Monthly Prog Notes -August-
8月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
兎にも角にも…狂ったかの如き熱波と猛酷暑といった異常気象に見舞われた2022年の今夏も漸く終わりを迎えつつあり、最近朝晩ともすっかり9月半ばに近い初秋の雰囲気と様相が感じられる様になりました。
待望の文化、芸術、そしてプログレッシヴの秋到来という歓喜に呼応するかの様に、今回も秀逸で素晴らしい3バンドの音楽作品が出揃いました。
今や21世紀ジャパニーズ・プログレッシヴの代表格に上り詰めたと言っても過言では無い“ティー”の実に6年振りの通算4作目に当たる新譜は、同じフルートをフィーチャリングしたキクラテメンシスや融解建築とはまた違った方法論と作風で、かつてのスペインのゴティックないしハンガリーのソラリスばりのグローバルな視野で自らのプログレッシヴを構築し、ケンソーにも追随するであろう関東プログレッシヴ・ジャズロックのベテランたる風格と貫禄・安定感が随所に垣間見える、コロナ禍を乗り越えた名実共に折り紙付きの最高傑作に仕上がってます。
アメリカからは3年前のデヴューから一切ブレる事無く、自らの頑なな信念と信条で正統派たるアメリカン・プログレッシヴ&シンフォニックの王道を歩み続ける“ムーン・レターズ”の新譜2ndが到着しました。
イエスやジェネシス、GGから多大なる影響を受けたブリティッシュ・テイストな前作のスタイルから更なる格段のステップアップを経て、上昇気流と気運の波に乗って感動と高揚感を伴いユーロピアンとアメリカンの最良のエッセンスが融合昇華した、ジャケットアートの不思議な感覚と相まった文字通り満を持しての完全無欠で秀逸な一枚と言えるでしょう。
イタリアからは先月紹介のウイルソン・プロジェクトに続き、70年代イタリアン・ロックから脈々と流れる伝統と王道を継承しつつも、21世紀バンドらしい次世代スタイルで新たな一歩を切り拓いた“ラ・クルナ・デル・ラゴ”の栄えあるデヴュー作が届きました。
往年期のPFM、バンコ、ニュー・トロルス、果てはイ・プーの影響下すら窺える、意味深でアイロニカルな意匠総じて、4人編成というシンプルながらも壮麗且つ重厚でテクニカルなシンフォニックを謳い奏でる、改めてイタリアン・ロックの持つ豪胆さと繊細さといった奥深さが浮き彫りになった会心の必聴作に心が鷲掴みにされる事必至でしょう。
去りゆく晩夏に思いを馳せながらも、初秋の気配がすっかりと色濃く感じられる様になった夜長のお供に、秋の夜風を肌で感じつつ夏のフィナーレを飾る楽師達の抒情なる響きと調べに暫し耳を傾けて頂けたらと思います。
1.TEE/Total Edge Effect
(from JAPAN)


1.階段回廊 (Kaidan Kairou)/2.NS/
3.Melting Pop/4.Orbiter Mission/
5.Floating Planet ~ i) Moving ii) Shimmering iii) Floating/
6.Gathering Call
2009年の正式フルレングス・デヴュー作『The Earth Explorer』から数えて通算4作目に当たる最新作。
2012年『Trans Europe Expression』、そして2016年『Tales of Eternal Entities』を経て、今やケンソーと並ぶ関東プログレッシヴ・ジャズロックの代表格に上り詰めたと言っても過言では無いTEE=ティー。
今や10年以上ものキャリアを誇り、改めてベテランの域を感じさせ威風堂々たる貫禄と風格、絶対的な安定感が作品の端々から滲み出ており、作品がリリースされる度毎のタイトルに自らのバンド名を語呂合わせの如くさりげなく被せるといった粋で巧みな手法も、従来通りに継続しているというのも実に嬉しい限りでもある。
今作に於いてはムゼアから離れて心機一転…気分を一新して新興のレーベルからのリリースと相成った次第であるが、6年間の熟考と充電期間が花開いたといわんばかりに展開する、まさしくプログレッシヴ・ロックの匠にして職人気質にも似た領域に足を踏み入れた瞬間、オープニングのピアノから心と魂が震え筆舌し難い感銘と高揚感に、同じ日本人として誇れるものの素晴らしさに胸と目頭が熱くなる思いですらある…。
同系でフルートをフィーチャリングしている、スペインのゴティックやハンガリーのソラリスと並んで喩えられている彼等ではあるが、これはもはやヨーロッパ系にも引けを取らない域で語れる、改めてTEEとしての所信表明という意味合いが込められた渾身にして会心の一枚に他ならない。
今はただ、コロナ禍を乗り越えた素敵で誇らしい作品を心からありがとうの言葉に尽きる…。
Facebook TEE
2.MOON LETTERS/Thank You From The Future
(from U.S.A)


