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26,2019
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FC2へブログシステムを移行して以来…装いも新たに再出発となった8月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
新装開店並び夏から秋への季節の移り変わりと、まさしくプログレッシヴの秋到来に相応しい素晴らしいラインナップが出揃いました。
活況著しいイタリアからは、かの本家ラッテ・エ・ミエーレの系譜と流れを受け継いだ、名作3rd『Aquile E Scoiattoli』に参加していたMassimo GoriとLuciano Poltiniがメインとなった新バンド“ラッテ・ミエーレ2.0 ”が堂々たるデヴューを飾りました。
もう一つのラッテ・エ・ミエーレでもあり別動隊的な見方と多々ありますが、伝説的ヴァイオリニストの名匠ニコロ・パガニーニの生涯を奏でるアカデミックにしてシンフォニック・ロックの王道を邁進するその作風は、決して本家に負けずとも劣らないイタリアン・ロックの醍醐味とリリシズムが存分に堪能出来る事でしょう。
イギリス期待の新鋭にして、往年のブリティッシュ・ロックが持っていた伝統と王道の後継者であると言っても過言で無い“ケンティッシュ・スパイラス ”が昨年に引き続き待望の2nd新作を引っ提げて再び帰って来ました。
キャラヴァン、マッチング・モールから多大なる影響を受けた新世代カンタベリーサウンドの中にも70年代ブリティッシュの空気と気概を感じさせる彼等ならではの作風は今作でも健在です。
アメリカからは久々に骨のある期待の新星登場となった…イエス、ジェネシス、GGからの影響を窺わせ、バンドネーミングとファンタジックなアートワークからして思いっきりプログレッシヴな“ムーン・レターズ ”のデヴュー作が到着しました。
アメリカンなプログレッシヴながらもユーロロックなフィーリングとセンスすら感じさせ、決して一朝一夕ではない創作活動への真摯に向かい合ったプロフェッショナルな仕事っぷりには感服する事でしょう。
涼やかな秋風と虫の音と共に晩夏を名残惜しみつつ、抒情的な月光の夜空の下で心の琴線を揺り動かす楽師達の調べに暫し身を委ねてみて下さい…。
1.LATTE MIELE 2.0/ Paganini Experience
(from ITALY)
1.Inno/2.Via Del Colle/3.L'Ora Delle Tenebre/
4.Cantabile 2019/5.Porto Di Notte/
6.Charlotte/7.Danza Di Luce/8.Angel/
9.Cantabile 1835
実質上オリジナル本隊のラッテ・エ・ミエーレから、その系譜とDNAを受け継いだもう一つのラッテ・エ・ミエーレと言っても過言では無い、かつての3rdアルバム『Aquile E Scoiattoli』に参加していたMassimo GoriとLuciano Poltiniの両名を中心とした新バンドでもあるラッテ・ミエーレ2.0 その堂々たるデヴュー作が遂にお目見えとなった。
タイトル通り読んで字の如し、伝説的ヴァイオリニストの名匠ニコロ・パガニーニの生涯をテーマとしたコンセプト作品となっており、メンバーでもある紅一点の女性ヴァイオリニストが奏でる優雅で且つ悲愴感漂うヴァイオリンが非常に効果的で、彼等の構築する音世界に深い奥行きと情感を与えているのが特色である。
ニュー・トロルスばりのクラシカル・シンフォニックの絢爛豪華さに、本家ラッテ・エ・ミエーレ譲りのダイナミズムと荘厳さが見事に融合し、紛れも無く70年代イタリアン・ロックで培われた経験と実績が本作品で見事に開花した、名実共に新旧のファンをも唸らせる傑出した一枚と言えるだろう。
冒頭1曲目から“The Endless Enigma”の一節が流れたりとエマーソン愛全開なLuciano Poltiniの
70年代ハモンドやらシンセの音色を活かしたキーボードプレイに思わず(良い意味で)感情が高ぶってしまうのはいた仕方あるまい。
私の『幻想神秘音楽館』で過去に何度も繰り返し述べてきた事だが、長年プログレッシヴ・ロックを愛し続けるファンで良かったと思えると共に、奇跡は本当にあるものだと声を大にして言いたくなる位…先のバンコの完全復活作『Transiberiana』と並び、本作品もまた21世紀イタリアン・ロックの名盤となるだろう。
Facebook Lattemiele 2.0
2.THE KENTISH SPIRES/ Sprezzatura
(from U.K)
1.Knots
(ⅰ:Overture/ⅱ:A Sea Shanty/ⅲ:Don't Shoot The Albatross)
2.Horsa From Beyond The Grave
3.Tale Of Three Lovers
(ⅰ:Wishing Well/ⅱ:You Better Shut Your Mouth/ⅲ:Never Tell On You)
4.The Long Goodbye
昨年秋にドラマティック且つファンタジックな意匠で鮮烈なデヴューを飾った21世紀ブリティッシュ・ロック期待の新鋭ケンティッシュ・スパイラス 。
あれから半年以上のスパンを経て、前デヴュー作の流れとロマンティシズムを汲んだ意匠と共に
待望の新譜2ndを携えて、あたかも私達のラヴコールに呼応するかの如く再び帰って来た次第である。
大英帝国のリリシズムと、広大で自然豊かな味わい深い佇まいを具現化したかの如きアートワークの素晴らしさも然る事ながら、ジャケットのモデルを務めている紅一点の歌姫Lucieの繊細ながらも力強い歌唱力、ヴィンテージな感触のハモンドの響き、70年代イズムを踏襲したギターにリズム隊(ドラマーがメンバーチェンジしている)、そして今作から新加入した管楽器奏者の好演も相まって、シンフォニック、フォーク、ケルト、カンタベリー等といった多彩(多才)な楽曲の素養を内包した世界観が寄せては返す波の様に聴き手の脳裏に畳みかける様は、何物にも変え難い官能的で扇情的な女性の内面にも似た美意識すらも窺い知れよう。
昨今のメロディック・シンフォやネオ・プログレッシヴといった時流のトレンドとは一切無縁で且つ、同国のヴィンテージ系プログレッシヴのプルソンと対を為す傍ら、サイケデリアとは一線を画したひと味もふた味も違うあくまで純粋にブリティッシュの伝統と王道を歩む彼等に、大御所グリフォンにも似た吟遊詩人の様な面影すらも禁じ得ない。
Facebook The Kentish Spires
3.MOON LETTERS/ Until They Feel The Sun
(from U.S.A)
1.Skara Brae/2.On The Shoreline/3.What Is Your Country/
4.Beware The Finman/5.Those Dark Eyes/6.Sea Battle/
7.The Tarnalin/8.It's All Around You/9.The Red Knight/
10.Sunset Of Man
21世紀アメリカン・シンフォニックから久々に熱い手応えを感じさせる骨太級のニューカマーが登場した。
ジェネシス始めイエス、GG、果てはラッシュといったプログレッシヴ界の大御所から多大なる影響を受けた…そんなバックボーンを如実に物語る期待の新星ムーン・レターズ のデヴュー作が届けられた。
ネオ・プログレッシヴなカテゴリーといった風合いこそ否めないものの、要所々々で感じさせる変拍子を多用したプログレッシヴの王道+ヴィンテージスタイルへの憧憬とオマージュに加えて、アメリカンとユーロロックとのフィーリングが見事にマッチした、熱気の中で感じられるクールでインテリジェントな知性が鏤められた全曲に好感を抱かせる。
ジェネシス系バンドという精神を受け継ぎながらも、決して二番煎じやら亜流もどきには寄り掛からない、そんなしたたかで新人らしからぬ確固たる姿勢というか心憎さやポリシーも彼等ならではの持ち味と言えるだろう。
アートワーク総じて丁寧に作り込まれた充実感溢れる一枚であると共に、一朝一夕では決して為し得ないであろう彼等自身のプロデュースとコンポーズ能力、スキルの高さに感服の思いですらある。
Facebook Moon Letters
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30,2019
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9月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
本格的なプログレッシヴ・ロックの秋到来に相応しく、今回も各々のバンドカラーと音楽性を物語る個性的な3組のラインナップが出揃いました。
活気溢れる21世紀イタリアン・ロックからまたしても次世代を牽引するであろう強力なニューカマー“スファラットンズ ”がお目見えとなりました。
70年代に結成するも当時作品をリリースする事も無く人知れず解散したものの、近年再結成され漸く陽の目を見る事となった彼等の今年リリースされたばかりの2nd新譜(同時に2015年のデヴューアルバムも到着)は、かのPFMや伝説のロカンダ・デッレ・ファーテばりのイタリアン・ロック特有のパッションとリリシズムを湛えたサウンドワークとフルートの響きに、聴き手の脳裏に感動の波が押し寄せてくる事必至といえるでしょう。
昨年鮮烈で衝撃的なデヴューを飾った、北欧と北米のメンバーによる混成チームの“プロポーションズ ”が、前デヴュー作以降の創作意欲が止まる事無くスパンを置かずに短期間で仕上げた新譜2ndは、半ば突貫工事・やっつけ仕事といった危惧を抱かせながらも、そんな余計な懸念すらも一蹴するかの如くデヴュー作を遥かに上回るハイクオリティーなシンフォニック・ジャズロックに仕上がっています。
久々のドイツからは、21世紀の今もなお70年代ジャーマン・ハードロックの根強い人気と支持を物語るかの様な、かのフランピーばりのオルガンをフィーチャーしたヴィンテージサウンドを踏襲した期待の新鋭“ジュレス・バンド ”の堂々たるデヴュー作が到着しました。
ハモンドを力強くなお且つ繊細で流麗に弾きこなしヴォーカルも兼ねる女性キーボーダーの個性が光る、次世代ジャーマン期待の逸材登場に溜飲の下がる思いになる事でしょう。
深まる秋の夜長に一人しみじみと酒杯を傾けながら、暫し抒情と夢想の旋律に耽りロマンティックでファンタジックな時間をお過ごし下さい。
1.SFARATTHONS/ Appunti Di Viaggio
(from ITALY)
1.Appunti Di Viaggio/2.Vela/3.Cielo Nero/
4.Notte/5.Your War, Our War/6.Ne Journe, N'Anne/
7.With All The Strength Of My Voice/8.Vaije/9.Trust
