夢幻の楽師達 -Chapter 61-
「夢幻の楽師達」、久々の新たな書き下ろしによる正規の月イチ掲載ペースで帰って参りました!
昨年夏よりブログサービスの移転に伴う心機一転で、過去に綴ってきた「夢幻の楽師達」と「一生逸品」に加筆修正を施し、毎週2回の掲載スタイルで『幻想神秘音楽館』のリニューアル…或いはセルフリメイク&リブートをお届けしてきましたが、60回目という節目を機会に週間掲載スタイルのリメイクを終了し、今回の61回目より本来正規の月イチ掲載スタイルに戻しての、ある意味本当の再出発を図った次第です。
皆様これからも何卒御愛顧御支援頂きます様、改めて叱咤激励のほど宜しくお願い申し上げます。
さて、冒頭でもお伝えした通り実に一年半ぶりに近い新しい書き下ろしによる、コロナ禍に見舞われた2020年今年最後の「夢幻の楽師達」は、栄えある再出発と新規再開に相応しく、21世紀プログレッシヴへと繋がる完全復興への礎を築いたと言っても過言では無い、70年代ヴィンテージ・プログレッシヴのスタイルと精神をリスペクト・踏襲し、今やかの同国のアネクドテンやパートス、フラワー・キングス、果てはカイパ・ダ・カーポと共に北欧スウェーデンの先鋒的存在として、今日に於いてなおもカリスマ的な神々しくも妖しい輝きを放ち続けている絶対的存在“アングラガルド”に焦点を当ててみたいと思います。
ÄNGLAGÅRD
(SWEDEN 1991~)


Tord Lindman:G, Vo
Jonas Engdegård:G
Thomas Johnson:Key
Anna Holmgren:Flute
Johan Högberg:B, Mellotron
Mattias Olsson:Ds, Per
彼等との出会いはもうどれ位になるだろうか…?
今を遡る事…もう27年も前のこと、自分自身あの当時は公私共にというべきか心身ともに決して良い状態とはいえない、まさしく絵に描いた様なバッドコンディションに近い状態で、その日その日を無作為に過ごしていた所謂抜け殻にも似た自己閉塞に陥っていたのを未だ鮮明に記憶しているのだから全く以って世話は無い(苦笑)。
そんな心神耗弱ともいうべきスランプから一刻も抜け出そうと休暇を取り意を決して上京し、違う空気と環境に触れて少しでも気分転換を図ろうと、下北沢ザ・スズナリにて当時公演していた知り合いの劇団に顔を出したり、新宿歌舞伎町の今は無きTSミュージックにてストリッパーのお嬢さんを観たり、あとはお決まりの如く当時目白の某賃貸マンションにて運営していたマーキー誌の編集部とワールド・ディスクに足繁く顔を出したりといった、あたかも俄か東京人の如く三泊四日の漂白生活を過ごしつつ辛辣だった日常から逃れていたのは言うまでも無かった。
そんなマーキー誌編集部に顔を出した折の事、当時編集長を務めていた山崎尚洋氏から最近スウェーデンから入ってきたニューバンドのデヴュー作なんだと見せられたのが、言わずもがなアングラガルドの記念すべき衝撃のデヴュー作『Hybris』(邦題「シンフォニック組曲」)で、マーキー/ベル・アンティークが手放しイチ推しで国内盤ディストリヴュートを決めただけあって、編集部内で初めて聴かされた時のインパクトの大きさとあまりの感動に言葉を失い、疲弊しきっていた心身も綺麗に洗い流され、何だか漸く救われた気持ちになったあの当時の忘れ難い記憶として今も留めている。
残念ながら肝心要のCDは今手許にあるサンプルの一枚だけしかなくて、初回リリース分は既に完売し店頭にあったのはノルウェーの新興レーベルColoursからリリースされたアナログLP盤のみという状況ながらも迷う事無く喜び勇んで購入し、その数時間後には西新宿の某輸入盤店まで出向き漸く国内盤CDを入手し、宿泊先のビジネスホテルのベッドに横たわりながら両方の音源を眺めつつ一人ニンマリと悦に入っていたから、我ながらあの時はまだ本当に若かったんだなァと思う事しきりである。
ああ…そうそう、母国スウェーデンプレスCDのリリース元が名器メロトロン(通称:プログレ骨董音楽箱)をもじったMellotronenなるレーベルというのも大いに頷けたよなぁ。
1991年スウェーデンの首都ストックホルムにて、ヴォーカリストのTord Lindman、そして盟友的存在のベーシスト(メロトロンのエフェクト担当も兼ねる)Johan Högbergの2人を中心に、キーボーダーのThomas Johnson、ギタリストのJonas Engdegårdが加わり、70年代イズムのブリティッシュ・プログレッシヴスピリッツをリスペクトしたバンドスタイルを確立させ、それに呼応するかの如くドラマーのMattias Olsson、そして紅一点のフルート奏者Anna Holmgrenが参加し、翌1992年の春に至るまでリハーサルと録音に費やした末、驚愕と奇跡をも孕んだ屈指のデヴュー作『Hybris』が満を持してのリリースとなる。
