幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 CIRKUS

Posted by Zen on   0 

 2021年12月、昨年と同様コロナ禍に翻弄された激動の一年がもうじき終わりを迎えようとしています。
 日に々々少しずつ来たるべき新たな時代に寄せる期待と不安が入り混じった、いつの間にかそんな心の声すら感じられる様になった今日この頃。
 今年最後にお送りする「一生逸品」は、そんな2021年のフィナーレを飾るに相応しい、名実共に大多数もの秘蔵且つ至宝級の名作名盤が息づいている栄光のブリティッシュ(プログレッシヴ)・アンダーグラウンドから、昨年末に取り挙げたカーンと並んで、いよいよ満を持しての真打登場の如く名実共に栄光と伝説との背中合わせで語り草にもなっていた、真の英国プログレッシヴ・スピリッツたるものを頑なに守り続けつつ、21世紀の今日に至るまで名匠たる所以と風格こそ彼等自身の身上(信条)とライフワークそのものであると言っても過言では無い、伝説級の伝説“サーカス”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

CIRKUS/One(1973)
  1.You Are        
  2.Seasons        
  3.April '73     
  4.Song For Tavish          
  5.A Prayer
  6.Brotherly Love 
  7.Those Were The Days
  8.Jenny
  9.Title Track 
   a) Breach
   b) Ad Infinitum 
  
  Paul Robson:Vo
  Dog:Electric & Acoustic Guitar
  Derek Miller:Organ, Piano, Mellotron
  John Taylor:Bass
  Stu McDade:Drums, Percussion, Vo

 音楽あるある話みたいで恐縮だが、古今東西音楽のジャンルを問わず…バンドのネーミングにサーカスが用いられているのは、かなりというか結構見受けられるみたいで、ことプログレッシヴ・ロックに限定すると、クリムゾンやイエス影響下のスイス孤高のテクニカル集団でもあるサーカスを皮切りに、かのメル・コリンズを擁していた英国のサーカス、果てはイタリアの70年代アシッド・サイケが売りだったサーカス2000、我が日本のプログレッシヴ・ジャズロックのレジェンドスペース・サーカスを忘れてはならないだろうし、ごく最近ではカナダからIQ影響下のサーカスなるネオ・プログレッシヴバンドが精力的に活動しており、兎にも角にも或いは猫も杓子もというのか、サーカス団独特の華やかな曲芸と魔術が織り成す夢舞台の世界と、プログレッシヴ・ロックの持つ眩惑の音世界とは背中合わせの如く相通ずる共通点と関係性が切っても切れないが故に、(決して安易な発想という訳ではないが…) バンドネーミングにサーカスがかなり引用されるのは最早いた仕方あるまいといったところだろうか(余談ながらもクリムゾンの3rd『リザード』冒頭1曲目も“サーカス~カメレオンの参上”だったなぁ)。

 些か微妙なこじつけみたいな書き出しで始まったが、今回本篇の主人公でもあるサーカス(ちなみに今更言うまでも無い事だが彼等のバンドネーミングのスペルはCIRCUSではなく、CがKに変ったCIRKUSである事を改めて補足させて頂きたい)とて御多聞に漏れず、栄光の70年代ブリティッシュ・プログレッシヴの一時代にその類稀なる秀逸な音楽性に培われたであろう唯一の音楽作品で軌跡と名前を遺した、まさしく80年代前後にフールズメイトやマーキームーン誌で発掘されるまでの間は、極端な話…ゴリゴリ筋金入りのブリティッシュ・ロックマニアないし愛好家でしかその存在が知られてなかった、名実共に幻や伝説級に匹敵する高額プレミア扱いで中古廃盤プログレッシヴ専門店ではクレシダの『Asylum』、スプリング、T2、チューダーロッジ等と並ぶ壁掛けお宝アイテムのレコードとして珍重され崇められていたのは言うには及ぶまい。
 だからと言って決して物珍しさだけで終止する事無く、90年代にバンドが復活再結成を遂げ21世紀の今日に至るまで地道且つコンスタンスに作品をリリースされている事を踏まえれば、我々の下世話にも似た予想とは裏腹に、1973年の唯一作リリースから一時的な解散を境に現地イギリスでは彼等サーカスに対し一種カルト的な根強い人気が存続していたのは驚嘆に値する事象であろう。

