Monthly Prog Notes -October-
10月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
枯葉舞い散る物悲しくも感傷的で、心揺さぶられる様なロマンティシズムとリリシズムに彩られた抒情的な晩秋を迎え、本格的なプログレッシヴの秋到来の真っ只中の今日この頃、まさに今の時節柄に相応しいと言わんばかりに2022年秋のヨーロッパ大陸から、感動的で落涙必至な珠玉の強力ラインナップ3バンドが出揃いました。
アンジュ、タイ・フォンと並ぶフレンチ・プログレッシヴ界の大御所ピュルサーから派生し、今や別動隊的バンドというよりも一個体のバンドとして認知確立された感のある“シルク”の実に5年ぶりとなる通算3作目に当たる新譜が到着しました。
ベテランならではの持ち味の滋味というか深みと重さが随所に感じられ、母体のピュルサー譲りの漆黒のファンタジーと見果てぬ世界観、白昼夢の如きイマジナリー、幻想美に彩られたヴィジュアルが渾然一体となった、さながら凡庸なポッと出のネオ・プログレッシヴやポストロックとは格段な雲泥の差すらも見せつける自負と自信に満ち溢れた最高作に仕上がってます。
メロディック・シンフォの宝庫ポーランドからは、2020年の鮮烈なデヴュー作が今なお記憶に新しい、新進気鋭のオールインスト・プログレッシヴジャズロックバンドの次世代の旗手“フレン”2年ぶりの2nd新譜がお目見えとなりました。
21世紀バンドの秀でた部分と70年代ヴィンテージ系に相通ずる風合いと質感が何とも実に心地良い、今までのどこかしら一本調子な哀愁と悲愴感なカラーのポーランド・シンフォニック勢とは一線をも画した、フロイド+クリムゾンばりの唯一無比なる音世界観は今作も健在で、前デヴュー作以上に重みと深みが増している必聴必至な秀作となってます。
盛況著しい昨今の21世紀イタリアン・ロックから、またしても強力なニューカマーが到着しました。
大御所バンコのトリヴュート系バンドとして周知され、地道な音楽活動の継続の甲斐あって、この度めでたく自らのオリジナルナンバーを収録したデヴュー作までに辿り着いた“リミテ・アクエ・シクレ”の素晴らしいデヴュー作に要注目です。
地中海色溢れるシチュエーションから古代ローマ、中世ルネッサンスといったバンコ譲りのサウンド・ラビリンスと夢幻回廊にいつしか魅入られてしまい、情感溢れる劇的なイタリア語のヴォイスに70年代のPFMやオルメといった面影すらも見え隠れしているであろう素敵で巧妙な術中に、新旧のイタリアン・ロックファン誰しもが抜け出せなくなる事でしょう。
秋の深まりから一歩々々冬の足音が近付いている季節の移り変わりが目前に迫りつつあるさ中、晩秋の月夜と寂寥感漂う宵闇の微風に身を委ねながら、月影の楽師達が謳い奏でる妖しくも心揺さぶられる調べに暫し酔いしれて頂けたらと思います。
1.SIIILK/Eemynor
(from FRANCE)


1.Eemynor-Part I/2.Eemynor-Part II/
3.Signs In The Sand-Part I/4.Signs In The Sand-Part II/
5.Burning Hopes/6.Monsoon Lights/7.Spandam/
8.Morning Rain/9.Song For Syd/10.Number 9
未だ活動休止 (開店休業?) 中のピュルサーから派生・枝分かれし、ギタリストのGilbert GandilとキーボーダーのJacques Romanによる別動隊的なバンドとして認知されてきたシルクではあるが、2022年の新譜に当たる本作品で以って完全に一個体のバンドとして自我の目覚めにも似た自らのポジションが確立され、彼等自身にとっても最高傑作へと上り詰めた (良い意味で) ピュルサーという呪縛にも似た足枷から解き放たれたであろう充実たる一枚に仕上がっている。
蓮の花をあしらった曼荼羅模様が印象的な、意匠通りの西洋のイディオムと東洋のイマジナリーとが程良く調和・融合したオリエンタルでエキゾティックなサウンドカラーに加え、本家譲りの漆黒のファンタジーとミスティックさが溶け合った、ピュルサー時代よりも遥かな自己進化 (深化) を遂げ、物悲しさと憂いをも内包した更なる深みと重さを伴った孤高なる幽玄の音世界に、いつしか聴き手側も心と魂が遊離し彼等の構築する“真(シン)の終着の浜辺”へと誘われることだろう。
銅鑼や多彩な民族楽器を駆使し、アコースティックな残響が効果的に活かされた、まさしくCDに封入されたインナーのフォトグラフと寸分違わぬ映像的な視覚が脳裏をよぎる、「見て…聴いて…感じて」といった代名詞が如実に表れた、聴く側各々の心象風景そのものと言っても過言ではあるまい。
昨今感じられる凡庸で冗長気味なメロディーの垂れ流しが主流の、あたかもポッと出を思わせるネオ・プログレッシヴやポストロックとは雲泥の差を見せ付ける、匠の域の如きベテランの経験値と手腕が垣間見えて、全曲どれを取っても一切無駄の無いハイクオリティーな出来栄えであるが、個人的にはやはり7~8曲目の流れが特に素晴らしい。
加えてピュルサーのオリジナルメンバーでフルートと管楽器担当のRolland Richard (一曲のみではあるが) のゲスト参加が何よりも喜ばしい限りである。
2022年のプログレッシヴ・アワードの本命に近いかなぁ…。
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2.FREN/All The Pretty Days
(from POLAND)


