幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 LEVIATHAN

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 毎週掲載スタイル最終回直前…今週の「一生逸品」は久々の北米大陸から、70年代アメリカン・プログレッシヴの胎動期にその名を轟かせた眠れる巨獣でもあり孤高にして唯一無比の伝説的存在と言っても過言では無い、ブリティッシュ・ロックスピリッツを継承したアメリカン・ヘヴィプログレッシヴの雄“リヴァイアサン”に今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

LEVIATHAN/Leviathan(1974)
  1.Arabesque 
  2.Angela 
  3.Endless Dream 
  4.Seagull 
  5.Angel of Death 
  6.Always Need You 
  7.Quicksilver Clay
  
  Wain Bradley:B, G, Vo
  Peter Richardson:Organ, Vo 
  Don Swearingen:Piano 
  John Sadler:Mellotron 
  Grady Trimble:G
  Shof Beavers:Ds

 レアアイテム級高額プレミアム扱いだったマッカーサーの幻の1stが正規にCDリイシューされ、更には国内盤紙ジャケットSHM‐CDでリイシューされたアトランティス・フィルハーモニック、更には念願のオリジナルジャケットデザインで待望のリイシュー(こちらも国内盤紙ジャケットSHM‐CD仕様)と相成ったイースター・アイランド…と、ここ数年もの間俄かに70年代アメリカン・プログレッシヴの大いなる遺産ともいえる名作がこぞって見直され再発されるという嬉しくも喜ばしい朗報が舞い込んで、書き手でもある私自身ですら改めて感慨深い思いに浸っている今日この頃である。

 何度もこの場で言及してきた事と思うが、兎にも角にもブリティッシュやユーロ・ロックシーンと同等、海を越えた北米大陸アメリカ合衆国のプログレッシヴ・ムーヴメントの層の厚さたるや、我々の想像を遥かに超えた…あたかも広大な砂漠から宝石を探し出すかの如く困難が付きまとう(苦笑)。
 全世界きってのショービズ大国にして音楽産業大国でもあるアメリカの音楽シーンに於いて、多種多彩なジャンルに枝分かれした複雑且つ乱立した門戸解放にも似た間口の広さで、古くからのカントリー&ウェスタンを始め、R&B、ヒットチャートを賑わすAORから昨今のラップ、ヒップホップといったダンスミュージック、肝心要のロックに至っては過去を遡ればハードロックからプログレッシヴと多岐に亘り、70年代ほどではないにしろ21世紀の今も尚その系譜と伝承は脈々と受け継がれて今日までに至っている。

 アメリカン・プログレッシヴ黎明期というにはやや語弊があるかもしれないが、ザッパのデヴューを皮切りに俗に言うアメリカン・サイケデリックの代名詞ともいえるドアーズ、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン(後年ジェファーソン・スターシップへと改名)、キャプテン・ビーフハート、そして時代の申し子ともいえるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの台頭、その一方でサイケデリアとは違う系譜に於いてアイアン・バタフライ、ヴァニラ・ファッジ、イッツ・ア・ビューティフルデイ、アフター・オール、タッチ…といった後々のアメリカン・プログレッシヴへと繋がる流れが確立された60年代末期。
 70年代に移行してからは、初期に於いてプログレ時代のビリー・ジョエルが結成したアッティラ、ヴァニラ・ファッジ解散後オルガニストのマーク・スタインを中心に結成されたブーメラン、EL&P影響下を思わせるポリフォニー、大手映画会社パラマウント直営のレコード部門から唯一作をリリースしたバクスター、謎のバンドでもあるアミッシュ、更にはマイク・クワトロ、スティックスのデヴューといった顔ぶれが列挙されるが、事実上アメリカン・プログレッシヴ全盛期を飾るのは紛れもなく1974年以降からで、カンサス、アメリカン・ティアーズ、スタードライヴのデヴュー、翌75年以降ともなると、ジャーニー、アンブロージア、ファイアーバレー、ボストン、パブロフズ・ドッグ、ハッピー・ザ・マン、イーソス、イエツダ・ウルファ、スター・キャッスル、エンジェル、シナジー、加えて単発系の唯一作をリリースした前出のアトランティス・フィルハーモニック、シャドウファックス、ザズー…等が登場し、70年代後期ともなるとカテドラルやイースター・アイランド、マッカーサー、バビロン、クィルというアメリカン・プログレッシヴ史に燦然と輝きを放ち続ける高額プレミアムな名作・名盤が世に踊り出たのは周知であろう。
 80年代の一時的な沈静化と停滞期を経てドリーム・シアターやスポックス・ビアードの登場を契機に、アメリカのプログレッシヴシーンは90年代以降の再興期から今日までに至る21世紀プログレッシヴへと現在進行形で長らく生き続けていると言っても過言ではあるまい。
 余談ながらも…特筆すべきは我が国でも商業的に大成功を収めたカンサス、ボストン、スティックスは、77~78年を境に“アメリカン・ニューウェイヴ”というややもすれば誤解を招きそうな、あまり有り難く無い様な代名詞でもてはやされた事を未だに記憶に留めている(苦笑)。
 
