Monthly Prog Notes -December-
言わずもがな全世界規模でコロナ禍に見舞われた、(所謂悪い意味で)激動と不穏の2020年もあと数日で終わりを迎えますが、年の瀬の慌しいさ中皆様如何お過ごしでしょうか…。
今年最後の「Monthly Prog Notes」は、コロナ禍の悪しき影響でライヴ・公演活動も儘ならない…そんな過酷で暗澹たる一年に於いて、未曾有の疫病ごときに決して負けてなるかと言わんばかり、創作意欲と不撓不屈の精神で内なる芸術への情熱が発露した、まさしく一年を締め括るに相応しい文字通り強力3バンド揃い踏みのラインナップとなっております。
80年代初頭のフレンチ・シンフォニックを語る上で、2枚もの傑作・名作級アルバムを残し今なお根強い支持と信奉を得ている、類稀なる名匠にして伝説的存在だった“アジア・ミノール”が、遂に満を持して実に40年ぶり3作目に当たる新譜を引っ提げて21世紀プログレッシヴ・シーンに復活降臨しました。
名作2nd『Between Flesh And Divine』の流れを汲んだ、陰影を帯びた抒情性と鮮烈さは今新作でも健在で21世紀スタイルにアップ・トゥ・デイトされながらも、年輪と熟考を積み重ねたベテランならではの域を強く感じさせる最高傑作に仕上がっています。
イギリスからは2年前のセンセーショナルな再結成復活劇で、全世界から瞬く間に驚嘆と感動の喝采を浴びた名匠にして巨匠の“グリフォン”が通算7作目の新譜を携えて、再び私達の前に帰って参りました。
アートワークからも推察出来る様に、英国らしいウィットに富んだユーモアとジョークを背景に、時にトラディッショナル&フォーキー、時にクラシカル&リリカル・チェンバーにロックを楽しんでいる6人の楽師達が謳い奏でる、イギリスの片田舎と田園風景ののどかで和やかな日常風景が色鮮やかに脳裏に甦る事必至です。
日本の関西プログレッシヴ・シーンからは、メモリアルな趣と故人への追悼・哀悼を捧げる意味合いを含みながらも、決して一介の未発表アーカイヴ音源の発掘といった安っぽい回顧録では括り切れない、一時代を疾風の如く駆け抜けて行ったであろう…そんな生き様(生きた証)ともいうべき熱き思いが一枚に凝縮された、知る人ぞ知る幻にして伝説の匠“ペンタグラム”最初で最後の唯一作が堂々の登場です。
マハヴィシュヌ・オーケストラ、果てはブラッフォードにも相通ずるヘヴィで流麗、ロック・スピリッツとクロスオーヴァーなフィーリングが突出したプログ・ジャズロックに暫し酔いしれて頂けたら幸いです。
ちなみに今回取り挙げた3作品にあっては「幻想神秘音楽館 2020年プログレッシヴ・アワード」に於いて特別賞授与とさせて頂くことを御了承願います。
暮れの冬の寒空の下、時代と世紀を超越し自らの信念と芸術世界を貫き通したであろう…そんな巌と鋼をも彷彿とさせる一徹の精神を頑なに守り続ける楽師にして楽聖達が紡ぐ、一年の終焉を告げる交響詩に暫し身を委ねてみて下さい。
1.ASIA MINOR/Points Of Libration
(from FRANCE)


1.Deadline Of A Lifetime/2.In The Mist/
3.Crossing In Between/4.Oriental Game/
5.The Twister/6.Melancholia's Kingdom/
7.Urban Silk/8.Radyo Hatırası
1979年の記念すべきデヴュー作『Crossing The Line』、そして80年代初頭のユーロロックシーンに一石を投じ、名実ともに彼等の最高傑作にしてフレンチプログレッシヴ史に刻まれる名作名盤となった『Between Flesh And Divine』を経て、一身上の都合により残念ながらも惜しまれつつ解散への道を辿ったアジア・ミノールであるが、21世紀に入りギタリスト兼リーダーSetrak Bakirel主導の下、オリジナルメンバーでフルート兼ギタリストのEril Tekeli始め旧メンバーが再び集結し、度重なるライヴ活動とリハーサルを経て、待望の新譜リリースといったアナウンスメントが何度か囁かれつつも、その後のメンバー交代やら幾多もの頓挫といった紆余曲折を経て、40年目の今年漸く満を持して通算3作目待望の新譜が陽の目を見る事となった次第である。
2nd以降まるで何事も無かったかの様に、一切合切彼等の音楽性が変わる事無くオープニングが抒情的で厳かに奏でられるや否や、もう完全にそこはSetrakが思い描くアジア・ミノールの音空間の独壇場と言わんばかりである。
Setrakに呼応するかの様にErilのフルートの響鳴に、新たなるメンバーの好演とゲスト参加のバックボーカルにチェロ等との相乗効果で、機器のデジタル化といった21世紀スタイルにアップ・トゥ・デイトされた音作りながらも、彼等が得意とする陰影を帯びた抒情性とミスティックな調べ、SetrakとErilの出身国でもあるトルコの中東が持つエキゾチックでオリエンタルな佇まいが、一曲々々毎に深みと憂いを与えているのも特筆すべきであろう。
切手シート風なアートワーク始め、3曲目の意味深なタイトルに感慨深い思いに捉われるのも然る事ながら、トルコ語で歌われるノスタルジックなラストナンバーに至るまで、徹頭徹尾に泣き処と聴かせ処満載な昨今のコロナ禍に抗うかの如き気高くも威風堂々とした彼等の復活作に、私達は心から惜しみない拍手を贈ろうではないか。
Facebook Asia Minor
2.GRYPHON/Get Out Of My Father's Car!
(from U.K)


