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23,2020
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先月の「夢幻の楽師達」に引き続き、月イチペースでの連載再開となった「一生逸品」。
2020年久々の新たな書下ろしであると同時に、コロナ禍に見舞われた激動の一年を締め括る(であろう)今年最後にお届けする今回の「一生逸品」は、御拝読頂いている閲覧者皆様からの熱烈なリクエストが届いていた、70年代ブリティッシュ・アンダーグラウンドのみならずカンタベリーシーンに於いて一石を投じ、たった一枚ながらもその大いなる軌跡と足跡を遺し、21世紀の今もなお熱狂的にして絶大なる支持を得ている…唯一無比の音楽世界観を構築したSteve Hillage そしてDave Stewart という2人の両巨頭共々がターニングポイントになったと言っても過言では無い“カーン ”が遺した一時代の奇跡に焦点を当ててみたいと思います。
KHAN/ Space Shanty(1972)
1.Space Shanty
2.Stranded
3.Mixed Up Man Of The Mountains
4.Driving To Amsterdam
5.Stargazers
6.Hollow Stone
Steve Hillage :G, Vo
Nick Greenwood:B, Vo
Eric Peachey:Ds
Dave Stewart:Key, Per
言わずもがな、もはや説明不要な不朽の名作・名盤にして、Steve HillageそしてDave Stewartという不出世のアーティストにとっても、自らの身上(信条)を占う…或いは今後の音楽人生を左右するという非常に重要な意味合いが込められた“契機”と言っても異論はあるまい。
全世界を席巻した1972年当時のプログレッシヴ・ムーブメント隆盛のさ中、大手メジャー流通で一躍世界的な成功が約束されるといった一種の大博打にも似た波及に乗じようと言わんばかり、イギリス国内の大手始めメジャーマイナーなレーベルを問わず、雨後の筍の如く新進気鋭なバンド・アーティストが多数世に輩出された黄金時代、クリアなスペイシーブルーに彩られあたかも大友克洋氏のタッチも似たSFテイスト満載な宇宙船(空間都市?)が描かれた、今回本編の主人公であるカーンの最初にして最後の奇跡なる一枚。
頭一つ飛び抜けて数年先もの時代感すら先取りしたかの様なファンタジックでアメイジングなイマージュを湛えた意匠に、ファンやリスナー誰しもがサイケでグッドトリップな夢想と浮遊感をついつい抱いてしまいがちになるが、本作品意外や意外カンタベリー系譜の一枚でありながらも緩急変幻自在にヘヴィで硬質なロックが縦横無尽に展開され、ソフトマシーンやエッグ、キャラヴァン辺りが好みの方にとっては幾分食い足りない(決して期待外れという訳ではないが)といった印象こそ否めないものの、むしろ逆にそんな意外性が受けるというかSteveとDaveのまた違った側面が垣間見えて面白いといった向きもあるのだから、嗜好の違い含め天運とはどこでどう転ぶか分からないものである…。
パブリック・スクールの学友同士だったSteveとDaveが、Mont Campbell、Clive Brooksを加え1967年に結成した最初のバンドはユリエル(URIEL)と名乗っていたが、周囲が採尿の尿瓶(=URINAL)を連想させるネーミングに難色を示したため(契約上の都合といった説もあるが)、結果的には1969年アーザチェル(ARZACHEL) へと改名し同年にバンド名を冠した唯一作がEvolutionなるマイナー系からリリースされ、SteveとDaveによる最初の音楽デヴューにして初々しくもサイケデリアな装いを背景に意欲的な試みとヴァラエティーに富んだ、後々の彼等の音楽志向と方向性が随所に垣間見える幕明けとなったのは言うに及ぶまい。
