幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 AARDVARK

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 春霞と桜吹雪舞い散る4月もいよいよ終盤を迎え、季節はいつしか汗ばむ陽気の風薫る初夏が再び巡ってきました。

 相も変わらず新型コロナの猛威やら変異株の蔓延、片や一方で待望と不安の隣り合わせの如くワクチン接種の開始やらと、一喜一憂と共にまだまだ収束の見通しすら経たない長いトンネルの真っ只中のさ中、皆様如何お過ごしでしょうか…。
 今月の「一生逸品」は先月の「夢幻の楽師達」にて予告していた通り、2ヶ月間限定企画“春のブリティッシュ・ハードロック祭り”と銘打って、英国の翳りと陰影を帯びたハードロックにしてプログレッシヴな一枚物の傑作をお届けいたします。
 …とは言いつつも、ブリティッシュ・ハードロック系でいざ一枚物の最高作を選ぶともなると迷いが生じるのはさもありなん(苦笑)。
 伝説的名盤のT2始め、クォーターマスファジーダック…etc、etc、枚挙に暇が無いとはこの事で、我ながら自問自答しつつもなかなか収拾が付かなくなるものだから世話は無い(ちなみに余談というかネタバレみたいで恐縮であるが、前述に列挙したバンドは今後「一生逸品」に登場予定なので乞う御期待願いたい)。
 そんな折、昨年初秋まで「夢幻の楽師達」と「一生逸品」を週2の掲載スタイルという加筆と修正を施したセルフリメイクで綴ってきたのだが、実を言うと「一生逸品」にあってはまだ再登場・紹介しきれてなかったバンドが3~4バンド残していた事をふと思い出し、機会あらばいつかまた再編集して取り挙げようと考えていたもので、運良くというか今企画のタイミングが合致したお陰で今回めでたく御登場頂く事となった…大英帝国が醸し出す一種独特の湿った空気感に加え、70年代の光と影を象徴する唯一無比の存在と言っても過言では無い、ブリティッシュ・ロック黎明期の申し子にして伝説的名バンドの称号を欲しいままにしている“アードバーク”に今再び栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

AARDVARK/Aardvark(1970)
  1.Copper Sunset
  2.Very Nice Of You To Call
  3.Many Things To Do
  4.The Green Cap
  5.I Can't Stop
  6.The Outing‐Yes
  7.Once Upon A Hill
  8.Put That In Your Pipe And Smoke It
  
  David Skillin:Vo
  Steve Milliner:Key, Per, Recorder
  Stan Aldous:B
  Frank Clark:Ds, Per

 言うに及ばず60年代全般のブリティッシュ・ロックシーンは、全世界を席巻したビートルズとローリング・ストーンズといった御大を筆頭に、それに追随するかの様にザ・フー、クリーム、果てはヤードバーズ、ナイスをも輩出し、サイケデリック・ムーヴメントの盛衰、ブルースの台頭といった様々な試行錯誤を経て、60年代後期~70年代前半にかけてのアートロック→ニューロック→プログレッシヴへ推移していったと言っても過言ではない。
 1967年、ビートルズ『サージャント・ペパーズ…』である程度確立された方法論から派生し、フロイドそしてムーディーズ(AVではないからね、念の為言っておくけど)の同時期デヴューを皮切りに、翌年には雨後の筍の如くパープル、ツェッペリンそしてイエスが登場し、クリムゾン、キャラヴァン、EL&P、ジェネシス…果てはGG、BJH、サバス、ユーライア・ヒープと、まさしくハードロック云々やらプログレ云々やらといった壁や境界線の無い、文字通りブリティッシュ・ロック百花繚乱といった夢の様相さながらと言えるだろう。
 この辺りに関しては、過去に何度か様々な各方面やら文献・雑誌面にて伊藤政則氏や渋谷陽一氏、たかみひろし氏といった大御所のロック系ライターの先生方が綴っておられるので、当ブログでは敢えて先人の文献と重複するのだけは避けるとして、今回は本編の主人公であるアードバークに絞って綴っていきたい意向である(苦笑)。
 いずれにせよ先人に倣ってブリティッシュ・ロック云々を紐解くなんて大それた事を当ブログでやろうものなら、それこそ膨大な資料や文献と首っ引きで対峙しなければならないだろうから、当然の如く時間もスペースも足りないだろうしね…。