バンドのルーツは紛れも無く70年代に結成した系統ながらも、作品をリリースする事無く解散を余儀なくされ表舞台から去って行った数多くの無名バンドと同様、彼等スファラットンズ も御他聞に漏れず、若い時分のバンド解散という辛酸と苦渋を舐めさせられた後、21世紀の今日に於いて年輪と実力を積み重ね、漸く満を持しての再結成とアルバムリリースまでに至った次第であるが、やはり昨今の若年層ニューカマーとはまた違った、良い意味でベテランの域とも言える熟年世代ならではの古き良きメロディーライン…強いて挙げるなら往年のPFMないしロカンダ・デッレ・ファーテ譲りの牧歌的でリリシズム溢れる70年代イタリアン・ロックの伝統と王道を踏襲し、静と動、柔と剛の曲想をバランス良く配した、味わい深くて情感豊かな音世界を醸し出していると言っても過言ではあるまい。
2015年リリースのデヴュー作『La Bestia Umana』での初々しさも然る事ながら、今年リリースされたばかりの新譜2ndの本作品でも見受けられたが、ゴリゴリのヴィンテージ系サウンドを追求するまでもなく、フルートとバックコーラス総じた彼等のサウンドワーク並びアートの意匠から滲み出ている、イタリア人ならではの気風とアイデンティティーが見事に脈々と受け継がれた極めて純粋なる21世紀のイタリアンの音に他ならない。
大判サイズの絵本を思わせる様なブックレットを模したCDパッケージも、70年代イタリアン・ロックで顕著に見受けられた変形ジャケットにも相通じるギミックらしさが感じられて好感すら抱かせる、まさしく愛ある必聴作と言えるだろう。
Facebook Sfaratthons
2.PROPORTIONS/ Visions From Distant Past
(from MULTI-NATIONAL <SWEDEN・CANADA・U.S.A> )
1.Temporal Induction/2.Double Barrel/
3.Seagull's Call/4.Sticks In The Head/
5.Floorcare/6.Colors Of Light/7.Open Door/
8.Telemetry Drizzle/9.Grift/10.Splendid Illusion/
11.Pangaea/12.Temporal Finale
昨年の鮮烈にして神憑りにも似たハイクオリティーな完成度でデヴューを飾った、北欧と北米のミュージシャン達による集合体プロポーションズ が、短期間という僅かなスパンであるにも拘らず…半ば突貫工事或いはやっつけ仕事すら思わせるハイペースでリリースした待望の新作2ndであるが、リスナー諸氏含めた周囲の危惧や心配なんてどこ吹く風と言わんばかり、今作もデヴューと同様スペイシーで且つサイケ風にどぎつい極彩色のアートワーク(さながら地球を見つめる異星人グレイの眼差しといったところか…)に彩られながらも、中身はしっかりとシンフォニック&ジャズロックなスタイルで聴く者を飽きさせない様々なヴァリエーションと曲毎に違った顔と表情を垣間見せてくれる。
タンジェリン風なオープニングからフロイド調に転じたかと思いきや、かのハッピー・ザ・マンを彷彿させたり、初期のハケットを思わせる風合いを感じさせたりと変幻自在に曲展開する高度な音楽性に加えて、メンバー同士がオンラインやSNSといったネット上でアイディアや楽曲データをやり取りしつつ完成させたという事にもはや驚愕すら禁じ得ない。
まさしく時代は変わったと思いつつも、決して薄っぺらではない正真正銘の心(ハート)と血の通った重厚で硬派なプログレッシヴたる真髄が窺い知れよう。
Facebook Proportions
3.THE JULES BAND/ Little Things
( from GERMANY)
1.Little Things/2.Good Times/
3.Don't grow Up It's A trap/4.Dancin' Would Be Fine/
5.Rollercoaster/6.Steady Nerves/7.Knock On Wood/
8.Keep In Mind/9.Hold On Tight/10.Dear Disease
21世紀の現在もなお70'sジャーマン・ハードロック人気の根強さを物語るであろう、驚愕にして必聴のニューカマーがここに登場した。
ハモンド、エレピを駆使しメインヴォーカルも兼ねるJulia Fischer嬢を中心とするジュレス・バンド の本作品は2018年のデヴュー作に当たり、満を持しての日本上陸となった次第である。
Julia嬢のブルーズィーで70年代特有の時代感と空気を纏ったソウルフルな歌唱力とオルガンワークにギターとリズム隊が絡み、曲によってはバックコーラスが参加するといった作風で、時流の波やら昨今のトレンドとは凡そ無縁とおぼしきヴィンテージなサウンドルーツを遡れば…やはりそこはジャーマン・オルガンハードの伝説的存在でもあるフランピーという源流に辿り着くであろう。
同じフランピー影響下の同国の新鋭リキッド・オービットとほぼ互角の良い勝負をしているが、前者との決定的な違いはサイケデリックでトリップな要素が皆無で、あくまで往年のZEPにも相通ずるパワフルでストレートに“R&B”と“ロック”なカラーを全面に押し出しているところだろうか。
兎にも角にも全曲聴き処満載で、レコーディング風景のフォトグラフをそのままアートワークに起用したりといった心憎い懐かしさすらも呼び起こしてくれるのも実に嬉しい限りである。
ビール片手に小さなライヴホールで、生のステージで接してみたくなるような臨場感と醍醐味すら体感したくなる、そんなささやかな魅力すら秘めている新たなる曲者的逸材登場に心から拍手を贈らんばかりである。
Facebook The Jules Band
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30,2019
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10月も終盤に入り、秋真っ只中の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
今回は芸術の秋よろしくプログレッシヴ・ロックの秋に相応しい…ベテランの域ならではの実力と経験値を垣間見せる強力3バンドの新譜というラインナップが出揃いました。
もはやポンプロックとは呼ばせない位、40年選手に手が届きそうなキャリアとハイレベルな音楽性を誇るであろう、マリリオンと並ぶブリティッシュ・(ネオ)プログレッシヴの筆頭として名高い“IQ(アイキュー) ”の通算11枚目の新作が満を持しての登場です。
5年前の前作の流れを汲みつつ、より以上に深遠且つ重厚でドラマティックな作風は、かつてのジェネシスフォロワー云々といったカテゴリーをも超越し、英国ロックの王道を地で行きつつ大いなる感動を呼び起こす素晴らしい最高傑作・必聴作へと押し上げてます。
長い歴史を誇るアメリカン・プログレッシヴ界を渡り歩いてきた大ベテランの猛者達が結集した“フライング・カラーズ ”待望の新譜3rdアルバムも遂に到着しました。
スティーヴ・モーズ、ニール・モーズ、そしてマイク・ポートノイという実力者を擁し、アメリカン・プログレッシヴが持つハード&ポップでキャッチーな側面とシンフォニックなリリシズムとが隣り合った極上のサウンドスカルプチュアを構築しています。
21世紀プログレッシヴ・シーンに於いて、今やオーストリアのシーンを同国のマインドスピークと共に牽引しつつある“ブランク・マニュスクリプト ”のスタジオ作通算3枚目の新譜も聴き処満載です。
アートワークに描かれた意味深な佇まいと雰囲気のイメージ通り、70年代ヴィンテージ系の音色を踏襲したユーロ・シンフォニックの醍醐味が存分に堪能出来る好作品に仕上がっています。
晩秋の寂寥感と憂いを湛えた寒空の下、心と魂を揺さぶる孤高なる楽師達の渾身の響奏詩に暫し時を忘れて耳を傾けて頂けたら幸いです…。
1.IQ/ Resistance
(from U.K)
Disc 1
1.A Missile/2.Rise/3.Stay Down/4.Alampandria/
5.Shallow Bay/6.If Anything/7.For Another Lifetime
Disc 2
1.The Great Spirit Way/2.Fire And Security/
3.Perfect Space/4.Fallout
前作『The Road Of Bones』から実に5年振りのスタジオ作、数えて通算11枚目に当たる新譜の今作に於いて、自ら構築する音世界ここに極まれりといった感すら窺わせるIQ であるが、バンドデヴューから30周年というアニヴァーサリーな意味合いを含め原点回帰に立ち返ったであろう前作…無論作風こそ進化したが、キーボーダーを除くデヴュー当時のメンツが再び集結した気運は決してワンオフな乗りで終わる事無く、揺ぎ無い確固たる決意表明を打ち出したまま今作への収録に臨んだだけにその並々ならぬ意気込みと熱意が全曲の端々から伝わってくる。
アルバムタイトル並び収録曲名に至るまで時代が抱えている危機や焦燥感をも想起させる意味深な韻を踏んでおり、重々しく畳み掛けるサウンドワークの巧みさに加え、ヘヴィとリリシズムのせめぎ合いがドラマティックにして人間の心の奥底に潜む暗部をも投影しているかの様ですらある。
97年の傑作『Subterranea』に次ぐ久々の2枚組大作である事も然る事ながら、もはや御大ジェネシス影響下やリスペクトから完全に脱却した、彼等が構築するブリティッシュ・シンフォニックの真髄と王道が徹頭徹尾脳裏に響鳴する傑作以外の何物でもない、齧り聴き厳禁なプログレッシヴ・ロックファンが今の時代にこそ聴くべき珠玉の一枚であろう。
Facebook IQ
2.FLYING COLORS/ Third Degree
(from U.S.A)
1.The Loss Inside/2.More/3.Cadence/
4.Guardian/5.Last Train Home/6.Geronimo/
7.You Are Not Alone/8.Love Letter/9.Crawl
過去を遡ればディキシー・ドレッグス始めドリーム・シアター、スポックス・ビアード、果てはトランスアトランティックといったアメリカン・プログレッシヴロック史を彩り一時代を築いてきた名立たる大御所クラスのバンドから、名うての実力派ミュージシャンの猛者達が結集した名実共にスーパーバンドの名に恥じない称賛を得ているフライング・カラーズ 、本作品は実に5年振りの新譜に当たる3作目であり、アメリカン・プログレッシヴの良心とロックスピリッツが見事に結実したともいえる秀逸な好作品に仕上がっている。
2012年の結成当初からスティーヴ・モーズを筆頭にニール・モーズ、マイク・ポートノイ、そしてケーシー・マクファーソン、デイヴ・ラルー不動の5人のラインナップは今作でも健在で、誰一人決して欠ける事無く改めてプログレッシヴ・ロックに対する思いと志、そして結束力の固さと信念が全曲の端々からも窺い知れよう。
曲によってはストリング・セクションをバックに配し、アメリカン・ロックならではの大らかさや懐の広さが垣間見える一方、ブリティッシュ&ユーロピアンの持つ知性とリリシズムすらも散見出来て、文字通りワイルド&ハードな表情の中にインテリジェントでアーティスティックな側面が見事にコンバインした彼等の最高傑作に成り得たと言っても過言であるまい。
近年のカンサスや毛色こそ違うがイズの新譜にも肉迫するであろう、北米プログレッシヴのプライドと底力に胸が熱くなる様な極上の渾身作を御賞味あれ!