しかしながらも周囲からの好評価を他所にSteveが大学進学を理由にバンドを抜けてしまい、残されたDave、Mont、Cliveはは更なるサウンドスタイルの強化を図り、バンドは翌1970年のプログレッシヴ元年にエッグ へと音楽的発展を遂げ、同年にバンド名を関した『Egg』、翌71年『The Polite Force』といった秀作をリリースし、1974年実質上のラストアルバムにして最高傑作でもある『The Civil Surface』でその活動に幕を下ろす次第であるが、余談ながらも『The Civil Surface』には音楽界に復帰した盟友で既にゴングのギタリストとして名を馳せていたSteveがゲスト参加しているのは御周知であろう。
話は前後するが時系列的に整理すると、大学在学中(或いは聞こえは悪いが中退?)の1971年に再び音楽界に復帰したSteveが、Nick Greenwood、そしてEric Peacheyを誘ってカーンを結成し、応援というかゲスト参加という形ながらも半ばエッグとの掛け持ちスタイルでDaveが参加し、翌1972年大手レーベルのDERAMから唯一作である『Space Shanty 』をリリースする運びとなる。
前述の通りカーンの唯一作もカンタベリー系列の作品として一応位置づけられてはいるものの、大方の期待を他所に良い意味でも悪い意味でも期待を裏切った…所謂どっち付かずな宙ぶらりんで中途半端な感は否めない、単刀直入に言ってしまえばあまりに“(カンタベリー)らしくない ”極めてロックな意識に歩み寄った異色作であると言えないだろうか。
ストレートでヘヴィなロック・スピリッツとウィットに富んだユーモアとポップなフィーリングに加えて、ブルーズィー+ジャズィーな趣が見え隠れしており、同系列のカンタベリー作品とは一線をも画した特異性が浮き彫りになった、まあ擁護するという意味ではないものの…カンタベリー系とひと口に言ってもこれだけの可能性が秘められた実例というかある種の方法論をも示唆した輝かしい試金石と思えてならない。
無論個人的にはこれはこれで楽曲と構成が面白い位に練り込まれた、良質で且つ類稀なる秀でた傑作級の一枚であると断言出来るが…。
抑え切れない感情の発露すらも彷彿とさせるハモンドとヘヴィなギターに導かれ、吹き上がる様にカタストロフィーな雰囲気を伴ったメロディーの破綻と収束で幕を開けるオープニング1曲目から、カーンの志向する世界観たる面目躍如が窺い知れよう。
変幻自在にして寄せては返す波動の如く、押しと引き、柔と剛、アグレッシヴとリリシズムが渾然一体となった、あたかも彼等の音世界を代弁するかの如くスペイシーな佇まいの中にも荒々しくヘヴィな攻撃性すら覗かせる力強いナンバーである。
ミクロで且つマクロなコスモスを表情豊かに奏でるDaveのオルガンワークが、ここでも冴え渡っているのが特筆すべきであろう。
着目すべきはメロトロンやモーグといった当時の花形だった鍵盤系が一切使用されておらず、あくまでハモンドとエレピのみで勝負するといったDaveなりの強い拘りと意志が表れている事も忘れてはなるまい。
Steveのフォーキーなアコギから始まりDaveのハモンドが織り成す宇宙空間のたおやかで幽玄なる夢想感から転ずるヘヴィ&シンフォニックでカンタベリーな空気を纏った2曲目、神秘なるコーラスワークと瞑想的でエモーショナルなギターリフレインが魅力的な3曲目は広大なる宇宙空間への船出すら連想させる好ナンバー。
ジャズィーでジェントリーな小気味良いリズム展開とややポップなフィーリングすらも匂わせるヴォーカルラインが好感触な4曲目に至っては、嗚呼まさにブリティッシュ・ロックの醍醐味ここにありと言わんばかりの熱気と興奮が脳裏を伝わってくる思いですらある。
捻くれ気味でひと癖もありそうなDaveのマリンバを先導に、ストレートにプログレッシヴでクロスオーヴァーな展開を繰り広げる5曲目の絶妙さに追随するかの如く、6曲目はラストナンバーに相応しい宇宙船のクルー達の旅の終焉をも思わせる深遠で荘厳なイマージュと相まって、リリシズムとヘヴィネスとのせめぎ合いが怒涛の如く押し寄せる、まさしく大団円の言葉三文字に相当する感動とも感傷とも言い尽くし難いペシミズムにも似通った不思議な余韻を与え、彼等カーンの唯一作でもある『Space Shanty』は混沌と静寂の宇宙の闇に包まれて幕を下ろす次第である。
