幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

夢幻の楽師達 -Chapter 60-

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 毎週掲載スタイルながらも過去のリメイク&リニューアルで再出発を図った『幻想神秘音楽館』。

 思えば早いものでセルフリメイクを始めてから一年とちょっと経過し、気が付いたらあっという間に60回目を迎え、遂に栄えある最終週を飾る事となりました。
 そして来月からは以前の月イチペースの掲載でお送りする…奇数月に「夢幻の楽師達」、そして偶数月に「一生逸品」という以前のスタイルに戻ります(「Monthly Prog Notes」は今まで通り併行して月イチ掲載ですが)ので、どうか今後とも『幻想神秘音楽館』を御愛顧頂き何卒宜しくお付き合い頂けるようお願い申し上げます。
 掲載60回目にして今回で最終週の「夢幻の楽師達」は、現在(いま)の21世紀プログレッシヴに於いて、以前ここでも取り挙げたイタリアのラ・マスケーラ・ディ・チェラやスウェーデンのムーン・サファリと共に肩を並べるであろう、中米随一の共産主義国家でもあるキューバの代表格にしてその一点の曇りも無い確固たる信念と真摯な創作精神で純音楽的感動を我々に沢山与えてくれた、まさしく真の夢幻の楽師達…そして“天界の楽師”と呼べる称号に相応しい偉大なるマエストロ集団の“アニマ・ムンディ”に改めて焦点を当ててみたいと思います。

ANIMA MUNDI
(CUBA 1996~)
  
  Roberto Diaz:G, Vo
  Virginia Peraza:Key, Vo
  Emmanuel Pirko-Farrath:Vo
  Yaroski Corredera:B
  José Manuel Govin:Ds

 以前「夢幻の楽師達」でアルゼンチンのミアを取り挙げた際にも触れたと思うが、我が国に中南米のプログレッシヴ関連の情報が入ってくる様になったのは、多分1980年代の初頭の頃ではなかろうか…。
 当時フールズメイトのディスクユニオンの広告欄にてチャック・ムールやカハ・デ・パンドラ…等といった一部のメキシコ勢が入荷するようになり、その数年後の1984年の春頃になると当時のマーキームーン誌にて南米ブラジルのバカマルテやクオンタム、サグラド、南米の欧州アルゼンチンからは前出のミア、クルーチス、アラス、エスピリトゥが大々的にクローズアップされ、85年以降になると最早周知の通り中南米系の主要アーティストの大半がプログレファン・愛好家達に認知されるまでとなり、決してキワモノではなく欧米や日本のプログレッシヴと同等に扱われ、レアな入手困難盤は鰻上りに高額なプレミアムが付くまでとなったのは言うに及ぶまい。
 そんなラテンアメリカンのムーヴメントが吹き荒れる中で、アルゼンチンやブラジルから比べるとメキシコを始めとする中米のシーンは幾分若干の見劣り(層の薄さも加えて)は否めなかったのが正直なところで、中米の80年代はメキシコのイコノクラスタ、ニルガール・ヴァリス(+アルトゥール・メザ)が良質な作品で健闘していたのが関の山と言えるだろう。
 そんなさ中に降って湧いたかの如く、中米唯一の社会主義共和国のキューバというプログレ未開の地より登場したグルッポ・シンテシスの『En Busca De Nueva Flor』から感じられる欧州のリリシズムとイタリアン・ロックにも似た高貴でクラシカルな格調高い旋律と香りに触れた時の衝撃と驚愕・感動といったら今でも忘れる事は出来ない。
 プログレとユーロロックがもたらす波及の奥深さと世界の広さに、改めて溜飲の下がる思いというか脱帽せざるを得ない素直な気持ちになれたのもシンテシスの作品あってこそと言っても過言ではなかった。

