Monthly Prog Notes -June-
6月終盤の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
コロナウイルス禍で幕を開けたかの様な2020年も折り返しを迎え、少しづつ収束の兆しを窺わせる一方で、ウイルス蔓延第二波の懸念といった一喜一憂にも似た空気感すら否めない昨今です。
私が常々口にしている“今ここにある危機を前向きに乗り越えましょう!”という言葉を胸に、例え膨大なる時間がかかっても期待と希望を持って収束目指して一歩ずつ歩みを進めたらと願わんばかりです。
今月も音楽の力を借りて穏やかな安らぎのひと時に浸って頂けたら幸いです。
今回は21世紀プログレッシヴ・シーンに於いて異色な才気と音楽性に満ち溢れた、文字通り個性派揃いのラインナップでお届けします。
先ずイギリスからは、早々と日本に到着したばかりの強力なニューカマーにして、90年代から現在にかけてイエスのトリヴュートバンドとして活躍中でもある“フラジャイル”驚愕の記念すべきデヴュー作です。
読んで字の如しイエス(+ファミリー)影響下も然る事ながら、かのルネッサンスをも彷彿とさせるドラマティックなシンフォニーは、堂々たるブリティッシュの王道を地で行く会心の一枚ここにありと断言出来るでしょう。
久々のポーランドからは、21世紀シーンへの新風と未知なる気概を感じさせるマルチソロアーティストとして、昨今瞬く間に注目を集めていると言っても過言では無い“ロマン・オディオジェイ”の鮮烈なるデヴュー作がお目見えです。
ジェネシス始めラッシュといった御大からの強い影響を感じさせる幽玄で且つスペイシーなシンフォニックワールドは、近年のポーランド勢の中でも頭一つ別格に抜きん出たニューホープと言えるでしょう。
近年イタリア勢に負けず劣らず新世代の個性派ニューカマーを多数輩出しているドイツのシーンから、満を持して世に出る事となった期待の新星“ラバー・ティー”のデヴュー作も必聴必至です。
メロトロンやハモンド、サックスを多用しクリムゾンばりの70年代ヴィンテージ系プログレッシヴを継承し甦らせた、その威風堂々たる姿勢の中にもちょっとした遊び心さえ窺わせる、若手世代ながらも一点の曇りや迷いの無い自らの音を表明した好感溢れる一枚に仕上がってます。
梅雨空の鬱陶しさに加え夏の本格的な訪れを予感させる蒸し暑いさ中、暫しひと時一服の清涼剤の如く心穏やかで流麗なる交響詩の調べに身を委ねて下さい…。
1.FRAGILE/Golden Fragments
(from U.K)


1.When Are Wars Won?/Surely All I Need/
2.Blessed By The Sun/Hey You And I And/3.Five Senses/
4.Heaven's Core/5.Open Space/
6.Time To Dream/Now We Are Sunlight/
7.Old Worlds And Kingdoms/Too Late In The Day
その極端なまでにロジャー・ディーンを意識したアートワークといい、バンドネーミングまでに至るイエス愛というかトリヴュートやリスペクト云々すらも超越した作風で、栄えある堂々のデヴューを飾ったフラジャイル。
90年代にイエスのトリヴュートバンドとして結成され、長年に亘りイギリス国内始めヨーロッパ諸国の様々なロックフェスティバルやイベントでイエスのナンバーをメインに絶大なる支持を得ていた彼等が、文字通り満を持してのオリジナルナンバーで固めた記念すべき第一歩であるが、ハウ影響下のギタリストの大活躍も然ることながら、スクワイア影響下のベーシストがベースペダルを踏みながらウェイクマンばりのキーボードも弾きこなすといったマルチプレイも素晴らしく、特筆すべきは本家イエスとも交流のあった歌姫Claire Hamillの参加で楽曲に彩りと華やかさを添えている点も見逃せない。
70年代イエス黄金期へのオマージュを湛えながらも、本家のアンダーソンとは異なったClaire女史の歌唱がややもすればルネッサンスに近いニュアンスをも彷彿とさせ、あくまで彼等フラジャイルというバンドの音として勝負している辺りに、イエストリヴュートという一種の足枷からの脱却が垣間見えると思えるのは些か考え過ぎであろうか(苦笑)。
いずれにせよビリー・シャーウッド率いるイエス別動隊のサーカとはまたひと味違った、ブリティッシュ・ロック伝承の王道でイエスの音世界を追随する彼等のスタートに心から拍手を贈りたい。
Facebook Fragile
2.ROMAN ODOJ/Fiasko
(from POLAND)