カンタベリー系列の中で異彩を放ちつつも、無駄な捨て曲一切皆無な実に充実たる内容と完成度を誇っていたであろうカーンの最初で最後の唯一作であったものの、バンド自体はエッグに戻ったDaveの後釜としてVal Stevensをキーボーダー(ツアーメンバーとして)に迎え、僅か数回のギグを行った後に一切合財メディアの前に顔を出す事も無く、理由こそ定かでは無いがカーンはまるで夢か幻だったかの如くいともあっさりバンドを解体し、その後のSteveとDaveの活躍は皆さん既に御周知の通り、Steveは再びカンタベリーの本流へと回帰し、ケヴィン・エアーズとの共演始めデヴィッド・アレンとの邂逅によりゴングに合流し『Flying Teapot』始め『Angel's Egg』『You』…etc、etcといったプログレッシヴ・ロック史上に残る数々の名作・名演を披露し、下世話な話で恐縮であるがアレンに触発された所為からなのか、Steve自身も浮世離れした眼差しの…さながら地球に降りてきた宇宙人よろしくといわんばかりな風貌になってしまったと思うのは些か勘繰り過ぎであろうか(苦笑)。
その後にあっては1975年を境にゴングと袂を分かち合い、数々のソロワークへと移行し時代の推移と共に次第にスペイシーなギターワークスタイルを発展させアンビエント・ミュージックへと転向、
同時進行でシンプル・マインズやイット・バイツ(2nd『Once Around The World』)のプロデュースも手掛け、その特異で多岐に亘る音楽性を遺憾なく発揮し、プログレッシヴ/クロスオーヴァー始めアンビエントからテクノ系ダンスミュージックを支える裏方業と後進への指導で今なお現役バリバリの第一線で活躍中である。
片やもう一方の雄であるDaveにあっては、カーン解散後ハットフィールズ・アンド・ザ・ノースに参加し2枚の傑作アルバムを世に送り出し、以降ナショナル・ヘルス、ビル・ブラッフォードとの共演を経て、90年代以降からは皆さん既に御存知の通り、かのプログレッシヴ・フォーク界の秀逸スパイロジャイラ の歌姫Barbara Gaskin と合流しStewart & Gaskin としてプログレッシヴなセンスとフィーリングに裏打ちされた最良なるブリティッシュ・ポップスを展開し現在もなお活動を継続中で、何度かの来日公演でその健在ぶりを示している。
そして時代は21世紀真っ只中の2020年、全世界規模でコロナ禍に震撼された今日に於いてプログレッシヴ業界もさもありなん、新旧大多数ものアーティストや精鋭が活動自粛を余儀なくされ、かろうじて新作レコーディングやリハーサルの制限こそ免れたものの、肝心要のライヴ活動に於いては未だ再開の目途が立っていない暗澹たる状況である。
無論今回本編の主人公でもある2人の両巨匠Steve HillageそしてDave Stewartに至っても、本格的な活動再開も儘ならず沈黙を守り続けているといった具合である。
いつか必ずコロナ禍は収束し、また再び元の日常が巡ってくる事であろう。
SteveそしてDaveも年輪を積み重ねつつ、未曾有の災厄に抗いながらも今なお自らの脳内で内なる創作意欲を発露させ次なる段階と一手に着想している事であろう。
両雄の復活に呼応するかの如く、コロナ禍収束の暁にはシンフォニック系始めメロディック系ネオ・プログレと共に次世代カンタベリーの前途有望な旗手達もこぞって、必ずや再びシーン再興の為に立ち上がる事であろう。
SteveとDaveが築き上げ切り拓いた道筋を歩み、苦難の時期を乗り越えた先に新たなる世代達がこれからどんな進化形と回答を導き出してくれるのか…今はただそう信じ続けて願わんばかりである。
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28,2020