 CIRKUS…通称“Kのサーカス”のバンド結成までに至る詳しい経緯は、現時点で判明してる限り70年代初頭イギリスの地方都市サンダーランドを拠点にバンドのキーボーダーでもあるDerek Millerを中心に、Dogというニックネームのギタリスト、ヴォーカリストにPaul Robson、ベースJohn Taylor、そしてドラマー兼バンドの全曲を手掛けるメインライターをも兼ねるStu McDadeの布陣で結成されたもので、サーカス結成以前からDerek自身クリムゾンやイエス影響下のプログレッシヴ系バンドを何度か組んでは解散するといった繰り返しで文字通りの試行錯誤の連続だったとのこと。
 1972年を境に前述のメンバーと邂逅し意気投合した末、度重なるギグやロック・フェスティヴァルへの出演という経験値を重ねデヴューアルバムのリリースという大きな目標を掲げ曲作りとリハーサルの為に月日を費やし、翌1973年地元サンダーランドのSound Associates/Emison&Air Studiosにてストリング・アンサンブルをバックに配し、アレンジャー兼コンダクタにTony Hymasを迎えて、漸く念願のデヴューアルバム『One』をリリース。
 僅か1000枚のみの自主製作という限定プレス枚数にも拘らず、レコードショップ並びライヴ会場で飛ぶ様に売れ僅か一年にも満たない内に概ね完売してしまった事は彼等の評価を更に高めたのは言うまでもあるまい。
 何よりも自主製作レコードによく有りがちな音質の悪さや録音技術の甘さが微塵にも感じられず、演奏技量から音楽性、果ては楽曲の構成力に至るまで、当時イギリスのヴァーティゴ始めネオン、ドーンといった幾数多ものレコード会社のレベルにも引けを取らないまさしく第一級レベルのクオリティーに、リスナーや音楽プレスやラジオ局関係者は言葉を失うばかりであった。
 穿った見方かもしれないが、自主製作という手段と1000枚限定プレスに彼等が敢えて踏み切った背景には、当然大手レコード会社との契約面含め製作費やら予算云々も関連しているのだろうが、おそらく胡散臭い様な名刺を差し出す音楽関係者を名乗る輩やメディアなんぞに一切目もくれず信用すらしていなかったという、彼等なりに臍曲がり的というか猜疑心みたいなものがあったのかもしれない。
 まあ、上手い話には必ず裏があるといった彼等なりの賢さに加えて、セールス不振で挙句の果てにアホみたいな負債なんぞ抱えたくなかったという安全策も考えていたのかもしれないが (苦笑)。 
 制約や規制が皆無な自主製作という利便性はジャケットアートにも反映されており、あたかも旧約聖書の一節さながらの人類の誕生をも想起させる…母なる地球という母体から赤ん坊の如き臍の緒が付いた全裸の男が産まれ出るという一種卑猥で猥褻に近い意匠には誰しもが面喰う事だろう。
 1986年にUK EDISONの企画によるユーロロック・コレクションの第一弾としてサーカスの『One』がLP盤でリイシューされた際には全裸男の局部にややボカシがかかっていたものの、結局数年後のCD化に際しては違和感があるとの理由でボカシ無しのプリントで元に戻ったというのが何とも笑える(苦笑)。
 21世紀の今日に至っては紙ジャケットCD並び再発アナログLP盤でも完全ボカシ無しのオリジナル仕様でちゃんと流通している事も一応付け加えておきたい…。
          
