Monthly Prog Notes -August-
8月終盤の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
例年の猛酷暑に加えて、西日本に甚大な被害をもたらした大雨の脅威という不安定な空模様に見舞われた今夏ですが、昨今厳しい残暑ながらも日に々々微かな秋の気配が感じられる様になりました。
芸術の秋到来にはまだまだ程遠いものの、晩夏の熱気に負けない位…プログレッシヴの秋本番に相応しいラインナップが今回も出揃いました。
今回は先月と同様、2ヶ月間の休載期間含め現時点に於いて、年末恒例“Progressive Award”の「2021年プログレッシヴ新人部門候補」を踏まえた前哨戦的な意味合いを込めて厳選したニューカマー3バンドをノミネートいたしました。
21世紀アメリカン・プログレッシヴから、盛況著しいシーンの底力と実力が垣間見える決定打と言っても過言では無い“ファー・クライ”の堂々たるデヴュー作は、まさしく徹頭徹尾お世辞抜きに圧巻の一語に尽きるでしょう。
クリムゾン、ジェネシス、イエスといった流れを汲みつつもカンサス、スポックス・ビアードからの系譜すらも窺い知れる、最高にして最強プログレッシヴを愛して止まないメンツが精魂注いで作り上げたであろう、コロナ禍に喘ぐ全世界のプログレッシヴ・リスナーに捧げる最高の贈り物に他なりません。
日本の…関西のシーンからも久々に聴衆の心を鷲掴みにする新進気鋭のニューカマー“セント・クレア”が彗星の如くデヴューを飾りました。
初期ジェネシスの持つシアトリカルさに、イエス風なシンフォニーがコンバインした独特の世界観とロック・ミュージカル風な謡い回しと歌唱法は、長きに亘るジャパニーズ・プログレッシヴの歴史に於いてありそうで無かった方向性すら示唆する新たなターニング・ポイントとなること必至です。
イタリアのシーンからは長らく待ち望んだとも言える、これぞ生粋にして正統派イタリアン・ロックの王道を地で行く期待の新星“ホラ・プリマ”が、リスナー諸氏の期待を決して裏切らない素晴らしいデヴュー作を引っ提げて満を持しての登場と相成りました。
大御所PFMや伝説のロカンダ・デッレ・ファーテにも相通ずる、イタリアのリリシズムと荘厳なクラシカル・シンフォニーの波と音の壁に、聴き手側の誰しもが筆舌し難い感動に打ち震える事でしょう。
狂おしい暑さの夏から静寂と寂寥感を帯びた抒情的な秋へ…季節の移り変わりを高らかに謳い告げる浪漫の楽師達が紡ぐ交響詩篇に耳を傾けながら、コロナ禍という悲しくも殺伐とした現実から暫し遊離して渇いた心を潤して頂けたら幸いです。
1.THE FAR CRY/If Only…
(from U.S.A)


1.The Mask Of Deception/2.Programophone/
3.Winterlude/4.Simple Pleasures/
5.The Missing Floor/6.Winterlude Waning/
7.If Only/8.Dream Dancer
1991年のアメリカン・プログレッシヴ復興期に鳴り物入りでデヴューを飾ったホールディング・パターンから、元ドラマーのRobert HutchinsonとゲストヴォーカリストだったJeff Brewerを中心に結成されたファー・クライ、2021年堂々たるデヴュー作が満を持しての登場と相成った。
作風としてはかつてのホールディング・パターン時代の名残を留めつつも、当時では出来なかったインタープレイや多種多様な試みといった思いの丈がこれでもかと言わんばかりに凝縮されており、
後期クリムゾン影響下のギターリフ始め、初期ジェネシスのメロトロン風を彷彿させるキーボードにイエス調の高揚感溢れるサウンドワーク、果てはカンサスやイーソス、スポックス・ビアードからの系譜をも想起させるメロディーラインやダイナミズムをも内包した、今作のアートワーク総じてアメリカン・プログレッシヴの懐の広さ、北米大陸の持つネイチャーな神秘性とミスティックな感性が醸し出す大らかでたおやかなイマジネーションが交錯する、名実共に21世紀北米シーンの底知れぬ実力が垣間見えるエポックメイキングな趣を湛えた最高最強の一枚に仕上がっていると言っても過言ではあるまい。
世界的なコロナ禍真っ只中に於いて、無論ソーシャルディスタンスを遵守しつつリモートワークといった手法を多々用いながらも、ここまでハイグレードで且つハイテンション極まりない傑作を成し遂げた彼等の心意気とプライドに、今はただ心から祝福の凱歌と拍手を贈りたい一心ですらある。
Facebook The Far Cry
2.ST.CLAIRE/Claire's Fantasy
(from JAPAN)