1.Sudden Sun/2.The Hrossa/
3.Mother River/4.Isolation and Foreboding/
5.Child of Tomorrow/6.Fate of the Alacorn/
7.Yesterday Is Gone
イエス、ジェネシス、果てはGGからの影響下をも窺わせる2019年のデヴューから早3年、21世紀アメリカン・プログレッシヴの来たるべく次世代を担っていくであろうムーン・レターズ待望の新譜2ndが今ここに届けられた。
世界的規模のコロナ禍に見舞われた3年間というタイムラグは、彼等にとって次なるステップアップの為の熟考と音楽性の向上に大きなプラスとして傾き、大御所のカンサスやスポックス・ビアード…etc、etcといった開放的で大らかなイメージが強いアメリカのプログレッシヴの系譜を脈々と継承しつつも、ブリティッシュ並びヨーロッパ系シンフォニックが持つ陰影やリリシズムとの絶妙で程良い調和感をも保ち続けているのが身上とも言えるだろう。
イエスやGGばりの巧みなコーラスワークに変拍子の目まぐるしさを多用した軽快でスリリングなメロディーライン、時折ラッシュを彷彿とさせるフレーズが顔を覗かせたりといった、アメリカのバンドでありながらも極端なまでにアメリカらしくない、かと言ってゴリゴリに突出したユーロ・シンフォニックなマニアックさも皆無。
あくまで70年代イズムを踏襲しつつも21世紀バンドらしいスタイリッシュなキャッチーさが顕著に表れ、徹頭徹尾メンバー全員心の底からプログレッシヴ・ロックを創作しプレイする喜びと楽しみに満ち溢れた、文字通り初志貫徹の如くプログレッシヴ愛炸裂で完全無欠な入魂作に仕上がっている。
メロトロンをVirtual Orchestraと表記する言葉のチョイスとセンスの上手さも然る事ながら、意味深で50年代オールディーズ風な雰囲気を醸し出したアートワークもお見事である。
余談ながらも、ジャケットアートからアメリカのSFスリラーTVの金字塔『トワイライトゾーン』を連想したのは私だけだろうか…。
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3.LA CRUNA DEL LAGO/Schiere Di Sudditi
(from ITALY)


1.Giostra/2.Mantide Agnostica/3.Illogica Distanza/
4.Interludio/5.Elettro Drama/6.Stato/
7.Acqua Da Marte
先月紹介したイタリアのウィルソン・プロジェクトに引き続き、今回もまた活況著しい21世紀イタリアン・ロックシーンから驚愕と超絶級の新進気鋭が登場した。
PFM始めバンコ、ニュー・トロルス、果てはイ・プーといった70年代の大御所達からの多大なる影響下を窺わせながらも、もはや憧憬やリスペクト云々すらも超越し、かつての70年代スピリッツへの並々ならぬ肉迫すらも想起させるラ・クルナ・デル・ラゴ、2022年その衝撃的で且つ威風堂々たる本デヴュー作に、私自身感動と興奮で身も心も高揚し震え上がる思いですらある…。
メンバー各々の演奏技量始めサウンドクオリティーのハイレベルも然る事ながら、曲作りの上手さから音楽的素養のスキルとコンポーズ能力の高さ…等に至るまで、全曲どれを取っても無駄が無く聴き手である側に寸分の隙や息つく暇すらも与えない、まさしくこれぞイタリアン・ロックの本懐と醍醐味であると言わんばかりの、イタリアン・シンフォニックの奥深い迷宮 (ラビリンス) へと誘う必聴必至の最高作であると言っても過言ではあるまい。
全盛期のバンコをも彷彿させるキーボードワークに加え、重厚なアンサンブルを謳い奏でるギター、強固で的確なリズム隊の活躍総じて、イタリアの古い街並みと石畳、バロック建築の大聖堂、古代遺跡に碧い地中海の微風…といった、誰しもが頭に思い浮かべるイタリアのイメージが色鮮やかに甦ってくる事だろう。
3曲目のアコースティックな感触と歌心が瑞々しく表れている点でも、改めてカンタウトーレの伝統が根強く息づいているという事に感涙で目頭が熱くなる。
大気圏に静止している人工衛星に、何かを目指して列を成す群集という意味深でややアイロニカルめいた意匠も、如何にもイタリアらしくて好感が持てる。
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