一生逸品 INDIAN SUMMER
今週お送りする「一生逸品」は、70年代初頭のブリティッシュ・ロックシーンを語る上で、決して忘れてはならない珠玉の名作・名演・名盤の称号を誇るであろう、かのスプリングと共にネオン・レーベルという一枚看板を背負った真打ち的存在“インディアン・サマー”に、改めて焦点を当ててみたいと思います。
INDIAN SUMMER/Indian Summer(1971)
1.God Is The Dog
2.Emotions Of Man
3.Glimpse
4.Half Changed Again
5.Black Sunshine
6.From The Film Of The Same Name
7.Secrets Reflected
8.Another Tree Will Crow


Bob Jackson:Organ,Mellotron,Lead‐Vo
Colin Williams:G,Vo
Paul Hooper:Ds,Per,Vo
Malcolm Harker:B,Vibes,Vo
インディアン・サマーのバイオグラフィー等に関しては、私自身拙い英訳と解釈で申し訳ないが…判る範囲内で判明したところで、1969年イギリスの地方都市ミッドランドの地元大学生でもあった4人の若者Bob Jackson、Colin Williams、Paul Hooper、そしてMalcolm Harkerの4人で結成され、一介のローカル・バンドとして地道に活動を継続しつつも、後にブラック・サバスやベーカールーのマネージャーを務めるJim Simpsonに見出されデヴューの足掛かりを掴む事となった次第である。
以後、誰一人メンバーチェンジする事無く解散までこの4人の不動のラインナップを維持していく事となる訳であるが、話は戻って…彼等4人はバンド・デヴューの足掛かりを掴むと同時期に、先にヴァーティゴからデヴューを飾っていたブラック・サバスと共に前座というポジションながらも国内ツアーを行い、徐々に演奏力に磨きをかけ評判と知名度を得ていく事となる。
そして翌年ヴァーティゴ・レコードの元マネージャーだったOlave Wiperの推薦で、当時RCA傘下の新興レーベルNEON(ネオン)と契約し、ロンドンの伝統的スタジオ“トライデント”にてデヴュー作を録音。
明けて1971年唯一の作品ともなったデヴュー作『Indian Summer』そしてアルバム未収録のシングル“Walking On Water”(パープルの名曲のパクリみたいなタイトルだが…)をリリースする。
結成から2年目にして漸く記念すべき新たな第一歩を歩み始めたものの、思惑とは裏腹にデヴュー作は当時そこそこの評判と売り上げで足踏み状態が続き余り話題にも上らなかったのが正しい見解と思われるが、後々ブリティッシュ・ロック史に残る名作と称えられるだけの技量と実力を持ち合わせていただけに何とも皮肉なものである…。
数々のブリティッシュ・ロックの名作を手掛けた御大キーフがデザインの、暗闇に包まれたアメリカ西部とおぼしき荒野にサボテンとコヨーテという、何とも一風変わった…お世辞にも美麗なジャケットとは程遠いイマージュながらも、過去数々の音楽誌でも評された通り全曲とも徹頭徹尾…サウンドの要にしてメインでもあるハモンドオルガンが大々的にフィーチャリングされており(時折、要所々々で決めてくれるメロトロンの響きも好感触)、ブリティッシュ・ロックの王道と伝統が息づいた深みと響きが心ゆくまで堪能出来る、まさにオルガンロック好きなリスナーの為にあるような秀逸作と言っても申し分あるまい。
時にヘヴィに、時にブルーズィー且つジャズィーな趣を湛えながらも、どこか異国情緒とメランコリックさがそこはかとなく散りばめられてて、同時期のレア・バードとかアフィニティー、アード・バークといった、ひと口にオルガンがメインのブリティッシュ・ロックと同系統で括るには有り余る位の素養の広さがあるが故、何度耳にしても飽きが来ないのも作品としての身上と言えよう。
爆発的に盛り上がる事もなければ誰かが目立ったソロを演る事も極力皆無にして、バランスと調和の取れた部分でも成功しているというのも頷ける。
ヴォーカルとコーラス部分においては、個人的にはツェッペリンやユーライア・ヒープといった大御所の唱法がオーヴァーラップしていると言ったら言い過ぎであろうか(苦笑)。
しかし…これだけの素晴らしい聴き処があるにも拘らず、バンド自体は僅か数回のギグを経て(時にはギャラがゼロなんて事も !?)、結局自然消滅に近い形で表舞台から姿を消すという憂き目に遭うのだから、神の悪戯というか運命の女神なんて実に冷酷で皮肉な事をお与えになさるものである。
ちなみにマニアの方々には既に御馴染みではあるが、彼等唯一の作品は当時の日本ビクターから発売された日本盤も存在しており、邦題は『黒い太陽』となっており、旧LP原盤のB面1曲目“Black Sunshine”から取られたものと思われるが、カヴァー・ワークのイメージと合致しているのが何とも
はや…。
最後に…バンド解体後の各メンバーの動向を追ってみると、まずギタリストのColin Williamsは現在完全に音楽業界から退き、機械工学関係のエンジニアに携わっているとの事。
サウンドの要でもあったBob Jacksonは、同じくドラマーのPaul Hooperと共に生まれ故郷のミッドランドに拠点を移し、音楽関係の仕事やらスタジオの運営、音楽学校にて後進への指導に携わっている。
余談ではあるが、1976年にBobとPaulの両名は当時ユーライア・ヒープを抜けたデヴィッド・バイロンのソロアルバム『On The Rocks』にも参加しており、Bobに至っては1978年にTHE DODGERSなるバンドにも参加し『Love On The Rebound』を残している。
ちなみに最後のベーシストMalcolm Harkerは残念ながらその後の消息が全く分からず終いである。
彼等が唯一遺した作品は、決して思い出が詰まった青春の一頁だなんて安っぽい言い方では言い尽くせない位の、良くも悪くも様々な思惑やら衝突、苦い思い出だってあったに違いない。
それでもなお本作品が名作の称号を得て愛聴され続ける所以は何よりも“時代”と“思い”が強いからではなかろうか。

LPの原盤は未だに高額プレミアムが付いたままで、ブリティッシュ・ロックの名作を多数リイシューしているドイツのRepertoire Recordsから1993年にCD化されつつも、現在は絶版状態で入手困難であるのが何とも惜しまれる。
現在ではすっかり陰を潜めた感の古のブリティッシュ・ロックの息遣いなるものに憧憬を抱き愛して止まない方々なら、きっとこの熱い思い入れはお解り頂ける事であろう。
まあ…当然の事ながら人それぞれ好みの差異はあるかもしれないが。
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