かつての70年代スウェディッシュ・プログレッシヴの一端を担ったカイパやダイス、アトラスにも匹敵する感動と興奮を携えた純然たるシンフォニーの結晶は、国内外のプログレッシヴ・リスナー達から歓喜と賞賛の声を集めると共に、一躍にして20世紀末のプログレッシヴ・マストアイテムとして数えられる様になった本デヴュー作。
スイスのSFFはおろかアメリカのカテドラルの音楽世界観を更に深く重く仄暗くしたかの様な、クラシカル且つ陰影と憂いを帯びたピアノと不穏で緊迫感漂うコーラスメロトロンに導かれ、あたかもイエス始め初期のクリムゾンやジェネシスをも彷彿とさせながらも、北欧ゴシック調でヘヴィネスなシンフォニック空間はリスナー諸氏が思い描く通りの北欧のイメージそのままを醸し出しており、月光輝く妖しくも幻惑的な漆黒の森と湖、精霊の息遣いをも想起させるダイアモンドダスト、北欧神話やトロール伝説がまざまざと甦る様相は、まさしくこの一枚のアルバムに集約されていると言っても過言ではあるまい。

名器のハモンドオルガンも然ることながらメロトロンにソリーナ、クラヴィネット、フェンダーローズといった鍵盤群に加え、リッケンバッカーにモーグのタウラスペダル、クラシカルなナイロン弦ギターに多種多彩なパーカッション、フルートといった、かつての70年代の黄金期よろしくと言わんばかりな雛形通りの編成に、たとえ時代錯誤だ逆行だと言われようとも徹頭徹尾に我を貫き通した真摯で高邁な姿勢に感服し、当時イタリアの新鋭だったカリオペすらも遥かに凌駕する位の大いなるプログレッシヴ再興への道筋を切り拓き、後々の70'sヴィンテージスタイル路線を継承したシンフォニックの先駆け的な礎として認知され、今日の21世紀プログレッシヴの一端へと繋がる架け橋的な指針となったのは最早言うには及ぶまい。
ちなみにLPとCD両方に共通している意匠だが、ジャケット裏面にフォトグラフされた北欧の深き森にポツンと佇みながらも威風堂々と鎮座したメロトロンが、何ともいえない渋さと味わい深さを醸し出しててデジタリィーな風潮一辺倒だった当時のプログレッシヴ業界への意味深な宣戦布告をも思わせるみたいで、実に痛快極まってて面白い。
余談ながらもバンド名をスウェーデン母国語通りの発音だとエングラゴーと呼称し、失礼ながらもリリース当初“シンフォニック組曲”なんて取って付けた様な安易な国内盤タイトルであったが、『Hybris』そのものをGoogle翻訳で直訳すると自信過剰という大いに的を得た意に苦笑することしきりである(後年ディスクユニオン/アルカンジェロから国内盤紙ジャケットCDでリイシューされた際は、“傲慢”なるタイトルに変更されたのも納得)。
デヴュー作が国内外で高い評価を得た事を追い風に、スウェーデン国内含む北欧圏でのライヴサーキットを始め、翌1993年にはアメリカはロサンゼルスで開催のProgfestからの招聘を受けフェス出演と同時進行で北米ツアーを敢行し聴衆から歓声と熱狂で迎えられ、アングラガルドは名実共に確固たる世界的な地位を得る事となる。
アメリカから帰国後の興奮冷めやらぬまま、次回作の為の準備と入念なるリハーサルに取りかかった彼等は、翌1994年デヴュー作での収益を活かして自らのバンドネームを冠したセルフレーベルを設立し、デヴュー作の延長線上ながらもストリングセクションをバックに配し、より以上にシリアスで内省的な路線となったヴォーカルレスの2作目『Epilog』という、文字通り“終焉”ともいうべき意味深なタイトルを引っ提げて、良くも悪くも国内外のプログレッシヴ・リスナー諸氏から大いに物議を醸す事となる。

セピアカラーに染まった鬱蒼とした森林をバックに、あたかもコクトー・ツインズやデッド・キャン・ダンスを擁する4ADレーベル風な意匠を含め、不気味な心霊写真をも想起させるフォトコラージュにやや作り込み過ぎという意見もある中、『Epilog』は前作以上のセールスを伸ばしつつある一方で、バンド内では(決して不協和音という訳ではないが)一種悟りの境地よろしくアングラガルドとして演れる事は概ね演り尽くしたといわんばかりに、メンバー各々が独自の方向性と歩みを見い出し、同年の北米Progfest出演を最後にバンドを解体する事を決意。
件のProgfestでのラストステージの模様を収録したレクイエム的な趣の『Buried Alive』と銘打ったライヴアルバムを2年後の1996年にリリースし、公言通り第一時期アングラガルドは静かに幕を下ろす事となる。
