幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

夢幻の楽師達 -Chapter 66-

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 11月も終盤に差し掛かり、晩秋から初冬へ…日に々々冷気と寒さが肌で感じられる様になりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか?

 我が国のコロナ禍も徐々に収束の兆しが見受けられ、来たるべき新たな年に向けて再生と復興の一歩を漸く踏み出せそうな、そんな心躍りそうな年の瀬が迎えられそうです。
 私事で恐縮なれど健康と体調面で数ヶ月間悩み苦しみ、それに同調するかの如くコロナに色濃く染まりつつ様々な様相を呈した激動の2021年もいよいよ残すところあと一ヶ月と数日。
 2021年…今年最後を飾る「夢幻の楽師達」は、以前から絶対に取り挙げねばと長い期間熟考し温め続けていた、20世紀末のジャパニーズ・プログレッシヴシーンに於いて、かのヴィエナと共に一時代を築き劇的に駆け巡っていった、90年代ジャパニーズ・プログレッシヴを語る上で決して忘れ難い申し子として、今なお根強く絶大なる支持を得ているであろう、北欧のイメージにも似通った凍てつく大地の北海道から一躍全国区へと名を上げた絶対的存在と言っても過言では無い、北の大地の雄にして誉れの“プロビデンス”に、今再び栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

PROVIDENCE
(JAPAN 1982~)
  
  塚田円:Key
  久保田陽子:Vo
  小野さとし:G
  広瀬泰行:B
  杉山雄一:Ds

 今を遡る事34、5年前の80年代半ばの事…。
 ユーロロックの発掘や国内盤LPでのリイシューがある程度一段落着き、英国のポンプロックが起爆剤となった世界各国でのプログレッシヴ・ロックリヴァイバルを機に、それこそ出来不出来を問わずあたかも雨後の筍の如くにニューカマーが世に輩出された、所謂21世紀今日のシーンへと繋がる礎的な役割を担った重要な時代だったと思えてならない。
 こと日本のジャパニーズ・プログレッシヴに於いても過去何度か言及してきたが、キング/ネクサス発足によるノヴェラ、アイン・ソフ、ダダ、美狂乱、ケンソーの健闘と台頭、その波及はインディーズにも及びベル・アンティークのフロマージュ、LLEのネガスフィア、果てはメイド・イン・ジャパンレーベル再起動までも誘発し、アウター・リミッツ、ページェント、Mr.シリウス、デジャ・ヴ…etc、etc、さながら青田買いよろしくといわんばかりに関東関西問わず多種多彩な顔ぶれのプログレッシヴ・バンドが世に送り出され、この世の春を謳歌すべく日本のプログレッシヴ・ロック史に於いても一大事と言わんばかり盛大且つ爆発的に盛り上がった奇跡と夢の時代であったと言っても過言ではあるまい。
 そんなさ中のまだ20代半ばだった若い時分の頃のこと、年に何度か上京してはプログレッシヴ関連の友人や仲間と情報交換するのがお決まりパターンだったのだが、ふと友人が「札幌のプロビデンスっていうバンド凄いらしいよ」と漏らした何気無いひと言に、当時のジャパニーズ・プログレッシヴシーンに於いて主流の殆どが関東ないし関西圏のバンド (勿論、名古屋のアノニマスやルーシェル、盛岡のピカレスク・オブ・ブレーメン、新潟のナチュラルも忘れてはいけないが…) で占められていたさ中、よもやの最果て北の大地からの耳寄りな情報に、気持ちは一気に高ぶり当時未知数にして未開な北海道のバンドに対する興味へと心は舞い上がる思いですらあった。
 友人の伝によると、クリムゾンやUKの影響を受けたヘヴィでテクニカルなシンフォニック系で、カルメン・マキを彷彿とさせる紅一点の若手女性ヴォーカリストの歌唱力が素晴らしいといった、ほんの極僅かな情報しか知らないとの事で、肝心要の音にあっては当時西新宿のUKエジソンにデモカセットによる作品が数本入荷したものの、既に時遅く売り切れて在庫が無いとの些か寂しい思いを味わったことを今でも鮮明に記憶している (苦笑)。
 そんな一方で…今だから正直に言える話で恐縮なれど、自身の心の天邪鬼な部分が“女性ヴォーカルを擁するバンドの類なら、概ねページェントないしスターレスとかマグダレーナみたいな亜流か二番煎じなんじゃないか…。”と意地悪く囁いていたのもまた紛れも無い事実ではあるが (本当にゴメンナサイ!!)。