 軽快なハモンドとギターが間髪入れずに切り込んで来るオープニング1曲目から、彼等のブリティッシュ・ヴィンテージでシンフォニックなチューンスタイルが窺い知れよう。
 時代性を反映したサウンドながらも、70年代初頭で感じられたある種古色蒼然で野暮ったい一連のブリティッシュ・サウンドから一歩抜きん出た、クラシカルなエッセンスを纏ったハードなロックンロールは次世代への橋渡しに相応しい爽快さと疾走感が曲の端々から滲み出ており、ストリング・アンサンブルとの融合も絶妙の域に達している。
 “You are, You are, You are, You are~♪”とリフレインされるヴォーカルフレーズが何とも小気味良いのも特筆すべきであろう。                 
 荘厳なるオルガンの調べに導かれ印象的にはオーソドックスなブリティッシュ・サウンドスタイルながらも、メロトロンとストリング・セクションとも区別が付かない位のオーケストレイションとロックバラードとの調和が季節感の儚さを切々と謳い上げる2曲目も素晴らしく、後半部のドラマティックな展開には何度も耳にする度に心の琴線に染み渡る。
 タイトル通り73年の春に書かれたと思われる3曲目にあっては、デヴュー期から3rd期のイエス影響下を窺わせるメロディーラインが実に微笑ましくて、寄せては返す波の如くヘヴィ・ロックとオーケストレイションとの楽曲の応酬が聴く者の胸を熱くし感銘の余韻に誘ってくれる事だろう。
 アコギのイントロダクションに導かれるフォークロック調の4曲目も聴き処満載で、ストリング・アンサンブルとメロトロンとのシンフォニーのせめぎ合いに加えて、牧歌的でリリシズム溢れるアコースティック・チューンとヴォーカルラインが由緒正しき英国のロマンティシズムを紡いでいる。
 2曲目に次いでチャーチ風なオルガンが英国ファンタジーを色鮮やかに醸し出している5曲目(アナログLP原盤ではA面ラストに当たる)は、幾分ムーディーズの『Days Of Future Passed』或いは『In Search Of The Lost Chord』の頃の作風にやや近いところがあるが、肝心要の歌詞にあっては(自主製作だからこそ出来たのだろうが)、ゲイや同性愛者を扱った過激というか物議を呼びそうな内容との事で、そういった側面からも彼等なりの反骨精神とでもいうのかニヒリズムすらも禁じ得ない。
 スペイシーなメロトロンのイントロダクションに導かれハードにシンフォニックにドライビングする6曲目のカッコ良さとソウルフルなヴォイスも然る事ながら、個人的には収録されている全曲中一番好きな感傷的なギターと歌メロがリフレインされる7曲目のややサイケデリックがかった作風が、サーカスというバンドの面目躍如っぷりを如実に表しており、この曲だけでも好感触に満ち溢れてならない。                 
 バンドメンバーの誰かの恋人でも謳ったのだろうか、女性名が冠された8曲目の淡いラヴソングとリリカルな美しいメロディー・ライン、そして終盤にかけてのコーラスパートが印象的で、8曲目のフェードアウトの流れを受けて、いよいよラスト9曲目2つのパートに分かれた大曲に至ってはバンドとオーケストレイションとが渾然一体となってプログレッシヴ色がより一層強まった、押しと引き、剛と柔、動と静、リリシズムとアグレッシヴ…といった様々な要素と概念とが見事にコンバインした、まさしくサーカス晴れのデヴュー作という大団円を飾るに相応しい秀逸なナンバーで締め括られる。
 
 自主製作によるセルフリリースながらもギグと併せて売れ行き上々という好評価を得て、さあいよいよこれからという矢先、1975年一身上の都合によりヴォーカリストのPaul Robsonがバンドを離れる事となり、後任のヴォーカリストにサックスも兼ねるAlan Roadhouseが加入し、翌1976年にはマイナーレーベルによるシングル“Melissa”をリリースするも、『One』の頃の名残こそ若干留めてはいるもののプログレッシヴな作風は完全に後退しセールス的にも伸び悩むと暗澹たる結果を呈してしまう。
 翌1977年にはロック・ミュージカルの演劇用ユニットFuture Shockという変名で、ユニット名と同タイトルの舞台でツアーを敢行し、サントラ盤もリリースするもそう大した話題にも上らず(ちなみにFuture Shockではバンドのメンバーが作詞作曲に一切携わっていない)、結局78年イギリス国内のロックバンドの寄せ集め的オムニバスアルバムにて“I'm On Fire”一曲のみを提供した後、バンド自体が低迷と限界に瀕していた事を機に1980年サーカスは敢え無くその活動に幕を下ろす事となる。
          
