夢幻の楽師達 -Chapter 03-
8月三週目…『幻想神秘音楽館』復刻リニューアルプランも着々と滞り無く進行し、漸く安定に入ったという実感が湧いてきました。
連日の猛酷暑のさ中、帰省の有無を問わず皆さんお盆休みを如何お過ごしでしょうか?
今週の「夢幻の楽師達」は、21世紀の現在に至るまで、ジェネシス、イエス等と並んで世界各国のプログレッシヴ・ロックを志す者達に多大なる影響を及ぼしたキング・クリムゾンという文字通り稀代の21st Century Schizoid Bandの許、大小なりの影響を受けたであろうクリムゾン王の子供達と言っても過言では無い位、世界各国に存在する幾数多ものクリムゾン・フォロワーバンド達。
そんなクリムゾン影響下のリスペクトバンドの中でも、70年代に於いてその傑出した比類なき完成度を誇るであろう…スイス・シーンきっての至高にして孤高の代表格“サーカス”を取り挙げてみました。
CIRCUS
(SWITZERLAND 1976~1980)


Fritz Hauser:Ds,Per
Marco Cerletti:B,B-Pedal,12Ac-G,Vo
Andreas Grieder:Flute,Alto-Sax,Vo,Per
Roland Frei:Vo,Ac-G,Tenor-Sax
サーカスの結成は1972年、スイス地方都市のハイスクールの学友だったFritz Hauser(Ds,Per)、Marco Cerletti(B)、Andreas Grieder(Flute)、Roland Frei(Vo,Ac-G,Sax)、そしてStephan Ammann(Key)の当初5人編成で結成された。
クリムゾン、イエスから多大な影響を受けつつも、各人の音楽的なバックボーン・嗜好は実に様々だったとの事。Fritzはジャズ、Marcoはロック、Andreasはクラシック、Rolandはフォーク、Stephanはポップス…etc、etcと音楽的嗜好の違いはあれど、5人の感性と創作意欲が見事に融合して、サーカスにとって唯一無比のサウンドが構築されたといっても何ら不思議ではない。
度重なるギグの積み重ねで、理由は定かではないがStephan Ammannが離脱し(80年の3rd『Fearless Tearless And Even Less』にて復帰するが、入れ替わるかの様にAndreasが脱退)、バンドは暫し4人編成での活動を余儀なくされる…。
1999年末に奇跡の単独初来日公演を果たしたドラマーにしてオリジナルメンバーでもあるFritz Hauserの言葉を借りれば「キーボードが抜けて、元々エレキギター不在だったあの頃が一番困難な時期だった」と回顧している。
残された4人は改めてバンドをもう一度根本から立て直すが為に度重なるミーティングとリハーサルに時間を費やし、ペダル・ベースの導入にパーカッションの増強、エフェクター効果による音色の変化・選定・実験といった試行錯誤を繰り返し、1976年自らのバンドネーミングを冠した待望のデヴュー作『Circus』をスイス国内のZYTレーベルよりリリースに至る次第である。