Facebook Flying Colors
3.BLANK MANUSKRIPT/ Krásná Hora
(from AUSTRIA)
1.Overture/2.Foetus/3.Achluphobia/
4.Pressure Of Pride/5.Shared Isolation/
6.Alone At The Institution/7.Silent Departure/
8.The Last Journey
21世紀の欧州はオーストリアから、2008年人知れずデヴューを飾った数年後漸く我が国にその名が知られる事となった、70年代イズムのヴィンテージカラーとサウンドワークを脈々と継承した申し子ブランク・マニュスクリプト 。
キーボーダー兼コンポーザーのDominik Wallnerを筆頭に、ベースのAlfons Wohlmuth、そしてサックスからフルート、ギター等をマルチに手掛けるJakob Aistleitner(デヴュー時はゲスト参加)をメインに、2015年ホロコーストを題材にした2nd『The Waiting Soldier』からギタリストPeter Baxrainer、2018年地元ラジオ局主催のスタジオライヴ収録盤(限定リリース)からドラマーJakob Siglの両名が参加し今日までに至る次第であるが、フロイド始めクリムゾン、VDGGといった英国プログレッシヴの大御所からの影響下を物語るかの様に、プログレッシヴの常套句でもある「暗く深く重く」といった合言葉を見事に実践したダークで且つ陰鬱さを湛えた、時流のトレンドとは凡そ無縁なフィールドで展開し、あたかも我が道を貫く巌の如き精神で製作された新譜3rdの今作も、多種多様な人種が描かれた意味深な意匠に加え“個(孤独)”とコミュニズムとの対峙といった重々しいテーマをサウンドに転化した、徹頭徹尾ユーロ・シンフォニックとジャズロックの狭間で響鳴する…一朝一夕では為し得ない孤高にして崇高なる哲学と闇の美学が聴く者の脳裏に木霊する事だろう。
同国の新鋭マインドスピークとは真逆に位置する、聴けば聴くほど癖になりそうな危険な香りを放ち続ける要注意バンドであると共に、かつてのイーラ・クレイグすらも凌駕する曲者感が半端でない事だけは断言出来よう。
Facebook Blank Manuskript
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05,2019
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11月第二週目、今回の「夢幻の楽師達」はFC2ブログに移行してから初の21世紀プログレッシヴ・バンドを取り挙げてみました。
時代を遡ること…90年代のイタリア国内にてヴァイニール・マジック並びメロウレーベルが新たな試みとして立ち上げたニュー・プログレッシヴの波及は、カリオペ始めシンドーネ、果てはシトニアといった新世代を輩出し、21世紀に移行してからもその波及は衰える事無く、今日までに至る新世代イタリアン・ロックの礎或いは指針にして完全復活の決定打となった、名実共にイタリアン・ロックの伝統と王道復古の先導にしてキーパーソン的な存在としてその名を轟かせている“ラ・マスケーラ・ディ・チェラ ”に焦点を当ててみたいと思います。
LA MASCHERA DI CERA
(ITALY 2001~)
Fabio Zuffanti:B,G
Alessandro Corvaglia:Vo
Agostino Macor:Key
Andrea Monetti:Flute
Marco Cavani:Ds,Per
今となってはとても想像がつかない…一笑に付される様な話かもしれないが、長い間イタリアン・ロックに慣れ親しんだ方々にとって、よもやこの様な形で伝統的旋律のイタリアン・ロックの息吹きなるものが、21世紀の今日に聴けようとは夢にも思わなかった事であろう。
事実、あの栄枯盛衰が隣り合った1973年の世界的なオイル・ショックを契機に、あれだけの栄華と一時代を築いたイタリアン・ロックの殆どが衰退・壊滅の一途を辿った事を考慮すれば、尚更の事であろう。
俗に言うロカンダ・デッレ・ファーテとセンシティーヴァ・イッマジーネの登場を最後に70年代末期から暫くの間は、イタリアン・ロック=イタリアン・プログレッシヴはアンダーグラウンドな範疇で地下深くに潜伏するかの如き、時代の片隅に追いやられた感が無きにしも非ずではあったが、それでも80年代初頭におけるイギリスからのポンプ・ロック勃発を契機に、ヨーロッパ諸国への波及と追い風を受け、御多分に漏れずイタリアにもプログレッシヴ・ロック復活を目論む…バロックを始めエツラ・ウィンストン、ヌオヴァ・エラ…等といった創作意欲旺盛なアーティストが80年代半ばから90年代全般にかけて再び多数輩出するに至った次第であるが、当時は母国イタリア語によるヴォーカルは全体の3~4割といった比率で、やや大半が英語によるヴォーカルを用いた無国籍風な音作りに終始する傾向があったのもまた然りでもある(当時、ワールドワイドに展開していたイタリアン・メタルの影響があった事と符合してはいるが…)。
90年代半ばになると、イタリアン・ロックのリイシューを一手に請け負っていたヴァイニール・マジック社が新人発掘の名目でニュー・プログレッシヴシリーズをスタートさせ、カリオペ、シンドーネ、カステロ・ディ・アトランテを世に送り出し、プログレに理解を示していた多方面の自主レーベルもこぞってイル・トロノ・ディ・リコルディ、ディヴァエといった往年のファンをも唸らせる高水準なレベルのアーティストが登場し、一時的とはいえあれだけ衰退したイタリアン・ロックを再興させた尽力たるや、頭の下がる思いである。
余談ながらも、離散集合を経たPFM始めバンコ、オザンナ、ニュー・トロルス、オルメ、果てはRDMやメタモルフォッシ…等といった往年の名手が再びプログレッシヴ・フィールドに返り咲いた事も、シーンの再興に一石投じた事を忘れてはなるまい。
前置きが長くなったが、そんなイタリアのシーンが再び熱気を取り戻しつつあった80年代末期から90年代全般にかけて、かつての70年代イタリアン・ロック黄金期の熱気と感動を取り戻すべく陰ながらもひたすら地道なる復興に尽力してきた一人の男の存在Fabio Zuffantiを忘れてはなるまい。
Fabio自身フィニステッレ始め自らのソロ・プロジェクトでもあるホストソナテンをも手掛け、イギリスのクライヴ・ノーラン始めブラジルのマルクス・ヴィアナ、更には近年のロイネ・ストルトやマティアス・オルスンと並んで多方面に活動している…所謂ワーカホリック系プログレッシヴアーティストとしても確固たる地位を築いた先駆者と言っても過言ではあるまい。
先のフィニステッレを始め、ソロ活動、ロック・オペラ“MERLIN”のプロジェクト、果ては畑違いなジャンルのチャレンジといった創作活動に携わりつつも、現状に決して甘んずる事も満足する事も無く、Fabio自身常に貪欲にロックの持つ可能性に対峙してきたが故に、いつの頃からか自らが為すべき事はイタリアン・ロック史の王道を守るべき“気概”であると言う事を自覚したと察するのが正しいだろう。
Fabioの言葉を借りれば「ムゼオやビリエット、バレット・ディ・ブロンゾみたいな栄光の70年代イタリアン・プログレッシヴの伝統を再生する為に、このバンドを作った」 、そんな宣言とも豪語ともとれる言葉通り、2001年初頭に「蜜蝋の仮面」なる如何にもダークな雰囲気を湛えた直訳の意で、本バンド…ラ・マスケーラ・ディ・チェラはジェノヴァにて産声を上げた次第である。
Fabio自身の手掛ける通算7つ目のバンドであるのも然る事ながら、推測の域で恐縮なれど…結成と同年かそれと前後して同じく70年代回帰型のもう一方の雄“ラ・トッレ・デル・アルキミスタ”がデヴューを飾った事もあり、Fabioにとっても良い意味で刺激にもなり対抗心が芽生えたと思うのは考え過ぎだろうか。
こうして周囲からの期待と注目を一身に背負い大いなる挑戦ともいうべき一歩を踏み出したラ・マスケーラ・ディ・チェラであるが、決してFabioのワンマンバンドに終始する事無く、彼を支えるべく強固なるバンドメイトが一丸となって70年代の模倣でも懐メロでもない原点回帰やリスペクトを超越した完全新生を目指してデヴューに臨んだと言っても過言ではあるまい。
ヴォーカルのAlessandro Corvagliaは先に紹介したロック・オペラ“MERLIN”で主役を務めた経歴を買われてそのまま活動に参加し、ハモンドやメロトロン、モーグといったヴィンテージ・キーボードのコレクターでもあるAgostino Macorと強固で的確なテクニックのドラマーのMarco Cavaniの両者が一番Fabioとの活動歴が長く、共にフィニステッレ→ホストソナテン→ラ・ゾナと渡り歩いてきた強者で、フルートのAndrea Monettiも意外な経歴の持ち主で何とあのドイツのエンブリヨのメンバーも経験したという、バンドメンバー各々が実力者揃いというのも頷けよう。
結成の翌年2002年のデヴュー作を経て、翌2003年には2作目に当たる『Il Grande Labirinto 』を立て続けにリリース。両作品共に全世界のプログレッシヴ関係のプレスやメディア等でも大絶賛され、70年代回帰型のイタリアン・ロックの作風に飢えていた各国の熱狂的ファンからも支持を得て空前のベストセラーにもなった事は未だ記憶に留めておられる方々も多いことだろう。
デヴュー作での怒涛の如き衝撃も然り、粘っこく絡みつくイタリアン独特なフルートの響きに、ヴィンテージな空気を湛えたハモンドにメロトロン、モーグ、重厚感溢れるヘヴィなリズム隊に、邪悪な中にも壮麗なイマジネーションを想起させる伊語によるヴォーカルといった揃い踏みに、全身が震え上がる位に震撼したのは言うまでもあるまい。
2作目にあっては前作の延長線上なれど、数名のゲストミュージシャンを迎え様々な音楽的素養にアヴァンギャルドなギミックさが加味された、シャレではないが確信犯的な革新さと貪欲なまでの創作心に満ちた意欲作に仕上がっている。
翌2004年には、待望の初ライヴ・アルバムをリリースしスタジオ作品と何ら変わらぬヴォルテージと熱気を帯びたパフォーマンスが繰り広げられるものの、翌2005年には次なる新展開と新作リリース準備の為一年間の沈黙期間に入る。
その間、フィニステッレ時代含めて長年住み慣れたメロウ・レーベルから離れ、ドラマーがMarco Cavaniから同じくFabio人脈の伝で招かれたMaurizio Di Tolloに交代し、バンドは心機一転し新興レーベルBTF傘下でPFMのフランツ・ディ・チョッチョが設立したImmaginificaから、同じくフランツのプロデュースの許で通算4枚目にしてスタジオ3作目に当たる実質上の3rd『Lux Ade 』をリリースする。
本作品も過去2作のスタジオ作を遥かに上回るヴォルテージを有し、前2作品の中から必要最小限に抽出された良質な部分を濃縮還元した内容に仕上がったと言えば分かり易いであろうか。ヘヴィな佇まいの音作りながらも要所々々に仄かなダークさと朧気なリリシズムが融合した唯一無比な世界観は、かつてのムゼオないしビリエットでは到底辿り付く事が出来ない位の領域にまで極まった感がある。
なるほどフランツのプロデュースが功を奏したせいからか、無駄な部分を極力削ぎ落としてスッキリと聴き易くしたのも特色であろう。
『Lux Ade』リリースから3年後の2009年、ギタリストMatteo Nahumをゲストに迎えた4th『Petali Di Fuoco 』、そして4年後の2013年にはかつてのレ・オルメの代表作にして名作でもある『Felona E Sorona』の続編的新解釈で製作した意欲的な試みの5th『Le Porte Del Domani 』(色違いの英語ヴァージョン『The Gates Of Tomorrow 』も同時期にリリース)を発表し更なる注目を集める事となる。
バンドはそれ以降活動を休止し新作リリースのアナウンスメントも聞かれなくなって実に久しい限りであるが、まあ所謂次なるステップに向けた充電期間というか開店休業に近い状態で今日まで沈黙を守り続けていると言った方が妥当であろうか。
Fabio自身も新人バンドの育成やらデヴューの為のレーベルを設立したり、多方面でのプロジェクトに関わったりと今もなお精力的に創作活動を継続し多忙を極めているといったところである。
今やイタリアン・シンフォの新進気鋭な輩の中にはマスケーラ・ディ・チェラをリスペクトしたいというのもチラホラと囁かれている昨今である。
70年代の栄光あるイタリアン・ロックの伝統を復興する為に結成された彼等ではあるが、よもやその存在にしてイタリアにマスケーラ在りとまで謳われるようになり、世界的にも堂々と胸を張れる大御所的な風格すら漂っている。
かつての黄金時代の気運の再生をも上回った彼等であるが、もはや伝統をも超越しイタリアン・ロック史の新たな一頁をこれからも更に枚数を増やしていく事であろう。
さて、彼等の待望の新作となるであろう次なる一手は、はたして…?