 そして時代は90年代…未知なる可能性と宝探しにも似た興奮と感動が再び巡ってくる事に、さながら“キューバの夢物語よ今再び!”と言わんばかりな期待感を寄せつつも、シンテシス以降キューバからの新たなるインフォメーションはさっぱりと音信不通になってしまい、シンテシスが国民的な大御所ポップスバンドに成長を遂げたのと反比例するかの様にプログレッシヴサイドは完全に事切れてしまって、私を含めて誰しもがあれはキューバの一時的な奇跡の賜物だったと断念せざるを得ないと、自らに言い聞かせるしかなかった。
 アルゼンチン、ブラジル、チリ、そしてキャストの登場で一気にシーンを盛り返したメキシコにも完全に差が開かれる様な形で、プログレ・ファンの誰しもがキューバのシーンに対する関心が薄れ、もう半ば諦めにも似た徒労と不信感に包まれつつ忘却の彼方へと気持ちが傾きつつあった。
 …が、そんなプログレ・ファンの疑念や焦燥感とは裏腹に、時代の流れに呼応するかの如くキューバ国内では来たるべき新時代に向けての新たな息吹きが芽生えつつあったのを我々はまだ知らなかった。
 首都ハバナ出身の類稀なる2人のミュージシャン…ギタリスト兼コンポーザーでもあるRoberto Diazと、才色兼美の文字通りの才媛キーボーダーVirginia Perazaを中心に、1996年大御所のイエスやジェネシスから多大なる影響を受け、リアルタイムにスポックス・ビアードやフラワーキングスから触発された形で、アニマ・ムンディ(ラテン語で“宇宙精霊”の意)は結成される。
 バンド結成以降、RobertoとVirginiaを核にメンバーの入れ替わりこそあったものの、地道に国内でのライヴ活動とデモ音源の製作を皮切りに、ラジオの音楽番組出演やデヴューに向けてのリハーサル・曲作りに精進を積み重ね、2002年待望のデヴュー作『Septentrion』をリリースする。
 ちなみに御存知の事と思うが、当初国内オンリーでリリースされたデヴュー作であったが、その数ヵ月後イタリアのMellowレーベルを経由してジャケットアートの装いも新たにワールドワイド盤仕様でリリースされた事も付け加えておきたい(2012年にはデヴュー10周年を記念して限定プレスで国内オンリーのオリジナルデザイン仕様デヴュー作がリイシューされている)。
    
 シンテシス以来のキューバ発プログレッシヴという事に、私自身何の迷いや不安感を抱く事無く鮮やかなクリアブルーの意匠に彩られたデヴュー作をCDプレイヤーのトレーに乗せた時の感動と興奮は今でも克明に記憶している…。
 シンテシスの遥か数十倍をも上回る音楽的感動…さながら全盛期のイエスが持っていた天空を駆け巡る様な高揚感に、ケルト音楽やニューエイジミュージックが融合した悠久の地平線を疾走する爽快感が得られる様は、変な理屈っぽさと数年間ものカタルシスをも超越した、正統派プログレッシヴ・シンフォニックの醍醐味ここにあり!と高らかに謳った一大叙情詩に心から拍手喝采を贈っていたのだった。
 ハウからの多大なる影響を物語るRobertoのギタープレイに、ウェイクマンやモラーツ果てはダウンズといったイエスのバンド史にその名を連ねるキーボーダー達からの良質なエッセンスが集約されたVirginiaの流麗なキーボードプレイ…etc、etc、中南米最高峰の牙城とまでいわれたブラジルのサグラドですらも凌駕するくらいに目くるめく展開する様は、まさしく21世紀ラテンアメリカン・シンフォここに極まれりと声高に宣言出来る…申し分無い位なイエスイズムに溢れ返っている様相は一聴した方ならきっとお解り頂ける事だろう。
 国内外での予想を遥かに上回るデヴュー作の反響の大きさたるや、RobertoやVirginiaを含めアニマ・ムンディに携わったメンバーや関係者をも驚かせ喜びと共に困惑をも招いたが、彼等は決して臆する事無く次回作に向けての大きな指針を打ちたてて、より高次な音楽宇宙への構築と創造に発奮するのだった。
    
