幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 AFFINITY

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 8月最終週の「一生逸品」は、先日のクレシダと共にヴァーティゴレーベルを代表する名作・名盤(ジャケットアートが共にキーフであるという共通点をも含め)にして、時代と世紀を越えて70年代ブリティッシュ・アンダーグラウンドシーンの生ける伝説、そして象徴と言っても過言ではない…ロック、ポップス、ジャズといったジャンルの垣根を越え、21世紀の今もなお聴き手を魅了し愛して止まないであろう、そんな燻し銀の如き名匠“アフィニティー”を取り挙げてみたいと思います。

AFFINITY/Affinity(1970)
  1.I Am And So Are You
  2.Night Flight
  3.I Wonder If I'll Care As Much
  4.Mr Joy
  5.Three Sisters
  6.Coconut Grove
  7.All Along The Watchtower
  
  Linda Hoyle:Vo
  Lynton Naiff:Key
  Mike Jopp:G, Per
  Mo Foster:B, Per
  Grant Serpell:Ds, Per

 もう何年か前になるだろうか…。マーキー社が別冊刊で出版した『UKプログレッシヴ・ロックの70年代』にて、かのピンク・フロイドの『神秘』について触れていた文中、“フロイドの曲は誰にもコピー出来ない。やっても無駄である。雰囲気まで取り込む事が出来ないのだ”の一節に、成る程…これは実に的を得た言い方であると一人感心した事を記憶している。
 フロイドのみならず、往年の…70年代の名バンドの曲を、今も昔も多くのアマチュア・ミュージシャン達は畏敬の念を込めてリスペクトするかの如くコピーし、ある者はそこからオリジナリティーを確立し成功への階段を駆け上り、またある者は現実の壁との狭間にぶち当たり挫折し音楽での生活を断念する…といった二極に分かれる様相を呈しているといったところであろう。
 往年の名曲は演ろうと思えば一生懸命練習して誰でもコピー出来るのは当たり前であるが、先にも触れた当時の雰囲気…或いは時代の空気とでもいうのだろうか、古色蒼然としたイマージュばかりは、残念な事にそっくりそのまま昔の様に再現する事が出来ないのもまた然りである。
 フロイドの『神秘』に『原子心母』、アメリカのイッツ・ア・ビューティフル・デイ、フランスのサンドローズ、オランダのアース&ファイアーの『アムステルダムの少年兵』、そして日本のエイプリルフールとフード・ブレイン…等の名作は、曲がコピー出来てもあの独特な時代の空気・雰囲気だけはどうしても真似出来ないのが惜しむらくである。

 話の前置きが長くなったが、そんな70年代という一種独特な時代の空気と雰囲気を纏ったブリティッシュ・ロック黎明期の屈指の名作にして傑作でもあるアフィニティーが遺した唯一の作品は、時代と世紀を超えて現在も尚多くの愛好者やブリティッシュ・ファンから絶大な支持を得ている事に最早異論を唱える者はあるまい。
 ヒプノシスが手掛けたフロイドの『原子心母』の牛には及ばないものの、ブリティッシュ・ロックのジャケットアートで一時代を築いたキーフことマーカス・キーフが手掛けた…日本の番傘を手にし湖畔に独り佇む淑女(もしかしてVoのLinda Hoyleがモデル!?)というヴィジュアルは、オリエンタルなエキゾチックさと見果てぬジャポニズムへの憧憬と相まって、イギリスという湿り気を帯びた風土と空気が溶け合った不思議さを醸し出しているジャケットに、過去どれだけ多くのブリティッシュ・ロックファンが惹きつけられ魅せられた事だろうか。
 否…そういう私自身ですらも、ジャケットデザインの番傘をさした麗しき彼女にいつしか恋焦がれていたのかもしれない。