1.夜明け~Dawning~/2.心の海~A Sea Within~/
3.彷徨い人~Striders~/4.前へ~Hand In Hand~/
5.クレアの歌~Claire's Song~/6.光差す場所~The Place~/
7.パンドラ~PANDORA~
ジャパニーズ・プログレッシヴのもう一つの聖地…関西のシーンから、2年前の神戸期待の新星アイヴォリー・タワーに引き続き、モネの「睡蓮」を思わせる意匠に包まれ大阪から21世紀ジャパニーズ・プログレッシヴの新たな担い手と為るべく彗星の如くデヴューを飾ったセント・クレア。
女性3名(Vo,Key,Violin)と男性3名(G,B,Ds)による、プログレッシヴを愛して止まない方々なら思わず心惹かれるであろう6人編成のラインナップで、音楽的リーダー兼コンポーザーの安斎ゆう子の繊細で且つ派手さは無いが心の琴線に触れるリリカルでファンタジックな物語を綴るキーボードワークに、シアトリカルでミュージカルな趣を高らかに謳い上げる中田幾子の歌唱力、緩急自在で時に詩情豊かに時に力強くクラシカル&シンフォニーを奏でるヴァイオリニスト富永彩香の秀逸な力量も然る事ながら、ギタリスト森口英次、リズム隊の藤井博章と疋田砂生の好演も実に素晴らしい。
かつてのページェント或いは現在の浪漫座とはまたひと味ふた味も違う方法論と音楽性を確立させながらも、決して安易に関西主流お得意なプログレハードな路線に進むこと無く、あくまで極めて純粋且つ生粋なる衝動で欧米のプログレッシヴへの日本的な回答を導き出したであろう、センシュアルで文学的、一遍の詩集に触れたかの様な清廉さに心打たれる珠玉の一枚でもある。
ちなみにラスト終盤辺りの流れでイエスの「悟りの境地」、或いはセバスチャン・ハーディーの「哀愁の南十字星」を連想したのは私だけだろうか(苦笑)。
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3.HORA PRIMA/L'uomo Delle Genti
(from ITALY)


1.1087/2.Il Folle Miraggio/3.Le Mie Figlie/
4.La Locanda Nella Notte/5.La Nostra Festa/6.U Sand Nèste
ここ数年もの間、良し悪しを抜きに英語のヴォーカルやインターナショナルに向けた無国籍な作風がもてはやされる様になった21世紀イタリアン・ロックシーンではあるが、意固地というか頑固者というか頭が堅い私の様な者からすれば、やはり往年の70年代ヴィンテージな流れを汲んだ、本来のイタリア語で歌うお国柄の匂いと香りをふんだんに漂わせた作風に、どうしても思いと憧憬を寄せてしまうのはいた仕方あるまい…。
幾分神秘的で一種の教義めいた様な星々のトライアングルという意味深なアートワークに包まれた、21世紀イタリアン期待の新星ホラ・プリマのデヴュー作は、久しく忘れかけていたイタリアン・ロックのリリシズムと感動、果てはバロック音楽というバックボーンが再び呼び覚まされた、そんな懐旧な思いに捉われてしまう感動的で鮮烈な魅力を放つ一枚である。
伊語のヴォーカルも然ることながら、ツインギターに女性ベーシスト、キーボードにドラムの基本的な5人編成に加えてヴァイオリンとフルートをゲストに迎えた、大御所のPFMや今なお神格化されているロカンダ・デッレ・ファーテ影響下を窺わせる劇的なシンフォニーに圧倒され、兎にも角にもキーボーダーとギタリストの音楽スキルの高さに加えアレンジャーとしての力量の上手さに感服することしきりである。
邪悪なヘヴィ・プログレッシヴとは完全に真逆な、神々しくも眩い温もりを覚えつつ…あたかも昨今のコロナ禍を救済するかの様な慈悲の精神に満ち溢れた、素晴らしくも愛ある作品に他ならない。
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