幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

夢幻の楽師達 -Chapter 59-

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 10月最初にして…いよいよ毎週掲載スタイル最終回直前の「夢幻の楽師達」は、80年代ブリティッシュ・ポンプムーヴメントから波及した俗に言うジェネシス影響下スタイル=メロディック・シンフォニックの源流とも取れるルーツ的存在にして、80年代後期から90年代への橋渡しを担った類稀なる存在と言っても過言ではない…ユーロ・ロック史に残る少数精鋭の逸材を輩出したスイスのシーンから彗星の如く現れ人知れず姿を消しつつも、現在もなお幾数多ものプログレッシヴ・ファンの記憶に刻まれた80年代の雄としてステイタスを築いた“デイス”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。


DEYSS
(SWITZERLAND 1979~ ?)
  
  Giustino Salvati:Key
  Giovanni De‐Vita:G
  Jester:Vo
  Patrick Dubuis:B
  Paul Reber:G‐Syn

 70年代のSFF始めサーカス、アイランド、フレイム・ドリーム、そして80年代初期のドラゴンフライといった、前出の言葉通りユーロ・ロック史に大きな足跡を遺したまさしく少数精鋭とも言える逸材を輩出した永世中立国スイスのシーン。
 そんなユーロ・ロックの台風の目とも捉えられる時代背景を一身に受けて、本編の主人公とも言えるデイスが初めて世に現れたのは1985年。
 言わずもがな、世界的規模で70年代の名作の発掘と再発が波及していた当時のプログレッシヴ・ムーヴメントに於いて、80年代という同時代性を纏っていた次世代を担う逸材はエニワンズ・ドーターやノヴェラを筆頭格に、マリリオン、IQといったブリティッシュ・ポンプ勢、ブラジルのサグラドやハンガリーのソラリス、そして我が国のフロマージュとアウター・リミッツ、ページェント…等が顕著なところと言えるだろう。
 その些かマリリオンを意識したかの様な彼等のデヴュー作の意匠に、当時はメイド・イン・スイス=高水準なシンフォニックに大きな期待を寄せる者、或いは“ああ、どうせマリリオンみたいなポンプの類でしょ”と冷ややかに一蹴一瞥する者との賛否両論こそあれど、80年代の中盤に於いてまだアナログLP盤(+シングルジャケットが一般的だった)が主流で、しかも贅沢に見開きジャケットとくれば誰しもが迷いもせずに諸手を挙げて賞賛するのは必然ともいえよう。
 彼等の結成からそれ以降の活動経緯等のバイオグラフィーにあっては、誠に残念ながら私自身の手元にも詳細な資料等が不足がちという関係上、よって手元にある2枚のアナログLP盤と乏しい資料を頼りに従って本編を綴るしかない(苦笑)。
 2ndの傑作名盤『Vision In The Dark』の、写真のコラージュと年代が刻印されたレコードの内袋から察するに…1978年スイスにて、ハイスクールの学友同士だったGiustino Salvati(Key)とGiovanni De‐Vita(G&Key)の2人のイタリア人に、ドラマーにNicolas Simonを加えたトリオ編成で、デイスの母体となるバンドが結成される。
 フロント・ヴォーカリストはまだ不在ながらも、ジェネシス影響下の強い完全インストオンリーのスタイルで翌79年自主製作カセット作品『The Dragonfly From The Sun』(2000年にムゼアからCD化)をリリースし、細々としたデヴューにしてその未熟な感と未完成で荒削りな部分を残しながらも要所々々に将来性を秘めた期待感と光るものを伴って、以後デイスという正式バンド名が確立される1985年までの間、幾度かのメンバーチェンジやら紆余曲折と試行錯誤を経て、正式なヴォーカリストとドラマーが不在のまま、GiustinoとGiovanniを中心にベーシストのPatrick Dubuis、ギターシンセのPaul Reberという2人のスイス人を加えた変則的な4人編成でスタートを切る事となった。
    
