにもなるが、そんな意匠云々の下世話な心配を他所に、21世紀プログレッシヴ・スタイルを地で行く正統派のメロディック系シンフォニックを創作しており、北欧らしい雄大なイマージュとエモーショナルさを兼ね備えた泣きの旋律からは、かのマリリオンやIQにも匹敵し追随するくらいのドラマティック&キャッチーなメロディーラインに加え鮮烈なまでのサウンドアプローチが要所々々で窺い知れて、同国のフラワーキングスやムーンサファリとはまたひと味違った意味でワールドワイドな視野を見据えた野心作に成り得ると言っても言い過ぎではあるまい…。
ワールドワイド規模のデヴューリリースに先駆け、日本盤のみ特典ボーナスディスク付の紙ジャケット仕様限定2枚組CDが先行リリースされ、本作品に収録された全曲も然る事ながら特典ボーナスディスクに収録された3曲の素晴らしさは落涙必至である。
良い意味で70年代のヴィンテージカラーとスタイルを継承したシンフォニック系が主流の21世紀スウェーデンのシーンに於いて、程良いポップスフィーリングに優美で陽のイメージが強いムーンサファリとは真逆な、時代相応に陰影を帯びた曲調、起伏とメリハリ感ある予測出来ないサウンド展開を紡ぐ彼等の真摯で妥協無き姿勢に、新たな次世代プログレッシヴの端緒に似通った感覚すら見い出せる様な思いである。
Facebook Windom End
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29,2020
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6月終盤の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
コロナウイルス禍で幕を開けたかの様な2020年も折り返しを迎え、少しづつ収束の兆しを窺わせる一方で、ウイルス蔓延第二波の懸念といった一喜一憂にも似た空気感すら否めない昨今です。
私が常々口にしている“今ここにある危機を前向きに乗り越えましょう! ”という言葉を胸に、例え膨大なる時間がかかっても期待と希望を持って収束目指して一歩ずつ歩みを進めたらと願わんばかりです。
今月も音楽の力を借りて穏やかな安らぎのひと時に浸って頂けたら幸いです。
今回は21世紀プログレッシヴ・シーンに於いて異色な才気と音楽性に満ち溢れた、文字通り個性派揃いのラインナップでお届けします。
先ずイギリスからは、早々と日本に到着したばかりの強力なニューカマーにして、90年代から現在にかけてイエスのトリヴュートバンドとして活躍中でもある“フラジャイル ”驚愕の記念すべきデヴュー作です。
読んで字の如しイエス(+ファミリー)影響下も然る事ながら、かのルネッサンスをも彷彿とさせるドラマティックなシンフォニーは、堂々たるブリティッシュの王道を地で行く会心の一枚ここにありと断言出来るでしょう。
久々のポーランドからは、21世紀シーンへの新風と未知なる気概を感じさせるマルチソロアーティストとして、昨今瞬く間に注目を集めていると言っても過言では無い“ロマン・オディオジェイ ”の鮮烈なるデヴュー作がお目見えです。
ジェネシス始めラッシュといった御大からの強い影響を感じさせる幽玄で且つスペイシーなシンフォニックワールドは、近年のポーランド勢の中でも頭一つ別格に抜きん出たニューホープと言えるでしょう。
近年イタリア勢に負けず劣らず新世代の個性派ニューカマーを多数輩出しているドイツのシーンから、満を持して世に出る事となった期待の新星“ラバー・ティー ”のデヴュー作も必聴必至です。
メロトロンやハモンド、サックスを多用しクリムゾンばりの70年代ヴィンテージ系プログレッシヴを継承し甦らせた、その威風堂々たる姿勢の中にもちょっとした遊び心さえ窺わせる、若手世代ながらも一点の曇りや迷いの無い自らの音を表明した好感溢れる一枚に仕上がってます。
梅雨空の鬱陶しさに加え夏の本格的な訪れを予感させる蒸し暑いさ中、暫しひと時一服の清涼剤の如く心穏やかで流麗なる交響詩の調べに身を委ねて下さい…。
1.FRAGILE / Golden Fragments
(from U.K )
1.When Are Wars Won?/Surely All I Need/
2.Blessed By The Sun/Hey You And I And/3.Five Senses/
4.Heaven's Core/5.Open Space/
6.Time To Dream/Now We Are Sunlight/
7.Old Worlds And Kingdoms/Too Late In The Day
その極端なまでにロジャー・ディーンを意識したアートワークといい、バンドネーミングまでに至るイエス愛というかトリヴュートやリスペクト云々すらも超越した作風で、栄えある堂々のデヴューを飾ったフラジャイル 。