 だが…気まぐれな運命の神様がそう簡単にバンドをお見捨てになる訳が無く、その後サーカス周辺を巡って80年代半ばから90年代にかけて大きな転機を迎える事となる。
 1986年の日本のUK.EDISONからのLP盤再発を機に評価と関心が再び高まり始め、それに乗ずるかの如く当時オリジナルアナログ原盤が高額プレミアムで売買されているといった話が、遠い海を越えてイギリス現地のDerek Millerの耳に入るのは到底時間の問題であって、真偽の程は定かでは無いが“ああ、そうなんだ…。じゃあ活動再開するしかないよな”といったDerekの気持ちに火が付いて、長期に亘る年数を費やして…1994年Derek Miller主導によるサーカス名義の実に21年ぶりとなる第2作目『Two - The Global Cut』なるタイトルでリリースと相成る。
 決してポップ化に転じたという訳ではないものの、時代相応のプログレッシヴな曲想と語法を身に付けたサウンドは多くの聴衆から支持され、2ndの好評価が足掛かりとなってイギリス国内では絶版廃盤扱いになっていた『One』が新たにリマスター(+リニューアル)化された『One Plus』としてめでたくリイシューへと繋がった次第である。
 2nd並び『One Plus』での収益を元手に4年後の1998年には『III - Pantomyme』をリリースし、この本作品にてかつてのオリジナルメンバーでドラマーのStu McDadeを呼び戻し、多種多才なるゲストプレイヤーを迎えサーカスは実質上再びブリティッシュ・プログレッシヴのフィールドへと返り咲く事となる。
 地道に且つ自らの活動方針と製作ペースで牛歩的に歩みながらも、決してコマーシャリズムには染まらないといった頑なな反骨精神で、暫しの間再び沈黙を守り続ける事となるが、21世紀に入り昨年の2017年漸く沈黙を破って19年ぶりとなる4作目『IV - The Blue Star』を発表。
 この4作目では遂にオリジナル・ヴォーカリストのPaul Robsonが合流し、3rd同様に多くのゲストを迎えまさしく原点回帰を目指した意欲的な作風へと戻りつつあるのが実に喜ばしい限りでもある。
        
 以降は地道に自らのマイペースな姿勢を保持しながらも、コンスタンスに作品をリリースし、2020年には朽ち果て捨てられた人形のフォトグラフが何とも意味深で些か不穏で不気味さすらを醸し出している通算5枚目の『Cirkus V: Trapeze』、そして今年2021年には日本の (多分京都辺りだろうか) 稲荷神社の林立した鳥居のフォトグラフが印象的な『Page 12 on the Right』を発表し、昨今のネオ・プログレッシヴムーヴメント云々とは一線を画した独自の創作路線と、頑ななまでの音楽スタイルと姿勢に、改めてブリティッシュ・ロックの本懐というか高潔なプライドの表れに只々感服する思いですらある…。
    

 ブリティッシュ・プログレッシヴというスターダムへの夢を目指し見つめながらも、メジャーな流通やら商業路線に異を唱え反旗を翻し自らの進むべき道を模索しながら、時に疑心暗鬼となり時に試行錯誤と紆余曲折を繰り返し時代と世紀を超えて今日まで生き長らえてきた彼等サーカスの、文字通り旅芸人の彷徨すら想起させる無限(夢幻)の旅路はまだまだ果てしなく続く事だろう…。
 サーカス『One』は今もなおCD(プラケース或いは紙ジャケット含め)、そして昨今見直されているアナログLP盤で何度もリイシュー化され、その度毎に評価を高めつつあるが、彼等は決して伝説的だとか幻の存在ではなく現代をリアルに生きている唯一無比の終わり無き孤高の楽師である事を忘れてはなるまい…。

