Monthly Prog Notes -December-
コロナ禍に翻弄された激動の2021年も残すところあと数日となりました…。
今年の『幻想神秘音楽館』も最後の大イベントでもある“Progressive Award 2021”の発表を控え、いよいよ大詰めを迎えるところですが、その前に今年最後の「Monthly Prog Notes」はその前哨戦という意味合いに相応しく、何とも嬉しい偶然とでも言うべきか今回は件のProgressive Award 2021に堂々とノミネートされるであろう…日本のプログレッシヴから3バンドを取り挙げる事となりました。
昨年センセーショナルにして堂々たるデヴューを飾った、かの伝説のプロビデンスDNAを脈々と継承したブレーン塚田円氏を筆頭とした“那由他計画”が、デヴューから僅か一年という短期間にも拘らず、多くの聴衆とバンド支援者の期待に応えるべくリリースした2nd新譜は、意味深なアートワークとタイトルで前デヴュー作の延長線上ながらも、更なる新機軸を打ち出したバンドの試金石とも取れる、まさしくバンドの現在進行形を謳った秀逸な一枚に仕上がっています。
そんな那由他計画の躍進に追随するかの如く、関東勢からは超絶にして怒涛の音世界を構築する新進気鋭の2バンドが堂々たるデヴューを飾り、日本のプログレッシヴ・ロック史に新たなる一頁を刻み付ける事となりました。
早くからコアなプログレッシヴファンの間から「北池袋のアネクドテン」と称され認知されてきた期待の新星“曇ヶ原”、片やもう一方の雄として同時期にデヴューを飾る事となった“イヴラーク”は、まさしく長年私達が待ち望んでいたであろう、名実共にジャパニーズ・プログレッシヴの極みにして理想形へと辿り着いた秀逸なる楽師達と言っても過言ではありません。
前者は70年代初期の日本のロックとフォークが持っていた古き良き佇まいに、クリムゾンやEL&Pが持っていた重厚で尚且つ技巧的、柔と剛、荒々しさと静寂さが同居した、昭和の懐かしさの中に令和の新しい息吹が感じられる作風が持ち味で、後者は御大クリムゾン始めイエス、マグマ、アレア…等から多大なる影響を受けてきたヘヴィネスとリリシズムとのせめぎ合いを全面的に打ち出した自らのスタイルとオリジナリティーを確立させた、兎にも角にも21世紀ジャパニーズ・プログレッシヴの名匠に相応しい実力とプライドを兼ね備えた両バンドの登場に驚愕し度肝を抜かす事必至でしょう。
凍てつく様な冬の寒空の下、過ぎ去りし2021年に訣別の思いを馳せつつ…改めて日本人の日本人による、世界に誇れるメイド・イン・ジャパン (レーベル名ではなく) の純然たるプログレッシヴ・ロックに出会えた事に感謝の念を抱きつつ、来たるべき新たな年への飛躍に私も貴方(貴女)も大いに期待と希望を託そうではありませんか!
1.NAYUTAKEIKAKU (那由他計画)
/Sazaki Orite Hikari Afure(さざきおりてひかりあふれ)
(from JAPAN)


1.Plastic Night/2.Star To Blaster/
3.さざきおりてひかりあふれ
昨年秋にデヴューリリースされた『つみびとの記憶』でセンセーショナルな話題を呼び、かつてのプロビデンス信者のみならず幾数多ものジャパニーズ・プログレッシヴファンや、世界各国のプログレッシヴ愛好家諸氏から数々の賞賛の言葉が寄せられた那由他計画が、僅か一年にも満たない短期間のスパンで完成させ、(満を持してまでとは言い難いものの) 意味深なアートワークとタイトルのイメージに寸分違わぬ文字通り待望の新譜2ndを引っ提げて再び私達の前に帰って来た。
数ヶ月前バンドのリーダーにしてブレーンでもある塚田円氏と電話で話す機会があったのだが、今作は前デヴュー作の延長線上を匂わせながらも、塚田氏自身がかねがね演ってみたかった80年代ロック&ポップスへのオマージュとリスペクトが反映された意欲作に仕上がっており、1曲目の作詞をヴォーカリストの月本美香、2曲目の作詞をもう一人のヴォーカリスト世良純子が手掛け、個々それぞれに独特の世界観を醸し出しており、80年代ポップス風 (アニソンっぽくも聴こえるがそこは御愛嬌) の1曲目中の台詞による寸劇に微笑ましさが感じられたり、エマーソンへの憧憬が隠し味的な生粋の正統派シンフォニックが存分に楽しめる2曲目、アルバムタイトルにして塚田氏が手掛けるテクニカルで圧倒的で重厚な音の壁による長尺の大作3曲目にあっては、ヴィンテージとモダニズムとの融合と綴れ織りに只々感服する思いで、トータル収録37分間が一時間にも感じられた充実感溢れる至福のひと時が味わえる傑作に仕上がっている。
浪漫座の中嶋座長と同様、塚田氏の女性ヴォーカリストを選ぶ目利きの良さには頭の下がる思いですらありプロビデンス時代の久保田始め菅原も然ることながら、今作に於ける月本と世良という各々のキャラクターの差異やヴォーカルパートの配し方の上手さに加え、バックで支える塚田氏の鍵盤群にギター、リズム隊の強固で信頼感抜群のチームワークが生み出した結晶と賜物であると言っても異論はあるまい。
余談ながらもシークレットトラック4曲目(?!)の余韻というか遊びの部分に、何故だかZEPの『フィジカル・グラフィティ」を連想したのは私だけだろうか…。
Facebook 那由他計画
2.KUMORIGAHARA (曇ヶ原)
/Kumorigahara(曇ヶ原)
(from JAPAN)