90年代にイエスのトリヴュートバンドとして結成され、長年に亘りイギリス国内始めヨーロッパ諸国の様々なロックフェスティバルやイベントでイエスのナンバーをメインに絶大なる支持を得ていた彼等が、文字通り満を持してのオリジナルナンバーで固めた記念すべき第一歩であるが、ハウ影響下のギタリストの大活躍も然ることながら、スクワイア影響下のベーシストがベースペダルを踏みながらウェイクマンばりのキーボードも弾きこなすといったマルチプレイも素晴らしく、特筆すべきは本家イエスとも交流のあった歌姫Claire Hamillの参加で楽曲に彩りと華やかさを添えている点も見逃せない。
70年代イエス黄金期へのオマージュを湛えながらも、本家のアンダーソンとは異なったClaire女史の歌唱がややもすればルネッサンスに近いニュアンスをも彷彿とさせ、あくまで彼等フラジャイルというバンドの音として勝負している辺りに、イエストリヴュートという一種の足枷からの脱却が垣間見えると思えるのは些か考え過ぎであろうか(苦笑)。
いずれにせよビリー・シャーウッド率いるイエス別動隊のサーカとはまたひと味違った、ブリティッシュ・ロック伝承の王道でイエスの音世界を追随する彼等のスタートに心から拍手を贈りたい。
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2.ROMAN ODOJ / Fiasko
(from POLAND )
1.Titan/2.One Of You/3.Castaway/
4.Deux/5.Eurydice/6.Human Cartoon/
7.Annunciation/8.Fiasco/9.Quintans
如何にもといった感のスペイシーな趣を漂わせた意匠に包まれた、ポーランド発の新進気鋭にして瞬く間に脚光に浴びているロマン・オディオジェイ なるギタリスト兼コンポーザーの彼自身名義によるソロプロジェクトのデヴュー作。
21世紀のポーランド・シンフォニック(メロディック・シンフォを含めて)の大半が、良くも悪くもお国柄を反映しているのか歴史的な背景を物語るかの如く、陰影を帯びた重々しく畳み掛けるドラマティックな作風で占められている印象が無きにしも非ずであるが、彼の本作品にあっては従来のポーランド・シンフォとは一線を画した、御大ジェネシス始めラッシュといった影響下を窺わせるメリハリの効いた力強くも繊細で、変拍子を存分に活かしたどことなく開放的でワールドワイドな視野をも見据えた、曲によってはクロスオーヴァーなエッセンスが加味された豪胆で意欲的な仕上がりを見せている。
現在のポーランド・シンフォニック人脈との繋がりによる…ヴォーカリスト、キーボード、リズム隊、サックス、チェロ、ヴァイオリンといった多種多彩(多才)なゲストサポートの協力を得て、同国のムーンライズないしミレニアムにも匹敵する、東欧色豊かなエモーショナルで幽玄なヴィジュアルと佇まいが徹頭徹尾脳裏を駆け巡ることだろう。
ポーランドのシーンもいよいよ次なるステップへと踏み出し始めた…そんな新たな予感すら抱かせる好作品、とくと御賞味あれ。
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3.RUBBER TEA / Infusion
(from GERMANY )
1.On Misty Mountains/2.Downstream/
3.In Weeping Waters/4.The Traitor/
5.Plastic Scream/6.Storm Glass/
7.The Drought/8.American Dream
一見してかの故キース・ヘリング…或いはわたせせいぞうのイラストレーションをも想起させる、毒々しくもカラフルなサイケ調ポップアートなアートワークに彩られた21世紀ジャーマン・プログレッシヴ期待の有望株ラバー・ティー のデヴューアルバム。
2017年の結成から地道なギグを積み重ね多くのファン層や支持者を得て、3年越しのデヴューリリースまでに辿り着いた彼等の創作する音世界は、時代逆行を絵に描いた様な70年代初頭のアートロックにも相通ずるプログレッシヴ黎明期の初期~中期のクリムゾン、VDGG、果てはアフィニティーやフランスのサンドローズをも彷彿とさせるイディオムと作風で構築されており、紅一点の歌姫Vanessa Cross嬢のサックスとフルート始め、ハモンド、メロトロン、モーグ、フェンダーローズといったヴィンテージ鍵盤系、物憂げなアンニュイさを醸し出しているギター、ゲストサポートのブラスセクションが渾然一体となった、仄暗い翳りに加えて不思議な抒情性と余韻の残る快作(怪作)に仕上がっている。
ややもすれば「これは70年代の発掘物です」と仮にフェイクで紹介されたとしても、全く遜色や疑う余地の無い位に古色蒼然で原点回帰型に根付いた、同国のリキッド・オービットに次ぐ孤高で異彩を放つ存在感として、若い世代ながらも既に自らの所信を表明している点で大いに好感が持てる。
単なる王道復古なヴィンテージスタイルに終始する事無く、ピルツ時代のヘルダーリンないしエニワンズ・ドーターの『Piktors Verwandlungen』でも題材となったヘルマン・ヘッセの詩を取り挙げている点でも、流石国民性というか…ジャーマン・ロックの系譜たるロマンティシズムと奥深さに感慨深くなってしまう。