キーボードレス・スタイルながらもエフェクター系ギミックとディストーションを巧みに利かせたギター系の残響を効果的に配し、ヘヴィで鮮烈なパーカッション群とリズム隊にフルートの絡みつく様は、まだまだ粗削りな感こそ否めないものの、クリムゾンの亜流云々と揶揄する以前に独自のオリジナリティーが既に確立されつつあったバンド黎明期の快作でもあった。
彼等の創作意欲はとどまる事無く翌77年、あの同国のアイランドの『Pictures』と双璧を成すユーロ・ロック史上に残る名作『Movin'On』をリリース。本作品で彼等の名声は更に高まったばかりか、キーボードレスでもこれだけのへヴィ・シンフォニックが構築出来る事を自ら証明した、ひとつの可能性を示唆した軌跡そのものといっても差し支えはあるまい。
LPでもCDでも全編切れ目無く息つく暇をも与えない位、終始漆黒の闇夜を思わせる荒涼とした静寂の空気と張り詰めた緊張感が漲る演奏には、私自身が本作品と出会ってから今日に至るまで20数年以上もの間、決して色褪せる事無く現在でもその斬新で重々しい音世界に舌を巻く思いである。
ZYTから2枚の好作品をリリースした後、彼等4人は地元で旧知の9人のミュージシャン達(オリジナルメンバーのStephan Ammannを含めて)と共に競合し短い限定期間で“CIRCUS All STAR BAND”と名乗ってライヴ収録のみの為のギグを行う。
ZYTよりリリースされた彼等唯一のライヴ音源…残念ながら、本作品にあっては筆者も未聴でしかも未だにCD化がされてないといった有様で、一刻も早くCD化されることを望みたい限りである。
大所帯での限定期間活動を経て、彼らは暫し沈黙を守るが、80年代に入りサーカスというバンド自体も大きな変遷を迎える事となった。長年フルートを担当していたAndreasが脱退し、程無くしてオリジナル・メンバーであったStephan Ammannが漸く復帰。
重厚なキーボードを配した…まさしくクリムゾン+UKに追随するスタイルを踏襲した通算3作目にしてラスト・アルバムとなった『Fearless Tearless And Even Less』をリリースする。
本作品の紹介当初は如何にも時流に乗ったかの様なジャケット・ワークに、旧A面で顕著に見られたメロディーラインに“時流のポップがかった!”などと早計し誤解していた輩も少なくなかった。
…が逆に良くも悪くも「後期クリムゾンの亜流」といった印象から拭い切れないバンドにとって、事実上の本来のバンドカラーらしさ=オリジナリティーを漸く打ち出す事の出来た、まさに天晴れな快作・佳作にしてバンドの終焉に相応しい集大成とも言えよう。旧B面の大作“Manaslu”はあの2ndの大作“Movin'On”と並ぶ甲乙点け難い名曲である。

サーカス解散後、FritzとStephanはもう一人のキーボード奏者Stephan Griederを迎え、ツインKeyにドラムスのトリオ編成であの伝説とも言うべき“BLUE MOTION(ブルー・モーション)”を結成。
バンドネームと同タイトルの唯一の作品も80年代ユーロ・ロック史に残る名作にして名盤となり、初版の見開き原盤も今現在においても高額のプレミアムが付いている(初版原盤、見開き無しのシングル形態のセカンド・プレスLP、CDに至るまで、似ている箇所が多々あるもののジャケット・アートはかなり変遷を遂げている…)。
喜ばしい事に近年マーキー/ベル・アンティーク尽力の甲斐あって、オリジナル見開き紙ジャケット仕様のSHM-CD化されたので、ファンにとっては当時の初回リリースと同じ雰囲気と趣が御堪能出来るだろう。

その後のメンバーに関しては残念ながらその後の動向や所在等が殆ど不明ではあるものの、ドラマーのFritzそしてアコギとサックスのRolandが母国にて現在もなお創作活動に勤しんでいる事しか解っていない。
特にFritz自身ロックというフィールドから離れて、今や芸術家・現代音楽家としての地位をすっかり確立させたかの様だ(多数の良質な作品をリリースしている)。
改めて思うに…サーカスというバンド、そして尚且つFritz Hauserが辿った道程はユーロ・ロックという広大で夢幻の地平線に於いて、まさしく商業云々とは全く無縁な孤高の歩みそのものと言っても過言ではあるまい。
21世紀に入り来年で早20年となる次第だが、70年代のプログレッシヴ史を飾った往年の名バンドが次々と再結成される中、孤高の極みとも言うべきアイランド並び本編の主人公サーカスだけは、もう決して再結成される事は無いに等しいであろう。
暑い熱帯夜が冷めやらぬ今宵はサーカスの遺した3枚の作品を聴きながら、初秋を待ち侘びながら
クールでメランコリックな思いに馳せたい…そんな気分である。
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