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08,2019
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11月第二週目の「一生逸品」、今回は21世紀プログレッシヴバンドには珍しいワンオフ作品の中から、PFMやアレアといったイタリアの大御所級の名匠から多大なる影響を受けた、超絶バカテクなプログレッシヴ・ジャズロック伝承者の名に相応しい、2001年に唯一作をリリースし、イタリアン・ロックの歴史にその伝説的な名前を刻んだ“ジェットラグ ”を取り挙げてみたいと思います。
JETLAG/ Delusione Ottica(2001)
1.Il Camaleonte/2.King Of Fools/
3.Illusione Prospettica/4.Castelli Di Rabbia/
5.Delusione Ottica/6.Audiopoker/
7.Re Nudo/8.Elusione Ottica/9.Mare Nostrum
Fabio Itri:G
Saverio Autellitano:Key
Luca Salice:Vo, Flute
Bruno Crucitti:Ds, Per
Marco Meduri:B
70年代にその輝かしい栄華と引き潮の様に衰退を経たイタリアン・ロックであるが、80年代にイギリスから勃発したポンプロックの洗礼を受けてポツポツと自主製作のテープ作品レベルながらも、イタリアン・プログレッシヴ再興の契機・端緒となるべく、あたかも雨後の筍の如く続々と新世代の担い手が登場し、テープ+アナログLPの時代から90年代のCD時代への移行と同時に、70年代物のリイシューが主力だったヴァイニール・マジックやメロウが新人の輩出・育成に力を注ぐ様になり、更にはカリフォニア、ブラックウィドウ…等といったイタリア国内のプログレッシヴ専門レーベルまでもが発足、果てはフランスのムゼアからも強力なバックアップを得て、21世紀の今日までに至る新世代イタリアン・ロックへの紆余曲折の道程は確立されたと言っても過言ではあるまい。
以降は皆さん御周知の通り、70年代のリコルディやフォニット・チェトラ、ヌメロ・ウーノ、果ては大手ポリドール、RCAイタリアーナにも匹敵すべく、21世紀の現在に於いて様々なプログレッシヴ専門レーベルが百花繚乱に競合しあい…筆頭格のAMS始め、ma. ra. cash、Altrock/Fading Records、そして新進のAndromeda Relixに、Lizard傘下のLocanda Del Vento…etc、etc、極小な自主製作インディーズ系と合算しても枚挙に暇が無い。
ややもすると21世紀のイタリアン・ロックの現在(いま)は、70年代をも遥かに上回る位のプログレッシヴ・オンリーのレーベルが存在しているのではあるまいか…。
前置きが長くなったが、90年代を境に多種多彩なプログレッシヴ・レーベルが発足した中でも当時の我が国に於いてはまだ無名に近い存在のレーベル、今でこそイタリア国内の様々なプログレレーベルと連携とリンクを密にして多方面で大きな展開を見せている、蜥蜴マークのレーベル“Lizard” 。
1996年の発足以降、現在ジェネシス・フォロワーの最右翼として活躍中のウォッチ(その前身だったナイト・ウォッチ時代を含めて)を始め、バンコ影響下のイマジナリア、ロックテアトラーレ調のフィアバ、イタリアン・チェンバー系のガトー・マルテ、単発系のワンオフ的なスピロスフェア、そして今回本篇の主人公でもあるジェットラグもその内の一つに数えられる。
ジェットラグの詳細なバイオグラフィーについては、誠に残念ながら各メンバーの経歴並び音楽経験、バンド結成の経緯に至っては全くと言って良いほど分からずじまいで、唯一判明している事は1995年に結成し度重なるギグとセッション、リハーサルを積み重ね、結成から3年後の1998年に自主製作EP“Difference”をリリースし、それを足掛かりに当時新興のレーベルとして勢いのあったLizardと契約し、2001年に現時点での唯一作『Delusione Ottica 』で正式にフルレングスのデヴューを飾る事となる。
彼等自身も御多聞に洩れずクリムゾンやフロイドといったブリティッシュの大御所からの影響も然る事ながら、やはり根底にはイタリアンの大御所にして御大でもあるPFMからかなり大きな影響を受けており、マウロ・パガーニ脱退後にリリースされた佳作『Jet Lag』からバンド名を採ったのは紛れも無い事実と言えよう(ちなみにJetLagの意は“時差ボケ ”とのこと… )。
但し本家との決定的な違いはヴァイオリンは一切使用しておらず、あくまでパガーニ影響下の強いフルートを大々的にフィーチャリングしている事であろう。
クラシカル・シンフォニックな要素も希薄で、やはり後期のPFM然り地中海サウンドのエッセンスを巧みに盛り込んで、アレアやアルティ・エ・メスティエリと同傾向のジャズロック風味を存分に効かせたインタープレイを得意としており、デウス・エクス・マッキーナやDFAといった90年代イタリアンの代表格の名作にも匹敵するであろう、彼等の唯一作『Delusione Ottica』を耳にしたリスナーの方なら、その攻撃的で超絶バカテクな演奏技量と高水準なスキルの高さに舌を巻くこと必至であると言っても過言ではあるまい。
一見してポーキュパイン・ツリーの『Fear Of A Blank Planet』を思わせる様な意匠(厳密に言えば、ポーキュパイン・ツリーの作品の方が後出であるが)に包まれた唯一作の冒頭1曲目、70年代から脈々と流れるイタリアン・ロックスピリッツ全開の何とも狂騒的でせわしなくもけたたましい、フルート…キーボード…ギター…リズムセクションの互い同士が闘いながらもせめぎ合いヘヴィでスピーディーな疾走感と超絶バカテクプレイが堪能出来る事だろう。
皮肉屋風な某プログレ・ライターが自らのネット上でPFMが躁鬱気味になったらこんなサウンドになったと揶揄しているが、的を得ている様な当たらずも遠からずといったところだろうか。
続く2曲目もオープニングと同傾向の作風ながらも、寄せては返す波のように緩急を持たせて英語の歌詞を存分に活かした歌物ナンバーであるという性格上、歌メロと楽曲との対比が絶妙で且つ、要所々々で意表を搗いたかの様に展開するイタリアン・ロック独特のメロディーラインに時折ハッとさせられる。
この時点でもう彼等の術中に完全にハマっているという事に改めて溜飲の下がる思いですらある…。
抒情的なピアノのイントロダクションに導かれて70年代風なギミックを効かせたユニークなシンセに転調する僅か1分にも満たない3曲目の小曲から、いきなり断ち切られるかの様にフルートとヘヴィなサウンドが怒涛の如く雪崩れ込んでくる2曲目に次ぐ歌物ナンバーの4曲目はイタリア語による正調イタリアン・ロックを楽しませてくれる。
地中海を思わせるたおやかなエレピに、パガーニへのリスペクト調のフルートとアレア風のメロディーラインが渾然一体となった、寸分の隙すらも与えない超絶音空間に舌を巻く思いですらある。
ジェットラグの音世界が絶え間無く続く5曲目で脳内はもうすっかりリラックスムードと快適なグッドトリップの夢への疾走感を満喫している途端、断ち切られたかの如く任天堂ゲームボーイないしゲーセンのアーケードゲーム風な電子音が突如乱入し、快適な音空間のトリップ体験が一気にプログレとサイバースペースとがミクスチャーされた空間に放り出されたかの様な錯覚すら覚えてしまう6曲目の小曲に戸惑いは隠せない。
余談ながらも…GGの“Time To Kill”冒頭のテーブルテニスのゲーム音を連想したのは私だけだろうか(苦笑)。
“チョコレート・キングス”があたかも荒々しくヘヴィに転化しストイックでクールな印象すら与える感の7曲目の凄まじさを経て、8曲目は収録されている全曲中で唯一静的な異彩を放つアコギによるソロパートがフィーチャリングされた、押しの印象が強い本作品に於いて牧歌的ながらもメディテラネアなイマジンと情熱が色鮮やかに甦る、一服の清涼剤にも似た郷愁すら抱かせる好ナンバー。
ラスト9曲目はモンゴルのホーミー風な些か不気味な印象を抱かせる呪術や呪文にも聴こえそうなボイスのイントロダクションに一瞬困惑すら覚えるが、徐々にイタリアン・ロックならではの節回しや曲調へと転じていく6部パート構成のトータル16分以上に亘る、まさにラストナンバーとして相応しい大曲に仕上がっており、物悲しさを湛えたピアノソロに、クリムゾンやバンコ…等の多才なヴァリエーションをも盛り込んだ、アルバムの大団円へと一気に突き進む心地良い潔さと気概が実に好印象を与える素晴らしい出来栄えを誇っている。
リリース直後イタリア本国でもかなりの好感触と手応えを得て、新人ながらもかなりの成果を得た彼等ではあったが、ここまで秀でた素晴らしい完成度とハイテンションを有していたにも拘らず、不思議な事に日本では当時あまり話題に上らなかったのが意外といえば意外である。
都内のプログレ専門店でも当時は多分極限られた枚数で入荷したものの、その後はパッと話題に上る事無くこぞって当時主流だったメロディック・シンフォ系へのセールスに重きを置いたのかどうかは定かではないが、以後再入荷する事無く数年前ストレンジ・デイズ刊行の「21世紀のプログレッシヴ100』にて漸く取り挙げられ再びその脚光を浴びるまでの10数年間…人知れずLizardレーベルの倉庫で静かに眠っていたのかと思うと、申し訳無い気持ち半分と自身の無知さ加減に何とも悔やまれてならない…。
話がすっかり横道に逸れてしまったが、高水準な完成度を誇るデヴューを飾り今後の動向が注目されつつ期待を一身に集めていたにも拘らず、彼等はそれ以降次回作のアナウンスメントすることも新作準備に向けたリハーサルやプロモーションをすることも無く、たった一枚のデヴュー作で完全燃焼しましたかの如く…自らが演りたい事はもう全て出し尽くしたと言わんばかりに、誰に知られる事も無く静かに表舞台から遠ざかってしまう。
ただ…それ以降の唯一表立った活動を述べるとすれば、3年後の2004年にメロウレーベル主催のキング・クリムゾン・トリヴュート・ライヴへ参加している旨のみが伝えられており、以後今日に至るまで解散声明を出すこと無く所謂“開店休業”に近い状態で、各メンバーがそれぞれの音楽活動ないしプロジェクト活動に携わっているとのこと…。
秀でた才能を有しているにも拘らず、どこか臍曲がりで歪なニヒリズムを漂わせて、“潔さが無い”などと陰口を叩かれながらも常に冷静沈着でクールに振舞っている彼等の巌の様な創作意欲とプログレッシヴ・パイオニアに対し、聴き手側である我々自身も“こいつら、まだまだ何かしらやってくれそうな気がする!?”などと、決して当てにならない匙を投げたかの様な諦め感を覚えつつも、心の片隅ではまだ何かしらの期待感を抱きつつあるのだから全く世話は無い(苦笑)。
でも…解散してン十年間音沙汰無かったバンドが、いきなり再結成して新譜を出すといった事が日常茶飯事起こっているプログレッシヴ業界、何が起こっても不思議では無い御時世であるが故、ちょっとした“もしかしたら!?”みたいな期待感を寄せているのも流石に否めないから困ったものである。
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25,2019
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11月最終週の今回の「夢幻の楽師達」は、今を遡る事6年前の冬…私自身の目と脳裏に未だあの時の記憶が鮮明に焼き付いているであろう、初来日公演でありながらも観客席の私達に鮮烈なイメージを残し素晴らしいライヴ・パフォーマンスを繰り広げてくれた、今やイタリアのラ・マスケーラ・ディ・チェラと共に21世紀シンフォニック・ロックの旗手に成り得たと言っても過言では無い、スウェーデンの“ムーン・サファリ ”にスポットライトを当ててみたいと思います。
MOON SAFARI
(SWEDEN 2003~)
Johan Westerlund:B, Vo
Petter Sandström:Vo, G, Harmonica, Harp
Simon Åkesson:Vo, Key