 そして今回登場の主人公でもあるリヴァイアサンも、1974年に唯一作をリリースしアメリカン・プログレッシヴ勃発期の片翼を担った立役者として、今もなおその名を聴衆の心に深く刻み込まれている事は言わずもがな…。
 大航海時代の遥か昔、大西洋に生息し商船を襲っては人間を喰らう伝説の巨大海蛇の名前(別名シーサーペントとも呼ばれている)をバンド名に冠した6人組は1972年アーカンソー州のリトルロックで結成され、それ以前より各々のメンバーが音楽的なキャリアと経験をかなり積んでいた実力派揃いであると推測される。
           
 メンバー編成を御覧になってお解り頂ける通り、6人中の3人がそれぞれオルガン、ピアノ、そしてメロトロンと専属に担当し、エマーソンないしウェイクマン果てはモラーツの様なマルチキーボーダーなスタイルとは異なった、至ってシンプル且つ単純明快な(ある意味オーソドックスな意を踏まえて)ロックキーボードの立ち位置たるものを各々熟知しているところが実に面白い。
 下世話な話かもしれないが、もしもリヴァイアサンにシンセ専属担当者がいたら、それはそれでまたどんな風に音楽性が変わっていた事だろう…なんて想像するだけでも興味は尽きない。
 各方面に於いて「宮殿時代の初期クリムゾンばりメロトロンの洪水が堪能出来る」という触れ込みと宣伝文句ばかりが独り歩きしている様な感を思わせるものの、決してそればかりが売りで無いことだけは全曲通してお聴き頂ければ一目瞭然。
 彼等が創造する楽曲から察するに、アメリカンな風貌や要素は殆ど皆無に等しい(ヴォーカルの歌唱法がややアメリカ独特の節回しを匂わせるが)、あくまでブリティッシュナイズされたヘヴィ・プログレッシヴな作風とカラーが根底にあって、ユーロ・ロック調のロマンティシズムをも彷彿とさせる幻想的なジャケットの意匠も一役買っている事も見過ごしてはなるまい。
 アメリカン・アートロック先駆者のヴァニラファッジからの影響も然る事ながら、70年代のブリティッシュのみならず全世界規模で席巻していたツェッペリン、パープル、ユーライア・ヒープ、果てはイエスやクリムゾンからの多大なる影響も収録曲の端々で散見出来て、誰一人前面に出てくる事無くただひたすら楽曲のアンサンブルとハーモニーの構築を重視に徹しているという事も特筆すべきであろう。                 
 バンド結成から程無くして、彼等のホームタウンでもあるアーカンソー州リトルロック、そしてテネシー州メンフィスを拠点に南西部地方にて多数ものライヴ活動を精力的にこなし瞬く間に人気実力バンドとして注目され、1974年USAロンドン・レコード傘下のMACHレーベルよりバンド名と同タイトルでめでたく待望のデヴューを飾る事となる。
 ちなみに当時は日本国内盤LPもリリースされており、余談ながらも個人的な話…知人宅の引越し手伝いの際、飼い猫の悪戯でビニールの外袋ごと爪で滅茶苦茶引っ掻かれてボロボロになったリヴァイアサンの国内盤ジャケットを見た瞬間思わず閉口してしまった事を未だに記憶しているから困ったものである(苦笑)。
          