 1968年、サイケデリック・ムーヴメントがある程度収束した後、形を変えてサイケの名残を留めつつ勃発したのが俗に言うブリティッシュ・アンダーグラウンドと言えるだろう。
 グレッグ・レイクが一時期在籍していたゴッズ始め、ブリティッシュ・プログレファンなら御馴染みのハイ・タイド、セカンド・ハンズ、アルカディウム、そして今回の主人公アードヴァークが主だった顕著な存在と言えるだろう。
 アードヴァークのバイオグラフィーで判明している事といえば、1967年に一介の事務屋の若僧だったDavid Skillinがサラリーマン生活を辞めてバンド活動を始めた事が契機になっている。
 David自身の人伝とコネを通じて最初のメンバーとして加わったのは、当時幾多ものガレージビート系バンドに参加していたベーシストStan Aldous。
 そして69年には当時まだ若干17歳の若者で長年様々な無名バンドで経験を積んできたドラマーFrank Clarkが加入し、同時期にデッカ/デラムレーベルに所属していたBLACK CAT BONESのキーボーダーSteve Millinerが合流してアードバークは誕生した。

 バンド結成から程無くして彼等はデッカ/デラムレーベルと契約し、多方面で様々なギグをこなす一方曲作りとリハーサルを積み重ね、デッカレーベルの名匠とも言えるデヴィッド・ヒッチコックをプロデューサーに迎えてレコーディングに取りかかる。
 本作品に於いては意外と思えるがヴォーカリストのDavidが作詞作曲を担当し(7曲目の“Once Upon A Hill”のみベースのStanのペンによるもの)、Steveを始めとするメンバーがサウンドアイディアと曲全体の肉付けを手掛けるといった手法で製作されており、言わずもがな…ここでは何と言ってもハモンドオルガンをメインとした重厚で荒々しくもブリティッシュ然とした気品と壮麗さが際立っているキーボーダーのSteveの手腕に拠るところが大きい。
 ヘヴィでブルーズィーな佇まいの中に、幼少期から培われたクラシックの素養が存分に活かされたオルガンワークは同時期のレア・バード、インディアン・サマーとはまたひと味もふた味も違ったブリティッシュならではの時代の活気と醍醐味が存分に堪能出来て、決して二流バンドとは侮れない気概と力強さが全曲の端々に漲っているのがバンドの身上であろう。
          
 ちなみにバンドネーミングの意は「ツチブタ」で、メルヘンチックな童話の絵本の表紙を思わせるジャケットの意匠に描かれた通り、ツチブタ君をペットに森を散歩する男爵の人形が何とも言えないユーモラスさを醸し出していて、硬質なオルガンハードロックの感触とは相反するかのイメージとギャップの相違が楽しめるのもまた一興と言えるだろう。
          
 時代の“音”の流れ…先見の明に呼応する形で設立されたデラム/デッカのnovaシリーズの17番目として1970年にリリースされた彼等のデヴュー作は、ファズを利かせた歪んだハモンドがハード且つ攻撃的に疾走し、混沌としたグルーヴ感を伴いつつパープルの“ハイウェイスター”より以前にドライヴィング感満載な冒頭1曲目で幕を開ける。
 ハードにシャウトすること無く重量感にも欠けた、やや線が細く淡々と畳み掛ける様なソフトな印象の歌唱法ながらも、ヘヴィで硬質なサウンドに彩りを与えるという意味合いでは好感が持てる。
 1曲目の終盤近くドリーミーに奏でられるチェレステがラジオのスイッチを切られるかの如く寸断されたSEと共に、間髪入れずジャズィーな曲調へと展開するピアノが印象的なバラード調が何とも渋い2曲目には彼等のまた違った側面が垣間見えて面白い。
 ブリティッシュオルガンロックの面目躍如といった感の3曲目、ナイスやイタリアの初期トリップを思わせるオルガンワークにサイケな名残を思わせるヴォーカルとの対比が絶妙な4曲目、カトリシズムで教会音楽風なハモンドの残響に導かれ徐々にブギーでファンキーに転調しヘヴィロックへと見事に繋がる5曲目にあっては、プログレ黎明期のもう何でもありみたいな時代の空気感がぷんぷん漂ってて、70年当時の新たなる時代への希求とでも言うのか…改めて若さ故の情熱の特権みたいな風潮に憧憬の念は隠せない。
          