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言わずもがな全世界規模でコロナ禍に見舞われた、(所謂悪い意味で)激動と不穏の2020年もあと数日で終わりを迎えますが、年の瀬の慌しいさ中皆様如何お過ごしでしょうか…。
今年最後の「Monthly Prog Notes」は、コロナ禍の悪しき影響でライヴ・公演活動も儘ならない…そんな過酷で暗澹たる一年に於いて、未曾有の疫病ごときに決して負けてなるかと言わんばかり、創作意欲と不撓不屈の精神で内なる芸術への情熱が発露した、まさしく一年を締め括るに相応しい文字通り強力3バンド揃い踏みのラインナップとなっております。
80年代初頭のフレンチ・シンフォニックを語る上で、2枚もの傑作・名作級アルバムを残し今なお根強い支持と信奉を得ている、類稀なる名匠にして伝説的存在だった“アジア・ミノール ”が、遂に満を持して実に40年ぶり3作目に当たる新譜を引っ提げて21世紀プログレッシヴ・シーンに復活降臨しました。
名作2nd『Between Flesh And Divine』の流れを汲んだ、陰影を帯びた抒情性と鮮烈さは今新作でも健在で21世紀スタイルにアップ・トゥ・デイトされながらも、年輪と熟考を積み重ねたベテランならではの域を強く感じさせる最高傑作に仕上がっています。
イギリスからは2年前のセンセーショナルな再結成復活劇で、全世界から瞬く間に驚嘆と感動の喝采を浴びた名匠にして巨匠の“グリフォン ”が通算7作目の新譜を携えて、再び私達の前に帰って参りました。
アートワークからも推察出来る様に、英国らしいウィットに富んだユーモアとジョークを背景に、時にトラディッショナル&フォーキー、時にクラシカル&リリカル・チェンバーにロックを楽しんでいる6人の楽師達が謳い奏でる、イギリスの片田舎と田園風景ののどかで和やかな日常風景が色鮮やかに脳裏に甦る事必至です。
日本の関西プログレッシヴ・シーンからは、メモリアルな趣と故人への追悼・哀悼を捧げる意味合いを含みながらも、決して一介の未発表アーカイヴ音源の発掘といった安っぽい回顧録では括り切れない、一時代を疾風の如く駆け抜けて行ったであろう…そんな生き様(生きた証)ともいうべき熱き思いが一枚に凝縮された、知る人ぞ知る幻にして伝説の匠“ペンタグラム ”最初で最後の唯一作が堂々の登場です。
マハヴィシュヌ・オーケストラ、果てはブラッフォードにも相通ずるヘヴィで流麗、ロック・スピリッツとクロスオーヴァーなフィーリングが突出したプログ・ジャズロックに暫し酔いしれて頂けたら幸いです。
ちなみに今回取り挙げた3作品にあっては「幻想神秘音楽館 2020年プログレッシヴ・アワード」 に於いて特別賞授与 とさせて頂くことを御了承願います。
暮れの冬の寒空の下、時代と世紀を超越し自らの信念と芸術世界を貫き通したであろう…そんな巌と鋼をも彷彿とさせる一徹の精神を頑なに守り続ける楽師にして楽聖達が紡ぐ、一年の終焉を告げる交響詩に暫し身を委ねてみて下さい。
1.ASIA MINOR / Points Of Libration
(from FRANCE )
1.Deadline Of A Lifetime/2.In The Mist/
3.Crossing In Between/4.Oriental Game/
5.The Twister/6.Melancholia's Kingdom/
7.Urban Silk/8.Radyo Hatırası
1979年の記念すべきデヴュー作『Crossing The Line』、そして80年代初頭のユーロロックシーンに一石を投じ、名実ともに彼等の最高傑作にしてフレンチプログレッシヴ史に刻まれる名作名盤となった『Between Flesh And Divine』を経て、一身上の都合により残念ながらも惜しまれつつ解散への道を辿ったアジア・ミノール であるが、21世紀に入りギタリスト兼リーダーSetrak Bakirel主導の下、オリジナルメンバーでフルート兼ギタリストのEril Tekeli始め旧メンバーが再び集結し、度重なるライヴ活動とリハーサルを経て、待望の新譜リリースといったアナウンスメントが何度か囁かれつつも、その後のメンバー交代やら幾多もの頓挫といった紆余曲折を経て、40年目の今年漸く満を持して通算3作目待望の新譜が陽の目を見る事となった次第である。