 その原動力は次なる名作2nd『Jagannath Orbit』へと繋がり、より強固なるミュージシャンシップの団結力と素晴らしく快適な音楽創造環境への希求に6年間もの歳月を費やす事となる。
 イタリアのMellow(契約期間が切れたと思われるが)からフランスのMUSEAに移籍したのもまさに渡りに舟と言わんばかりな幸運であったとも言えよう。
 Roberto、VirginiaそしてドラマーのAriel Valdesを除くメンバーの殆どを一新し、2008年の次なる頂とも言える最高傑作『Jagannath Orbit』は、さながら神秘のエナジーとオーラに満ち溢れんばかりな太陽の塔をも彷彿とさせる、天空への懸け橋の如き超古代文明的な象徴が描かれた意匠に、全世界のプログレ・ファン誰しもが感動に打ち震え言葉すらも失った。
 期待を決して裏切らないその頑ななまでの真摯な姿勢に、全世界中のプログレッシヴ・ファンが色めきたち共感を覚え共鳴し、バンドサイドのみならず彼等の創造する天上世界の音楽に心酔する聴衆達は更なる最高潮への極みへと上り詰めていくのである。
    
 奇跡の名作『Jagannath Orbit』によって世界的な大成功と名声を得て、更なる快進撃の止まらぬ彼等ではあったが、それでも決して勢いに飲まれたり、慢心する事も驕り高ぶる事も無く常に平常心を保ちつつ、その高みを目指す情熱を次なる作品へと注ぎ込んだ。
 2年後の2010年リリースの待望の3rd『The Way』は、エメラルドグリーンを基調に睡蓮の花と戯れる女神が描かれた美しくも印象的な意匠というイメージと寸分違わぬ広大な音宇宙を創造し、まさしく東洋の極楽浄土とギリシャ神話のミューズとの融合・調和といった、互いの思想・宗教観・精神的なミクスチャー(というと語弊があるかもしれないが)を試みた、かつてのイエスの『海洋地形学の物語』にも相通ずるリスペクト云々とはまたひと味違った趣の意欲作に仕上がっている。
 この3rdの本作品にて彼等は、前作並びデヴューの前々作よりも更なる格段の成長と自己進化(深化)を遂げ、イエスやジェネシスへの憧憬やリスペクトをも超越し、自らのアイデンティティーに基づいたアニマ・ムンディたる音楽像を確立させる事となる。
    
 デヴューからの持ち味だったケルティックな要素が幾分後退しつつも、それを補うかの如くイギリスのエニドやIOアースばりに強化されたシンフォニック・オーケストレーションで、ドラマティックで重厚な音楽世界を構築し、その流れと系譜を維持したまま次回作へと繋げていく。
 この頃には流動的だったメンバーが漸く固定化され、RobertoとVirginiaを中心に、前作で参加したヴォーカリストのCarlos Sosaとベーシスト Yaroski Correderaが正式メンバーとなり、ドラマーがAriel ValdesからJosé Manuel Govinに交代し、5人編成の布陣(+ゲストプレイヤー)のスタイルに移行している。
 世界的な評価と名声が更に高まると共に、国内外のメディアを含め活動の場とキャパシティーが拡大の一途を辿りつつあるさ中、2年後の2012年はまさしくアニマ・ムンディにとっては多忙の一年となった。
 前出にも触れたデヴュー10周年を記念して、オリジナルのキューバ盤仕様デザインのデヴューアルバムを限定リイシュープレスし、更には念願だったヨーロッパツアー公演を行い、各国の公演先に於いて大熱狂と興奮で迎えられ聴衆を感動と熱気の波で埋め尽くしていったのは言うまでも無かった。
 その時の模様は2枚組ライヴCD『Live In Europe』に約2時間近い長尺で収録され、併せてライヴCDと同タイトルのライヴDVDもリリースされたので、自分の部屋に居ながらにして彼等のライヴでの雄姿が存分に堪能出来る素晴らしい内容に仕上がっている。
 ヨーロッパツアーが大成功に終わり帰国してからも彼等の飽くなき創作意欲と探求心は枯渇する事無く、その思いと熱意は続く次回作へと着々と向けられていった。
 が、ここで長い間苦楽を共にしてきたヴォーカリストのCarlos Sosaが、ツアーでの心身の疲弊が重なりバンド活動に限界を感じて抜ける事となり、新たなヴォーカリストとしてEmmanuel Pirko-Farrathを迎え、バンド自体もムゼアでの契約期間終了(!?)を機に改めて心機一転と一念発起で初心に戻り自らのセルフレーベルを興して、翌2013年ファンタスティック・イラストレーターEd Unitskyの手によるカラフルな極彩色で描かれた、ネイチャーな神々しさと野性味溢れる素晴らしい意匠の通算4作目のスタジオ作『The Lamplighter』をリリース。
          
