Monthly Prog Notes -July-
概ね2ヶ月間の休載期間を経て「Monthly Prog Notes」待望の再開と相成りました。
これからも引き続き…奇数月の「夢幻の楽師達」、偶数月の「一生逸品」と同様、御愛顧と御支援を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
本来であれば毎月単位に作品を3枚セレクトしてレヴューを綴っている旨ですが、今回は再開を祝す意味合いと共に、年末恒例の“Progressive Award”を占う前哨戦という含みを持たせて休載期間中にセレクトした「2021年プログレッシヴ10選候補」並び「2021年プログレッシヴ新人部門候補」を主眼に、今月と来月の2回に亘ってお送りする次第です。
今回7月の「Monthly Prog Notes」は休載期間中に厳選した「2021年プログレッシヴ10選候補」にノミネートされた3作品を選出いたしました。
日本からは、かつてVitalレーベルよりCD‐R形式でデヴュー作と2作目とをリリースし、一時的な活動休止から新布陣による活動再開、そして英字綴りのバンド改名を経て、この度漸くめでたくある意味正式に再々スタートを切る事となった、並々ならぬフォーカス愛に満ち溢れた“キクラテメンシス”のフルレングスアルバムがお目見えとなりました。
結成当初からのオリジナルメンバー国分巧を中心に、御大Thijs Van Leerを敬愛して止まない鈴木和美のフルートを大々的にフィーチャリングした、リリシズムと欧州浪漫溢れるサウンドスタイルは日本のプログレッシヴがワールドワイドな視野で今まで以上に遜色無く堂々と亘り合えるであろう…そんなハイクオリティーなテンションと類稀なる非凡な音楽センスに誇らしさすら覚える、必聴必至の快作品にして好作品に仕上がってます。
フランスからも昨年のアジア・ミノールの復活作に続けとばかり、70年代フレンチ・シンフォニックの誉れ高き栄光の抒情派“タイ・フォン”が、前作『Return Of The Samurai』から実に8年ぶり通算6作目待望の新作を引っ提げて、21世紀のシーンに再び帰ってまいりました。
荒々しくも不穏な雰囲気を湛えたドラゴンが描かれた意味深なアートワークとは真逆に、彼等の全ディスコグラフィー史上…最大級に感動に打ち震えるくらいのドラマティックさとシンフォニーが響鳴する、まさしく瞬き厳禁な刮目必至の最高傑作となってます。
イタリアからも70年代ヴィンテージ・ヘヴィプログレッシヴの王道を脈々と継承した“フフルン”5年ぶりの2ndが到着しました。
イタリアン・ロックならではの何とも面妖で不気味なアートワークをそのまま音に転化したかの如く、かのRRR始めムゼオやビリエットばりの意味深で重々しく且つダークでシニカルな作風となった、名実共に混迷する21世紀現代を投影した聴く者の心を抉るであろう快作(怪作)を存分に御堪能頂けます…。
昨今盛り上がっている東京五輪に負けないくらいの熱狂と感動そして興奮を、真夏の世の夢の如く文月の宴を謳い奏でる楽師達の調べに暫し身を委ねて頂けたらと思います。
1.KIKU LATTE/「小さな物語」~Stories~
(from JAPAN)


1.Prologue/2.Puppets/
3.朝霧につつまれて(Blanketed In Morning Fog)/
4.The Maze(迷路)/5.小さな物語(My Story)/
6.『組曲 遭遇』(The Encounter Suite)/
Part01「誕生」(Birth)
Part02「動き」(Move)
Part03「迷い」(Astray)
Part04「洞察」(Insight)
7.Astral Wind/8.Turquoise Wind/9.Muzaki/
10.House Of The King(FOCUS Cover)
2006年に国分巧を中心にフルート奏者深沢晴奈、ドラマー野口雅彦のトリオ編成で結成され、今は無きインディーズレーベルVitalより2007年にデモ形式のCD‐R『Another Triangle』でデヴューを飾り、2009年にセカンドデモ『Affine Space』を経て、一時的な活動休止・解体を経て2019年現メンバーによる5人編成という布陣で再結成され(ややデモスタイルに近い)復活作『Fantasia / 碧の幻想曲』を経て、更なる刷新でバンドネーミングの英字綴りCICHLA TEMENSISからKIKU LATTEへとリニューアルし、実質上の再々デヴューと相成ったキクラテメンシスの完全なるフルレングス作品。
前出のVitalレーベル時代からジェスロ・タルやフォーカス影響下のフルートを大々的にフィーチャリングした、まさしく素人臭さ一切皆無の曲構成とスキルの高さを含めた完成度に定評のあった彼等が、鈴木和美という才気溢れるフルーティストをフロントメンバーに擁し再結成を図り、ここにこうして今までの思いの丈と自らの理想形を見事に確立させた記念(祈念)すべき到達点にして本当のスタートラインとなったであろう、日本のプログレッシヴ・ロック史に新たな一頁を刻んだメモリアルな趣すら想起させる傑作であろう。
関東圏で同系統のフルートを多用したTEEも然る事ながら、同じフォーカス影響下のティクセルとはまたひと味ふた味違ったサウンドアプローチを試みており、強いて喩えればかの『Mother Focus』に近いセンスを有した流麗で繊細、尚且つ時折インテリジェントでクールな側面すらも垣間見せる辺りが彼等の身上と言えるのだろう。
御大フォーカスのカヴァー曲をラストに持ってくる心憎さも実に清々しくて、改めて幸先の良い再々出発となった彼等に心から拍手を贈らねばなるまい…心から素敵な一枚を有り難う!
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2.TAÏ PHONG/Dragons Of The 7th Seas
(from FRANCE)