 前置きがやや長くなったが、肝心要の今回本篇の主人公プロビデンスに話を戻したい…。
 1982年、札幌の北海学園大学に在籍していた軽音楽部所属の若者達によって結成されたクリムゾンのコピーバンドから物語は幕を開ける事となる。
 70年代クリムゾンの最終作『レッド』に収録された「神の導き (Providence)」を引用し結成当初からプロビデンスと名乗っていた彼等であったが、リーダー兼ギタリストの大学卒業を機に一旦は自然消滅に近い形で解散するものの、残されたメンバーの内キーボーダーだった塚田円を中心にプロビデンスは再び再編される事となり、同じ軽音楽部でハードロックバンドのヴォーカリストを務めていた久保田陽子に声をかけ、軽音楽部で旧知の間柄だった宮本憲一(G)、数納剛(B)、そして千葉英樹(Ds)を迎えた新たな5人の布陣で1985年の初夏に活動を再開。
 当初のクリムゾンのコピーナンバーから少しずつ脱却するかの如く、塚田がリーダーシップを執りコンポーザーとしての手腕を発揮するようになると同時にオリジナルナンバーのレパートリーも着実に増え、学園祭のみならず札幌市内のライヴハウスでも精力的に活動し、プロビデンスは日増しにファンとプログレッシヴ・ロックを愛する熱狂的な支持者達の口コミによって、まさにアマチュアの域を越えたセミプロとしての確固たる地位を築く事となる。
 なお、余談ながらもライヴではかの新月の名曲「鬼」も演っていたというのが非常に興味深いところでもある。
    

          

 学業と併行してバンドの創作活動は順風満帆な軌道の波に乗りつつ、1986年には初の形となった音楽作品として前出でも触れたデモテープ作品『伝説を語りて』をリリース。
 そんな一方で、メンバーの変動も流動的でデモテープリリースから程無くして、ギタリストの宮本がバンドを離れる事となり、その後釜として小野さとしが加入し、翌1987年にはベーシストの数納が抜け後任には何とオリジナル・プロビデンス時代のベーシストだった広瀬が再加入。
 広瀬の復帰を機にバンドはますます充実期を迎え、強力ラインナップの5人で2ndデモテープ作品『時の涙』をリリース。
 前後して前出の1stデモテープ『伝説を語りて』の評判は東京のメイド・イン・ジャパンレーベルの主宰者だったヌメロ・ウエノ氏の耳にも届き、ウエノ氏主導の許で運営されていたキング/クライムレーベルの全面的バックアップで遂に念願のメジャーデヴューにまで漕ぎ着ける事となった次第である。
 ただ…メジャーデヴューを目前としながらも、バンドサイドとしてはあるちょっとした悩みを抱えていたのも事実で、この時期特にドラマーの入れ替わりが激しく1988年春に千葉が抜け、後任として西田均が加入するものの同年暮れに脱退し入れ替わるかの様に千葉が再び復帰。
 さあ!いよいよこれからという矢先に、またしても(理由は定かではないが)千葉が脱退するというアクシデントに見舞われたプロビデンスは、幸運に恵まれながらも肝心要のドラマーが定まらず今一歩踏み出せない足踏み状態が続く事となる。
 そんなプロビデンスの窮地を救うべく、同郷のバンドでもあり旧知の間柄でもあったハードロック系バンドのサーベル・タイガーから杉山雄一が急遽参戦する事となり、杉山のパワフル且つタイトでテクニカルなドラミングに鼓舞されるかの如く、今までお預けを喰らってレコーディング出来なかったフラストレーションを打ち破るかの様に、彼等はデヴューアルバムに向け毅然たる姿勢で一丸となって臨む事となる。
 こうして様々な難関を乗り越え、1990年3月難産の末に待望のデヴューアルバム『And I'll Recite An Old Myth From…… (伝説を語りて)』をリリース。
 それぞれジャケットアートデザインが違うLP盤(4面開きの変形ジャケット仕様)とCDによるダブルリリースという異例づくめのデヴューを飾り、リーダー兼コンポーザーでもある塚田氏の大作志向が反映された、長尺全4曲というボリュームでトータル50分を超える濃密なヘヴィ・シンフォニックの構築美とその充実ぶりは、私を含めた聴き手側に新鮮な驚きと衝撃を与え、名実共にジャパニーズ・プログレッシヴ史に刻まれるであろう久々の大ヒット作となったのはもはや言うに及ぶまい。
 LPとCDの曲順が若干違う (「永遠の子供達」がLPではB面1曲目だが、CDでは2曲目にクレジットされている) ものの、作品の高水準な完成度とクオリティーに大きな差異は無いといえよう。
 更にはフランスの大御所アトール初来日公演の際、ギタリストのクリスチャン・ベアがゲスト参加した20分以上に亘るアルバムタイトルでもある大作「伝説を語りて」に至っては、名実共にプロビデンスワールド全開の理屈と感動をも超えた面目躍如たる彼等の底知れぬ実力に、言葉を失い只々感服する思いだったのを今でも記憶している…。
 まあ個人的な話で恐縮であるが、どちらかといえば下記に挙げたLP盤ジャケットデザインの方が好みであるが(苦笑)。
    