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31,2020
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7月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします…。
コロナウイルス禍が一向に沈静収束化する兆しすら無く、加えて各地で大きな豪雨と洪水被害をもたらしている梅雨前線が終わる事無く長期にわたって広がっている昨今、身も心も疲弊し憂鬱気味で且つ閉塞感すら覚えつつある今年の夏ですが、こんな時だからこそ音楽の力を借りて心を鼓舞させ様々な思いを張り巡らせて、夢と現実の狭間に正面から向かい合う絶好の機会ではないかと思えてなりません。
今月お送りするラインナップ…一番手のイタリアから“ロゴス ”の実に6年ぶりにして文字通り渾身の2作目は、「広島(ヒロシマ)の原爆と少女の千羽鶴」 という重々しくも命の尊さをテーマに崇高に謳い奏でる、まさしくイタリアン・ロックのみならずプログレッシヴ・ロック史上最大の問題作にして恒久平和を大々的に問いかけるであろう、時代と世紀を越えた鎮魂の調べに祈りを捧げつつ耳を傾けていただけたら幸いです。
アメリカン・プログレッシヴの巨星・大御所にして現在もなお生ける伝説として君臨し続ける“カンサス ”4年ぶりの通算16枚目のスタジオアルバムも、前作同様に新旧メンバー同士が持てる力を余すこと無く存分に発揮した聴き処満載で、緩急変幻自在に自らのシンフォニック・ワールドを構築し、かつての70年代黄金時代に匹敵する秀逸で最高の一枚に仕上がっています。
久々のスペインからは期待の新星に違わぬ必聴必至の注目株“マジック・ブラザー&ミスティック・シスター ”のサイケでカンタベリーなエッセンスを含んだデヴュー作がお目見えです。
男女混成4人組で70年代サイケデリックなカラーとパッションをちりばめた妖しくも幽玄的な、あたかも魔法の時間が目と耳そして脳内で体感出来るであろう、一朝一夕では為し得ない曲者と思しきサウンドアプローチは聴けば聴くほど病み付きになることでしょう。
3バンド三様に各々の異なった個性と音楽世界に至福と満ち足りたひと時を堪能しつつ、夏から初秋に向けた高潔で清廉なる残響と調べに、暫し現実から離れて夢想の果てに遊離して頂けたらと思います…。
1.LOGOS / Sadako E Le Mille Gru Di Carta
(from ITALY )
1.Origami In Sol-/2.Paesaggi Di Insonnia/
3.Un Lieto Inquietarsi/4.Il Sarto/
5.Zaini Di Ello/6.Sadako E Le Mille Gru Di Carta
私を含めた同世代が子供の時分に学んだ事然り、21世紀の今もなお小学校の道徳の教科書で取り挙げられている、昭和20年8月6日広島の原爆投下で白血病となった佐々木禎子(1943~1955)さんの生涯をテーマに、反戦と恒久平和への願い…そして人命の美しさ尊さを崇高に謳い奏でたロゴス 6年ぶりの新譜2ndが漸く手許に届けられた。
在りし日の禎子さんの近影、千羽鶴の折り紙、原爆ドーム、エノラゲイ爆撃機の操縦席、そして原爆の子の像を織り込みながらも、ややもすれば重々しくも(失礼ながらも)陰鬱で深く沈みがちな曲想になりがちであるが、そこはやはりイタリアン・ロックの持つアイデンティティーとダイナミズムさが打ち出された、原爆がもたらした悲劇から一筋の希望と平和への慈しみの灯に繋がる劇的で感銘な人間賛歌のシンフォニー大作に仕上がっている。
毛色こそ違うがラッテ・エ・ミエーレの『Passio Secundum Mattheum』『Papillon』、そしてオルメの『Felona E Sorona』にも相通ずる重厚で壮麗なサウンドワークの21世紀スタイルと言えば概ね理解出来る事と思う。
メンバー4人の厳粛で気迫の籠もった演奏に加え、イル・テンピオ・デッレ・クレッシドレの女性キーボーダーElisa Montaldoがゲストヴォーカリスト(4曲目の流れが落涙必至で素晴らしい)にクレジットされ、サックスを含めたゲストプレイヤー数名の好演も見逃してはなるまい。
夢や幻想譚を紡ぐばかりがプログレッシヴ・ロックではないと言わんばかり…時として現実と対峙しドキュメンタリーな視点とジャーナリズムとしての表現と手法で真っ向から取り組んだ意味に於いて意欲的な異色作であると共に、コロナ禍という不安の真っ只中で混迷する現在(いま)だからこそ永遠に語り継いでいかねばならない決意表明にも似たメッセージ性すら窺える。
令和2年8月6日、今年もまた広島に75年目の鎮魂の夏が訪れる…。
あと数日後に迫った広島平和記念式典というタイムリーな時期に相応しい、平和への願いと反戦への祈りを込めて心静かに本作品に耳を傾けたいと思う。