 クラリネット奏者をゲストに迎え、従来の重厚で壮麗なシンフォニックサウンドの中にも、現代というリアルタイムに沿ったアップ・トゥ・デイトに裏打ちされたタイトでメロディックなサウンドワークに加えて、端整で甘いルックスのEmmanuel Pirko-Farrathの若々しい感性の繊細で瑞々しい歌唱力の上手さも手伝って、アルバムセールスもうなぎ登りのベストセラーになった事も然る事ながら、あたかもアニマ・ムンディ新たなるステージ第二の幕開けといった感の幸先の良いスタートになったと言っても過言ではあるまい。

 しかし…彼等が思い描く理想の音楽像や思惑とは裏腹に、母なる星“地球”を蝕む様々なる病巣…政情不安、サイバーテロ、民族紛争、牙を剥く自然災害の猛威、etc、etcが蔓延する混沌且つ混迷の21世紀の今日という現実に直面する事によって、アニマ・ムンディのサウンドスタイル自体も変革を余儀なくされ、その結果『The Lamplighter』から3年後の2016年にリリースされた通算5枚目の『I Me Myself』、その2年後の2018年にリリースされた続編ともいうべき『Insomnia』にあっては、青と赤に彩られた両手という何とも意味深で陰鬱な意匠を象徴するかの如く、今までの人間愛や神への礼賛といったテーマとは打って変わって、かつてのフロイドの『狂気』や『ザ・ウォール』にも相通ずるであろう社会不安やら疑問や矛盾を突いた…あたかも人間の深層心理や心の奥底に潜む深い闇・暗部といった題材にダークでほろ苦い曲想で占められており、時代の推移或いは彼等なりの自己深化とでもいうのか、改めて現実世界に真正面から向かい合った自問自答ともいうべき2枚の問題作を発表し今日までに至っている。
 ちなみに『I Me Myself』からドラマーがJosé Manuel GovinからMarco Alonsoに交代し、ヴォーカリストがMichel Bermudezにチェンジ、更には『Insomnia』ではまたしてもヴォーカリストが変わり現在はAivis Prietoが担当している。
         
 幾分駆け足なペースで彼等の歩みを辿ってきたが、彼等アニマ・ムンディ始め以前取り挙げたムーン・サファリにしろ、あくまで21世紀プログレッシヴ・バンド特有の同時代性を兼ね備えながらも、巌の如き頑ななまでの信念と信条がほんの僅か数ミリでもブレる事無く今日まで長らく維持出来ているという事に驚嘆すると共につい感慨深い思いになってしまう…。
 20世紀代のプログレ冬の時代…困難との闘いや紆余曲折の繰り返し、試行錯誤と自問自答の連続だった頃の時分と違い、大袈裟な書き方で恐縮だが彼等21世紀プログレは時代に恵まれ時代に愛されいる、自ずと思い描く理想の音楽たるものを追い求め続ける夢織人といった感をふと思い描いてしまう。
 ネット社会が蔓延し人間関係が希薄になり世界規模での混迷すらも禁じ得ない、先の見えない不安感と殺伐とした21世紀という迷える今日に於いて、バンドのコンポーザーにして類稀なるリリシスト(ポエト)でもあるRoberto Diazが見据える世界の先の果てには、これから何が待っているのだろうか。
 聴き手の側でもある我々もRobertoが思い描く崇高で且つ慈愛に満ちた世界観を、これからも末永く温かく見守り続け、次の新たなる宇宙精霊の輪舞する世界に足を踏み入れてみようではないか…。
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Zen

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