Monthly Prog Notes -February-
2月終盤の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
…正直、今の私の心中は複雑です。
先日から報じられているニュースやネット報道で御存知の通り、私の当ブログでも過去何度も御登場頂いているウクライナとロシアが、誰しもが決して望んでいないのに、あんな無残で理不尽な戦争状態へ突入した事に怒りを通り越して言葉では言い尽くし難い悲しみしかありません。
ウクライナのプログレッシヴ関連の友人達の無事と安全を遠い異国の地である日本で祈るしか術の無い無力さともどかしさを痛感すると共に、狂気と妄想に支配されたであろう指導者によって、世界の大半を敵に回した悪魔の様な所業と暴走で、いわれのない誤解を受けているロシア国民、そして友人であるアーティスト仲間達への憂いや慰めとが入り混じった筆舌し難い困惑と複雑な胸中であるのが正直なところです。
ロシアのウクライナ侵攻から3日経った現時点で、私自身も漸く冷静さと落ち着きを取り戻し、兎にも角にも今は両国がこれ以上無益な戦いが続かないよう、両国間互いにある程度良好な形で収束し、平和な春が一刻も早く訪れる事を願わんばかりです。
“悪いのはロシア国民ではなく、その国の指導者と取り巻き達でしかない”
“侵攻する軍隊、そして反戦デモを取り締まるロシアの治安当局も本当は良心の呵責に苦しんでいるのかもしれない”
“何よりもアーティストや音楽作品、芸術、文化に一切の罪は無い!”
以上この3つこそが、今の私が抱いている気持ちであり結論でもあります。
そして何よりも今言いたい事は「戦争断固反対!」の一言に尽きます。
戦火に見舞われているウクライナ現地の国民の皆様に心からお見舞い申し上げると共に、犠牲になられた尊い人命に心より哀悼の意を表したいと思います。
戦争終結を心から願いつつ、今回はあたかもそんな御時世を反映しているかの如き3作品のラインナップが揃い踏みとなりました。
活況著しい南米ブラジルからは、昨今大いに話題と評判を呼んでいるプログレッシヴ・マルチプレイヤーAlex Maraslis自身の手による、シンフォニック・プロジェクトチームでもある“マラスリス”満を持しての必聴必至なるデヴュー作がお目見えとなりました。
EL&P始め、オルメ、PFM、バンコ等といったイタリアン・ロック影響下に加え、果てはかのアイランドをも彷彿とさせるダーク・チェンバーシンフォニックな佇まいすら匂わせる、荘厳で且つ複雑怪奇に入り組んだ音のラビリンスさながらの怒涛の展開と構築美に驚嘆することしきりでしょう。
ブリティッシュ勢からも2バンドによる強力推薦作品が到着しました。
2018年のデヴューから格段の成長を遂げて、3年ぶりに通算2作目の新譜を引っ提げてシーンに帰って来た“パラドクス・ツイン”は、前作の延長線上ながらもより以上に先鋭的なメッセージ性が高まった、フロイドタッチでアンビエントな作風と相まって、エモーショナルでヴィンテージなギターワークが光る、齧り聴き厳禁なスタイリッシュさを備えつつも、味わい深さと深遠なテーマが冴え渡る秀作に仕上がってます。
片やもう一方はPFMよろしく通称RFMこと“リトリート・フロム・モスクワ”なる遅咲きのニューカマー、念願で且つ待望のデヴュー作が到着しました。
70年代後期~80年代初頭にかけてイギリス国内にてライヴ・オンリーで活動し、アルバムデヴューの夢破れ短命で解散したものの、当時のバンドメイトが40年以上の時を経て再び集結し、彼等の青春期の憧れだったジェネシス始めキャメル…等といったリスペクトを叶えるべく、当時書き溜めて置いたスコアに新曲を加え21世紀相応にアップ・トゥ・デイトされた、まさしく温故知新を実践した誰しもが頭に思い描くブリティッシュ・プログレッシヴの雰囲気と香りが脳裏に甦ってくることでしょう。
厳寒厳しい凍てついた冬の寒さが日に々々薄らいで、少しづつ春の兆しすら感じられる様になった今日この頃ですが、新型コロナの収束…そしてウクライナとロシアとの雪解けを心から願いつつ、素晴らしい音楽に国境や人種なんて全く関係無い事を、誇らしくも高らかに謳い奏でる匠達の願いと祈りに暫し現実の時を忘れて触れて頂けたら幸いです。
1.MARASLIS/Maraslis
(from BRAZIL)


1.Vedas/2.Constelações/3.Vidas Que Vão (Parte 1)
4.The Krebs Cycle/5.Vidas Que Vão (Parte 2)/
6.Everywhere/7.Vidas Que Vão (Parte 3)
ブラジリアン・プログレッシヴの長きに亘る歴史にまた新たな一頁が加えられる事となった。
幾数多ものブラジル国内のプログレッシヴ系アーティスト達との交流を経て、1999年CHRONOS MUNDIなるバンドでキーボードとギターを務めていたマルチプレイヤーAlex Maraslisが、自らが理想とするサウンドスタイルを長年追求し、長年交流のあるバンドメイト6名を迎え彼自身の姓名を冠したシンフォニック・プロジェクトチームとして立ち上げたマラスリス、本作品は2021年満を持しての待望のデヴュー作となる。
Alex自身かなり筋金入りのプログレッシヴ愛好家にしてイタリアン・ロックの熱烈なファンでもあり (彼のフォトグラフのバックのレコード棚を御覧になれば一目瞭然)、EL&Pの『タルカス』を彷彿とさせる様な怒涛の如く雪崩れ込んでくるオープニングから、美声な女性Voが加わるや否や一気にイタリアン・ロックな佇まいへと転調し、PFMやオルメ、バンコ影響下が如実に表れたリリシズムと変拍子と歌心が渾然一体となってリスナーの脳内に高らかに木霊し、荘厳にして複雑怪奇な音のラビリンスへと誘う旋律は胸を打ち心をも鷲掴みにすること必至であろう。
3つのパートに分かれたジャズィーな調べの小曲も聴き処満載で、名実共にプログレッシヴを愛する者が全世界中のプログレッシヴを愛して止まないファンに向け、21世紀という混迷の世に問うたとも言うべき屈指の大傑作にして野心作、問題作と言っても過言ではあるまい。
70年代のオ・テルソのフラビオ・ベントゥリーニ始め、80年代のバカマルテのマリオ・ネト、そしてサグラドのマルクス・ヴィアナといった、ブラジリアン・プログレッシヴ史で偉業を成し遂げてきたマエストロ達に迫る勢いすら予感させる継承者が漸く現れたことに、兎にも角にも心から祝福の拍手を贈らねばなるまい。
Facebook Alex Maraslis
2.THE PARADOX TWIN/Silence From Signals
(from U.K)