この場をお借りして佐々木禎子さん始め広島、そして長崎の原爆で犠牲になられた尊い人命と御霊に対し、哀悼の意を表し心から御冥福をお祈り申し上げます。
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2.KANSAS / The Absence Of Presence
(from U.S.A )
1.The Absence Of Presence/2.Throwing Mountains/
3.Jets Overhead/4.Propulsion 1/5.Memories Down The Line/
6.Circus Of Illusion/7.Animals On The Roof/8.Never/
9.The Song The River Sang
名実共に時代と世紀を越えて、今なお北米プログレッシヴの巨星という王座に君臨し、正統派なるアメリカン・シンフォニックの王道を歩み続けるカンサス 。
本作品は前作『The Prelude Implicit』から4年ぶり通算16作目のスタジオアルバムに当たり、実にファンタジックで幻想的な佇まいを想起させるアートワークのイメージと寸分違わぬ、彼等の全作品に於いて最高潮の仕上がりであると共に、70年代の傑作『Leftoverture』『Point Of Know Return』そして2000年の完全復活作『Somewhere To Elsewhere』と並ぶであろう、バンド自体が充実感溢れる雰囲気を持った秀逸で崇高な一枚と言っても過言ではあるまい。
収録されている全曲共一切無駄な部分や隙の無い緻密で且つ豪胆…絵に描いた様なアメリカンな大らかさと開放感に加えてブリティッシュ&ユーロ系の持つドラマティックでリリシズム、時に熱くハードで時にクールで知的なインテリジェントさが際立っており、40年選手という大ベテランの域にして揺ぎ無い自負と身上、プライドすら窺わせる。
Phil EhartとRichard Williamsという結成当初からのオリジナルメンバー、そして2代目ベーシストBilly Greer、2代目ヴァイオリニストDavid Ragsdaleというカンサスの一枚看板を頑なに守ってきたメンツに、カンサスを聴いて育ち愛して止まないRonny、Zak、そして今回新加入のTomという新旧の血流と各々の思いとが見事にコンバインした、まさしく7人の男達の夢がぎっしりと詰まった結晶に他ならない。
ツインギタリストの片割れにして本作品のプロデューサーも兼ねるZak Rizviの手腕の見事さで、Steve始めKerry、Robby不在というハンデすらも克服し、改めてバンドの健在ぶりを高らかに宣言するかの様な会心作、是非とも貴方(貴女)の耳と心で確かめてほしい。
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3.MAGICK BROTHER & MYSTIC SISTER
/ Magick Brother & Mystic Sister
(from SPAIN )
1.Utopia/2.Waterforms/3.The First Light/
4.Yogi Tea/5.Arroyo Del Búho/
6.Echoes From The Clouds/7.Movement 2/
8.Love Scene/9.Instructions From Judgement Visions/
10.Les Vampires
神秘な眼差しを思わせるバンドロゴの文様始め摩訶不思議なバンドネーミングといい、彼等の記念すべき本デヴューアルバムを耳にした瞬間、紛れも無くあの70年代初頭のサイケデリアな佇まいとカンタベリーな雰囲気、キャラヴァンやゴング影響下のドリーミィーな感触、果てはドイツのピルツレーベル系のアシッドフォークの持つ気だるさが色濃く妖しげに甦ってくる。
そんな往年のブリティッシュとヨーロピアンが持っていた70年代という黄金時代の空気感を携えて21世紀のシーンに堂々降臨した、バルセロナ出身期待の新星マジック・ブラザー&ミスティック・シスター (まあバンド名からして一目瞭然であるが…)。
ハモンドにメロトロン、シンセ、ファンダーローズを弾きつつもバーバラ・ガスキンをも彷彿とさせる歌唱の女性ヴォーカリスト、女性フルート奏者、ギター&ベース、そしてドラマーの男女4人で編成され、21世紀という時代のトレンドや流行に決して流される事の無い、頑なな信念と身上で自らが理想とする夢見心地(白昼夢)な音楽世界を紡ぎ謳い奏でる真摯な姿勢に、筆舌し尽くし難い…理屈を越えた感銘と扇情な思いが脳裏に木霊する。
とてもポッと出の新人とは思えない位、一朝一夕では為し得ないであろう音楽経験に加えてスキルとコンポーズ能力の高さに新鮮な驚きは隠せない。
かつてのスパニッシュ・ロックが持っていた匂いや香りが皆無なのが些か寂しい限りではあるものの、それらを補って埋め合わせるだけの“あの当時の音と気概”への再生と復興に賭けるこだわりにある種の好感を抱いているのもまた正直なところでもある。