1.県道334号/2.3472-1/3.中野通り/
4.砂上の夜明け/5.雪虫/6.トリプタン/
7.うさぎの涙/8.河津桜
ベーシスト兼ヴォーカリストでリーダー格の石垣翔大のソロ弾き語りからスタートし、2013年正式にバンドスタイルへと移行して以来、コアなプログレッシヴファンからの口コミでいつしか「北池袋のアネクドテン」と称され、密かに話題と評判を呼んでいた曇ヶ原の、満を持して待望のデヴュー作が遂にお目見えとなった。
一見してジャケットの意匠から…良い意味で昭和40年代半ばへの憧憬とオマージュ、レトロな懐古趣味と取るか、或いは悪い意味で時代錯誤だとか時代逆行と思われる方と賛否両論を唱える向きが多々おられる事だろう(私個人的には、押井守監督作の『機動警察パトレイバー』の劇場版第一作目のシチュエーションを想起したが)。
だが…たとえ昭和感が滲み出ているフォトグラフなジャケットアートがどう捉えられようとも、彼等の場合はそれが正しくて良いのである。
オープニング初っ端からクリムゾン影響下の北欧系バンドを想起させ、ハモンドにメロトロンをこれでもかというくらいに多用した曲構成と世界観は、クリムゾン始めEL&P、サバス、ユーライア・ヒープ、果ては70年代ブリティッシュ・オルガンプログレッシヴに、日本のロック黎明期のジャックス、エイプリルフール、フードブレイン、ピッグ、フラワー・トラヴェリン・バンド、はっぴいえんど、四人囃子、あんぜんバンドといった強者、果ては森田童子、友川かずきといったフォーク界の異才が脳内に木霊しオーヴァーラップしてくる。
ごくありふれた日常生活の中で刹那なまでに繰り返される葛藤と焦燥感、悩み苦しみ、喜びと悲しみが、聴く者の心を揺さぶり魂をも掻き毟る…そう、彼等の音には安っぽいファンタジーや文学的なリリシズムこそ皆無であるが、懸命なまでの“生”と“命”が投影された現在(いま)という時間軸を歩む私達の姿そのものであることを忘れてはなるまい。
拝金商業主義に堕ちて安っぽい子供騙しのコンビニ感覚で且つ軽薄短小なJポップへと成り下がった日本のロックが失ってしまったしまったものが、ここにはぎっしりと濃密に凝縮されている。
この年齢でこんな凄まじい音楽に巡り会ってしまった私自身、改めて日本人で本当に良かったと思えてならない。
Facebook 曇ヶ原
3.EVRAAK/Evraak
(from JAPAN)


1.Saethi/2.Stigma/3.Asylum Piece/
4.Into The New World/5.Cure/6.Sacrifice
一時期の4ADレーベル…コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスをも彷彿とさせる、そんな耽美的で暗く深く沈み込む様なモノクロトーン一色に染まった意匠に包まれ、かの高円寺百景にも迫る鮮烈にして怒涛の音のうねりさながらのヘヴィ・プログレッシヴを構築するイヴラークのフルレングスなデヴューアルバムが神の啓示の如く遂に21世紀のジャパニーズシーンに向けて降臨と相成った。
テクニカルで攻撃的なギターにヘヴィネスなリズム隊、アグレッシヴなサックス、ミスティックで且つ渦巻くカオスを醸し出すキーボード、そして要注目はおそらくジャパニーズ・プログレッシヴ次世代の新たな担い手となるであろう女性ヴォーカリスト瀬尾マリナの歌唱法と力量には目を瞠るものがあり、今後の彼女の動向を大いに注視せねばなるまい。
御大クリムゾンからの多大なる影響も然ることながら、VDGGにイエスやマグマ、ザオ、アレア、果てはアルティ・エ・メスティエリ…etc、etc、往年期のプログレッシヴ・フィールドからの様々な要素とスキルを吸収した、言葉ではとても言い尽くし難いくらいに超弩級のスケールに加えて、型に嵌まる事はおろかどんなカラーにも染まる事の無い、その突出した非凡な才能とエキセントリックなサウンドスタイルが渾然一体と化した、時にヘヴィで時にリリカル、そしてアヴァンギャルドに転じたかと思いきや、ムーディーでジャズィーな表情をも覗かせるしたたかさと豪胆なアプローチといった、結成してからまだ4年であるにも拘らず、そのあまりに新人離れしたストイックで孤高なる風格と真摯な姿勢に筆舌し難い(良い意味で)末恐ろしさすら感じてならない。
我が国のシーンにも漸くこの手の硬派で秀逸なまでの個性を打ち出せるバンドが出てきた事を心から素直に祝福したいと思う一方で、今までのこの手のバンドに多々有りがちだった…どこかしらおちゃらけた歌詞やら歌い方だったり、変なアイドルかぶれ或いはアニメ声の声優もどきな女性ヴォーカルを誤魔化しで起用しては違った意味で話題を巻き起こしていたものだが、彼等の創作する音楽世界の前ではそんな愚考な類なんて全く無意味で霞んでしまい数マイル先へと吹き飛んでしまう事必至であろう。
兎にも角にも彼等イヴラークの仄暗い漆黒の闇の旋律を、どうか真正面から堂々と受けて立つ気持ちで尚且つ齧り聴き厳禁で御賞味頂けたら幸いである。
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