2nd以降まるで何事も無かったかの様に、一切合切彼等の音楽性が変わる事無くオープニングが抒情的で厳かに奏でられるや否や、もう完全にそこはSetrakが思い描くアジア・ミノールの音空間の独壇場と言わんばかりである。
Setrakに呼応するかの様にErilのフルートの響鳴に、新たなるメンバーの好演とゲスト参加のバックボーカルにチェロ等との相乗効果で、機器のデジタル化といった21世紀スタイルにアップ・トゥ・デイトされた音作りながらも、彼等が得意とする陰影を帯びた抒情性とミスティックな調べ、SetrakとErilの出身国でもあるトルコの中東が持つエキゾチックでオリエンタルな佇まいが、一曲々々毎に深みと憂いを与えているのも特筆すべきであろう。
切手シート風なアートワーク始め、3曲目の意味深なタイトルに感慨深い思いに捉われるのも然る事ながら、トルコ語で歌われるノスタルジックなラストナンバーに至るまで、徹頭徹尾に泣き処と聴かせ処満載な昨今のコロナ禍に抗うかの如き気高くも威風堂々とした彼等の復活作に、私達は心から惜しみない拍手を贈ろうではないか。
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2.GRYPHON / Get Out Of My Father's Car!
(from U.K )
1.Get Out Of My Father's Car!/2.A Bit Of Music By Me/
3.Percy The Defective Perspective Detective/
4.Christina's Song/5.Suite For '68/
6.The Brief History Of A Bassoon/7.Forth Sahara/
8.Krum Dancing/9.A Stranger Kiss/
10.Normal Wisdom From The Swamp…(A Sonic Tonic)/
11.Parting Shot/12.Lament
2年前の劇的なる再結成復活劇を遂げて以降、その後の動向が世界中から注視されていたであろう、まさしく英国の誇る誉れ高き吟遊詩人達と言っても過言では無いグリフォン 。
決してワンオフな乗りの再結成で終止する事無く、周囲からの期待を一身に受け並々ならぬ向上心と飽くなき創作意欲が高揚し、バンドとしての熱気とテンションが最高潮に達したと言わんばかりの今作通算7枚目の新譜であるが、かつてのトランスアトランティック時代の4作目『Raindance』にも相通ずるモダンな佇まいに加えて、英国らしいウィットに富んだユーモアと、かのモンティーパイソンばりのジョークを醸し出した雰囲気が、アートワーク総じて作品全体に横たわっており、陽気で愉快で痛快な秀逸なる完成度を有しているのが特筆すべきであろう。
時にフォーキーでトラディッショナルな側面と、時にクラシカルでリリカルチェンバーな側面とが絶妙に同居した良質なロック&ポップな作風なれども、結成以来脈々と流れ続ける従来通りのグリフォンサウンドは今作でも徹頭徹尾健在であり、彼等の幅広い音楽的素養とスキル、長きに亘る経験値の高さが十分過ぎる位に物語っており、改めてベテランらしい粋にして職人芸の域すらも禁じ得ない。
前作からキーボードとベースが交代し、更にはバンドの中心人物でもあるGraeme Taylorの娘でもあるClare Taylorがヴァイオリン兼キーボード、ヴォーカリストとして参加しており、バンド自体にとっても初の女性メンバーを迎えたという新機軸が更なる高評価が与えられること必至であろう。
アートワークで笑わせて、肝心要の楽曲で素晴らしき感動を呼ぶといったプログレッシヴ系バンドの持つ懐の広さや大いなる可能性をも示唆した極みともいうべき好例以外の何物でもあるまい。
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3.PENTAGRAM / Engraved