Anthon Johanson:G, Vo
Tobias Lundgren:Ds, Per, Vo
2013年1月12日、私達プログレッシヴ・ロックファンはあの日を一生忘れないだろう…。
2013年の幕開けと共に北欧スウェーデンからフラワー・キングス、トレッティオアリガ・クリゲット、アネクドテンといった、まさに飛ぶ鳥をも落とす勢いの強者級大御所プログレッシヴ・ロックバンドが大挙来日し、1月11・12日の両日に亘ってプログレライヴの総本山と言っても過言では無い川崎クラブチッタでの劇的で最高なるライヴ・パフォーマンスを繰り広げた事は今もなお記憶に新しいところであろう。
その大御所達と共に混じって、21世紀の2003年に結成された新進気鋭の存在ながらも、自らの信念に基づき着実に高みを目指して歩みつつ、その秀でた音楽性と頑ななプログレ愛を身上(信条)に抜群の人気と知名度を得て、遂に漸くこの東洋の日本という地に降り立ったムーン・サファリ。
イタリアのラ・マスケーラ・ディ・チェラと同様、まさしく彼らこそ現代(いま)を伝える夢幻の楽師達そのものと言っても過言ではあるまい。
ステージの幕が上がったと共に、オープニングアクトに相応しく若々しくも初々しさを随所に漂わせながらも決して物怖じする事無く、それこそ客席側から観ている私自身すら照れ臭くなって良い意味で本当にもう嫌になってしまう位、実に軽快且つ堂々と楽しく演奏を繰り広げるライヴ・パフォーマンスに、もう兎に角お恥かしい話…我を忘れて熱狂と興奮の渦にいつしか巻き込まれていたあの時の事は今でも鮮明に記憶している。
失礼ながらも大トリのフラワー・キングスの事なんぞどうでも良くなってしまう位、トップのムーン・サファリ、そして二番手のトレッティオアリガ・クリゲットの円熟味と渋味の増した白熱の饗宴に聴衆は酔いしれ、私自身も久しく忘れかけていたロックへの感動と情熱が甦ってくる様なそんな思いに捉われたのも正直なところである。
偶然にも私の隣の席には、名古屋からやって来た旧知のプログレッシヴ関係のプロモーターを運営している夫妻だったので、久し振りの再会を喜びつつ音楽談義に花を咲かせ、各々の視点から観たムーン・サファリの印象についても、“フラキンやカイパからの影響も大きいけれど、やはり総括的にはイエスからの影響が大きいよね…”とお互いに一致したのが実に面白かった。
コーラス部分ではクイーン…或いはプログレ寄りで喩えるならGGの影響下を感じさせ、上質のポップス的なセンスでは後期ジェネシス、タイ・フォン、マニアックな範疇ならケストレルをも彷彿とさせ、21世紀プログレの片一方の主流でもあるメロディック系にはそんなに染まり切ってはいないというのが大方の見解であろう。
各方面でのプレス関係誌、並び国内盤CDのライナーでも既に何度か触れられていると思うが、簡単にバンドの結成から今日に至るまでの経緯を辿ると、地元のレコーディング・スタジオのスタッフ研修員だった、ベーシストのJohan WesterlundととヴォーカリストのPetter Sandströmを中心に、Simon Åkesson(Vo,Key)、Anthon Johanson(G,Vo)、そしてTobias Lundgren(Ds,Per,Vo)を誘って、2003年春にムーン・サファリとしてのキャリアをスタートさせている。
意外な事にムーン・サファリとして一緒にプレイする以前の各々の経歴は、殆どがプログレ系のHM/HRをメインだったそうで、メタル寄りから一転してどうしたらこんなに明るく爽やかで軽快な極上のプログレッシヴ・ポップスが生み出されるのか何とも不思議でもある…。
程無くして彼等ムーン・サファリは、長年の盟友にしてプログレ系の横の繋がりでもあったフラワー・キングスのKey奏者Tomas Bodinとのセッション・レコーディングに参加した折に、彼等の高い音楽性スキルと演奏技量に着目したTomasに見出され、周囲からの惜しみない支援と後押しを受けて、結成から2年後の2005年『A Doorway To Summer 』で待望のデヴューを果たす事となる。
前述でも触れた通り、御大のイエス或いはカイパ、フラワー・キングスからの大きな影響を窺わせつつも、北欧出身ながらも(失礼ながらも)アネクドテン等で見受けられがちな深く重く畳み掛けるような陰鬱な色合いとは全く真逆な、ジャケットのイメージ通りと違わぬ…その清々しく爽快で明るい曲調の純然たるブリティッシュ系ポップスに裏打ちされた唯一無比なシンフォニック・ロックに、世界各国のプログレ・ファンから瞬く間に賞賛され、素人臭さが皆無で新人離れした驚愕の新世代期待のニューフェイス登場で俄かに沸き返ったのは最早言うまでもあるまい。
加えて言うのであれば…ラジオでオンエアされてもプログレ云々を問わず何ら違和感すら感じさせない良質極上なポップス感覚で聴けて、それこそ昔からプログレに付き纏う暗さやら重さなんぞとは無縁な、早い話が老若男女問わず季節や時と場所を選ばずに楽しめる、親近感溢れるプログレッシヴ・シンフォニックとして大々的にアピールしているという事であろうか。
ちなみにデヴュー作の初回オリジナル仕様は淡いイエローが下地であるが、アメリカ盤仕様と国内盤を含めた後発プレスでは濃厚なブルーカラーを基調とし月のマークも若干変更が加えられているが、それでも作品の内容の素晴らしさは不変で尚且つボーナストラック付きであるから、ファンであれば是非とも意匠パターンの違う両作品を押さえておきたいところだ。
デヴュー作リリース以降、スウェーデン国内外のプログ・フェス等での精力的な演奏活動で自らに磨きをかけ実力を蓄えていった彼等が、3年間もの製作期間を経て熟成させ、2008年満を持して自らの思いの丈をぶつけた超大作『Blomljud 』はデヴュー作で得た自信と長年培われた音楽経験が一気に発露・昇華された彼等ならではの夢見心地な幻想絵巻が繰り広げられ、2枚組CDというヴォリューム感といった話題性も手伝ってデヴュー作に続き瞬く間にベストセラーを記録。
下世話な話で恐縮なれど…作品リリース当初は、たとえ相応の実力を兼ね備えた彼等とて2枚組の大作は、いくら何でもまだ時期尚早ではないのか?という懸念というか心配・不安を少なからず抱いていたものだが、いざ作品の蓋を開けてみたら彼等の創作する従来通りの音楽性は何ら変わる事無く、否!デヴュー作以上にポテンシャルとテンションが高揚し、レコーディング中でのギタリストの交代劇(Anthon Johansonが抜け、後任にKey奏者のSimon Åkessonの身内兄弟でもあるPontus Åkessonが加入)すらも微塵に感じさせず、ヴァイオリンやフィドルを含む数名のゲストサポートを迎え、成る程確かにこれ位の世界観とヴォリュームであれば2枚組となる事は必至であるという説得力のある充実した内容で、名実共に21世紀プログレッシヴのマストアイテムとなった事を如実に物語っている。
惜しむらくは、素人臭さ丸出しな何とも稚拙でトホホなイラストには苦笑せざるを得ないものの、それ以上に彼等の素晴らしい演奏力と目くるめくフェアリーテイル風なイマジネーションが余りある位見事に補填されている辺りにも着目せねばなるまい。
本作品での成功と実績を機に、21世紀の北欧シンフォにムーン・サファリここに在りという事が見事に確立され、彼等の動向はますます世界各国のプログレ・ファンから注視されたのも、あながち言い過ぎではあるまい。
大作の2ndリリース以降、彼等は以前にも増して精力的に演奏活動をこなしつつ、次回作の為のサウンド強化を図りSimon Åkessonの身内兄弟から新たにSebastian ÅkessonをKey奏者に迎え、ツインキーボードを擁する6人編成というまさに鉄壁のラインナップで更なる最高傑作『Lover's End 』の製作に臨む事となる。
前作から約2年間の製作期間を経た2010年、デヴュー作並び超大作の2ndを遥かに上回るかの様に彼等の持ち味と音楽性が濃縮還元の如く昇華され遺憾無く発揮された『Lover's End』は、期待通りにして期待以上の完成度で文字通り世界的ベストセラー作品として賞賛され、一見能面を思わせる(苦笑)様なファッションモード誌の挿絵・扉絵風な意味深な意匠と、インナーに刷り込まれたアメリカン・ライフなフォトグラフとの相乗効果も相俟って、彼等が目指す新たなヴィジュアルな一面をも垣間見る思いですらある。
誤解の無い様に解釈すれば、ただ単純にアメリカン・ミュージックの模倣に終止する事無く北欧人が思い描くピースフルにしてハートウォーミングなアメリカを思い描いたという事であろうか…。
『Lover's End』の世界的な大成功を機に、翌2011年初夏の北米大陸ツアーに加えロスで開催されたプログフェスでの模様を収録したライヴ盤『The Gettysburg Address 』、そして続く翌2012年秋にリリースされた『Lover's End』の続篇とも言える24分のミニアルバム『Lover's End Pt.Ⅲ 』は、まさしく彼等の順風満帆で充実した現在(いま)を象徴しているかの様ですらあり、翌2013年1月の川崎クラブチッタで開催された北欧プログフェスにて待望の初来日公演を果たした彼等は、大勢の熱狂的なファンに迎えられ一夜の夢の如き素晴らしきライヴ・パフォーマンスを繰り広げ、観客席を感動と興奮の渦に巻き込んだのは最早言うには及ぶまい…。
個人的で蛇足ながらも、ライヴで魅せてくれた『Lover's End』中の好ナンバー“New York City Summergirl ”と“Heartland ”を、帰宅してから自宅でスタジオ盤で改めて何度も繰り返し聴きながら…あの時の感動と興奮を自らの頭の中で反芻しつつ、クラブチッタでのライヴ終演後“これから渋谷へカラオケに行くよ!”と茶目っ気たっぷりな言葉を残しつつ、チッタのフロアにてファンサービスのアカペラ合唱大会という素敵な思い出を残してくれた彼等の事を思い返す度に、いつの間にか無意識の内に身体が歓喜に震えて目頭が熱くなるものだから、いやはや良い意味で我ながら困ったものである(苦笑)。
初来日公演を終えた後の同年、彼等は前出のミニアルバム『Lover's End Pt.Ⅲ』を布石とした意味深なアートワークが描かれた意欲作の4枚目『Himlabacken Vol.1 』をリリースし、バンドとしての自己進化(深化)も然る事ながら、自らの音世界を更なる昇華と構築へと押し上げた事を物語る秀逸なる傑作に仕上げ、翌2014年にはライヴアルバムとしては2作目に当たる『Live In Mexico 』を発表し今日までに至っている次第であるが、それ以降の新作リリース発表のアナウンスメントが聞かれなくなって些か寂しくもあり久しい限りであるが、彼等自身の長い充電期間と取るか…或いは無期限の活動休止期間と取るか…ファンやリスナー・業界側といったそれぞれ千差万別捉え方や思惑の差異こそあれども、まあ彼等の事であるからそのうち忘れた頃にいきなり突然サプライズ級の新譜リリースなんて事も容易に考えられよう(それこそ『Himlabacken Vol.2』 となるのだろうか…)。
いずれにせよ、夢への希求にも似た彼等の終わり無き旅路はまだまだこの先も続くに違いあるまい…温かくも長い目で末永く見守っていきたいものである。
本編の締め括りに…彼等の音楽を一聴して歌物プログレ・ポップス調で爽やか過ぎて、アネクドテンやアングラガルドみたいなダークとヘヴィに欠けるから好きになれないという一部の臍曲がり的な輩も確かにいるかもしれない。
…が、彼等ムーン・サファリに対し、ダークで陰鬱な音世界を期待する者が果たしてこの世界中にどれだけ存在するのだろうか?それこそ明らかに愚問でもあり陳腐ですらある。
彼らの創作する世界に小難しい評論や理屈なんぞは無用の長物にしか過ぎないのである。
彼等を愛して止まない多くのファン…そして彼等自身の為に“夢”を紡ぐその真摯な姿にこそ、心打たれ胸を熱くする位の感動を覚えるのである。
えっ!何だって…ライヴのステージでキーボード群に囲まれた壁が無い?ギタリストが前面に出てこない?そんな事はどうだって良いさ。
大丈夫…回数を重ねて何度も聴き込めばすぐに慣れる事だし、きっと彼等の事が好きになれるさ。
心から有難うの言葉と共に、あの日の時と同じく…またいつの日にか再来日公演でお会いしましょう!