スポンサーサイト



Monthly Prog Notes -December-

Posted by Zen on   0 

 コロナ禍に翻弄された激動の2021年も残すところあと数日となりました…。

 今年の『幻想神秘音楽館』も最後の大イベントでもある“Progressive Award 2021”の発表を控え、いよいよ大詰めを迎えるところですが、その前に今年最後の「Monthly Prog Notes」はその前哨戦という意味合いに相応しく、何とも嬉しい偶然とでも言うべきか今回は件のProgressive Award 2021に堂々とノミネートされるであろう…日本のプログレッシヴから3バンドを取り挙げる事となりました。
 昨年センセーショナルにして堂々たるデヴューを飾った、かの伝説のプロビデンスDNAを脈々と継承したブレーン塚田円氏を筆頭とした“那由他計画”が、デヴューから僅か一年という短期間にも拘らず、多くの聴衆とバンド支援者の期待に応えるべくリリースした2nd新譜は、意味深なアートワークとタイトルで前デヴュー作の延長線上ながらも、更なる新機軸を打ち出したバンドの試金石とも取れる、まさしくバンドの現在進行形を謳った秀逸な一枚に仕上がっています。
 そんな那由他計画の躍進に追随するかの如く、関東勢からは超絶にして怒涛の音世界を構築する新進気鋭の2バンドが堂々たるデヴューを飾り、日本のプログレッシヴ・ロック史に新たなる一頁を刻み付ける事となりました。
 早くからコアなプログレッシヴファンの間から「北池袋のアネクドテン」と称され認知されてきた期待の新星“曇ヶ原”、片やもう一方の雄として同時期にデヴューを飾る事となった“イヴラーク”は、まさしく長年私達が待ち望んでいたであろう、名実共にジャパニーズ・プログレッシヴの極みにして理想形へと辿り着いた秀逸なる楽師達と言っても過言ではありません。
 前者は70年代初期の日本のロックとフォークが持っていた古き良き佇まいに、クリムゾンやEL&Pが持っていた重厚で尚且つ技巧的、柔と剛、荒々しさと静寂さが同居した、昭和の懐かしさの中に令和の新しい息吹が感じられる作風が持ち味で、後者は御大クリムゾン始めイエス、マグマ、アレア…等から多大なる影響を受けてきたヘヴィネスとリリシズムとのせめぎ合いを全面的に打ち出した自らのスタイルとオリジナリティーを確立させた、兎にも角にも21世紀ジャパニーズ・プログレッシヴの名匠に相応しい実力とプライドを兼ね備えた両バンドの登場に驚愕し度肝を抜かす事必至でしょう。
 凍てつく様な冬の寒空の下、過ぎ去りし2021年に訣別の思いを馳せつつ…改めて日本人の日本人による、世界に誇れるメイド・イン・ジャパン (レーベル名ではなく) の純然たるプログレッシヴ・ロックに出会えた事に感謝の念を抱きつつ、来たるべき新たな年への飛躍に私も貴方(貴女)も大いに期待と希望を託そうではありませんか!

1.NAYUTAKEIKAKU (那由他計画)
  /Sazaki Orite Hikari Afure(さざきおりてひかりあふれ)
  (from JAPAN)
  
 1.Plastic Night/2.Star To Blaster/
 3.さざきおりてひかりあふれ

 昨年秋にデヴューリリースされた『つみびとの記憶』でセンセーショナルな話題を呼び、かつてのプロビデンス信者のみならず幾数多ものジャパニーズ・プログレッシヴファンや、世界各国のプログレッシヴ愛好家諸氏から数々の賞賛の言葉が寄せられた那由他計画が、僅か一年にも満たない短期間のスパンで完成させ、(満を持してまでとは言い難いものの) 意味深なアートワークとタイトルのイメージに寸分違わぬ文字通り待望の新譜2ndを引っ提げて再び私達の前に帰って来た。
 数ヶ月前バンドのリーダーにしてブレーンでもある塚田円氏と電話で話す機会があったのだが、今作は前デヴュー作の延長線上を匂わせながらも、塚田氏自身がかねがね演ってみたかった80年代ロック&ポップスへのオマージュとリスペクトが反映された意欲作に仕上がっており、1曲目の作詞をヴォーカリストの月本美香、2曲目の作詞をもう一人のヴォーカリスト世良純子が手掛け、個々それぞれに独特の世界観を醸し出しており、80年代ポップス風 (アニソンっぽくも聴こえるがそこは御愛嬌) の1曲目中の台詞による寸劇に微笑ましさが感じられたり、エマーソンへの憧憬が隠し味的な生粋の正統派シンフォニックが存分に楽しめる2曲目、アルバムタイトルにして塚田氏が手掛けるテクニカルで圧倒的で重厚な音の壁による長尺の大作3曲目にあっては、ヴィンテージとモダニズムとの融合と綴れ織りに只々感服する思いで、トータル収録37分間が一時間にも感じられた充実感溢れる至福のひと時が味わえる傑作に仕上がっている。
 浪漫座の中嶋座長と同様、塚田氏の女性ヴォーカリストを選ぶ目利きの良さには頭の下がる思いですらありプロビデンス時代の久保田始め菅原も然ることながら、今作に於ける月本と世良という各々のキャラクターの差異やヴォーカルパートの配し方の上手さに加え、バックで支える塚田氏の鍵盤群にギター、リズム隊の強固で信頼感抜群のチームワークが生み出した結晶と賜物であると言っても異論はあるまい。
 余談ながらもシークレットトラック4曲目(?!)の余韻というか遊びの部分に、何故だかZEPの『フィジカル・グラフィティ」を連想したのは私だけだろうか…。
          