 数年前イギリスのエンジェル・エアー・レーベルからボーナストラック入りで復刻されたデヴュー作のインナーで、詳細な彼等のバイオグラフィーが改めて公開されたが、私自身の拙い語学力で部分々々掻い摘んで直訳するところ…1960年代初頭、サセックス州の工科系を専攻する当時16歳のティーンエイジャーだったLynton NaiffとGrant Serpellを中心に、アフィニティーの母体ともいえるジャズに触発されたポップス系バンドからスタートする。
 一年後オリジナルメンバーだったベーシストが抜け同じ学校の生徒だったMo Fosterが加入。程無くしてMoの友人で別のポップス系バンドのギタリストだったMike Joppが加入し、学生バンドとして長年の地道な活動を経て、イギリス国内のパブやクラブでキャリアを積み重ねていく事となる。
 そして1968年…御多分に漏れずメンバー4人共、時代の流れに呼応するかの様に極ありきたりなポップスバンドからの脱却を図りつつ、北米のジャズやブルース影響下のサウンドへと傾倒し、時同じくしてバンドのカラーを占うともいうべき理想の専任ヴォーカリストをオーディションで選出し、教師の資格を持っていたLinda Hoyleに白羽の矢を射止めバンド名もオスカー・ピーターソンの作品からアフィニティーと名乗る様になる。
 アフィニティー名義で正式なスタートを切った1968年当時、イギリスのロックシーン全体がサイケデリック・ムーヴメント始めアート・ロック、ニュー・ロックの百花繚乱ともいうべき黎明期真っ只中で、マイルス・デイビス、ブライアン・オーガー、ジミ・ヘンドリックスの活躍と指針により、当時数多くの新進気鋭が輩出された忘れ難い時代でもあった。
 ブラッド, スウェット&ティアーズ、クリーム、シカゴ、コロシアム、果てはデヴューして間も無いレッド・ツェッペリンやイエス、ジェネシス、ファミリー、ハンブル・パイといった、当時飛ぶ鳥をも撃ち落とす位のそうそうたる面々が犇めく中で、アフィニティーもそんな熱きシーンの渦中に身を投じていたのは言うまでも無い。
 68年、ロンドンはベーカリー・スクウェアの一角にあるレヴォリューション・クラヴでのデヴュー・ギグを皮切りに、BBCラジオのジャズクラブにて大々的に取り挙げられ、エルヴィン・ジョーンズ、ゲイリー・バートン、スタン・ゲッツそしてチャーリー・ミンガスといった名だたるジャズメンらと番組内で共演の機会を得て、バンドはますます知名度を上げていく事となる。
 活動の拠点もイギリス国内のみならず、ヨーロッパや北欧でのロック・フェスにも招聘されたり、数々のテレビショウにも出演したりと、ヴァーティゴからのアルバム・デヴュー以前を知らなかった我々にしてみれば、抱いていたであろう想像以上の精力的な活動に改めて驚かされるだろう。
                    
 1970年…ヴァーティゴからの待望のデヴューアルバムは、彼等自身の長年培われた音楽経験が存分に活かされつつ様々な音楽的素養が濃密に凝縮された、70年代の幕開けと曙に相応しい快作にして傑作に仕上がっている。
 全7曲収録の内、2曲目と5曲目を除き、殆どがA・Hullやアネット・ピーコック、ボブ・ディラン…等からのカヴァー曲ながらも、そこはハモンドを多用したアフィニティー・サウンドとして見事彼等なりに昇華しており、オリジナルと比較しても原曲の良さが損なわれる事無く上手く差別化を図っている狙いが見て取れよう。
 Linda HoyleとMike Jopp、Lynton Naiffの手によるバンド名義のオリジナル2曲目と5曲目こそ、アフィニティーというバンドの面目躍如といったところで、ジャケットの物憂げな雰囲気と佇まいが見事サウンド化されたと言っても過言ではないメランコリックでどこか寂しげな雰囲気のアコギに導かれ、女の情念或いは恋情すら彷彿とさせるリンダの歌いっぷりは感動的でもありエロティックすら想起させるから困ったものである(苦笑)。
 アフィニティー・サウンドと爆発的なホーンセクションとの競合が聴きものの5曲目も実に捨て難いところ…。
 各メンバーのスキルの高さから卓越した演奏力の素晴らしさに加えて、ストリングスとホーンセクションのアレンジャーとして参加しているツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズの見事な手腕と仕事っぷりが見逃せないのも本作品の特色といえよう。