 1986年、ヴォーカリストにPatrick Patrick Fragnere、そしてMatt《The Traveller》なる国籍年齢不詳のドラマーと2人のトランペッターをゲストサポートに迎えて、スイス国内のみの自主製作リリース『At King』でデイスは遂に念願のデヴューを飾り世に羽ばたく事となった。
 自主製作レベルながらも見開きジャケットという豪華版で、ややデヴュー期のマリリオンを意識したかの様な稚拙な印象さえ感じられるイラストレーションに微笑ましさを覚えつつも、良い意味で手作りさとアマチュアな感覚をも大切にした…ヨーロッパ人ならではの大らかにして懐の広いデヴュー作ではあるが、肝心要の音楽性の内容たるやジェネシス影響下にしてマリリオンみたいに極端なポンプ寄りに染まっていない、そこにあるのは70年代ヴィンテージ感覚と伝統的なユーロ・ロックの旋律とロマンティシズムを踏襲した、早い話…強烈なまでの“ジェネシス愛”に満ち溢れ憧憬・リスペクト云々をも超越した、夢と理想に少しでも近付きたいという感情の発露が瑞々しく反映された秀作に仕上がっていると言っても過言ではあるまい。
 バンクスをも彷彿とさせるオルガンにメロトロンをサンプリングした当時最新鋭のイーミュレーター、ミニモーグ…etc、etcといったアマチュア・レベルを完全に凌駕した豊富で贅沢なキーボード群に、ギターシンセを含めたツインギターのハーモニーに、ベースはプログレッシャー必携ともいえるリッケンバッカーというのも実に心憎い。
 厳かで緊迫感漂うオープニングの小曲の効果的な使い方に、80年代らしい打ち込み感覚なリズムとドラムマシンを使った2曲目はまあほんの御愛嬌とも言えよう。
 バンドスタイルによる抒情的なバラードナンバー“After And After”の泣きのメロディーラインに、ツインギターとサンプリング・メロトロンが奏でる美しいインストナンバー“Chinese Dawn”、ツイントランペッターを配した力強く勇ましい行進曲風の“March Of Destiny”、アルバム・タイトルでもあるラストの大曲“At King”にあっては、壮大なイマジネーションをも想起させ初期ジェネシスに相通ずるリリシズムを高らかに謳った、当時のマリリオンでは到底辿り着く事が出来なかった万人のジェネシス・ファンの欲求を満たすくらい納得出来る領域にまで踏み込んでしまっている。
 余談ながらも、ゲストヴォーカリストの歌唱法がゲイヴリエルらしくないという嫌いこそあれど、却って逆にそれが新鮮で良いという意見もあるから、そこは敢えて聴く側の感性と判断に委ねたいと思う(私自身個人的には“OK”ではあるが…)。

 『At King』の成功と評判の興奮冷めやらぬ翌87年、バンドの上がり調子と順風満帆を物語るかの様に気運の上昇に伴ってリリースされた、名実共に彼等の最高傑作にして80年代の名作としても数えられる『Vision In The Dark』をリリース。
 正式なドラムが定まらず2人のゲストドラマーを迎えつつも、本作品より国籍年齢本名不詳のJester(=道化者の意)なるヴォーカリストが正式に加入した5人編成でレコーディングに臨んでいる。
 自主製作リリースながらも、前デヴュー作で感じられた変なアマチュア臭さと録音レベルの素人っぽさが抜けて、完全なまでのプロ意識に則ったバンドとしての一体感に加え強固なまとまりと連帯感と思い入れを強く色濃く意識した…あたかも世界的規模なマーケットをも視野に入れた意欲的な野心作へと昇華し仕上げている。
 エイジアっぽい作風でノリの良い曲調のカッコ良さが素晴らしい“Take Yourself Back”のエッジの効いたダイナミズムといい、2部構成による音の迷宮さながらにして後年のメロディック・シンフォの源流すら予見させる“Untouchable Ghost~The Crazy Life Of Mister Tale”、そしてラストの17分強の大作“Vision In The Dark”にあっては、最早シンフォニック云々をも超越した音のうねりとコラージュが滝の如く押し寄せる圧倒的な構成力には圧巻にして脱帽ものと言えるだろう。
  