Facebook 那由他計画
https://www.facebook.com/NAYUTAKEIKAKU

2.KUMORIGAHARA (曇ヶ原)
  /Kumorigahara(曇ヶ原)
  (from JAPAN)
  
 1.県道334号/2.3472-1/3.中野通り/
 4.砂上の夜明け/5.雪虫/6.トリプタン/
 7.うさぎの涙/8.河津桜

 ベーシスト兼ヴォーカリストでリーダー格の石垣翔大のソロ弾き語りからスタートし、2013年正式にバンドスタイルへと移行して以来、コアなプログレッシヴファンからの口コミでいつしか「北池袋のアネクドテン」と称され、密かに話題と評判を呼んでいた曇ヶ原の、満を持して待望のデヴュー作が遂にお目見えとなった。
 一見してジャケットの意匠から…良い意味で昭和40年代半ばへの憧憬とオマージュ、レトロな懐古趣味と取るか、或いは悪い意味で時代錯誤だとか時代逆行と思われる方と賛否両論を唱える向きが多々おられる事だろう(私個人的には、押井守監督作の『機動警察パトレイバー』の劇場版第一作目のシチュエーションを想起したが)。
 だが…たとえ昭和感が滲み出ているフォトグラフなジャケットアートがどう捉えられようとも、彼等の場合はそれが正しくて良いのである。
 オープニング初っ端からクリムゾン影響下の北欧系バンドを想起させ、ハモンドにメロトロンをこれでもかというくらいに多用した曲構成と世界観は、クリムゾン始めEL&P、サバス、ユーライア・ヒープ、果ては70年代ブリティッシュ・オルガンプログレッシヴに、日本のロック黎明期のジャックス、エイプリルフール、フードブレイン、ピッグ、フラワー・トラヴェリン・バンド、はっぴいえんど、四人囃子、あんぜんバンドといった強者、果ては森田童子、友川かずきといったフォーク界の異才が脳内に木霊しオーヴァーラップしてくる。
 ごくありふれた日常生活の中で刹那なまでに繰り返される葛藤と焦燥感、悩み苦しみ、喜びと悲しみが、聴く者の心を揺さぶり魂をも掻き毟る…そう、彼等の音には安っぽいファンタジーや文学的なリリシズムこそ皆無であるが、懸命なまでの“生”と“命”が投影された現在(いま)という時間軸を歩む私達の姿そのものであることを忘れてはなるまい。
 拝金商業主義に堕ちて安っぽい子供騙しのコンビニ感覚で且つ軽薄短小なJポップへと成り下がった日本のロックが失ってしまったしまったものが、ここにはぎっしりと濃密に凝縮されている。
 この年齢でこんな凄まじい音楽に巡り会ってしまった私自身、改めて日本人で本当に良かったと思えてならない。
          

Facebook 曇ヶ原
https://www.facebook.com/kumorigahara

3.EVRAAKEvraak
  (from JAPAN)
  