1.Hammill/2.Wiosna/3.Romantik/
4.Bajka/5.All The Pretty Days/6.Turque
2020年、ポーランドのシーンに突如降臨したと言わんばかりに…素晴らしい音楽性を伴った話題と評判が手伝って瞬く間に全世界から注目を集める事となった、ヴォーカルレスのオール・インストゥルメンタル・プログレッシヴの新たなる旗手フレンが、2年ぶりの2nd新譜を引っ提げてシーンに戻ってきた。
共産圏時代の崩壊と共に90年代以降から21世紀にかけてのポーランドのシーンは、お国柄というか国民性とでもいうのか、良し悪しを抜きにやたらと哀愁と悲壮感に彩られたメロディック・シンフォ系が主流となった感が無きにしも非ずといったところであるが、そんなある種の閉塞感を打破すべく、昨今のポーランド勢にあっては21世紀スタイルの繊細さに加えて、70年代プログレッシヴ・ロックの持ち味であるヴィンテージ風に歩み寄った感触、更には力強いダイナミズムと硬派な豪胆さを追求するバンドが近年増えつつあるみたいだ。
そんなさ中に登場した彼等であるが、ヴォーカルレスといったハンデなんぞものともせず、己の信念と信条に基づき自らが創りたい音楽像を初志貫徹に実践している揺るぎ無いその姿勢に、私自身大いに好感と共感を抱いている次第である。
繊細で硝子細工の様に儚くも端整で瑞々しいクラシカルな響きのピアノの音色と相まって、ヘヴィ&ジャズィーにアグレッシヴな旋律を刻むギターとリズム隊の好演に、我ながら湧き上がる感動と興奮に加え魂の高揚感が抑え切れないのが何とも困りものである (苦笑)。
前デヴュー作と同様、ジャケットに描かれた何ともキモ可愛い(!?)彼等のマスコットキャラクターの再登場も大きなミソといえるだろう。
クリムゾンにフロイド、果てはVDGG (オープニング1曲目のタイトルにも注目!!) といった影響下を窺わせつつも、リスペクト云々や憧憬をも超越した遥か彼方の音世界をも見据えた珠玉の一枚…どうかとくと御賞味あれ。
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3.LIMITE ACQUE SICURE/Limite Acque Sicure
(from ITALY)


1.Sogno D'oriente/2.Terra Straniera/3.Il Respiro Dell'anima/
4.Antico Mare/5.Fiamme Intorno/6.Il Giardino Del Mago (Live)/
7.Ti Salverà
今年「Monthly Prog Notes」で取り挙げた21世紀イタリアン・ロックのニューカマー…ウィルソン・プロジェクト然り、ラ・クルーナ・デル・ラゴのデヴューを目の当たりにして、正直あの悪夢の様な70年代イタリアン・ロックの一時的な低迷期があたかも嘘だったのではないかと時折懐疑的になってしまい、今日までに至るイタリアン・ロックの伝統と系譜の偉大さと不変さに対し、改めて敬意にも似た感慨深い思いに捉われてしまうのはもはやいた仕方あるまい。
そして今回もまた、ここに長き伝統を誇るイタリアン・ロックの歴史を継承する素晴らしきマエストロが世に躍り出る事となった。
大御所バンコを愛して止まず、バンコのトリヴュートバンドとして長きに亘って活動し周囲から大いなる期待感と注目を集めていたリミテ・アクエ・シクレが、満を持しての言葉通り鳴り物入りで遂に堂々たるデヴューを飾る事となった。
碧き地中海のたおやかな波と風、陽光の下の向日葵畑、古い石畳の街並み、市場の雑踏、悠久の古代ローマ遺跡、中世ルネッサンス…etc、etcといった、誰しもが頭に思い描くであろうイタリアのイマージュが脳裏に色濃く鮮烈に呼び覚まされ、バンコのデヴュー作始め、名作『Io Sono Nato Libero (自由への扉)』、果ては『Come In Un'ultima Cena (最後の晩餐)』の残響と名残すらもきっとリフレインされる事だろう。
絢爛豪華なキーボード群に多彩なギターが奏でる旋律、強固なリズム隊の活躍、フルート、ハープまで導入され、パートによっては女性ヴォーカルが色を添えるといった、まさしく音のラビリンスで繰り広げられる夢想の様な饗宴に、リスナー誰しもが心打たれ落涙し胸を熱くする事だろう。
何よりもライヴで収録された、バンコの16分近い名作大曲「Il Giardino Del Mago (魔術師の園)」の彼等風のアレンジメントセンスと再限度の高さには、只々脱帽もので頭の下がる思いですらある。
天国にいるジャコモ、見ているかい?
貴方が遺した素晴らしい足跡と功績は、今こうして新たな次の世代へと受け継がれているよ。
もう心配しなくても大丈夫、どうかこれからも天国から見守っていてくれよ。
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