1.Get Out Of My Father's Car!/2.A Bit Of Music By Me/
3.Percy The Defective Perspective Detective/
4.Christina's Song/5.Suite For '68/
6.The Brief History Of A Bassoon/7.Forth Sahara/
8.Krum Dancing/9.A Stranger Kiss/
10.Normal Wisdom From The Swamp…(A Sonic Tonic)/
11.Parting Shot/12.Lament
2年前の劇的なる再結成復活劇を遂げて以降、その後の動向が世界中から注視されていたであろう、まさしく英国の誇る誉れ高き吟遊詩人達と言っても過言では無いグリフォン。
決してワンオフな乗りの再結成で終止する事無く、周囲からの期待を一身に受け並々ならぬ向上心と飽くなき創作意欲が高揚し、バンドとしての熱気とテンションが最高潮に達したと言わんばかりの今作通算7枚目の新譜であるが、かつてのトランスアトランティック時代の4作目『Raindance』にも相通ずるモダンな佇まいに加えて、英国らしいウィットに富んだユーモアと、かのモンティーパイソンばりのジョークを醸し出した雰囲気が、アートワーク総じて作品全体に横たわっており、陽気で愉快で痛快な秀逸なる完成度を有しているのが特筆すべきであろう。
時にフォーキーでトラディッショナルな側面と、時にクラシカルでリリカルチェンバーな側面とが絶妙に同居した良質なロック&ポップな作風なれども、結成以来脈々と流れ続ける従来通りのグリフォンサウンドは今作でも徹頭徹尾健在であり、彼等の幅広い音楽的素養とスキル、長きに亘る経験値の高さが十分過ぎる位に物語っており、改めてベテランらしい粋にして職人芸の域すらも禁じ得ない。
前作からキーボードとベースが交代し、更にはバンドの中心人物でもあるGraeme Taylorの娘でもあるClare Taylorがヴァイオリン兼キーボード、ヴォーカリストとして参加しており、バンド自体にとっても初の女性メンバーを迎えたという新機軸が更なる高評価が与えられること必至であろう。
アートワークで笑わせて、肝心要の楽曲で素晴らしき感動を呼ぶといったプログレッシヴ系バンドの持つ懐の広さや大いなる可能性をも示唆した極みともいうべき好例以外の何物でもあるまい。
Facebook Gryphon
3.PENTAGRAM/Engraved
(from JAPAN)


1.Aquarius/Pegasus (Live)/2.Slamtrap (Live)/
3.Emerald Forest (Live)/4.Kaamos (Live)/
5.Paradox (I'm Confused) (Live)/
6.Escape From The Blackhole (Live)/
7.Kaamos/8.Paradox (I'm Confused)/
9.Slamtrap/10.Escape From The Blackhole
関西(プログレッシヴ系をも内包した)ロックシーンに於いて今なお神格化され、名実ともに知る人ぞ知る伝説的な存在として、かのアイン・ソフ始めブラック・ペイジ、羅麗若と並んでいた(筈)であろう“五芒星”を意味するプログレッシヴ・ジャズロック期待の注目株だったペンタグラム。
「刻印」というタイトル通り本作品はこれが実質上、最初で最後の唯一作となるメモリアル的な趣に加えて、2018年1月に急逝したリーダー兼ギタリスト田村励武(つとむ)氏への追悼という意味合いが込められた、その秀でたギタリストとしての技量とコンポーズ能力、忘却の彼方へ埋もれさせるにはあまりも惜しまれる素晴らしい楽曲の数々を、何としてでも後世に残したいという有志によって企画された一枚であると言っても過言ではあるまい。
手前味噌ながら作品タイトル始め封入されたライナーにて間接的に関わった私自身でさえも、こうして故人の遺志に報いるお力添え(お手伝い)が出来たことに感慨無量の思いで胸や目頭が熱くなることしきりで、今はただ「こうして形に遺せた事を光栄に思います」と言わせて頂けたら幸いである。
マハヴィシュヌ・オーケストラ始めブラッフォードのソロワークをも彷彿とさせ、かの故小川文明氏のブラック・ペイジにも似通った、ロック寄りクロスオーヴァーな作風ながらも抒情的なリリシズムが要所々々で垣間見える、故田村氏の思い描いた音楽世界が鮮烈に表れた“理想郷”そのものと捉えても異論はあるまい。
2007年東京中野の沼袋サンクチュアリで収録されたライヴ音源に、2012年にスタジオで収録された音源が加えられた構成による充実した内容で、互いに聴き比べてみるのも然る事ながら、個人的には何度も繰り返し耳にする度に、もっと早く彼等を世に出すべきであったと心から悔やまれてならない…。
何よりもこの一枚こそが田村氏の生きた証でもあり、音楽に情熱を捧げた彼等の記録である事を決して忘れてはなるまい…。
改めてこの場をお借りして、天国の田村さんの御霊に哀悼の意を表し、慎んで御冥福をお祈り申し上げます。
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