 1.Saethi/2.Stigma/3.Asylum Piece/
 4.Into The New World/5.Cure/6.Sacrifice

 一時期の4ADレーベル…コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスをも彷彿とさせる、そんな耽美的で暗く深く沈み込む様なモノクロトーン一色に染まった意匠に包まれ、かの高円寺百景にも迫る鮮烈にして怒涛の音のうねりさながらのヘヴィ・プログレッシヴを構築するイヴラークのフルレングスなデヴューアルバムが神の啓示の如く遂に21世紀のジャパニーズシーンに向けて降臨と相成った。
 テクニカルで攻撃的なギターにヘヴィネスなリズム隊、アグレッシヴなサックス、ミスティックで且つ渦巻くカオスを醸し出すキーボード、そして要注目はおそらくジャパニーズ・プログレッシヴ次世代の新たな担い手となるであろう女性ヴォーカリスト瀬尾マリナの歌唱法と力量には目を瞠るものがあり、今後の彼女の動向を大いに注視せねばなるまい。
 御大クリムゾンからの多大なる影響も然ることながら、VDGGにイエスやマグマ、ザオ、アレア、果てはアルティ・エ・メスティエリ…etc、etc、往年期のプログレッシヴ・フィールドからの様々な要素とスキルを吸収した、言葉ではとても言い尽くし難いくらいに超弩級のスケールに加えて、型に嵌まる事はおろかどんなカラーにも染まる事の無い、その突出した非凡な才能とエキセントリックなサウンドスタイルが渾然一体と化した、時にヘヴィで時にリリカル、そしてアヴァンギャルドに転じたかと思いきや、ムーディーでジャズィーな表情をも覗かせるしたたかさと豪胆なアプローチといった、結成してからまだ4年であるにも拘らず、そのあまりに新人離れしたストイックで孤高なる風格と真摯な姿勢に筆舌し難い(良い意味で)末恐ろしさすら感じてならない。
 我が国のシーンにも漸くこの手の硬派で秀逸なまでの個性を打ち出せるバンドが出てきた事を心から素直に祝福したいと思う一方で、今までのこの手のバンドに多々有りがちだった…どこかしらおちゃらけた歌詞やら歌い方だったり、変なアイドルかぶれ或いはアニメ声の声優もどきな女性ヴォーカルを誤魔化しで起用しては違った意味で話題を巻き起こしていたものだが、彼等の創作する音楽世界の前ではそんな愚考な類なんて全く無意味で霞んでしまい数マイル先へと吹き飛んでしまう事必至であろう。
 兎にも角にも彼等イヴラークの仄暗い漆黒の闇の旋律を、どうか真正面から堂々と受けて立つ気持ちで尚且つ齧り聴き厳禁で御賞味頂けたら幸いである。
          

Facebook Evraak
https://www.facebook.com/confusionwillbemy

Progressive Award 2021

Posted by Zen on   0 

プログレッシヴ・アワード2021扉

Prog Notes Special "Progressive Award 2021"
 2021年12月31日、全世界規模でコロナ禍に見舞われてから2年目の大晦日を迎える事となりましたが、今年もまた『幻想神秘音楽館』の一年間を締め括る総決算という一大イヴェントという意味合いで、今年の10選特別賞、そして最優秀新人賞という栄誉と功労を讃えるProgressive Award 2021」をお届けいたします。
 ワクチン接種やそれに伴う規制緩和で、日に々々収束と明るい兆しが見られつつある一方、更なるウイルス変異株の蔓延で一喜一憂或いは一進一退が繰り返されつつある昨今、希望と失意との狭間でプログレッシヴに携わっている勇気ある世界中の楽師と匠達は、昨年同様…困難と災厄に立ち向かい不安や病魔に臆する事無く自らの道を模索し、楽曲を紡ぎ謳い奏で世界を構築し素晴らしい作品を世に送り出し聴衆やリスナーに希望を与えてくれました。
 ソーシャルディスタンスを守りつつ、リモートオンラインの形式含め僅かながらも徐々にライヴを再開し、困難な時代の現在(いま)だからこそ、自らの健在ぶりをアピールしているアーティストも増えつつあります。
 まだまだコロナが収束するまで膨大な時間を要し、様々な難問と大きな壁を乗り越えねばなりませんが、プログレッシヴの創り手側そして聴き手側も、希望と未来を決して諦めず一歩ずつ前向きに収束という光明を信じていかねばと、私達もまた新たな気持ちで新しい年を迎えねばと思います。
 改めて今年もまた素晴らしい作品を世に送り出してくれた事に、プログレッシヴに携わっている者として改めて心から感謝し敬意を表したいと思います!