先月取り挙げたドイツのラバー・ティーと同様、本作品もこれは70年代未発表の発掘物ですと紹介したらプログレッシヴ・ファンの概ね9.5割方が真っ先に疑いも無く信じてしまう事だろう。
欧州の持つ伝統と旋律の奥深さも然る事ながら、70年代懐古やヴィンテージ云々を抜きに新旧のプログレッシヴ・ファンをも魅了する魔法の様に官能的な音楽時間をとくと御堪能あれ。
Facrbook Magick Brother & Mystic Sister
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30,2020
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8月の終盤、連日の残暑というにはあまりにも猛酷暑厳しいさ中、皆様如何お過ごしでしょうか…。
コロナ禍真っ只中の2020年夏も残り僅か、暦の上では既に立秋を迎え季節の変わり目に伴い日に々々秋の気配が僅かながらも感じられる今日この頃、今月の「Monthly Prog Notes」はそんな初秋の訪れに相応しい力作・秀作揃いの素晴らしいラインナップが出揃いました。
久々の南米ブラジルからは近年俄かに注目を集めつつ、かの御大サグラドの後継者へと繋がるであろう…そんな好評を博し名声を高めているクラシカル・シンフォニック・プロジェクトバンド“アルス・プロ・ヴィータ ”2枚組の2nd新譜に要注目です。
同時期に入荷した3年前のデヴュー作の素晴らしさも然る事ながら、戦争と平和という極めてアイロニカルな問題定義を孕んだ今作は、2時間20分強の収録時間とヴォリューム総じて一種のドキュメンタリーフィルムをも垣間見るかの様な美しくもシリアスで物悲しく、厳粛且つ神聖な調べは世代を越えた全てのプログレッシヴリスナーの胸と心を打つこと必至です。
イギリスからもそのバンドネーミングに思わず興味がそそられるであろう、古色蒼然たるブリティッシュ・ロックの伝統と実力が窺い知れる期待の新鋭“スノーグース ”のデヴュー作がお目見えです。
大御所キャメル影響下は当たらずも遠からずながらも、70年代初期のイリュージョン=ルネッサンス、果てはペンタングルといったブリティッシュ・フォーキーな趣を湛えた、正真正銘な英国サウンドはヴィンテージ系云々といった概念をも越えた詩情と感動の結晶そのものです。
アメリカからは、かのハッピー・ザ・マンないしディキシー・ドレッグスにも相通ずるシンフォニック・ジャズロックの王道を地で行くニューカマー“アイソバー ”の堂々たるデヴュー作が到着しました。
全編インストという曲構成でギター、ベース、キーボードのトリオに21世紀プログレッシヴ界最強の助っ人プレイヤーMattias Olssonをゲストドラマーに迎え、要所々々でホーンセクションを加えた硬派でインテリジェントな側面で抒情的なリリシズムが堪能出来る好作品に仕上がってます。
待ちに待った「プログレッシヴの秋」到来を告げるであろう…至高なる匠達が謳い奏でる極上で豊潤な調べに、暫し晩夏の暑さを忘れて心穏やかに耳を傾けて頂けたら幸いです。
1.ARS PRO VITA / Peace
(from BRASIL )
CD1:
1.War Is Peace/2.Shut Up And Shout !!!/3.On Bibles And Cannons/
4.The Yellow Cloud/5.A Handful Hope/6.Block 24, First Floor/
7.The Mother Who Killed 150,000 Sons/8.Likasi/
9.Sounds Of The Brave/10.Metus
CD2:
11.Decay/12.Curfew/13.Vital Signs/14.Children Of War/15.Mine/
16.Drone/17.Hero/18.God Is Not Here Part I/19.Resolution 1004/
20.White Helmets/21.God Is Not Here Part II/22.The March/
23.P E A C E
降り注ぐ放射能の黒い死の灰をバックに銃弾のシリアルナンバーを模した様な、何とも恐怖心を煽り立てる意味深なアートワークに言葉が出てこない…。
2017年に奴隷の人生をテーマとしたコンセプトの衝撃的なデヴュー作『Minor』で、一躍21世紀ブラジリアン・シンフォニックシーンにて脚光を浴びる事となった要注目必至の新鋭アルス・プロ・ヴィータ であるが、本作品は3年ぶりのリリースとなる文字通り2枚組というヴォリュームでトータル2時間20分超の大作も然る事ながら、作品全体の内容も「戦争と平和」「戦争の愚かさと醜さ」「戦争がもたらす狂気と混乱」といった、過去にイスラエルのツィンガーレ『Peace』やオランダのコーダ『What A Symphony』と並ぶであろう、モロに反戦主義を露にしたアイロニカルで陰鬱な重々しさに加えてインナーブックのフォトグラフを目にしただけで思わず目を覆いたくなる…そんな暗澹たるテーマながらもほんの僅かな一筋の希望の光をも見い出せる思いにも似た慈愛と救済の清い精神をも禁じ得ない。