 デヴュー作をリリース後、順風満帆な軌道の波に乗っていた彼等ではあったが、翌年を境に理由こそ不明だがメインヴォーカリストのLindaとアフィニティーサウンドの要でもあったLynton Naiffの両名が脱退し、バンドは大きな危機に見舞われる。
 バンドは延命策としてLindaの後釜に数々のバンド経験を有するVivienne McAuliffeとKey奏者にDave Wattsを迎えて、次回作の為の新曲を録音し紆余曲折の末マスターテープを何とか完成させたものの、この時既にレーベル側との折り合いの悪化から、2ndリリースに至る事無く結局お蔵入りしてしまうという憂き目に遭い、バンド自体も創作意欲の低下から(ギグの回数が減っていた事も加えて)、いつしか人々の記憶からも忘れ去られ、自然消滅という道を辿った次第である。
     

 その後のメンバーの動向として、歌姫Lindaは翌1971年ヴァーティゴよりニュークリアスのメンバーと共演した自身のソロアルバム『Pieces Of Me』をリリースし、以降ソロ活動等に於いてソフトマシーンのメンバーとの共演を経た後、現在はカナダの西オンタリオに拠点を移し、今でも地道にソロパフォーマーも兼ねてアートセラピーの講師として多忙な日々を送っているとの事であるが、そんな彼女が実に46年ぶりにリリースした2017年2作目の新譜ソロ『The Fetch』は、かのロジャー・ディーンがデザインしたジャケットアートの話題性も手伝って、漸く現役第一線に復帰したLindaの歌声に聴衆が歓喜した事は記憶に新しい。
 Lynton Naiffは音楽業界の裏方に回り、オーケストラのアレンジャー並びクイーンやツェッペリン解体後のペイジ&プラントの製作スタッフとして参加。現在でも独自のフィールドで活動を継続している。
 Mike Joppはアフィニティー解散後、数々のアーティストとのセッションやらレコーディングに参加し、数年後にはギターのディーラーに転身しつつ、オーディオ関連のコンサルタントとしてソニーやフェアライトにも携わっていたそうな。近年はテレビジョン関連の仕事にも携わる様になり、自身の会社を設立し多くのドキュメンタリー番組の製作に加わっているとの事。
 Mo Fosterは長年スタジオ・ミュージシャンとしてのキャリアを積み、ジェフ・ベック、フィル・コリンズ、ジル・エヴァンス、マギー・ベル、ヴァン・モリソン…等の名だたるアーティストの作品に参加し、現在は音楽関連の執筆家として何冊かの著書をも手掛けている一方、今なお現役のソロアーティストとして第一線で精力的に活躍中である。
 最後、Grant Serpellもバンド解散後、数々のセッション活動等に参加し、後年は音楽業界から退き工業化学の講師として教壇に立ち現在に至っている。

 ひと昔前まで、高額なプレミアム付のオリジナル・アナログ盤でしかお目にかかれなかったアフィニティーの唯一作であったが、CD時代の昨今イギリスのエンジェル・エアーレーベルから、(リンダ在籍時の)8曲の未発表アーカイヴ入りのデジタル・リマスタリング仕様に加えて貴重なフォトグラフとバイオグラフィー付でCD化されているので、往年のブリティッシュ・ファンの方々並び初めてアフィニティーに触れる方はどうか是非とも耳にして頂きたい。
 70年代初頭のブリティッシュ・ロックの熱い息吹きとシンパシーを知る上で、本作品こそ格好の一枚である事をお約束したい。
 最後に、1971~1972年にかけて録音されながらもお蔵入りと言う憂き目に遭った幻級の扱いだった2ndアーカイヴ音源も近年晴れてめでたくCD化され、それに倣ってアフィニティー関連の様々な未発マテリアルが発掘されCD化されている事も記しておくので、興味のある方は是非こちらも聴いてみると良いだろう。
 ちなみに彼等の1970年唯一作も、日本国内盤で二度に亘って紙ジャケット仕様CD化、SHM-CD化されているので、こちらもお忘れなく…。

 アフィニティー…それは紛れも無くブリティッシュ・ロックという歴史が生んだほんのささやかな奇跡の賜物、或いは輝かしき青春時代の一頁だったという事に違いはあるまい。
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Zen

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