バンド解体後ヴォーカリストのTord Lindmanは、完全にロック畑から身を引いた形で映画音楽界に身を投じ現在もなおそのキャリアを継続。
その一方で残されたメンバー5人はそれぞれ独自の創作活動に勤しみつつも、2003年一時的ながらも期間限定でアングラガルドを再編し国内ツアー敢行で改めてその存在感たるものを実証するものの、再結成期間の終了と共に再び沈黙を守りつつ、ドラマーのMattias Olssonは旧知の間柄だったPar Lindh主宰のシンフォニック・プロジェクトへの参加を始め、スウェーデン国内外問わず世界を股に架けたプログレッシヴ系ミュージシャンとのジョイント・コラボやマテリアルでその名を馳せ現在もなお精力的に活動中。
キーボーダーのThomas Johnsonは自身の音楽プロジェクトに勤しむ一方で国内のポストロック・プロジェクトのアンバサダーとして多忙の日々を送っているとのこと。
ベーシストにしてバンドの中心人物でもあったJohan Högbergに至っては後年Johan Brandとしてアーティストネームを改名し、近年は自身が主宰するシンフォニック・プロジェクトALL TRAPS ON EARTHを結成、そのデヴュー作『A Drop Of Light』(Thomas Johnsonもキーボードで参加している)が大きな注目を集めたのも記憶に新しい。
個々での創作活動が表立って、肝心要なアングラガルド本隊の復帰が長年待たされ続けたものの、バンドを支持する大勢のファンやリスナーの呼び声に呼応するかの如く、予期せぬ吉報が突如舞い込んだ2012年、Johan Brand(Johan Högberg)を筆頭に、Jonas Engdegård、Mattias Olsson、Thomas Johnson、Anna Holmgrenのオリジナルメンバー5人の布陣で、実に18年ぶりとなる通算3作目の新作スタジオアルバム『Viljans Öga』(“ウィルの目”という意。邦題は「天眼」)という、Johan Brand自身の手によるアートワーク総じて実に彼等らしさが際立った不変で妥協無き傑作を世に送り出す事となる。

期待に違わぬ完全無欠に近い復活作を携えて、再び21世紀のプログレッシヴ・シーンに帰還した彼等であったが、翌2013年オリジナルメンバーのAnna HolmgrenとJohan Brand以外のメンバーをまたもや一新する事となる。
何とギタリスト兼ヴォーカリストとしてオリジナルメンバーだったTord Lindmanが再びバンドに復帰する事となり、新加入の2人のメンバーとしてキーボードにLinus Kåse、そしてドラマーにErik Hammarströmを迎えた更なる新布陣となり、同年の3月には遂に待望の初来日公演を果たし、その公演の模様が収録された2枚組ライヴ『Prog På Svenska - Live In Japan』を翌2014年にリリース。
更に翌2015年にはオリジナルギタリストのJonas Engdegårdが再び合流復帰し、改めて6人編成で臨んだノルウェー公演を収録したDVDとBlu-rayの2枚組豪華仕様の映像ソフト『Made In Norway』を2017年リリースし今日までに至っている。
アングラガルドが復活並び活動再開してから早8年が経過し、今や2020年のコロナ禍という未曾有の災厄が世界中に蔓延震撼している昨今であるが、そんな過酷な状況の21世紀のプログレッシヴ・シーンではあるものの、北欧のみならずイギリス始めイタリア、フランス、ドイツ、西欧、東欧、果ては北米大陸、南米諸国に極東ロシア、そして我が国日本もソーシャル・ディスタンスやオンライン・ネットワークを駆使しつつ、各々が距離を保ちながら新生活スタイルを取り入れた揺ぎ無い創作活動に勤しんでいるのが実に頼もしくも誇らしい。
おそらくは…遅かれ早かれこのコロナ禍の収束と共に、彼等アングラガルドも再び本腰を入れて新作の準備に取りかかる事だろうと私自身信じて疑わない。
その時こそコロナ禍を巡る様々な人の心の奥底に潜む暗部と闇を抉り出すようなテーマになるのか、或いは純粋なる文芸路線をテーマに旋律(戦慄)を謳い奏でるのかは、今はまだ皆目見当が付かないものの、必ずや聴衆とリスナーの期待を裏切らない(むしろ良い意味で期待を裏切る様な)心を鷲掴みにする様な野心に満ちた衝撃作を世に送り出してくれる事を願わんばかりである。
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