 LPとCDのダブルリリースによるデヴュー作は高い評価を含めセールス面でも概ね上々で、ホームグラウンドでもある札幌を始めとする主要都市でのレコ発ライヴツアーでも聴衆からの熱気と興奮と感動で迎えられ、プロビデンスは一時期閉塞気味だったジャパニーズ・プログレッシヴへ新風を吹き込む存在として幸先の良いスタートを切る事となる。
 気運と追い風に後押しされるかの様に、塚田自身も次回作に向けての構想と新たな曲作りに邁進するものの、片やその一方でバンド自体は重大な局面に立たされてしまう。
 長年苦楽を共にしてきたメインヴォーカリストの久保田が、ドラマー杉山の熱気溢れるドラミング・パフォーマンスに触発されたからなのだろうか、改めてハードロック路線に回帰する決意を固め、杉山が在籍するサーベル・タイガーに参加する為プロビデンスを去る事となってしまう。
 この突然の脱退劇はバンドサイドのみならず多くのファンやリスナーまでもが意気消沈ないし失意落胆し、2ndリリースに向けたマテリアルやスコアの大半が中断、塚田を始めとする残されたメンバーは新たな女性ヴォーカリスト探しに奔走しつつバンドの立て直しを図ろうとするものの、更なる追い討ちをかけるかの如く今度は小野や広瀬までもがバンドを離れる事となり…結果的にプロビデンスは新譜製作が頓挫し暗礁に乗り上げたまま、暫し7年間の長きに亘る沈黙を守り続ける事となる。

 1990年のデヴューアルバムから年月が経ち、いつしかプロビデンス新譜製作の話も聞かれなくなり、かつての新月と同様…もはや彼等ですらもたった一枚のアルバムを遺して幻と伝説の存在と化すのかと、根も葉もない噂がちらほらと囁かれる様になった、そんな矢先の1996年突如として舞い込んで来たプロビデンスの2nd新譜リリースという吉報に、多くのファンやリスナーといった支持者は歓喜と喝采に沸き溢れんばかり万感の思いに胸を熱くするのだった。
          
 満を持しての看板文句に偽り無しの如く7年振りにリリースされた待望の2nd『There Once Was A Night Of “CHOKO-MURO” The Paradise (蝶湖夢楼の一夜)』は、リーダー塚田そしてドラマーの杉山を除くメンバーが一新され、類稀なる詩人にして歌姫でもある菅原貴子を新たなヴォーカリストに迎え、木ノ内亜土夫 (G) 、中陳文敬 (B)という布陣で臨んだ、名実共に20世紀末プログレッシヴを彩るに相応しい、前デヴュー作以上にヘヴィ&ダークネス、ミステリアス&リリカル、エモーショナル&シンフォニックが渾然一体となった、妖しくも意味深な楼閣が描かれたアートワークのイメージと相まって、文字通り会心快作の一枚にして最高傑作へと押し上げていった。
 全曲どれを取っても一切の無駄が無く、アルバムタイトルでもある大曲「蝶湖夢楼の一夜」は前作の「伝説を語りて」と並ぶ新生プロビデンスの代名詞となったのは言うまでも無かった。
    