 深遠且つ荘厳なメロトロンが高らかに響鳴する冒頭1曲目のイントロダクションに導かれリヴァイアサンの音宇宙が静かに幕を開ける。
 儀式にも似たアコギとエレクトリックギターによるミスティックな旋律が追随し、3rd期のイエスを思わせるタイトなメロディーへと転調後は、ヘヴィさとアップテンポさが加味されたアーティスティックな曲調に神秘的なメロトロンに小気味良いハモンドが色を添えていき、この当時ゴロゴロと存在していた単なる凡庸なハードロックとは一線を画す、アートロックやブルースロックといった概念をも超越した彼等独自のアイデンティティーとオリジナリティーを表明するには申し分の無い出来栄えを誇っている。
 1曲目の終盤から子供達の遊び声のSEをブリッジに2曲目へと移行し、ここでもリリシズム溢れるメロトロンに瑞々しくも美しいピアノが大活躍する辺りは後のイーソスにも相通ずるアメリカン・シンフォの歌メロと醍醐味が存分に堪能出来るだろう。
 3曲目冒頭の幾分緊迫感を伴ったベースラインに思わず日本のストロベリー・パスの「I Gotta See My Gypsy Woman」(柳ジョージ!!)を連想させられるが、ブルーズィーな雰囲気を漂わせながらも2曲目と同傾向のメロディーラインに哀愁と抒情に彩られた泣きのピアノとメロトロン、ハモンドが被さり、中盤近くでヘヴィロック調に転ずるとブリティッシュ・スピリッツ全開の燻し銀の如き渋さと陰りが脳裏をよぎる全収録曲中、10分近い長尺の大曲にプログレを愛する聴き手の欲求と渇望は否応無しに満たされて、兎にも角にも素晴らしいの一語一句に尽きる事しきりである。
 ネイティヴなアメリカン・ロック調のギターリフに導かれるトータル形式の4曲目から5曲目にかけては、ツェッペリンやユーライア・ヒープ影響下を思わせるメロディーラインがソフィスティケイトされた、ダイナミズムとリリシズムが互いにせめぎあうブリティッシュシンパシー溢れるアメリカン・プログレハードの真骨頂ここにありと言わんばかりな秀作に仕上がっている。
 ここでは何よりも3人のキーボーダーがそれぞれの役割分担とパートをしっかりと的確にこなし会心のプレイを奏でており非常に好感が持てる(個人的には一番好きな曲でもある…)。
 全曲中唯一3分弱の6曲目は、多分おそらくシングル向けに書かれたと思われる小曲だが割合ポップな印象をも孕んだ明るめの曲想ながらもここでもメロトロンの活躍が効果的で素晴らしく、ケストレルの作風と雰囲気が似ていると言ったら言い過ぎだろうか…。
 ラストを締め括る7分半近い7曲目は、女性コーラスをゲストに迎えメンバー全員一丸となってプログレハードなバラード調の大団円を繰り広げており、夕日が沈む黄昏時の情景が目に浮かぶ様な何とも心洗われる感動的なエピローグが胸を打つ。
 総じて評すれば、オープニングからラストナンバーまで徹頭徹尾メロトロンの洪水で溢れ返っている、まさしく看板に偽り為しと絵に描いたかの如く、あのカンサスと同様に正真正銘ブリティッシュ・プログレッシヴの気概と精神を北米大陸で受け継いだ伝承者そのものであったと言っても異論はあるまい。
 収録された全曲に於いても一切の無駄と蛇足感が無く、聴き手を飽きさせない曲作りと展開の上手さに加え、コンポーズ能力とスキルの高さも窺い知れて、聴く度毎に新たな発見と驚きに満ちている紛れも無く名盤の名に恥じない屈指の一枚と言えるだろう。
 バンドはその後次回作予定として既に『The Life Cycle』なるタイトルも決まってリリースの為の準備とリハーサルに取りかかるも、メンバー各々がそれぞれ理想とする音楽性の追求やら方向性の相違といった諸事情が重なり、これからの矢先であったにも拘らずリヴァイアサンは敢え無く空中分解への道を辿り、後に栄華を極めるアメリカン・プログレッシヴの表舞台からも自ら幕を下ろしその活動に終止符を打つ事となる。
 一説によると『The Life Cycle』なる2ndマテリアルはバンド解散間際まで収録され、何とか寸前にリリースまで漕ぎ着けたものの、デヴューとは打って変わって余りにも大幅な路線変更で別物バンドみたいな音楽性になってしまい、現在のところ2ndそのものの所在すらも在るのか無いのか一切不明というのが何とも嘆かわしい限りだ。
 現在映像関連の音楽畑で活躍しているかつてのリーダー格Wain Bradleyを除き、ネットやSNSが隆盛の21世紀の昨今ですらも、その後の残されたバンドメンバーの消息や動向すらも全く解らずじまいで個人的にも途方に暮れるばかりである…。

 唯一遺された彼等リヴァイアサンのアルバムは2004年にイタリアのAKARMA、そして4年前の2012年北欧スウェーデンのFLAWED GEMSよりCDリイシュー化されているが、後者のFLAWED GEMS盤にあっては、アルバム未収録だった「Why Must I Be Like You」と「I'll Get Lost Out There」の秀逸2曲がボーナストラックに収められたファン垂涎の一枚となっている。
 大海の幻獣は今や伝説となって海の深淵へと身を潜め深き眠りについている…そんな逸話やダークファンタジーの如く、アメリカン・プログレッシヴ胎動期のレジェンドと化した彼等が、またいつの日にか深き眠りから目覚め今日の21世紀プログレッシヴの大海原に再びその巨体を現す時は果たして巡ってくるのだろうか?
 何が起こってもおかしくない今世紀のプログレッシヴ・シーンであるが故に、一縷の望みであれ奇跡や希望、果ては一夜限りの束の間の夢物語でも構わないから“伝説降臨”を合言葉に、聴衆である我々の眼前にその雄姿を甦らせてくれる事を願っているのは決して私だけではあるまい…。
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