一生逸品 ISLAND
8月三週目の「一生逸品」、今回は少数精鋭の感が強いスイスのプログレッシヴ・シーンのみならず70年代後期のユーロ・ロック史に登場した数ある名アーティストの中でも“唯一無比”なるカリスマ的異彩を放ち続け、21世紀の現在もなお絶対的な存在にして孤高の極みに君臨する“アイランド”に、今再び焦点を当ててみたいと思います。
ISLAND/Pictures(1977)
1.Introduction
2.Zero
3.Pictures
4.Herold And King(Dloreh)
5.Here And Now


Benjamin Jager:Vo,Per
Guge Jurg Meier:Ds,Gongs,Per
Peter Scherer:Key,Pedal-Bass,Crotales,Vo
Rene Fisch:Sax,Flute,Clarinet,Triangle,Vo
悪夢の饗宴或いは暗黒の迷宮をも思わせる、ダークな旋律(戦慄)と才気に満ち溢れたミスティックな雰囲気漂う高度な演奏は、同じくスイス出身の鬼才(奇才)H.R.ギーガー描く不気味なバイオ・メカニカルなジャケット・アートとの相乗効果も手伝って、まるで一糸乱れる事無く機械的に構築された…アヴァンギャルド、エロス&タナトス、デカダンスな“時計仕掛けのオレンジ”ならぬ“時計仕掛けの一枚の絵画=Pictures”を彷彿させるかのようだ。


本作品が製作される以前…遡る事3年前の1974年、スイス国内の5バンドを一挙にまとめたオムニバス編集盤『Heavenly And Heavy』にてアイランドは早くも登場を果たしている。
当時はギター、ベースを擁した6人編成(キーボードもサックスも別人物)で活動しており、結成当初からのオリジナル・メンバーはBenjaminとGugeの2名のみである。
後述でも触れるが、1975年にPeterが正式加入し、翌1976年にReneを迎えた布陣でギターやベースの出入りこそあったものの、アイランドの礎ともいえるラインナップでホームレコーディングによるデモ音源とコンサート会場で収録されたライヴ音源を録り貯めながら、各方面のレコード会社や音楽系メディアに自らを売り込みつつデヴュー作リリースの機会を窺っていた。
その際にホームレコーディングで収録されたデモ音源と翌年のライヴ音源は、2005年に発掘アーカイヴ音源の2枚組CDという形で陽の目を見る事となり、デヴュー前のアイランドにて青春と情熱を燃やしていた若き日の彼等の初々しくも傑出した個性が垣間見える素晴らしい内容に仕上がっているが、それは後半にて綴りたいと思う。
こうした紆余曲折もいえる苦労の連続と、ギーガーの邪悪な意匠という協力の甲斐あって半ばセルフレーベルに近い形で、1977年最初で最後のデヴューリリースともいえる『Pictures』を引っ提げ、アイランドは同国のサーカスに続けとばかり一躍スイスのシーンに躍り出た次第である。
たった唯一の本作品…兎にも角にも不気味なヴォイスとゴングの唸りに導かれるオープニング“Introduction”を皮切りにラストの“Here And Now”に至るまでの全曲において、中弛みや退屈さ云々等とは全く無縁でありつつも、さながら瞬きする間すら与えず有無をも言わせず一気に怒涛の如く聴かせる辺りは、PFM始めイタリアン・ロックの名作を多数手掛けたクラウディオ・ファビのプロデュース・手腕に依るところが大きいと言えよう(加えてレコーディング・スタジオも名作を多数世に送り出した、リコルディ・スタジオである)。
終局の宴を思わせる高度な演奏の中にもReneの吹くサックスに、欧州的な悲哀・終末感とも言うべき泣かせ処をちゃんと兼ね備えてあるのは流石とも言えよう…。
だが、何よりもPeterの作曲並びコンポーズ能力の卓越した非凡さには本作品を何度も何度も繰り返し聴く度毎に舌を巻く思いであると共に、緊迫感と不穏な空気すら醸し出すGugeのドラミングと金属質な時間と空間を演出するパーカッション群の使い方も実に見事である。
補足ではあるが、CD化の際のボーナストラック“Empty Bottles”もスタジオ・ライヴ一発録り(多分?)ながらも、フリーインプロヴィゼーションな趣を感じさせつつ、スタジオ録音とはまた打って変ってひと味違った魅力の秀作に仕上がっており、テクニック至上主義に陥ってないところも好感が持てる。
ユーロ・ロック史に残る“奇跡の逸品”を残した後、バンドは人知れず消滅しメンバー全員も消息を絶ち、もはや忘却の彼方へ追いやられたかの様に見えたが、1988年アメリカのアンビシャス・ラヴァーズの2作目『Greed』にてPeter参加の報を機に、アイランドが再びクローズアップされたのは周知の事であろう…。



一見畑違いの音楽性に変貌したのかと思わせつつも、Peterの音楽への探求は更に自己進化(深化)を遂げたと解釈した方が正しいのかもしれない。
1991年の『Lust』以降、新作のアナウンスメントが聞かれなくなって些か寂しい限りではあるが、もし可能であるならば…アンビシャスとはまた違った音楽形態で、Peterが我々の前に再び姿を現してくれる事を切に願いたい限りである。
90年のアンビシャス・ラヴァーズ二度目の来日の際、Peter曰く“アイランドのアルバムは、若い頃に出した未熟な作品。子猫が爪を出して引っ掻いたかのような未完成なものでしかない”と自らの経歴を否定するかのような寂しいコメントを残しているが、それとて彼自身が枠に収まる事を嫌う勤勉で且つ真摯な音楽家である所以。


後年Peter自身知ってか知らずか…先に触れた1975年と1976年に収録されたホームレコーディングとライヴ・アーカイヴによるアイランドの未発表音源が、2005年2枚組CD『Pyrrho』として陽の目を見る事となり、この一大事ともいえる吉報で改めてアイランドの存在意義と絶対的なる地位が証明され、発表当時彼等を支持する多くの根強いファンは狂喜し喝采を贈ったのはもはや説明には及ぶまい。
良し悪しを抜きに、たとえPeter自身がどんなにアイランドの若い時分を反論ないし否定しようとも、彼等が遺した唯一の作品は21世紀の現在でもなお神々しくも禍々しい煌きと孤高の眩さを放ち続けているのは紛れも無い事実であろう。
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