1.Titan/2.One Of You/3.Castaway/
4.Deux/5.Eurydice/6.Human Cartoon/
7.Annunciation/8.Fiasco/9.Quintans
如何にもといった感のスペイシーな趣を漂わせた意匠に包まれた、ポーランド発の新進気鋭にして瞬く間に脚光に浴びているロマン・オディオジェイなるギタリスト兼コンポーザーの彼自身名義によるソロプロジェクトのデヴュー作。
21世紀のポーランド・シンフォニック(メロディック・シンフォを含めて)の大半が、良くも悪くもお国柄を反映しているのか歴史的な背景を物語るかの如く、陰影を帯びた重々しく畳み掛けるドラマティックな作風で占められている印象が無きにしも非ずであるが、彼の本作品にあっては従来のポーランド・シンフォとは一線を画した、御大ジェネシス始めラッシュといった影響下を窺わせるメリハリの効いた力強くも繊細で、変拍子を存分に活かしたどことなく開放的でワールドワイドな視野をも見据えた、曲によってはクロスオーヴァーなエッセンスが加味された豪胆で意欲的な仕上がりを見せている。
現在のポーランド・シンフォニック人脈との繋がりによる…ヴォーカリスト、キーボード、リズム隊、サックス、チェロ、ヴァイオリンといった多種多彩(多才)なゲストサポートの協力を得て、同国のムーンライズないしミレニアムにも匹敵する、東欧色豊かなエモーショナルで幽玄なヴィジュアルと佇まいが徹頭徹尾脳裏を駆け巡ることだろう。
ポーランドのシーンもいよいよ次なるステップへと踏み出し始めた…そんな新たな予感すら抱かせる好作品、とくと御賞味あれ。
Facebook Roman Odoj
3.RUBBER TEA/Infusion
(from GERMANY)


1.On Misty Mountains/2.Downstream/
3.In Weeping Waters/4.The Traitor/
5.Plastic Scream/6.Storm Glass/
7.The Drought/8.American Dream
一見してかの故キース・ヘリング…或いはわたせせいぞうのイラストレーションをも想起させる、毒々しくもカラフルなサイケ調ポップアートなアートワークに彩られた21世紀ジャーマン・プログレッシヴ期待の有望株ラバー・ティーのデヴューアルバム。
2017年の結成から地道なギグを積み重ね多くのファン層や支持者を得て、3年越しのデヴューリリースまでに辿り着いた彼等の創作する音世界は、時代逆行を絵に描いた様な70年代初頭のアートロックにも相通ずるプログレッシヴ黎明期の初期~中期のクリムゾン、VDGG、果てはアフィニティーやフランスのサンドローズをも彷彿とさせるイディオムと作風で構築されており、紅一点の歌姫Vanessa Cross嬢のサックスとフルート始め、ハモンド、メロトロン、モーグ、フェンダーローズといったヴィンテージ鍵盤系、物憂げなアンニュイさを醸し出しているギター、ゲストサポートのブラスセクションが渾然一体となった、仄暗い翳りに加えて不思議な抒情性と余韻の残る快作(怪作)に仕上がっている。
ややもすれば「これは70年代の発掘物です」と仮にフェイクで紹介されたとしても、全く遜色や疑う余地の無い位に古色蒼然で原点回帰型に根付いた、同国のリキッド・オービットに次ぐ孤高で異彩を放つ存在感として、若い世代ながらも既に自らの所信を表明している点で大いに好感が持てる。
単なる王道復古なヴィンテージスタイルに終始する事無く、ピルツ時代のヘルダーリンないしエニワンズ・ドーターの『Piktors Verwandlungen』でも題材となったヘルマン・ヘッセの詩を取り挙げている点でも、流石国民性というか…ジャーマン・ロックの系譜たるロマンティシズムと奥深さに感慨深くなってしまう。
Facebook Rubber Tea
スポンサーサイト