1.Paradicm/2.Wake Vortex/3.Sea Of Tranquility/
4.I Am. I Am Free/5.Prism Descent/6.Haptic Feedback/
7.Specular/8.Perfect Circles
2018年の意味深でセンセーショナルなデヴュー作『The Importance Of Mr Bedlam』で一躍その名が世に知られる事となった、ブリティッシュ・ネオ・プログレッシヴの新鋭パラドクス・ツインの今作は昨年リリースされた2ndの新譜に当たる。
前デヴュー作がUFOによる人間誘拐 (アブダクション) をモチーフとしたアートワークと相まって、暗く深く重くといったプログレッシヴな3要素にフロイドばりの流麗な泣きのギターのエモーショナルな旋律にアンビエントなキーボードワークが秀逸な出色の完成度で、バンドリーダー兼コンポーザーにしてマルチプレイヤーDanny Sorrell自身のソロワーク・プロジェクト的な趣が強かったが、今作の2ndにあっては前作で参加した女性ベーシストともう一人のギタリストが引き続き続投し、ドラマーの交代と専任の女性ヴォーカリストを迎えた完全なるバンドスタイルへと移行しサウンド的にも奥行きと深みが増したからなのか、もはやメロディック・シンフォやネオ・プログレッシヴ、果てはポストロックといったカテゴリーすらも凌駕した、彼等なりの独自の音空間とオリジナリティーがしっかりと確立された、触れただけで切れてしまいそうな鋭利な剃刀にも似た齧り聴き厳禁な重苦しさと悲愴感すら滲み出ている。
2つの胎児と生命の樹といった何とも筆舌し難いテーマと意匠に、前作以上に切り込んだメッセージ性をも孕んだアイロニカルでニヒリズムすら想起させ、ブリティッシュ・ロックの持つ陰影と美しくもどこか鬱屈した歌メロがやけにマッチしているところが彼等の持ち味と言えるだろう。
特に3曲目なんか聴いている内に知らず々々々心が震え目頭が熱くなってしまうから困ったものである…。
Facebook The Paradox Twin
3.RETREAT FROM MOSCOW
/The World As We Knew It
(from U.K)


1.The Ones You Left Behind/2.Radiation/3.Henrietta/
4.I'm Alive/5.Constantinople/6.Home/
7.Armed Combat/8.Moving Down/9.Perception/
10.Mandragora/11.Don't Look Back
70年代後期から80年代初頭にかけてイギリス国内でライヴオンリーに活動し、レコードデヴューの夢破れ解散という憂き目に遭ったPFMならぬRFMことウェールズ出身のリトリート・オブ・モスクワなる4人編成の (失礼ながらも) 遅咲き熟年バンドだが、近年そのバンドメイト達が40年ぶりに再結成し、過去に書き溜めておいた数曲に新曲を加えた、まさしく文字通り満を持しての2022年念願のアルバムデヴューを果たした次第である。
いやはや兎にも角にもメンバー全員の今作に懸ける意気込みたるや、トータル70分超えで収録された全曲とも一切の無駄が微塵にも感じられず、若手の連中なんぞにはまだまだ負けないぜと言わんばかりな熱気と勢いが、アートワークと楽曲総じて満ち溢れんばかりに漲っており、ジェネシス始めクリムゾン、イエス、キャメル、キャラヴァン、果てはカナダのラッシュをも彷彿させるサウンドパッション全開で、もうここまで演られるとプログレ愛を通り濃し憧憬やリスペクト云々を超越した、かつての青春時代今再びといった思い入れがはち切れんばかりに伝わってくるから痛快極まりない。
思い出だけでは決して終わらせたくない…諦めなければ夢は絶対必ず叶うといった、お決まりな常套句すらも霞んでしまう位のカッコ良さが際立っている。
同年代か或いはもう少し上の世代かと思えるが、こんな好きな事が思いっきり出来て夢を実現させたオジさん世代バンドだからこそ、同じオジさんである自分自身もついつい拳を振り上げて応援してしまいたくなるのはいた仕方あるまい。
デジタル機材では無い本物のハモンドオルガンを使用したヴィンテージ愛にも好感が持てる。
早くも2022年プログレッシヴ・アワードにて挙げられる候補作が一つ決まったのが嬉しい限りである。
しかし…肝心要のバンドネーミングの意が“モスクワからの撤退”というのも、何だかタイムリーにウクライナへ侵攻したロシアに対し皮肉めいた韻を踏んでて苦笑することしきりである。
Facebook Retreat From Moscow
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