 奇跡の復活を成し遂げたプロビデンスにオーディエンスは精一杯の声援と惜しみない賞賛の言葉と拍手を贈り、彼等の復帰を温かく迎え入れ、バンドサイドもさあ!今度こそはと意気込んだのも束の間、このプロビデンスの2ndが最期の徒花の如くメイド・イン・ジャパンレーベル閉鎖前の最後の作品になろうとは…。
 今もなおメイド・イン・ジャパンレーベルの閉鎖云々に関しては、主宰者の放漫経営だったとか、レーベルと所属バンドを私物化したのだとか…様々な憶測や悪口雑言が囁かれているが、安易に一つの時代が終わっただの真相は藪の中とは言いたくないものの、メイド・イン・ジャパンレーベルの終焉で日本のシーンは一時期ではあるが、プロビデンスを含む多くのバンドが落胆し宙に浮いた状態に陥ったという功罪だけは流石に否めない。
 こんな事が度重なり塚田を始めメンバー全員が、ほとほと日本のプログレッシヴ業界に愛想が尽き果ててしまい、プロビデンスは一枚看板を掲げたまま解散宣言する事無く…早い話開店休業状態に入ってしまい21世紀の今日までに至っている次第である。
 メイド・イン・ジャパンの閉鎖から数年後、新たにフランスのムゼアと業務提携を結んだポセイドンレーベルが発足するも、塚田始めプロビデンスのメンバーは一切の興味を示す事無く静観を守り続けてしまう…。
 まあ、所謂業界不信になってしまったと言った方が当たらずも遠からずであろうか。

 個人的な話で恐縮だが…FacebookというSNSツールを駆使するようになって、多くのプログレッシヴ関係者と交友関係が築けるようになり、当然の事ながら塚田円氏を始め久保田陽子さんとも繋がる事が出来たのが何よりも幸運であった。
 それ以降時折塚田氏からキーボード関連の投稿記事やら、新たなマテリアルに関する投稿が顕著に表れ始め、こうした新たなる動向やら試行錯誤に紆余曲折といった積み重ねの末、浪漫座の月本美香、そして元マージェリッチの世良純子の両名女性ヴォーカリストを擁し、昨年の2020年晩秋にプロビデンスとは違った形で那由他計画を始動させ、かつてのプロビデンスイズムを脈々と継承したデヴュー作でもある『つみびとの記憶』が、ジャパニーズシーンに於いて久々の大ヒットとなったのは記憶に新しいところである。
 そして今回本篇の編さんと時同じくして、偶然というか必然とでもいうのか先の那由他計画が僅か1年のインターバルであるにも拘らず、来たる12月5日に待望の2nd『さざきおりてひかりあふれ』をリリースする運びとなった事に心から祝福の拍手を贈りたい。
  

 ただ塚田氏は那由他はあくまで自らの創作活動の一環であって、プロビデンスの再編再興も忘れてはいないと断言しており、その言葉が聞けただけでも正直救われた気持ちになった。
 久保田さんも菅原さんも今なお自らの音楽・創作活動に勤しんでおり、かつてのプロビデンスの栄光と軌跡を飾った面々も健在であろう。
          

 神の導き (Providence)の許に、蝶湖夢楼に集いし永遠の子供達夢狩民月下の下で一夜を共にし、黎明風を肌で感じながら、いつかまた新たなる伝説を語る日が訪れるのをきっと待ち続けているのかもしれない。

 …今回の本稿に当たり、貴重な写真を提供して頂いた塚田円さん、本稿を楽しみに待っている久保田陽子さんの後押しに心から感謝の言葉を捧げます。
 素晴らしき出会いに心からありがとう。

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Monthly Prog Notes -November-