ハケット影響下のキーボード&ギターのみならずデヴュー以降のコンセプトデザインをも手掛けるVenegas兄弟を核に、元ルネッサンスのJon Camp始め同国のヴィトラルのメンバー、男女混成コーラス、ストリングオーケストラ等の多方面からの賛助を得て、シンフォニック、シリアス・ミュージック、ダークチェンバー、アヴァンギャルド、果てはウォール期のフロイドばりの効果音で織り成す、美しくも物悲しい厳粛で神聖なる旋律は決して齧り聴き厳禁な、まさしく人類史の暗部と闇を曝け出し混迷の21世紀という今日までに繋がる映し鏡の様に思えてならない。
昨今のコロナ禍でブラジル国内を独裁者然とふるまうボルソナロ政権への当てつけというか皮肉とも取れるというのは些か考え過ぎであろうか。
いずれにせよ本作品の根幹でもある“No More War ”という気高い精神が際立っている事だけは紛れもあるまい…。
Facebook Ars Pro Vita
2.SNOWGOOSE / The Making Of You
(from U.K )
1.Everything/2.Who Will You Choose/3.Hope/
4.The Making Of You/5.Counting Time/6.Goldenwing/
7.Leonard/8.Deserted Forest/9.The Optimist/
10.Undertow/11.Gave Up Without A Sound
良い意味で如何にも手作り感満載なモノクロカラーに彩られた3面開き紙ジャケット仕様のデヴュー作を飾った21世紀ブリティッシュ期待の新星スノーグース 。
そのバンドネーミングに思わず興味をそそられるリスナーも多い事だろうが、大御所キャメルからの影響は当たらずも遠からずといった感で、作品と音世界観の印象からして70年代初期のイリュージョンそしてルネッサンス、果てはブリティッシュ・フォーク界の大御所ペンタングルからの影響下が大いに窺い知れる。
麗しき歌姫Anna SheardにギタリストJim Mccullochの両名を中心に、ギター、キーボード、リズム隊、ハーモニカ…等の多種多才なメンバーが結集し、まさしく絵に描いた様な英国ファンタジー、フェアリーテイル、マザーグースといったイマジナリー豊かな調べに、改めて70年代から脈々と受け継がれている正統派のブリティッシュ・ロック&フォークという伝統と根底の奥深さに感服する事しきりである。
ヴィンテージ回帰スタイル云々といった理屈や概念を抜きに、世代を越えてプログレッシヴ・リスナー問わず万人に聴かれるべき良心的な音楽の理想形がここにあると言っても過言ではあるまい。
ブリティッシュ愛溢れる素敵な一枚、是非とも貴方(貴女)のライヴラリーに加えて頂けたら幸いである。
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3.ISOBAR / Isobar
(from U.S.A )
1.Weekend Of Mammals/2.Control Mouse/
3.Major Matt Mason/4.Off The A6/5.Dinky Planet/
6.Mais Daze/7.New Math/8.79¢/
9.Dinner Ain't Ready/10.Elves Are Go!/11.AP Alchemy/
12.Uncanny, The/13.Isobars
あたかも人の横顔を模した抽象画を連想させる摩訶不思議な意匠であるが、読んで字の如く気象予報で用いられる等圧線の意であるアイソバー の堂々たるデヴュー作がお目見えとなった。
ベースのJim Andersonを筆頭にMalcolm Smith(G)、Marc Spooner(Key)によるトリオ編成に加えて、今やアングラガルドでの活動にとどまらず、世界を股に架けて21世紀プログレッシヴ業界最大最強の助っ人プレイヤーでドラマー兼マルチプレイヤーとして名高いMattias Olssonの助力を得て完成された本作品であるが、Mattiasの協力が功を奏しているからであろうか、これでもかという位に大々的にフィーチャリングされたメロトロンが何とも絶妙で、アメリカらしさと北欧互い違いのサウンドスタイルがミクスチャーされ程良い具合にハイブリッドされた、まさしく国境を越えた極上の共演が縦横無尽に繰り広げられている。
大らかで開放的なイメージを抱かせる絵に描いた様なアメリカン・プログレッシヴの持ち味がオールインストながらも躍動感に溢れつつ収録された楽曲全体に彩りと煌きを与えており、さながら往年のハッピー・ザ・マンないしディキシー・ドレッグスの系譜をも彷彿とさせるテクニカルで且つエモーショナルなシンフォニック・ジャズロックが、21世紀という時代相応にアップ・トゥ・デイトされたと言えば御理解頂けるだろうか…。