勇気ある貴方達の真心と尽力に、心からありがとうの言葉を贈ります。

2021年プログレッシヴ・ロック10選
 Top 10 Progressive Rocks 2021

第1位 TAÏ PHONG/Dragons Of The 7th Seas
第2位 TEXEL/Metropolitan
第3位 KIKU LATTE/小さな物語 ~Stories~
第4位 PROPORTIONS/After All These Years
第5位 CICCADAHarvest
第6位 FRAGILE/Beyond
第7位 MAR ASSOMBRADO/Geografias Estranhas
第8位 MONARCH TRAIL/Wither Down
第9位 CELESTE/Il Principe Del Regno Perduto
第10位  NAYUTAKEIKAKU(那由他計画)
     Sazaki Orite Hikari Afure(さざきおりてひかりあふれ)

           

  

  

  

次点 - Runner-up
MALADY/Ainavihantaa
THE ANCESTRY PROGRAM/Mysticeti Ambassadors Part I
ISOBAR/
FUFLUNS/Refusés
ARTNAT/The Mirror Effect

  

       

特別賞 - Special award
YES/The Quest
ABACUS/Highland Warrior
AIR CRAFT/Divergent Path

  

2021年最優秀新人賞 - 2021 Best Newcomer Award
GRUPPO AUTONOMO SUONATORI/Omnia Sunt Communia
HORA PRIMA/L'uomo Delle Genti
PLENILUNIO/Il Gioco Imperfetto
PERFECT STORM/No Air
THE FAR CRY/If Only…
ST.CLAIRE/Claire's Fantasy
EVRAAK/Evraak
KUMORIGAHARA(曇ヶ原)/Kumorigahara(曇ヶ原)

  

       

  

総括
 私事ながら、今年の初夏から初秋にかけて持病でもある狭心症の再発で一時期ブログの執筆を2ヶ月間控え、実質上というか誠に勝手ながら数年振りの休載期間を頂いてしまった次第であります…。
 闘病生活も然ることながら本職を4ヶ月以上も療養で休職し、それに伴い正直『幻想神秘音楽館』を継続出来るのだろうかと不安と思案に暮れたことも多々ありました。
 それでも何とかお蔭様でカテーテル治療の末完治することが出来、職場にも復帰出来て頑張った甲斐あってかブログも再開継続し、尚且つ今こうして年の瀬にプログレッシヴ・アワードを綴る事は奇跡以外の何物でもないと実感することしきりです。
 私だけの頑張りと尽力のみならず、これも単に応援して下さる皆様があってこその『幻想神秘音楽館』であると言っても過言ではありません。
 全世界規模で今もなおコロナ禍に苛まれている実情ですが、前置きにも綴った通り…今のこういう世の中だからこそ、プログレッシヴに携わる多くの楽師と匠達が夢と希望や理想を希求し、パンデミックという見えない敵に抗うかの如く、音楽で人と世界を勇気付け元気にしたいという気概と決意が感じられた一年だったと思えてなりません。
 心疾患で闘病中だった私もどれだけ勇気を貰ったことか、改めて御礼と感謝の念に堪えません…。
 個人的な私見で恐縮ですが、世界各国のプログレッシヴ・アーティスト達の素晴らしい活況の著しさも然ることながら、今年は我が国日本のプログレッシヴ勢の大健闘と活躍には、目を瞠るものがあり誇らしさと頼もしさを感じた、そんな激動の2021年でした。
 毎度のことながらも…来たるべき新たな2022年は、今度こそ本当に良い年にしなければとならないと、気持ちを更に引き締めて取り組み臨んでいきたい所存です。
 本年も『幻想神秘音楽館』を御愛顧・御支援頂き誠に有り難うございました。
 2022年も引き続きどうか宜しくお願い申し上げます。
 皆様どうか良いお年をお迎え下さい。

該当の記事は見つかりませんでした。