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29,2019
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晩秋から初冬に差し掛かりつつある11月終盤の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
今回はマルチプレイヤー主導によるシンフォニック・プロジェクトスタイル始め、キーボードメインのテクニカル・プログレッシヴの新鋭、果ては再復活バンドの待望の新譜…といった多岐に亘るバリエーションに富んだ好ラインナップとなっております。
今やかのカルファゲンを筆頭に極上なるシンフォニック・ロックを多数輩出し、改めて新世代プログレッシヴ・メインストリームへと急成長した感すら伺わせるウクライナより、3年前に突如彗星の如く登場し、そのあまりにハイクオリティーな完成度のデヴュー作で一躍注目を集め、21世紀プログレッシヴ・シーンに颯爽と躍り出た“モダン・ロック・アンサンブル ”が、満を持して遂に待望の2作目をリリースとなりました。
前デヴュー作を遥かに凌駕し変幻自在に展開する夢幻のシンフォニックワールドは、世代と時代を超越し全てのプログレッシヴ・リスナーにアピール出来る文句無しに必聴の最高傑作となっています。
久々のドイツから、かねてから大きな話題と注視を集めSFFやシュテルン・コンボ・マイセンばりのテクニカルキーボードワークを縦横無尽に繰り広げる期待の新鋭“ボイジャー・フォー ”堂々たる鮮烈のデヴュー作がお目見えとなりました。
ジャーマン・プログレッシヴを踏襲したエッセンスに、EL&Pやクリムゾンから影響を受けたイディオムが融合した唯一無比の音世界に感嘆する事必至です。
復活再結成ブリティッシュ・バンドとして一躍21世紀プログレッシヴ・シーンへと返り咲いた“ブラム・ストーカー ”が、5年振りの通算3作目となる新譜を引っ提げて再び私達の前に帰って来ました。
バンドネーミングのイメージと相まった…ややもすればHM/HR風なアートワークながらも往年のブリティッシュ・ロックの伝統と王道を保持したキーボードワークは、聴き手の誰しもが目頭を熱くし溜飲の下がる思いに捉われる事でしょう。
過ぎ去りし晩秋の思いを乗せ朧気な月夜の寒空の下、抒情と激情の狭間で謳い奏で鼓舞する眩惑の楽師達の終わり無き饗宴に、暫しの間でも触れて頂けたら幸いです…。
1.MODERN-ROCK ENSEMBLE
/ Night Dreams & Wishes
(from UKRAINE)
1.Intro/2.Overture/3.Night Comes. Dreams/
4.Barocco Scherzo/5.Childhood & School Days/6.Insomnia/
7.Dark Kingdom & The Evil King Part 1/
8.Dark Kingdom & The Evil King Part 2/
9.Dark Kingdom & The Evil King Part 3/
10.Wake Up/11.Final / Outro
2016年突如彗星の如く登場し、そのあまりに傑出したハイクオリティーな完成度のセンセーショナルなデヴュー作『Touch The Mystery』で、一躍世界中のプログレッシヴ・リスナー及びシンフォニック・ファンから絶大なる称賛を受けた、カルファゲンと並ぶ21世紀ウクライナ・シンフォニックの雄になったと言っても過言では無いモダン・ロック・アンサンブル 。
本作品は名実共に世界中のファンの期待を一身に背負い、3年ぶりに満を持してのリリースとなった待望の2ndであり、あの衝撃のデヴュー作をも遥かに上回り更なる格段の飛躍を遂げたであろう…アートワーク総じてシンフォニック始めジャズロック、ヒーリングミュージック、ネオ・プログレッシヴ…etc、etcを内包した音楽性が綴れ織りの如く駆け巡り、決して一筋縄ではいかない変幻自在にしてエモーショナルな極上のシンフォニックワールドを繰り広げており、トータル70分強という長尺ながらもあっという間に時が経つのを忘れさせる位にスリリングで飽きを感じさせない。
混声コーラスにストリング・アンサンブル、ブラスセクションを配し、概ね10人近い大所帯のメンバーによる完全無欠で寸分の隙をも与えない重厚にして時折ライトな現代感覚をも織り交ぜ、ウクライナというエキゾチックさに加味してイエスやEL&P影響下が要所々々で垣間見られ、もはやこれを聴かずして2019年のプログレッシヴは語れないと言っても決して言い過ぎではあるまい。
本作品を通して改めて思うに、プログレッシヴ=シンフォニック・ロックを創るというのはこういう事なんだと声を大にして言いたくなるくらい胸が熱くなるのである。
Facebook Modern-Rock Ensemble
2.VOYAGER IV/ Pictures At An Exhibition
(from GERMANY)
1.Promnade/2.Samuel Goldenberg & Schmuyle (My Point Of View)/
3.Gnomus/4.Il Vecchio Castello (Photophobia)/
5.Promenade II/6.Tuileries/7.Bydlo (The Bullock Cart)/
8.Lucky Man/9.Catacombae/Cum Mortuis In Lingua Mortua/
10.Baba Yaga/11.The Great Gates Of Kiev (Daedalus Calling)/
12.Talk To The Wind
バンドネーミングとアートワークとのイメージが相乗効果通りと言っても過言ではない、ジャーマン・プログレッシヴから久々に骨太で且つ本格派ここに登場ともいえるボイジャー・フォー 堂々たるデヴュー作がお披露目となった。
アルバムタイトルから収録曲に至るまで、彼等もまた御大EL&Pからの多大なる影響下である事を物語っており、EL&Pと同様ムソルグスキーの『展覧会の絵』をベースにしつつも、決してかの御大との模倣や類似性とは一線を画した、ジャーマン・ロックらしいアイデンティティーに裏打ちされた多種多様な音楽性(クラシック始めジャズ、コンテンポラリー等)とバラエティーに富んだ彼等ならではのオリジナリティーが作品全体に反映されている。
毛色こそ違うがSFFやシュテルン・コンボ・マイセンにも近いシンパシーすら窺わせ、母国のジャズピアニスト界では過去に何度も受賞経験のあるピアニスト(エマーソン影響下の)主導による、リズムセクションとサックスも兼ねるヴォーカリストを擁した、如何にもといったユーロロック感満載の変則4人編成スタイルが実に微笑ましい限りである。
ジャズィーに謳われる「ラッキーマン」も然ることながら、アレンジと曲調の変わったクリムゾンの「風に語りて」に溜飲の下がる様な感慨深い思いに捉われると同時に、リスペクト云々といった次元すらも超越したプログレッシヴ・ロックがもたらした大いなる可能性すらも示唆した実に興味深い逸品であることに違いはあるまい。
3.BRAM STOKER/ No Reflection
(from U.K)
1.Ballad Of The Bogeyman/2.Joan Of Arc/
3.Pictures Of Light And Shade/4.Otranto/
5.Gotta Get Outta Here/6.Cut Down The Corn/
7.Terminate/8.Spirit Of The Light
オリジナルメンバーのキーボーダーTony Bronsdon、そして現ESP ProjectのTony Loweと共に2014年に電撃的な復活再結成を遂げ実に42年ぶりの2作目となった『Cold Reading』をリリースし、その後の動向が大いに注目を集めていた…文字通り70'sブリティッシュ・ロックの生ける伝説となったブラム・ストーカー が、5年の沈黙を破ってTonyを中心に新たなギタリストとドラマー、そしてメインヴォーカルを兼ねる女性ベーシストを迎え、デヴュー作時代の原点回帰に立ち返ったかの如く装いも新たな4人編成のバンドとして、本作品こそ実質上の再出発となった3rdに当たる新譜である。
名は体を表すの言葉通り、バンドネーミングに相応しくドラキュラ伯爵をも彷彿とさせる肖像が描かれた、一見してゴシックメタル系の畑違いのアートワークを連想させるが、安易にプログメタルやらメロディック・シンフォに歩み寄る事無く、あくまで70年代ブリティッシュ・プログレッシヴの名残や王道と伝統をとどめた、さながらエニドやカーヴド・エアばりのクラシカル・シンフォニックへと生まれ変わり、サウンドのメリハリに加えて寄せては返す波の様に起伏の幅すらも感じさせる極上で豊潤なる大英帝国の高らかな旋律に、聴き手の心の琴線はきっと鷲掴みにされることだろう。
どうか願わくばジャケット云々に決して惑わされる事無く、騙されたつもりで心をまっさらにしてお聴き頂きたい。
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28,2019
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2019年、今年最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
今回は2019年の終わりに相応しい、まさしく秀逸で珠玉なるラインナップ3作品が出揃いました。
先ずは旧チェコスロバキアの共産圏時代、その一時代を牽引したと言っても過言では無いスロバキアの大御所“フェルマータ ”がバンド名義としては実に14年ぶりの新譜リリースと相成りました。
東欧独特のエキゾチックなイマージュとエモーショナルなリリシズムを湛えた、21世紀相応のソリッドにして硬派で流麗なシンフォニック・ジャズロックは、黄金期に負けず劣らずなダイナミズムが聴く者の心を必ず鷲掴みにする事必至です。
バルト三国随一にして最大のロック大国エストニアから、3年前のセンセーショナルなデヴュー作が全世界で大いなる話題を呼んだ“ポージャ・コーン ”待望の2ndが満を持して到着しました。
漫画タッチながらも何やらヤバそうで深読み出来そうな意匠に包まれた本作品は、往年の伝説の大御所イン・スペのリマスター&リイシューに呼応する形で、バンドとブラスセクション、ストリングアンサンブル、コーラス隊との共作による新曲+イン・スペのカヴァーを取り挙げた意欲的な内容に仕上がっています。
そしてイタリアからも久々に心躍り胸が熱くなる様な期待の新鋭“イ・モディウム ”の素晴らしいデヴュー作が届けられました。
70年代イタリアンのビッグネーム…PFM始めバンコ、オルメ、アレア影響下のイディオムとシンパシーを脈々と継承した、これぞ王道イタリアンの音を21世紀に甦らせたと言わんばかりな気概と作風に、リスペクト云々といったカテゴリーをも超越した敬意と愛溢れる最良の一枚と言えるでしょう。
去りゆく2019年に様々な思いを馳せ、来るべき2020年に新たな期待と希望を寄せながら、一年間の終焉を飾るであろう荘厳なる旋律の調べに、ほんのひと時でも酔いしれて頂けたらと思います。
そして…近日発表公開される “2019年 プログレッシヴ・アワード” へと繋がる布石或いはイントロダクションとして捉えて頂けたら幸いです。
年末の最後まで、どうか乞う御期待下さい!