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 2021年も残すところあと一ヶ月少々となりました…。

 肌寒さが感じられた晩秋から凍てつく様な冷たい初冬へ、常套句かもしれませんが季節の移り変わりの早さ、一年はあっという間に過ぎ去るものと改めて痛感する思いです。
 11月今回の「Monthly Prog Notes」は、世紀を跨いで今なお現役で活躍している大ベテラン始め、経験豊かに培われた中堅どころと多種多才なラインナップが出揃いました。
 久々に取り挙げるジャーマン・プログレッシヴから、1971年のデヴューから1973年の一時的な解散を経て、21世紀の2001年にメンバー総入れ替えで再結成を果たし、完全なるシンフォニック・ロック路線へと転向したベテランクラスの“アバカス”の通算第8作目の新譜はスコットランド王ロバート1世の生涯をモチーフにバンド結成50周年記念作という意味合いを含ませた、文字通り正統派ジャーマン・シンフォニックの底力とプライドが垣間見られる、堂々たる王道の強みを地で行く傑作級の力作に仕上がってます。
 北米カナダからも素敵な便りが届きました…。
 21世紀ネオ・プログレッシヴの範疇ながらも、ジェネシス+トニー・バンクスを始めキャメル、EL&P、果てはUKといったブリティッシュ・プログレッシヴからの多大なる影響と仄かな香りすら窺い知れるキーボードトリオ系の決定版“モナーク・トレイル”通算3作目の新譜、デヴュー作並び前作で描かれた女性から感じられたミスティックでセンシュアルなイメージから一転して、傾く日差しに煌々と照らされるカナディアン・ネイチャーが描かれた、まさに聴き手側の皆が真っ先に想起するであろう…北米の欧州そのものを音とヴィジョンで構築した、至福で心洗われる秀作となりました。
 アルゼンチンと並ぶ南米のプログレッシヴ大国ブラジルからは、ダークでオカルティックな佇まいにヘヴィ・プログレッシヴとサイケで妖しげな雰囲気を漂わせた“マー・アッソムブラド”の、こちらも通算第3作目に当たる新譜の必聴作が遠い海を越えて到着しました。
 2015年のデヴュー以降、一貫してブリティッシュ・ヘヴィロック影響下に加えポルトガル語で謳われる正統派ブラジリアン・プログレッシヴの精神と誇りを頑なに守り続けている真摯な姿勢と、大航海時代の海洋冒険譚に邪悪なモンスターが絡むというアートワークは、彼等の持ち味にしてセールスポイント面でも大きな強みとなっています。
 寂寥感漂う木枯らしに吹かれ、重く深く垂れ込めた曇天の冬空を見上げつつ秋の終わりを感じながら、幻想と抒情を奏でる楽師達の冬の序曲にそれぞれの思いを馳せて頂けたらと思います。

1.ABACUSHighland Warrior
  (from GERMANY)
  
 1.Into My Life/2.Now You Are Gone/3.Rule The World/
 ~Robert The Bruce~
 4.Highland Warrior/5.My War Is Over Now/
 6.Lay Down Your Sword/7.The Voice/
 8.On My Way Home/9.Shelter

 1971年にデヴューを飾り73年に一時的な(?)解散劇を経て、21世紀を迎えた2001年にオリジナルメンバーが一切不在の総入れ替えの形で、完全にシンフォニックスタイルの別バンドへと新生したアバカスであるが、本作品は通算8作目ながらも…2001年リーダー格にしてキーボードからギターまで手掛けるJürgen Wimpelbergを筆頭主導に再結成してからは、70年代版は全くの別物として考えれば新生してからはこれで4作目に当たるのだろうか (何だかややこしいが…)。
 21世紀新生版となってからは欧州の様式美と伝統、或いは歴史的な雰囲気や佇まいといった荘厳にして重厚なイメージが、アートワークのみならず現在の彼等のサウンドスタイルにも存分に反映されており、70年代キーボードトリオ風ヴィンテージ感に21世紀のイディオムとスタイリッシュなセンスが違和感無く融合しており、今作でも組曲形式の「Robert The Bruce (スコットランド王ロバート1世)」でも、さながらEL&P(パーマーでもパウエルでも)、果ては北欧のパル・リンダー・プロジェクトにも相通ずるハモンドにメロトロン、デジタルキーボード系が縦横無尽に繰り広げられ、さながら疾風怒濤の如くめくるめくシンフォニックな展開と、ケルト風な趣にアコースティックな側面、女性コーラスとが一糸乱れる事無く渾然一体となった文句無しに決定的な一枚へと結実している。
 その一方で路線変更か?キャラ変したのか?と一瞬思わせる様な前半3曲のポップでキャッチーな作風も、何とも実に良い意外性が垣間見えてて素晴らしい。
 バンド結成50周年記念作品と銘打っているが、そんな売り文句諸々を抜きにしても最高のテンションと完成度に、心の底からシンフォニック・ロックが好きで本当に良かったなぁと改めて思える会心作でもある。
          