ゲスト参加しているトランペットやサックスが楽曲の要所々々にインパクトやアクセントを与え、メンバー間との相乗効果を見事に醸し出しており、その曲毎に様々な異なった印象をリスナーに想起させる現在進行形なアメリカン・プログレッシヴが垣間見える事だろう。
Mattias Olssonの偉業と功績にまた新たなる一頁が付け加えられそうだ。
Facebook Isobar
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30,2020
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鬱陶しく暑苦しかった残暑が過ぎ、気が付けば日に々々秋風の肌寒さが感じられる様になった今日この頃ですが、皆様如何お過ごしでしょうか…。
9月最後にお送りする「Monthly Prog Notes」は、まさしく芸術の秋…プログレッシヴの秋到来を告げるかの如く、選りすぐりの強力ラインナップ3アーティストが出揃いました。
名実共に21世紀イタリアン・ロックの代表格と言っても過言では無い“ラ・マスケーラ・ディ・チェラ ”、実に7年ぶり通算第6作目の新作は、従来通りの70年代イズムを継承した路線と作風で、かのオルメの『Felona E Sorona』やメタモルフォシの『Inferno』にも追随するかの様な…あたかも彼等自身デヴュー当初の気概と初心に立ち返ったかの様な、原点回帰を目論んだダークエナジー迸るヘヴィ・シンフォの醍醐味が徹頭徹尾存分に堪能出来る充実感溢れんばかりの快作(怪作)に仕上がってます。
2016年に彗星の如くデヴューを飾って以降、年一作というハイペースで新作をリリースし、個人的には21世紀ブリティッシュ・シーンに於いて、アイ・アム・ザ・マニック・ホエールと並んで俄然精力的に気を吐き続けている名匠Tony Lowe率いる“ESPプロジェクト ”4作目の新譜は、往年のブリティッシュ・プログレッシヴが内包していたジェントリーなリリシズムを踏襲した、決して安易にメロディック・シンフォに相容れる事無く、あくまで大英帝国の音らしいロマンティックで良質なポップス感覚のフィーリングがミクスチャーされた、まさしく時代感相応のシンフォニックに胸が熱くなる事必至です。
久々のスペインからは、情熱溢れる正統派スパニッシュ・プログレッシヴでリスナーを魅了する期待の新星“クァマー ”の堂々たるデヴュー作がお目見え。
スペインの異国情緒溢れる雰囲気に加えて、ジャケットアート総じてアラビック&ミスティックな妖しい佇まいを纏いつつも、かつてのメズキータ、グラナダ、果てはカイやイセベルグといった、かつての70年代全盛期を彷彿とさせるアンダルシアの陽光と陰影のイメージが色濃く反映されたヴィンテージ・スパニッシュの底力が垣間見える秀作となってます。
世界的規模に拡がったコロナ禍が収束する事無く、2020年も間もなくその一年が終わりを迎えつつある今秋、コロナに臆する事も屈する事も無く創作の大海に身を投じ絶え間無く挑戦し闘い続ける、熱き魂を抱いた渾身の楽聖達が奏で謳う凱歌に思う存分魂を震わせて下さい。
1.LA MASCHERA DI CERA / S.E.I
(from ITALY )
1.Il Tempo Millenario
i.L'Anima In Rovina/ii.Nuvole Gonfie/iii.La Mia Condanna/
iv.Scparazione/v.Del Tempo Sprecato
2.Il Cerchio del Comando
3.Vacuo Senso
i.Prologo/ii.Dialogo/iii.Nella Rete dell'Inganno/
iv.Il Risueglio di S/v.Ascensione
オルメの代表作にして傑作『Felona E Sorona』の続篇的解釈だった通算5作目『Le Porte Del Domani』から実に7年ぶり6作目の新譜を堂々と引っ提げて、コロナ禍という不安と混迷のさ中我々の前に再びその雄姿を現した21世紀イタリアン・ロックのパイオニア的存在ラ・マスケーラ・ディ・チェラ 。
復帰までに至る長き7年間、新進の台頭始め世代交代やら70年代ベテラン勢の復活と新生…等といったイタリアン・プログレッシヴシーンを巡る大なり小なりの様変わりは否めない今日に於いて、新世代の先駆者的ポジションでもある彼等の復活劇はまさしく新鮮な驚きと共に、改めてネームヴァリューに頼らず音楽的経験とベテランだからこその自信と風格が如実に表れた、看板に偽り無しの期待通りに違わぬ素晴らしい快作であると断言出来よう。
Fabio Zuffantiを筆頭に、結成当初からのオリジナルの面子Alessandro Corvaglia(Vo)、Agostino Macor(Key)の3人以外が一新され、ゲスト参加のドラマーとフルート兼サックス(デリリウムのMartin Grice !!)による布陣で臨んだ今作は、復帰に相応しくアップ・トゥ・デイトにシェイプアップされ幾分シンプルで聴き易くなりつつも、仄暗いダークエナジーを帯びたサウンドの重厚さと緻密な曲構成は健在で、さながらメタモルフォシの『Inferno』『Paradiso』に近い雰囲気を醸し出している。