1.FERMATA/ Blumental Blues
(from SLOVAKIA)
1.Booze Night/2.Ladies Of Avion/3.Blumental Blues/
4.The Pigeons Of St.Florian/5.Last Dance At The Firsnal Place/
6.The Copper Cock/7.Hommage A Marian/8.Stupid Morning/
9.The Breakfast At Stein/10.First Morning Tram
バンド結成当初からのオリジナルギタリストFrantisek Griglák主導による2005年の再結成復帰作(半ばFrantisekのソロ・プロジェクトに近い形ではあるが)から実に14年ぶりの新譜リリースとなる、まさしくこれぞ実質上フェルマータ 名義の再出発作と捉えても異論はあるまい。
今回オリジナルメンバーの初代キーボーダーTomás Berkaとの再会・合流を機に再々結成による復活劇を経て新たな若手のリズム隊を迎えて製作された本作品、70年代の名作群に負けず劣らずなダイナミズムと迫力が全曲の端々で満ち溢れており、クロスオーヴァー、ジャズロック、シンフォニック…等の要素を内包した、ただ単に冗長気味なムーディーさに決して流される事の無い各楽曲とも剛と柔や押しと引き、メリハリをつけて決して聴く者に飽きを感じさせない、都会的に洗練されたセンスとヨーロピアンな美意識とが互いにせめぎ合いつつ、テクニカルな巧みさの中にアーティスティックな感性が光っていて、徹頭徹尾プロフェッショナルな意識とプライドが随所で垣間見える、文字通り長年の勘と経験が雄弁に物語っている大ベテランらしい粋が存分に堪能出来る秀逸で神々しい一枚と言えるだろう。
共産圏時代の紆余曲折と、ロックそのものが拒絶された困難な時代を生き抜いたからこそのリアリティな説得力がやけに胸を打つ…。
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2.PÕHJA KONN/ Hetk.Inspereeritud Tüürist
(from ESTONIA )
1.Avamäng 2020/2.Üksi Olemise Hurmav Oõv/
3.Igavik/4.Väike Eestimaine Laul/5.Taandujad/
6.Isamaa/7.Pillimees on Alati Tragi/8.Päikesevene/
9.Antidolorosum/10.Hetk/11.Uus ja Vana
バルト三国きってのロック大国エストニアから、3年前のセンセーショナルなデヴュー作で一躍全世界中のプログレッシヴ・ファンの度肝を抜かし、瞬く間に脚光を浴びる事となった21世紀エストニアン・シンフォニック期待の新鋭ポージャ・コーン 。
3年ぶりに満を持してのリリースとなった2ndの本作品は、あたかも故手塚治虫氏の漫画ないし、見た目スパイダーマンの敵キャラをも連想させるトカゲ男が何やらドラッグを摂取しラリっているといった体で、ややもすれば意味深且つ不謹慎でケシカラン意匠に包まれながらも、肝心要の内容たるやあの秀逸なるデヴューから更なる格段のスケールアップと強化が図られ、前デヴュー作と同様イエス始めジェネシス、GG影響下を強く感じさせながらも、本作品と同時期にリイシューされた同国のレジェンド級イン・スペの唯一作に呼応するかの様に、新曲にプラスする形でイン・スペの未収録曲のカヴァーが収録され、更にはバンドとオーケストラ、チェロトリオ、男女混声コーラス隊との共演で、文字通りロック、クラシック、チェンバーといった音楽的素養が渾然一体となった圧巻ともいえる壮大なる意欲作に仕上がっている。
3年という年数と月日はバンドをここまで成長させるのかと改めて溜飲の下がる思いであると共に、イン・スペからポージャ・コーンへと…時代と世紀を越えたプログレッシヴ・スピリッツの橋渡しが受け継がれた趣すら禁じ得ない。
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3 .I MODIUM / L'anno Del Contatto
(from ITALY )
1.L'anno Del Contatto/2.Sorona Dove Sei/
3.Un Attimo Di Infinito/4.La Fabbrica Del Silenzio/
5.Per Favore Musica(PFM)/6.L'altra/7.Piccoli Galli/
8.L'anello Del Bufalo/9.Rifletto
21世紀イタリアン・ロックシーンより、またしても聴く者の心を揺り動かすであろう素晴らしき期待の新鋭が登場した。
ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラムによる基本的な5人編成によるセルフリリースで本デヴューを飾る事となったイ・モディウム は、紛れも無くPFM(特に5曲目を御注目)始めバンコ、オルメ、果てはアレアからの影響を物語っており、正真正銘あの70年代イタリアン黄金期の伝統と王道を内包したヴィンテージサウンドやイディオムを脈々と継承し、21世紀イタリアンでありながらもどこかしこ古き良きあの70年代イタリアンな懐かしさをも垣間見せてくれる実に稀有な存在と言えるだろう。
陽光の下の日向の匂いや石畳の街並み、碧き地中海の微風といったイマージュを湛えつつ、大らかで繊細ながらも牧歌的で爽快感溢れるサウンドは、俗に言う邪悪系イタリアン・ヘヴィプログレッシヴとは真逆な対に位置し、全曲から感じられる陽気で人懐っこくて職人肌にも似たアーティスティックな感性を持ったイタリア人らしい気質が要所々々で散見される素敵な贈り物に他ならない。
ジャケットの意匠的にはインパクトこそ欠けるものの、月明かりに照らされた穏やかな大海原という幻想的なイメージこそ彼等のサウンドの身上(心情)そのものと言っても過言ではあるまい。
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31,2019
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Prog Notes Special "Progressive Award 2019"
年末恒例、今年一年間のプログレッシヴ・ロックの総括…プログレッシヴ10選並び最優秀新人賞、そして久々に設けられた特別賞を含め、2019年 の極々私的で個人的な見解で取り挙げた愛して止まない素晴らしい作品群に敬意を表すると共に、心から惜しみない賛辞と拍手を贈りたいと思います。
今回エントリーされた数々の作品達…ベテラン勢から新鋭、復活した伝説クラスの大御所に至るまで多種多様且つ多種多彩(多才)なラインナップが出揃ったと自負しております。
無論これを御覧になった方々の中には、人それぞれですから私とは全く違う意見やら違ったラインナップ、反論含め批判やらお叱り、抗議もあるかと思います(苦笑)。
だから毎度の事で恐縮ですが…あくまで私の中の2019年アワードであって、御拝読された皆様も“これこそ大関自らが選んだ2019年のプログレッシヴなんだなぁ…” と捉えて頂けたら幸いです。
2019年プログレッシヴ・ロック10選
Top 10 Progressive Rocks 2019
第1位 CELESTE /Il Risveglio Del Principe
第2位 MODERN-ROCK ENSEMBLE/ Night Dreams & Wishes
第3位 IQ/Resistance
第4位 FLYING COLORS/Third Degree
第5位 MINDSPEAK/Eclipse Chaser
第6位 BLANK MANUSKRIPT/Krásn á Hora
第7位 KARFAGEN/Echoes From Within Dragon Island
第8位 LOST WORLD BAND/Spheres Aligned
第9位 PÕHJA KONN/Hetk.Inspereeritud Tüürist
第10位 BRAM STOKER/No Reflection
次点 - Runner-up
HUIS/Abandoned
ON THE RAW/Climbing The Air
LATTE MIELE 2.0/Paganini Experience
LU7/3395
PROPORTIONS/Visions From A Distant Past
特別賞 - Special award
BANCO DEL MUTUO SOCCORSO/Transiberiana
PHOLAS DACTYLUS/Hieros Gamos
FERMATA/Blumental Blues
2019年最優秀新人賞 - 2 019 Best Newcomer Award
STRATUS LUNA/Stratus Luna
IVORY TOWER/The Earth
OPRA MEDITERRANEA/Isole
MOON LETTERS/Until They Feel The Sun
VOYAGER IV/Pictures At An Exhibition
I MODIUM/L'anno Del Contatto
総括
2019年…振り返ってみれば今年の『幻想神秘音楽館』は、革新或いは刷新とも言うべき大きな変動のあった一年だったと思います。
長年住み慣れ愛着のあったNECウェブリブログの突然とも言うべきシステム変更で、概ね12年近く綴り貯めてきた自身のブログが文章の羅列に至るまで一切合財が滅茶苦茶になってしまい、あまりに御都合主義なNECサイドに対しほとほと愛想が尽き果ててしまい、これを機に新たな活路を求めてこのFC2という新天地に移行し、過去の「夢幻の楽師達」そして「一生逸品」の文章データを再度掘り起こしセルフリメイクと復刻リニューアルで毎週2回に亘る連載という形で今日までに至っている次第ですが、改めて今はNECに見切りをつけた大英断は正解だったと自負しております(惜しむらくは移行と再開までの間、久々に一ヶ月だけ休載したのは残念ですが…)。
そんなこんなでまあいろいろと波瀾含みもありましたが、今年もこうして何とか地道に細々と運営出来て…早い話(ブログ環境の刷新を除いて)基本的には昨年と殆ど何ら大きな変化の無い充実した2019年だったと思います(苦笑)。
今年のプログレッシヴ・シーン全体を総じて見ると、プログレ大国のイタリア始めイギリスの盛況も然る事ながら、数年前はあまりパッとしなかった印象だった欧州のオーストリアから2バンドも10選にランクインするという快挙には我ながら新鮮な驚きを覚えました。
ウクライナ、ロシア、エストニア、アメリカ、ブラジル、そして日本…等、ベテランから大御所復活組、果てはニューカマーに至るまで、部門やランキング云々といった垣根を問わずそれぞれ十人十色の個性と音楽性で2019年を盛大に飾ってくれた事に心から感謝の念と共に敬意を払いたいと思います。
改めて今年一年『幻想神秘音楽館』を御愛顧、御支援頂き心より厚く御礼申し上げると共に、感謝の気持ちを込めて本文を締め括りたいと思います。
本年も有り難うございました。
新しい年まであと数時間ですが、皆様どうか良いお年をお迎え下さい。
来たる2020 年 もまた引き続き宜しくお願い申し上げます。
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21,2020
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今週の「夢幻の楽師達」は真冬の厳寒に負けないくらいの熱気を帯びている21世紀イタリアン・ロックから、70年代の抒情とリリシズム、そして邪悪でダークなイマジネーションを湛えたオカルティックなヘヴィ・シンフォニックの伝統と系譜を脈々と受け継ぎ、研ぎ澄まされたインテリジェントを纏った次世代の旗手にして唯一無比の存在と言っても過言ではない“イル・バシオ・デッラ・メデューサ ”にスポットライトを当ててみたいと思います。
IL BACIO DELLA MEDUSA
(ITALY 2002~)
Simone Cecchini:Vo, Ac-Guitar
Simone Brozzetti:El-Guitar
Federico Caprai:B
Diego Petrini:Ds, Per, Key
Eva Morelli:Flute