Abacus Official Website
https://abacus-studio.de/home

2.MONARCH TRAILWither Down
  (from CANADA)
  
 1.Wither Down/2.Echo/3.Canyon Song/
 4.Waves Of Sound/5.Megalopolitana/6.All Kinds Of Futures

 夕暮れに染まりつつある美しきカナダの大自然のフォトグラフを素材としたアートワークに心と目が奪われる。
 2014年のデヴュー作『Skye』、そして2017年の2nd『Sand』に続く待望の新譜3rdの本作品をリリースしたカナディアン・リリシズムシンフォニックの雄モナーク・トレイル
 朧気ながらもミステリアスでセンシュアルなイメージの女性像が描かれてきたデヴュー作と前作とは打って変わって、自国の美しくもどこか厳しささえ想起させるナチュラルな意匠と相まって、長年プログレッシヴ畑で数多くのキャリアと経験を誇るマルチプレイヤー兼リーダーKen Bairdの、流麗で且つ繊細なキーボードワークが色鮮やかな四季折々の自然賛歌を謳い奏でるハートウォームでヒューマニティーな創作姿勢に感動を覚え胸が熱くなる。
 リズム隊の好サポートも然る事ながら、ゲスト参加のギタリストが要所々々でアクセントとインパクトを与えており、ブロードウェイ期のジェネシス(+バンクス)や後期~リアルタイムなキャメルにも匹敵する、エモーショナルな佇まいに一種アンビエントな夢見心地に誘ってくれるタッチのピアノワークを耳にする度、プログレッシヴ・ロック創作の本懐とはやはりこうであるべきだと改めて認識させられてしまう。
 もはやネオ・プログレッシヴという概念や範疇云々の垣根を越えつつも、メロディック・シンフォという安易な路線とは完全に一線を画した“純音楽への衝動”のみが存在する、傑作級にして至高の贈り物と言えよう。
          

Facebook Monarch Trail
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3.MAR ASSOMBRADOGeografias Estranhas
  (from BRAZIL)
  
 1.Intro - Abditae Causae/2.Geografias Estranhas/
 3.O Poco/4.Se Além Da Escuridão/5.O Wurdalak/
 6.As Horas/7.Ao Som Dos Tritões/
 8.Geografias Passadas/9.Para Dentro Da Árvore/
 10.O Bosque Das Eumênides

 大航海時代の海洋冒険譚にラヴクラフト的な幻獣怪奇譚が融合したかの様な、見た目インパクト大のアートワークに思わず魅了されてしまう本作品は、正統派ブラジリアン・ヘヴィプログレッシヴの系譜を脈々と受け継いだ数少ない21世紀の雄マー・アッソムブラド通算3作目の新譜である。
 2015年のデヴュー作並び2017年の2nd、そして今作に至るまで一貫して、海にまつわる怪異譚や妖獣・幻獣をモチーフにしたアートワークが彼等の代名詞であるといっても過言ではあるまい。
 見た目が見た目であるが故に、ジャンル違いのダーク&ブラックメタルみたいなあらぬ誤解を招いてしまいがちになるが、バンドの中心人物でもありストーリーテラー&コンポーザー (ギター&ベース、アコギ、ヴォーカル) をも兼ねるAndré De Senaが目指す、ポルトガル語の響きとイントネーションを活かしたポエジーで文学的、神話と歴史に裏打ちされた趣味嗜好の世界観を複雑怪奇な迷宮の如く構築しているのが特色である。
 ややもすればかつてのMr.ドクター率いるデヴィル・ドールと同一系かと連想しつつも、あくまで彼等の音楽的礎は70年代のハード&ヘヴィ系からプログレッシヴ、サイケデリックといったヴィンテージなブリティッシュ・ロック影響下を内包した、ストレートで実にカッコイイ切れのあるサウンドであると言ったら御理解頂けるであろうか…。
 オルガン系のキーボード始め女性ヴォーカル(+語り)、ヴァイオリン、フルート、サックス等といった多才なサポート陣の好演が、彼等の紡ぐ物語に奥行きと深みを与えており、本家イタリアン・ヘヴィプログレッシヴに負けず劣らずなダイナミズムと闇のエナジーが聴く者の脳裏に響鳴すること必至であろう。
          

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