Monthly Prog Notes -March-
3月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
未だ収束が遅々として進まないコロナ禍の真っ只中、緊急事態宣言が解除され不安要素を多々残しつつも、来たるべき新年度に向けて少しずつではありますが、観客の人数制限こそあれど音楽関連のフェスを始め演劇、スポーツ関連等といった様々なイヴェントが催され、かつての日常が再び戻りつつある昨今、永く凍てついた厳冬から漸く暖かな陽光の春が巡ってきた…そんな感すら覚えます。
桜舞い散る季節がまた再び巡ってきた、そんな明るい兆しの時節柄に相応しく今回も時代と世紀をも超越したプログレッシヴ・フィールドの現在(いま)を活き続ける匠達が出揃いました。
中米メキシコからシーンの大御所ともいうべき大ベテラン“チャック・ムール”の実に20年ぶり通算5作目の新譜がCD-Rという先行リリースという形で到着しました。
80年にデヴューを飾り牛歩的なマイペースながらも、堅実に自らの創作精神を保持し解散と再結成を経て、混迷する21世紀のさ中漸く遂に最高峰へと到達した極みすら窺わせる重厚感と壮麗さを纏った、実にラテンアメリカらしいエキゾチックさが垣間見える秀逸な一枚に仕上がってます。
スペインに隣接した南欧ポルトガルからも、大御所ベテランバンドのタントラから派生した別動隊的ニューカマーの“アートナット”が登場しました。
タントラの作風を汲みつつも現代にマッチした、泣きのギターワークに女性ヴォーカルを配したモダンでタイトなシンフォニック・ストリームは、凡そのメロディック・シンフォやネオ・プログレッシヴすらも凌駕する、70年代のイディオムと21世紀の手法と作風がハイブリッドに融合した新たなポルトガル・シンフォの曙を予感させる出来栄えです。
ドイツのシーンからも期待大を抱かせる強力ニューカマー“ダウネイション”の、セルフリリースながらも栄えあるデヴュー作が到着しました。
如何にもドイツ然としたサイケでアヴァンギャルドなアートワークに包まれた、フロイド始めクリムゾン、ジェネシス等から多大なる影響を受けた王道復古のヴィンテージスタイル・シンフォニックに、改めてジャーマン・プログレッシヴの懐の大きさに感服することしきりです。
春霞と風に舞う桜花に煙る麗らかな雰囲気に包まれながら、身も心も浮世から暫し遊離させて音楽の桃源郷で戯れつつ、楽師達が奏でる旋律の宴に酔いしれて下さい。
1.CHAC MOOL/2020
(from MEXICO)


1.Bajo El Silencio/2.Buscando/3.Dos De Dos/
4.Fuera De Lugar/5.A Donde Voy/6.Serpiente Emplumada/
7.Réquiem Para Las Masas/8.Viajero Del Espacio
80年代初頭、突如降って沸いたかの如く注目を集めた中南米のプログレッシヴ・シーン。
取り挙げられた当時ブラジルのバカマルテ、アルゼンチンのミアやクルーシスと並んでメキシコのシーンに於いてカハ・デ・パンドラと共に注目を集めたチャック・ムールであるが、1980年に大手フィリップスから半魚人風の妖しげなキャラクターがジャケットに描かれた『Nadie en Especial』でデヴューを飾り、以降81年と84年にアルバムをリリースし人知れず解散した後、プログレッシヴ・リヴァイヴァルという時代の追い風を受け2000年にオリジナルキーボーダーのCarlos AlvaradoとベーシストのArmando Suarezを中心に再結成され、そして今回実に20年ぶりの通算5枚目の新譜リリースと相なった次第である。
今作ではオリジナルメンバーはArmando Suarezのみで、新たな若い力と血を導入し若返りを図っただけに、ベテランと新メンバー互いの感性と技量による競合が最良の方向に結実し、ギャップジェネレーションやら長年のブランクすらも微塵にも感じられず、彼等の全作品中最もシンフォニック色が濃厚で高い完成度と内容の充実ぶりを物語る、21世紀のラテンアメリカ系久々に手放しで称賛に値する秀逸の一作と言えるだろう。
アートワークからも想起される、マヤ文明を有するお国柄が反映されたミスティックでシャーマニックな側面と原生林の息遣いにも似たネイチャーなイメージとが相まって、彼等が構築するヘヴィシンフォニックを更に際立たせ神秘的な彩りすら与えているかの様だ。
昨年末にCD-Rという形で先行リリースされた次第だが、近日中にボーナストラック2曲を収めた正式なCD化イシューで、今後更に耳にするリスナー諸氏が増えるに違いあるまい。
メキシコのシーンを飾ったイコノクラスタや、90年代末期の最高傑作コディス、果ては昨今のキャストの更に上をも行くであろう、紛れも無くメキシカン・シンフォニックの底力と実力が垣間見える快作(怪作)に他ならない。
Facebook Chac Mool
2.ARTNAT/The Mirror Effect
(from PORTUGAL)