21世紀今日のイタリアン・ロックを担う名匠達…今やベテランの域に達したとも言うべきラ・マスケーラ・ディ・チェラ始め、ウビ・マイヨール、ラ・コスシエンザ・ディ・ゼノ、イル・テンピオ・デッレ・クレッシドレ…etc、etcといった70年代から脈々と流れ続けているであろう、そんなイタリアン・ヘヴィプログレッシヴの伝統を21世紀の現代(いま)に伝えるべく、前述のバンド勢と並び気を吐き続けている新進気鋭の雄という称号すら相応しいイル・バシオ・デッラ・メデューサ(通称BDM )。
前出のラ・マスケーラ・ディ・チェラと同様、彼等もまた70年代イタリアン・ロック特有の抒情美とリリシズム、更にはかつてのオザンナ、ムゼオ・ローゼンバッハ、イルバレ、ビリエット、セミラミス…等が有していた邪悪なマインドにダークなイマジンの系譜をも脈々と受け継いだ、まさしく“メデューサの接吻 ”という意のバンドネーミング通り、もう如何にもといった感の正統派のイタリア人の創作するロックなるものを高らかに謳い上げていると言っても異論はあるまい。
世界的規模に席巻していたドリーム・シアターやクイーンズライクといったゴリゴリのプログレッシヴ系メタルや、同じイタリアのラプソディーといったインターナショナル寄りの系列に決して感化されたり染まる事も無く、彼等BDMはあくまで自国のアイデンティティーに根付いた気概とも言うべきプライドと精神を頑なに守りつつ、その精力的にして挑戦的な創作活動を保持しつつ今日までに至っている。
バンドのルーツは彼等の出身地にして同じ地名を冠したペルージャ大学の学友だった3人の若者達Simone Cecchini、Diego Petrini、そしてFederico Capraiを中心にスタートする事となる。
彼等3人もまたマスケラのファビオ・ズファンティと同様、70年代イタリアン・ロックが持っていた尊厳や伝統といった王道回帰と復権を目標に2002年9月正式なバンドネーミングで結成し、翌2003年にはDiegoの現在の奥方でもある女性フルート奏者Eva Morelliが加入し、程無くして数々のHM/HRバンドで腕を磨いてきた旧知の間柄のギタリストSimone Brozzettiが合流し、BDMはこうして栄光への階段の第一歩を踏み出したのである。
バンド結成以降彼等は数々のライヴイヴェントに参加する一方、デヴュー作に向けて度重なるリハーサルを積み重ねていき、翌2004年にサックスとアコーディオンのAngelo Petri をゲストに迎えて、自らのバンドネームを冠した自主製作による待望のデヴュー作をセルフリリースする事となる。
運命のダイス、カラス、天上界の神々と神殿、絞首台、道化師、黒衣の死神が描かれた何とも意味深なアートワークに包まれた、邪悪でカオス渦巻く独特の世界観は彼等の音楽性を雄弁に物語っており、カラスの不気味な鳴き声に導かれてブラックサバスないしクリムゾンの「21世紀の~」ばりのストレートなハードロックチューンで幕を開けるBDM流儀のヘヴィ・プログレッシヴに、次世代到来を待ち望んだヴィンテージ系嗜好の多くのファンが拍手喝采で讃えたのは最早言うまでもあるまい。
キーボード系の使用頻度が控えめな分、シンフォニックな重量感に欠けるきらいこそあれど、Simone Cecchiniの力強くも激しく、時折カンタウトーレばりのたおやかで故ジャコモおじさんをも彷彿とさせる側面をも垣間見せる表現力豊かな歌唱法に加え、妖艶でモデルばりの美貌と知性をも兼ね備えた紅一点の才媛Evaの存在感がBDMに華を添え、バンドとしても大いに助力・貢献したのは無論であろう。
同年12月には地元ペルージャにて開催された音楽フェスティバルのロック部門に於いて優勝を収めたのを契機に彼等は更なる大躍進へと歩み出し、セルフリリースながらも高いスキルに加えて録音クオリティーの素晴らしさを物語るデヴュー作の評判は、イタリア全土のみならず欧州各国にまで飛び火するまでそんなに時間を要しなかった。
年が明けて翌2005年1月、次回作に向けてのバンド強化の為、新たにヴァイオリニストのDaniele Rinchiを迎えた6人編成へと移行し、サックスのパートはEvaが引き続きフルートと兼任する事となり、イタリア国内外でのライヴ・パフォーマンスと新作の為の曲作りからリハーサルとレコーディングに多忙を極めつつも、同2005年12月にフランスのプロヴァンス地方で開催された国際的規模のユーロロックフェスでBDMは更なる脚光を浴びる事となり、その圧倒的な演奏と構成力に聴衆は歓喜と興奮に酔いしれ、彼等の次なる新譜への期待感は否応無しに高まりつつあった。
翌2006年、イタリアのヘヴィ・プログレッシヴ(+HM/HR系)専門レーベルのブラックウィドウからの打診で、セルフリリースのデヴュー作と込みで次回の新譜をウチから出さないかと持ちかけられた彼等は即決で契約を交わし、4年間もの録音期間を費やした待望の新譜『Discesa agl'inferi d'un giovane amante 』(“若い恋人の地獄への降下”という意)なる意味深でダークなタイトル作を2008年ブラックウィドウよりリリース。
その同年にデヴュー作もブラックウィドウから再リリースされる運びとなり、両作品共に日本に入荷後瞬く間に評判と注目を集めたのは記憶に新しい(無論私自身もそのリアルタイムに入手したクチである)。
一見するとダンテの「神曲」にも似た地獄の冥府巡りをも彷彿とさせる恐怖と戦慄に満ちたホラーな意匠に、ややもするとヤクラやデヴィル・ドールに近いシリアス寄りな作風を連想するかもしれないが、邪悪なアートワークに相反して、どちらかというと(個人的な私見で恐縮だが)70年代のクエラ・ベッキア・ロッカンダの1stと2ndが持つクラシカルとヘヴィな両方面の良質なエッセンスが融合し、ビリエットが持つアグレッシヴで攻撃的なハードロックの要素が見事にコンバインした様な作風と解釈する向きが妥当であろう。
ハードロック寄りだったデヴューから格段の成長を遂げ、改めてプログレッシヴ・ロックであるという決意表明とも取れる2作目に於いて、Simone Cecchiniの妖しくも美しく伸びやかなヴォイスを始め、力強いギターとリズム隊の活躍の素晴らしさも含めて、何よりも特筆すべきは前デヴュー作でキーボードが控えめだった分、本作品ではドラマー兼キーボードのDiegoのハモンドとピアノの演奏がかなり前面に押し出されており、それに呼応するかの様に奥方Evaのフルートとサックスが絡んでくる辺りはVDGGかデリリウムを思わせ、新加入のDanieleが奏でるクラシカルなヴァイオリンも負けじと追随する絶妙な様は、あたかも70年代のイタリアン・ロックにタイムスリップしたかの如き錯覚すら覚えてしまう。
余談ながらも2作目のアートワークを見てふと連想したのは、漫画家永井豪の描く「デビルマン」の世界観に似ているということだろうか…。
前作でのファンタスティックとオカルティックが同居した独特のタッチのイラストレーションを手掛けたのは誰あろうベーシストのFederico Capraiである。
その彼が描くデヴュー作と2ndの画風からして、多かれ少なかれ日本のコミック…永井豪や石ノ森章太郎、果ては「ジョジョ」でお馴染みの荒木飛呂彦や、日本のジャパニメーションから影響を受けていると思うのだが如何なものであろうか(後日改めてFacebookの友人でもあるFederico本人に聞いてみたいとと思うが…)。
2ndの評判は上々でバンド自体も決して慢心する事無く精力的にライヴ活動をこなしつつ、多くのファンも次回作への期待が高まりつつあるさ中、4年後の2012年にここでちょっとした驚きのサプライズが発生する。
ドラマー兼キーボードのDiego Petriniを筆頭に、EvaとFedericoの3人を中心にギター、リズムギター、そして女性Voを迎えた6人編成で、あたかもBDMの別働隊的な新たなプロジェクトスタイルのバンドでもある“ORNITHOS(オルニトス) ”が結成され『La Trasfigurazione』がデヴューリリースされたのである(ちなみにアートワークは言うまでもなくFedericoの手によるもの)。
かつての70年代イタリアン・ロックと同様に有りがちな…ややもするとBDMも御多聞に洩れずバンド内での音楽的意見の食い違いといった内紛、分裂、最悪解散という事も懸念され様々な憶測が飛び交う中、そんな根も葉もない噂なんてどこ吹く風の如く別働隊のオルニトスでの活動と同時進行で製作が進められていた3rd『Deus Lo Vult 』のリリースに、世界中のファンは心から安堵するのだった。
Diegoに直接聞いた訳ではないが、多分にしてDiego自身の心の中に溜まっていたプログレッシヴへの更なる探求と欲求を一旦ガス抜きして、BDMでの活動を最良にする為にも大なり小なり自分の我が儘に近いプログレッシヴのスタイルを思い通り演ってみたかったという表れではなかろうか。
話はBDMに戻るが…決して仲違いをしたという訳ではないがヴァイオリニストのDanieleが抜け、バンドは再びオリジナルのメンツによる5人編成に移行しレーベルもブラックウィドウから離れる事となり、改めて再び初心に帰った気持ちで新作録音に臨んだ彼等は、自らのセルフレーベルを興して新たな新機軸を盛り込み、今までのオカルティックとミスティックなバンドイメージから脱却一転し、十字軍の少年兵の悲劇をモチーフにした従来では考えられなかった文芸路線+アカデミックな路線へとシフトする事に成功し、イタリアン・ヘヴィプログレの継承から更に一歩突き抜けた独自のスタイルと作風を開拓する事でバンドの持つイメージを上書きするかの如く別の側面と更なる可能性を見い出していく。
リリース当初はハードカバー文庫本風な限定版に近いジャケットワークであったが、再プレス以降はベーシストのFedericoが手掛けた、日本の人気漫画+アニメーションでもあるONE PIECEでお馴染み尾田栄一郎氏の漫画を思わせるアートワークに変わっている。
3rdアルバムリリースからBDMは再び充電期間に近い長期の休止期間に入り、各々が次回作の為の構想を兼ねて余暇を満喫する一方で、4年後の2016年メインヴォーカリストSimone Cecchiniの主導で先のオルニトスに次ぐ第二の別動隊バンド“FUFLUNS(フフランス) ”を結成し、ジャケットアートそのまま『Spaventapasseri(案山子)』という一風ユーモラスながらもどことなくホラータッチな雰囲気さえ窺えるBDM系譜ならではの世界観を繰り広げている。
Simone Cecchiniの別動隊バンドの始動から2年後の2018年、BDM待望の通算4作目の現時点での新譜『Seme* (セメと呼ぶ)』のリリースは、前作の文芸大作風な路線から一転し再びバンド結成時の頃を彷彿とさせる原点回帰の初心に還ったダークでヘヴィなハードロックとVDGGやオザンナがコンバインしたかの如き質感を伴ったゴリゴリの硬派路線に立ち返った、まさしくロックのダイナミズムとパワーみなぎる重量感が徹頭徹尾に堪能出来る会心の一作となった。
本作品ではサウンドの強化を図る上で、もう一人の新たなギタリストSimone Matteucciを迎えたツインギターを擁する6人編成となっており、思えば6人所帯のプログレッシヴ・バンドなんて70年代から21世紀の今日まで伝統の如く脈々と流れているという、如何にもイタリアのバンドらしい微笑ましさを感じずにはいられない。
何よりもアートワークに起用された、何とも面妖で不可解…一見して人間の臓器の一部?はたまた得体の知れない昆虫(○キブリじゃないよね!?)の卵…或いは蛹なのか、様々な嫌な予感というか想像力を掻き立てる意匠ではあるが、リーダーのDiego自身ですらも“さあ…これ何だろうね?”ときっと思わせぶりにほくそ笑んでいる事だろう(苦笑)。
何はともあれ2004年のデヴューから今年で16年目という、様々な試行錯誤と暗中模索を重ねながらも、今やすっかり貫禄の付いたベテラン選手の域に達したBDMであるが、妥協や時代のトレンドとは一切無縁な絵に描いた様な我が道を迷う事無く邁進する雄姿に、あたかも一種の求道者にも似た面影をも重ねてしまうというのは言い過ぎであろうか。
彼等の進むべき道…この先如何なる道程と方向性へ展開してくれるのだろうか?
妖しくも禍々しい世界なのか?詩情溢れるロマンティシズムな美意識なのか?いずれにせよ我々はその姿を刮目し期待を胸に抱きつつ、これからも末永く見守り続けようではないか。
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