一生逸品 THE FOUNDATION
風薫る5月も終盤に差し掛かる今週の「一生逸品」は、北欧スウェーデンより80年代初頭~中期にかけて唯一の作品を遺し時代相応の彩りとディジタリィーな趣を湛えた、北欧特有のバンドカラーながらも良い意味でワールドワイドな作風を兼ね備えた“ファウンデーション”を取り挙げてみたいと思います。
THE FOUNDATION/Departure(1984)
1.Walking Down The Avenue
2.Crossing Lines
3.Migration Time
4.D‐Day Dawn
a) Forces On The Way
b) The Last Of All Battles
5.Final Thoughts,Departure


Johan Belin:Key
Jerker Hardänge:G,Cello,Vo
Roger Hedin:B, Stick
Jan Ronnerstrom:Ds, Per,Vo
北欧のプログレッシヴ・シーンの全容が紹介・解明されたのは、凡そ70年代末期から80年代初頭ではないだろうか…。当時にあっては、西新宿の『新宿レコード』で“今度、北欧からこんな作品が入荷します”といった程度扱いながらも、スウェーデンからはサムラ(ツァムラ)・ママス・マンナ始めボ・ハンソン、ケブネカイゼ、シンフォニック系の草分けでもあったトレッティー・オワリガクリゲット、ディモルナス・ブロ、フィンランドからビッグネームのウィグワム、タサバラン・プレジデンティ、ノルウェーからはアント・マリー、ルーファス、デンマークのサベージ・ローズ…位が関の山ではなかっただろうか。
後にマーキーを経由に、カイパやダイス、イシルドゥルス・バーネといった多数の名作・秀作を輩出した存在を発掘するまでに至る次第であるが、これらバンド・アーティスト(グループ然りソロ活動も含めて)の貢献は後々にまで多大な影響を及ぼし、21世紀の今日まで多種多彩な個性を持った創作者・創造者を世に送り出しているのは言うに及ぶまい。
そんな中…先に挙げた70年代のカイパ、80年代~現在のイシルドゥルス・バーネとの間(狭間)に輩出され短命な活動期間ながらも、独創的なスタイルで秀逸な作品を遺したアーティストも決して忘れてはなるまい。
アンデルス・ヘルメルソン始めミスター・ブラウン、カルティヴェーター、ミルヴェイン、ミクラガルド、オパス・エスト…等、前後してフィンランドのタブラ・ラーサやノルウェーのケルス・ピンクが発掘されたのも丁度この頃であった。
それら発掘組に混じって、80年代に登場したニューフェイスとして鳴り物入りで華々しくデヴューを飾った、マイク・オールドフィールド系の正統な後継者トリビュートと共に我が国に入ってきたのが本編の主人公ファウンデーションである。

後年ムゼアからのリイシューCDに付されていた詳しいバイオグラフィーを参照すると、バンドは1980年スウェーデンの小都市ノルコピンにて結成されたとの事。時期的にも筆者自身の青春時代と前後するから、個人的にも70年代のダイスと並んで80年代産のワンオフ的北欧シンフォニックの中では一番思い入れが強い(悪しからず…)。
彼等自身影響を受けたアーティストに、スティーヴ・ライヒ、クラウス・シュルツェ、マイク・オールドフィールド、ヴァンゲリス、ジェネシスにゲイヴリエル、ポリス、EL&P、果てはストラヴィンスキーと多岐に渉る。
バンド・ネーミングの意は“出発”或いは“財団”と二つの説があるが、後年バイオグラフィを参照すると、かのSF作家アイザック・アシモフの小説“The Foundation”にインスパイアされたとの事。いずれにせよ80年代のスタイリッシュな感覚を取り入れた時代相応の音色を得意とするバンドであるが故、まあなかなか的を得た命名であると言っても過言ではあるまい。
使用している楽器…特にシンセ系にあっては、ミニモーグ始めモーグソース、ヤマハのCS80(ドン・エイリーも愛用の!)に当時リアルタイムの名器とも言われたDX7、ローランド・ジュピター6といずれも筆者にとっても非常に馴染み深いものばかりで、そういった点でも親近感を覚える要因であったのもまた然りである(忘れてはいけない、チャップマン・スティックも)。
クールでモダンなシンフォニックを得意とする作風の中にも、そこはやはり北欧特有な抒情性と冷たくも爽やかな清涼感、天空を突き抜ける様な疾走感が見事に兼ね備わっていて、一朝一夕の新人バンドらしからぬ熟練ぶりが存分に堪能出来る事であろう。
当時のポンプ・ロックを意識したかの様なフィーリングをまぶしながらも、カイパの1stにも相通ずる非凡なセンスをも感じる1曲目始め、果てしない地平線を疾走する様な感覚のシンセとギター、リズム隊の活躍が素晴らしい大作の2曲目、北欧という風土と佇まいが香るチェロの響きが美しくも渋い小曲の3曲目、クラシカルで壮麗なシンセとアコギに導かれ構築と破壊、平和と闘争をテーマにした音の緩急のバランス対比が絶妙な4曲目、LP原盤時代のB面ラストを飾る5曲目の大作にあってはマイク・オールドフィールドの作風と精神を継承しつつも、当時でいうニュー・エイジ・ミュージックやマインド・ミュージック、ヒーリングサウンドに近い趣が、只々儚く朧気ながらも美しいの一言に尽きる。
改めてキーボーダーのJohanとギタリストのJerkerの非凡な才能と音楽スキルに裏打ちされた素晴らしい仕事っぷりには感服する思いである。
アルバムリリース後、次回作の為に収録されたであろう2曲のボーナストラック“Red Roses (and my very best wishes)”と“Don't Wake Me Up”の出来も誠に素晴らしく、スイスのドラゴンフライの時と同様この2曲の為にCDを入手される事を躊躇なくお薦めしたい。

改めて返す々々も次回作の為にこれだけのクオリティーがあったにも拘らず、結局様々な諸事情で新譜が世に出る事無くバンドは自然消滅という道を歩む事となる…。
その後の各メンバーの動向にあっては現在でも音楽関係の仕事に携わっており、ドラマーのJanはバンド解体後、先に名前を挙げた同国のトリビュートと交流を深めつつも後年ドイツに渡り、そこを拠点に新たなKey奏者とサックス奏者と共にファンデーションをリスペクトしたクロスオーヴァーなバンドを立ち上げて音楽活動を継続中。
キーボーダーでサウンドメーカーでもあったJohanは解体してから3年間は音楽活動を完全停止するも、現在はストックホルムにて自身が運営する音楽事務所兼プロデュース業と併行して後進の育成に携わっている。
ギタリストのJerkerは同じくストックホルムのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックにて音楽教師として教壇に立ち、プライヴェートでもR&B系のバンドに参加したり自身のチェロ・リサイタルを催すなど多忙を極めているとの事。
残るベーシストのRogerは現在7人(!?)の子供の父親にしてストックホルムのスカラー・ミュージック・スクールにてコンテンポラリージャズ始めスウェーデンの伝承音楽を教える講師として多忙な毎日を送っている。
ファンデーションというバンドの物語は一応ここで幕を閉じるが、彼等4人の夢と物語はまだ終わってはいない。
それはあたかも唯一の作品に描かれた見果てぬ地平線へと目指す旅行者の如く…彼等もまた私と同様に終わりの無い旅路の途中なのかもしれない。
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