(from JAPAN )
1.Aquarius/Pegasus (Live)/2.Slamtrap (Live)/
3.Emerald Forest (Live)/4.Kaamos (Live)/
5.Paradox (I'm Confused) (Live)/
6.Escape From The Blackhole (Live)/
7.Kaamos/8.Paradox (I'm Confused)/
9.Slamtrap/10.Escape From The Blackhole
関西(プログレッシヴ系をも内包した)ロックシーンに於いて今なお神格化され、名実ともに知る人ぞ知る伝説的な存在として、かのアイン・ソフ始めブラック・ペイジ、羅麗若と並んでいた(筈)であろう“五芒星”を意味するプログレッシヴ・ジャズロック期待の注目株だったペンタグラム 。
「刻印」 というタイトル通り本作品はこれが実質上、最初で最後の唯一作となるメモリアル的な趣に加えて、2018年1月に急逝したリーダー兼ギタリスト田村励武(つとむ)氏への追悼という意味合いが込められた、その秀でたギタリストとしての技量とコンポーズ能力、忘却の彼方へ埋もれさせるにはあまりも惜しまれる素晴らしい楽曲の数々を、何としてでも後世に残したいという有志によって企画された一枚であると言っても過言ではあるまい。
手前味噌ながら作品タイトル始め封入されたライナーにて間接的に関わった私自身でさえも、こうして故人の遺志に報いるお力添え(お手伝い)が出来たことに感慨無量の思いで胸や目頭が熱くなることしきりで、今はただ「こうして形に遺せた事を光栄に思います」と言わせて頂けたら幸いである。
マハヴィシュヌ・オーケストラ始めブラッフォードのソロワークをも彷彿とさせ、かの故小川文明氏のブラック・ペイジにも似通った、ロック寄りクロスオーヴァーな作風ながらも抒情的なリリシズムが要所々々で垣間見える、故田村氏の思い描いた音楽世界が鮮烈に表れた“理想郷”そのものと捉えても異論はあるまい。
2007年東京中野の沼袋サンクチュアリで収録されたライヴ音源に、2012年にスタジオで収録された音源が加えられた構成による充実した内容で、互いに聴き比べてみるのも然る事ながら、個人的には何度も繰り返し耳にする度に、もっと早く彼等を世に出すべきであったと心から悔やまれてならない…。
何よりもこの一枚こそが田村氏の生きた証でもあり、音楽に情熱を捧げた彼等の記録である事を決して忘れてはなるまい…。
改めてこの場をお借りして、天国の田村さんの御霊に哀悼の意を表し、慎んで御冥福をお祈り申し上げます。
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31,2020
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Prog Notes Special "Progressive Award 2020"
2020年12月31日大晦日、『幻想神秘音楽館』今年最後の投稿にして一年間を締め括る総決算でもあり、個人的な私見を含めた上での今年の10選 、特別賞 、そして最優秀新人賞 という栄誉と功労を讃える「Progressive Award 2020」 。
毎年恒例…年に一度の祭典ながらも、今年は新型コロナウイルス禍という全世界規模の蔓延に見舞われた昨今、不穏と怖れに染まった(ある意味に於いて)激動の時代で、御多聞に漏れず世界中のプログレッシヴ・シーンもコロナ禍の悪影響で、ライヴはおろか大なり小なりのフェスも儘ならない過酷で受難な一年だったと思えてなりません…。
しかし、そんな困難に強いられた時代にあってもプログレッシヴに携わっている世界中の匠達は決して諦める事無く、むしろ逆境をばねに内なる創作意欲を蓄え発露し、見えない侵略者に抗うかの如く危機を好機に転じて、怯む事も臆する事も無く今年もまた素晴らしい作品を世に送り出してくれた事に、プログレッシヴに携わっている者として改めて心から感謝し敬意を表したいと思います!