アートワーク総じて70年代イズムの精神が2020年という時代相応に見事転化したエポックメイキングであると共に、全3曲の収録時間も45分といった70年代のアナログ期を彷彿とさせるであろう彼等なりの徹底したこだわりすら垣間見えて、さながらデヴュー当時の気迫と熱気が再来した原点回帰に加え再度初心に立ち返り自己を見つめ直す決意表明すら窺い知れよう。
ちなみに本作品タイトルS.E.Iの意は、Separazione(分離)/Egolatria(自我)/Inganno(欺瞞)の3つのキーワードで構成されたものである。
Facebook La Maschera Di Cera
2.ESP PROJECT / Phenomena
(from U.K )
1.First Flight/2.Before Saturn Turned Away/
3.Telesthesia/4.Fear Of Flying/
5.Living In The Sunrise/6.Sleeping Giants/
7.Seven Billion Tiny Sparks
2014年のブラム・ストーカー復活作『Cold Reading』に於いて、その一端を担った立役者として一躍その名が知られる事となったマルチプレイヤー兼コンポーザーTony Lowe。
その2年後の2016年Tony主導によるESP名義によるデヴュー作を皮切りに、2018年ESP 2.0名義の2作目『22 Layers Of Sunlight』、翌2019年ESPプロジェクト 名義による3作目『The Rising』を経て、同プロジェクト名義による2020年の最新4作目が今こうして届けられた次第である。
Tony自身多大なる影響を受けたであろう中期ジェネシス…バンクス風のメロトロン系含むキーボードにハケットスタイルのギターワークといったサウンドバックボーンが余すところ無く存分に活かされた、エモーショナルでリリシズム溢れるブリティッシュ・シンフォニックが縦横無尽に展開され、さながら英国の黄昏時を思わせるイメージとヴィジュアルが脳裏を過ぎると表現するには些か言い過ぎであろうか(苦笑)。
マルチプレイによる多重録音ながらも機械的な冷徹さは微塵にも感じられず、ハートフルな歌メロと温もりそしてバンドスタイルさながらの迫力と展開に、往年のかつての英国プログレッシヴをリスペクトしている彼の信条(身上)とプライドが、これでもかというくらい聴く者の胸を熱くする事だろう。
真のプログレッシャーにして匠という名に恥じない秀逸で崇高なる一枚と言っても異論あるまい。
Facebook ESP Project
3.QAMAR / Todo Empieza Aquí
(from SPAIN )
1.Faraón/2.A Través Del Camino/3.Guadalete/
4.Éxodo/5.Lydia/6.As Bruxas/7.Qamar/
8.Añoranza
何とも妖しげでミスティックな雰囲気すら漂う、久々に異国情緒香る往年のスパニッシュ・ロックの精神を受け継いだ期待の新鋭クァマー の、大仰な言い方で恐縮だが神憑りも似たデヴュー作がここに届けられた。
アラビア語で月を意味するバンド名で、意匠自体も月=美神の持つ神秘性とイメージに加えてアラビックな趣がふんだんに表れており、見てくれ的には一瞬かのイタリアのセミラミス(失礼!!)をも連想したものの、セミラミスほど邪悪さや不気味さは皆無で、サウンド的なイメージでいえば同国のカイやイマン、イセベルグにも相通ずるヘヴィ&シンフォニックなジャズ・ロックを構築しており、かつてのスパニッシュ・ロックが持つフィーリング的に近しいところで、メズキータ、グラナダ、通好みならフォルマス、アストゥルコーン辺りが想起出来るだろうか…。
メンバーのフォトグラフを拝見しても、私とほぼ同年代か或いはややちょっと上といった風貌で、それこそちょっとポッと出の若手と違い各人が長年様々な音楽経験を積んできた熟練者と見受けられ、演奏の技量からコンポーズ能力等に至るまで徹頭徹尾素人臭さが一切無い、スパニッシュの伝統と王道を脈々と継承したプロ意識の高さを物語る傑出した一枚に仕上がっている。
ギター、キーボード、ベース、ドラムによる基本的な4人編成で全体の9割方がインストゥルメンタルで占められており、終盤近くで女性Vo入りのナンバーと曲によってはフルート、サックス、ヴァイオリン、フラメンコギターがゲスト参加しており、昨今のワールドワイドを意識した21世紀スパニッシュ系に於いて、あくまでも自国のスペインらしさとアイデンティティーが根付いた本来の持ち味を頑なに保持し続ける職人肌の“域”というか“粋”にも似通っている。
嗚呼、やはりスパニッシュ・ロックとは本来こうでなければ…と思わせるくらいの情熱と哀愁がぎっしりと詰まったアンダルシアからの風の便りを、是非とも貴方(貴女)の耳で体感してほしい。
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