 旧アナログ盤B面にあたる6~8曲目にあってはトータルナンバーな組曲形式に近いサウンドコンセプトに基づいている。
 ジャムセッション調のストレートなロックンロールからサイケでアシッド感満載なサウンドコラージュへと展開する様相が、フロイドの“神秘”やドイツのネクターの1stをも彷彿とさせる9分超の唯一長尺な実験色濃い6曲目も聴き処と言えるだろう。乱暴な言い方で恐縮だが、この曲目当てで彼等の唯一作に接するのも買得と言えよう。
 6曲目のフェイドアウトに被さるかの様に感傷的なチェレステが奏でられる7曲目にあっては、私自身イタリアのイル・パエーゼ・ディ・バロッキの残像と面影が脳裏を過ぎる思いにすらなる。
 Steveの吹くリコーダーがブリティッシュながらもイタリアンな感性に近いと思うのはやや考え過ぎだろうか…。
 この7曲目のみベースのStanのペンに拠るものであるのも実に意外といえば意外である。
 7曲目の終盤に被さりつつ、もう如何にもユーロ・ロック然とした荘厳で重厚なハモンドが高らかに鳴り響き、炎の如く吹き上がるプログレッシヴ・マインド全開の、6曲目に次いで長尺の唯一インストゥルメンタルナンバーのラスト8曲目の怒涛さながらの圧巻ぶりには聴き手である私自身も筆舌し難いのが正直なところで、かのレア・バードの大作組曲“Flight”に匹敵すると言っても過言ではあるまい。
          
 駆け足ペースながらアードバークに触れてきたものの、1970年という時代背景を味方に、これ程までに高レベルな完成度を誇るデヴューを飾ったにも拘らず、たった一枚の唯一作を遺してバンドは解散し、潔く(!?)表舞台から去っていった彼等のその後の消息にあっては、後年メロディーメーカーやプロデュース業で実績を残すDavid Skillinを除いて現時点に於いて全く解らずじまいといったところである。
 仮に現在のFacebookというツールを駆使して、かつてのメンバーと知り合えたとしても、多分彼等とてそう多くは語らないだろうと思うし、仮に語ったところで“ああ…若い時分そんなこともあったね”とか“もうあれは青春の思い出でしかないから”と一笑に付されるだけであろう。
 近年シーンの第一線に復帰したブラム・ストーカーの様に、いきなり奇跡の復活よろしくとばかりにはいかないであろうと苦笑しつつも“いや!もしかしたら…”といった僅かばかりな妄想にも似た期待を持っていると言ったら、このブログを御覧になっている方々から失笑されるのがオチであろうか…。
          

 昨今の所謂21世紀プログレッシヴ・シーンに於いて、世界各国の古今東西を問わず今でも根強く70年代の空気と雰囲気の精神を受け継いだ(精神に倣ったと言った方が正しいか)、ヴィンテージスタイルへの王道復古…或いはリスペクト・回帰型プログレッシヴが続々と輩出されているが、そんな若い世代が台頭しつつある現代(いま)だからこそ、どうか改めて今一度英国の香りを纏ったアードバークの様なプログレ黎明期の縦横無尽な暴れっぷりを耳と頭で体感して欲しいと願わんばかりである。
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Zen

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