そして、貴方達にありがとうの言葉を贈ります…。
2020年プログレッシヴ・ロック10選
Top 10 Progressive Rocks 2020
第1位 SOLSTICE/Sia
第2位 KANSAS/The Absence Of Presence
第3位 MINIMUM VITAL/Air Caravan'
第4位 LOGOS/Sadako E Le Mille Gru Di Carta
第5位 NAYUTAKEIKAKU (那由他計画)
/Tsumibito No Kioku (つみびとの記憶)
第6位 I AM THE MANIC WHALE/Things Unseen
第7位 OVNI/Personajes…Out Of The Window
第8位 BLANK MANUSKRIPT/Himmeleahrt
第9位 LA MASCHERA DI CERA/S.E.I.
第10位 UBI MAIOR/Bestie, Uomini E Dèi
次点 - Runner-up
RIVEN EARTH/Space Of Time
ESP PROJECT/Phenomena
FRAGILE/Golden Fragments
THEO/Figureheads
SISYPHOS/Ocean Of Time
特別賞 - Special award
ASIA MINOR/Points Of Libration
GRYPHON/Get Out Of My Father's Car!
PENTAGRAM/Engraved
2020年最優秀新人賞 - 2020 Best Newcomer Award
QUEL CHE DISSE IL TUONO/Il Velo Dei Riflessi
ROMAN ODOJ/Fiasko
AMUZEUM/New Beginnings
MAGICK BROTHER & MYSTIC SISTER
/Magick Brother & Mystic Sister
QAMAR/Todo Empieza Aquí
INSTANT CURTAIN/Let Tear Us Apart
総括
前述と重複するが、今年は兎にも角にも世界中に蔓延した新型コロナウイルスによって、多くの尊い人命が犠牲になり、名立たる著名人が逝去し、果ては某国の独裁者紛いな君主によって多くの罪も無い者達が虐げられ踏みにじられた悲しむべき暗澹たる時代だったと思えてならない…。
自由が奪われ、好きな時に好きな場所へ行けない、多くの友人知人にも会えないというもどかしさを覚え、新生活様式やらソーシャル・ディスタンス、三密厳禁といったキーワードにがんじがらめに縛られ、ライヴは観れない、リモートでの繋がり…といった、まさにこの世の終末といった危機感に何度苛まれた事だろうか…。
それでも人命を奪ったウイルスでも不可能だった事は、創作の大海を枯渇に出来なかった事、そして芸術への希求を奪えなかった事、感動への歓喜が奪えなかった事。
人間には大いなる可能性が秘められているし、災厄への対抗意識と失敗で得た教訓さえあればいくらでも進歩出来るのである。
絶望にも似た焦燥と寂寥感に苛まれた時に巡り会えた、今年の頂点に立ったソルスティスの新作に触れた時は心底救われた思いですらあった…。
こんな時代だからこそ彼等の癒しの音楽が心地良かったのはもはや言うには及ぶまい。
何はともあれ…個人的にも何かしらいつもの例年の年末とは少し様相が異なる、多かれ少なかれ違和感を覚えている昨今ではあるが、今年も一年間当プログレッシヴ・ブログ『幻想神秘音楽館』を無事に完走させる事が出来、これも単に皆様からの御支援御愛顧あってこそと感謝の念に堪えない次第である。
今年があったからこそ、次なる新たな2021年 こそは本当に良い年にしなければと気持ちを新たにして臨みたいと思う。
本年も御愛顧・御支援頂き本当に有り難うございました。
2021年も引き続き宜しくお願い申し上げます。
皆様どうか良いお年をお迎え下さい。