1.Dragon/2.Close My Eyes/3.Rise Above The Wind/
4.Flow/5.The Boy In the Storm/6.Segolene/
7.Sabishii/8.Summer Nights/9.Expelled From Paradise/
10.Melody(Bonus Track)/11.T'oublierai Jamais(Bonus Track)
70年代フレンチ・シンフォニックの伝説、今ここに再び降臨!…そんな大仰なキャッチフレーズが似つかわしいくらいの出来事と言わんばかりな、大御所タイ・フォンの帰還復帰となった名実共に彼等の全作品中に於いて最高傑作に成り得たと言っても過言ではあるまい。
トレードマークにしてシンボルキャラクターでもあった抒情と幻想世界に君臨する鎧武者から今作は一転して、不穏な雰囲気漂う大海の荒ぶる神龍(ドラゴン)が描かれた意味深なアートワークと相まって、ややもすれば畏怖の象徴ともいうべき東洋と西洋の龍が融合したプログメタルなセンスにも近い印象を抱いてしまいそうだが、そんな懐疑的な不安とは真逆に収録された全曲とも従来通りのタイ・フォンワールド全開なリリシズムとロマンティックで且つドラマティックさが存分に際立った、雄大で荘厳なシンフォニーが繰り広げられている。
オープニングの主題曲から10分超の大作で怒涛の如く雪崩れ込むキーボードオーケストレーションの波濤に圧倒され、初来日公演で東京を散策した際の思い出が織り込まれた7曲目(ドキュメンタリータッチな渋谷の雑踏がリアル!)のユニークさも然ることながら、かつてのデヴュー作や2作目『Windows』をも彷彿とさせる作風とメロディーラインの流れに、原点回帰と初心に立ち返ったかの様な佇まいに21世紀という時代相応のスタイルとがハイブリッドに違和感無く融合した、珠玉で会心の一枚ここにありと言わんばかりである。
名曲「Sister Jane」の原曲ともなったボーナストラック収録「Melody」の復刻も嬉しい限りである。
コロナ禍蔓延による不安と混迷の今日に於いて、心救われる素敵な贈り物となった今作の一枚に改めて感謝の意を伝えたい。
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3.FUFLUNS/Refusés
(from ITALY)


1.Sierra Leone/2.Martirio D'un Falegname/
3.Canzone Per Iris/4.Desaparecido Italiano/
5.Il Tuffatore Dello Stari Most/6.Rosa Del Deserto/
7.Blu Oltremare/8.Telefonata A Putin/
9.Canto Dei Bambini Senza Voce
もう如何にもといった感の、70年代イタリアン・ヘヴィプログレッシヴの佇まいと趣を踏襲した面妖にして不気味な意匠と楽曲・作風に、イタリアンを愛聴して止まないリスナー諸氏は思わず仰け反ること必至であろう(苦笑)。
2016年に案山子をモチーフとした怪奇趣味的なデヴューを飾った、古代エトルリア神話の生命、幸福、成長を司る神をバンド名に冠したフフルン。
前デヴュー作から実に5年ぶりの2nd本作では、ブロンズ象もしくは彫像のトルソーをモチーフに混迷と不安に満ちた今世紀の世界的規模に蔓延するコロナ禍を含めた諸問題を掲げた、重々しく暗く深いの文字通り三拍子揃ったイタリアン・ロック王道直伝の、かつてのRRR始めムゼオやビリエットばりの土着的でドロドロと混沌感満載な秀逸なる快作(怪作)に仕上がっている。
ギタリストの交代こそあれど基本的な作風の流れやコンセプトに変化は無く、前作以上に邪悪な闇のエナジーと陽光の眩さによる二律背反なせめぎ合いに加えて、哀愁と郷愁、情熱と虚無感との交錯が複雑怪奇に絡み合い、筆舌尽くし難い独特な空気感を醸し出している (余談ながらもCDプレイヤーに乗せた冒頭1分近くの無音状態にプレスミスかと思わせる悪戯心は、流石にやられた!感は否めない)。
全般に亘ってオルガンやメロトロンといったヴィンテージ鍵盤系の大活躍も然ることながら、時折ハッとさせられる心の琴線に触れるアコギの効果的な調べに目頭が熱くなる思いですらある。
イル・バシオ・デッラ・メデューサのヴォーカリストSimone Cecchini始め、ティリオンのキーボーダーAlfio Costaによる、半ば別動隊的な感を抱かせるバンドから数年を経て更なるステップアップを図った末の大化けはまさしく驚嘆と驚愕に値するクオリティーを誇っている。
イタリアン・ロック=ヘヴィで邪悪なイメージは陳腐でもう飽き飽きしたと否定的な輩もいるが、それでもやはりそんな暗闇の混沌としたエナジーといった謳い文句に惹かれ、魔薬の如く魅入られてしまう…イタリア人によるイタリア語伝統のイタリアン・ロックの深みと極みを追い求めてしまうのはいた仕方あるまい。
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