 バンドリーダー兼メロディーメーカーでもあるGiustinoのスキルとコンポーザー能力の高さ、曲作りの上手さも然る事ながら、ヤマハのDX7にプロフェット5、ミニモーグ、ハモンドに本物のメロトロン、イーミュレーターⅡ、そして当時の最高機種の花形でもあるフェアライトCMI…etc、etcを使用している辺りなんかは、よもやアマチュアレベルを通り越し贅を尽くした機材の豊富さに、聴き手の側のみならずもう日本のプログレ系ミュージシャンですらも嫉妬と羨望と逆上必至といわんばかりであろう(苦笑)。
 初期ジェネシスの『Nursery Cryme』と『Foxtrot』の世界観を足して2で割った様な、殺伐と喧騒と狂気に満ちたイラストワークの素晴らしさに加え、前作と同様の見開きジャケットという徹頭徹尾なこだわりの強さに頭の下がる思いであるが、2枚組アナログLP盤の内のSideD面はよく見ると曲の溝が刻まれていない完全にツルツルの状態というのが何とも勿体無いというか呆気に取られるというか…。(今なら1stと2nd共に、ムゼアからのCD化で完全仕様であるが…)
 流石にもうここまで来ると、ヨーロッパ人の大らかさと懐の広さ云々を抜きに、王侯貴族独特な損得勘定無関係なお戯れにも似た娯楽の延長線上、良家の金持ちのボンボンの趣味と実益すらも勘ぐってしまう位だ…。

 そんな順風満帆に思えた彼等が90年代を境にプッツリと表舞台から姿を消して、もう早20年以上経った次第であるが、その後の彼等の動向にあっては(現時点で)一切合切が皆無で不明というから困ったものである…。
 ムゼアからリリースされたCD群の冊子類を拝読すれば、それなりに手掛かりが掴めると思うのだが、現時点でデイスのCD関連は全て入手困難というのが実に痛いところであり悔やまれるところでもある…。
 バンドの消息不明と活動休止(開店休業か?!)の理由は定かでは無いが、元ジェネシスのアンソニー・フィリップスの様に、王侯貴族の気紛れよろしく“機材車やらトラックの大荷物と一緒のツアーが嫌になったから”という何とも俄かに理解し難い理由で休止したのか…?今となっては理由を知る術やら真相は藪の中といったところであろうか。
         
 バンドの消息不明とはお構い無しに、その後ムゼアから次回作の為の準備で書き下ろした(であろう)新曲のデモと未発アーカイヴを収録した『For Your Eyes Only』を92年、デヴュー前のカセットテープ作品をCD化した『The Dragonfly From The Sun』を2000年にリリースし、それ以後デイスの新作関連のアナウンスメントやニュースは完全に聞かれなくなって久しい限りでもあるが、そんなさ中の1994年、デイスでギターシンセを担当していたPaul Reber主導による新たなるシンフォニックバンドDREAM DUSTが結成され、現在進行形で今なおメンバーチェンジを重ねながらも数枚の作品をリリースし、スイスのシーンで活躍中であるのが実に嬉しくも喜ばしい限りである。

 90年代以降から21世紀までに至るスイスのプログレッシヴ・シンフォニック系は、メロディック系のクレプシドラから、70年代ヴィンテージ系を踏襲したシシフォスやドーンといった新たな世代へと引き継がれているものの、かつてのデイスが持っていた熱い位の期待感と熱気がやや感じられなくなってしまったのは、やはり心なしか寂しい限りでもある。
 かつては猫も杓子もジェネシス影響下が合言葉のプログレ・シーン=メロディック・シンフォであったが、デイスの様にジェネシスのファンであるという事に迷いや後ろめたさが微塵に感じられない、正々堂々と胸を張ってジェネシスのリスペクト系であるという事を誇りと勲章にし、それを無上のプライド・喜びとしていたバンドというのが今となっては実に懐かしくもあり、そんな気概と意固地さを謳い文句にしているバンドがもうそろそろ再び現れても良い頃ではないのかと思う今日この頃である…。
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Zen

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