1.Riding The Edge Of Darkness/2.Eternal Dance Of Love/
3.Return To OM/4.From Chaos To Beauty/
5.A View From Above/6.Cosmic Machinery/
7.The Mirror Effect/8.Celebration/
9.The Dramatic Beauty Of Life/10.The Complex Art Of Creation
11.Finale
ポルトガルのジェネシス・フォロワーの直系にして、ベテラン大御所クラスとしてその名が高く知られていたタントラ。
70年代初頭、ペトラス・カストラス始めジョセ・シッドを擁していたカルテット1111が政治的な弾圧を受け市場から没収された頃から較べると、70年代後期の第二世代でもあるタントラ活躍期ともなると隔世の感をも抱かせるのは言うに及ぶまい。
77年と78年にデヴュー作と2nd両方の好作品を発表し、81年に時流の波に乗ったかの様な『Humanoid Flesh』をリリース後一時的に解散するものの、21世紀の2002年ギタリスト兼フロントマンだったManuel Cardosoを中心に再結成され『Terra』と『Delirium』をリリースして今日までに至る次第であるが、開店休業状態のタントラとは別動隊の形でManuelと現キーボーダーを務めるGuilherme Da Luzによって結成されたアートナット、2021年満を持してのデヴュー作であるが、実質上タントラの新譜的なポジションと捉えても差し支えはあるまい。
美麗美声な女性ヴォーカリストを配し、タントラの系譜を汲みつつも神秘的でエキゾティック、尚且つ時代相応にハートフルで泣きのギターワークやメロトロン等が聴き処のモダンでタイトなシンフォニックスタイルを構築し、70年代イディオムと21世紀スタイルとが違和感無くハイブリッドに融合し、彼等のリスタートを飾るに相応しい必聴必至の渾身の一枚に仕上がっている。
あたかも東洋と西洋とのイマージュが混在したかの様な意匠も然る事ながら、アルバムタイトル通りにバンドネーミングのARTNATを逆さ読みするとTANTRAとなる言葉遊びの精神が洒落っ気があって何とも微笑ましい…。
Facebook Artnat
3.DAWNATION/The Mad Behind
(from GERMANY)


1.Don't Bother Me/2.Behind The Mad/3.The Hypocrite/
4.Cheap Pills/5.Lovely Child/6.Far Away
面妖にして奇妙キテレツ或いは摩訶不思議な印象を抱かせる意匠…さながらIQのデヴューアルバムのジャケットすらも連想させるアートワークに包まれた、ジャーマン・シンフォニック注目の新鋭ダウネイション、2021年満を持してのデヴュー作がお目見えと相成った。
もともと1998年に別バンド名義で活動しアルバムをリリースするものの惜しくも解散するといった憂き目に遭うが、近年主要のメンバーが再び集結し漸く今作までに辿り着いた…文字通り筋金入りのベテラン音楽経験者による、素人臭さ一切皆無でプロフェッショナルに徹した好作品であると言っても過言ではあるまい。
フロイド、クリムゾン、ジェネシスといったブリティッシュ・プログレッシヴ界の大御所達も然る事ながら、母国のビッグネーム級のエロイやグローブシュニットからの影響をも窺わせる、ジャケットのイメージとは相反するかの如くテクニカルでヘヴィな側面とクラシカルなセンスを纏った曲想とリリシズム溢れるメロディーライン、ハートフルなヴォーカルにエモーショナルで泣きの旋律を奏でる見事なギターワーク等が縦横無尽に繰り広げられるストレートなロックスピリッツに、いつの間にか知らず々々々の内に胸が熱くなり心打たれる事必至である。
21世紀バンドらしい感性と70年代ヴィンテージなスタイルとがコンバインした所謂王道復古タイプのシンフォニックではあるが、収録曲の端々で感じられるどこかある種の懐かしさすら味わえる稀有で不思議な魅力にも着目すべきであろう。
Facebook Dawnation
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