幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 ALPHATAURUS

Posted by Zen on   0 

 今週の「一生逸品」は、近年の復活再結成…そして驚愕にしてハイレベルな2nd新譜リリースで更なる注目を集め、1973年のデヴュー当時その余りに傑出された前例を見ない完成度の高さに現在もなお一大センセーションを巻き起こしていると言っても過言では無い位、かのムゼオ・ローゼンバッハと共にその人気を二分し、果てはイル・バレット・ディ・ブロンゾやビリエット・ペル・リンフェルノと肩を並べる位のテンションと完成度を有する、70年代イタリアン・ロックシーンきっての重爆撃機と言っても過言では無い、幻のマグマレーベルが誇る孤高の極みでもある“アルファタウラス”に栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

ALPHATAURUS/Alphataurus(1973)
  1.Peccato D'orgoglio
  2.Dopo L'uragano
  3.Croma
  4.La Mente Vola
  5.Ombra Muta
  
  Pietro Pellegrini:Key
  Guido Wasserman:G
  Giorgio Santandrea:Ds,Per
  Alfonso Oliva:B
  Michele Bavaro:Vo

 当ブログにせよ、幾数多ものプログレ&ユーロ関連の雑誌メディアで何度も言及されてきた事だが、70年代の…特に1972~73年頃のイタリアン・ロック・ムーヴメントは、まさに天にも昇る様な勢いと弾みで活気に満ち溢れ、首都ローマを中心に他のイタリア国内の地方都市のローカルなバンドでも堂々と表舞台に立てる絶好のチャンスに恵まれていた絶頂期そのものであった。
 『幻の映像』でユーロ・ロック到来の華々しい幕開けの如くワールドワイドなデヴューを飾り、一躍時代の寵児に躍り出たPFMを筆頭格に、『自由への扉』で文字通り最高潮に盛り上がっていたバンコ、オザンナ『パレポリ』、レ・オルメ『フェローナとソローナ』、RDM『コンタミナツィオーネ』、ジャンボ『18歳未満禁止』、そしてアレアの記念すべきデヴューに、ムゼオ・ローゼンバッハ、チェルベロの登場…etc、etcと、まさにこの1973年当時はイタリアン・ロック史に於いて百花繚乱…至福とも言える夢の様な黄金時代にして、後々の所謂21世紀のイタリアン・ロックという現在へと繋がる礎を成したと言っても過言ではあるまい。
 今回の主人公でもあるミラノ出身のアルファタウラスも御多分に漏れず、そんなイタリアン・ロック第一次絶頂期の1973年という真っ只中に、神々しくも荒々しい姿の重爆撃の鳩の如く舞い降りてシーンの一頁を築いていったのは言うに及ぶまい…。
 メンバー結成の経緯は定かではないが、1970年を境にイタリア随一のファッションモードの聖地ミラノで、ツェッペリン、ディープ・パープル、ユーライア・ヒープ、ジェスロ・タル、クリムゾン、ジェネシス、イエス、EL&Pといった当時の名立たるブリティッシュ・ロックの大御所達に多大なる影響を受けた、後にバンドの中心核となるキーボーダーのPietro Pellegriniを始めとする5人の若者達によってアルファタウラスは結成される。

 バンド・ネーミングの由来は彼等の公式サイトないし近年リリースされた2ndのライナーでも触れられているが、SF小説を愛読していたPietroの姉が読んでいた書籍からヒントを得て、牡牛座1等星アルデバランの別名であるアルファタウラスから命名したとの事だが、バンドのカラーや作風、天文学的にして神秘的でミスティックな韻を踏んだ…まさになるべくしてなったバンド名との運命的な出会いでもあった。
 そう!まさしくアルファタウラスとは音楽的リーダーPietro Pellegriniの持つ音楽世界の表れでもあり夢幻と理想郷への深層心理の投影だったのかもしれない。
 幸か不幸か…そのバンド名で、極ありきたりな商業的イタリアンポップスやロックンロールなんぞを演るつもりは毛頭無く、音楽的方向性を巡って概ね2年近くはメンバーの入れ替わりが激しく、バンドの運営やら資金繰りには相当苦労したと後年Pietro自身回顧しているが、72年の半ば漸くアルバムデヴュー期のラインナップが出揃った頃には大まかなバンドの音楽・方向性が確立され、併行してオリジナルナンバーの骨子が出来上がりつつあった。
 リハーサルと地道なギグの積み重ねでアルファタウラスはミラノで確固たる人気と知名度を得るようになり、更には1972年のパレルモ・ポップフェスの出演で彼等の運命は大きな転機を迎える事となる。
 当時に於いて最早ベテランの域であったニュー・トロルスのヴィットリオ・ディ・スカルツィとの出会いこそが、彼等アルファタウラスにとって大いなる飛躍への第一歩となったのである。
 ニュー・トロルス自体も通算5作目のアルバム『UT』でメンバー間の対立が表面化し、御存知の通りヴィットリオを除きニコ、ジャンニ、フランク、マウリツィオの4名が抜け、ニュー・トロルスは実質上ヴィットリオ主導の下N.T Atomic System名義で活動を継続。それと併行してフォニット・チェトラから離れたヴィットリオが新たにマグマ・レーベルを設立・発足させたばかりの、そんな矢先の出会いであった。

 アルファタウラスの音楽性に惚れ込んだヴィットリオはすぐさまマグマ・レーベルへの契約を勧め、程無くしてN.T Atomic Systemに次ぐマグマ専属のアーティストとして幸先の良いスタートを切った彼等は、即座にレコーディング・スタジオにて持ち前の気迫漲る集中力を発揮し、スピーディーで且つ異例の早さで録音を終了させ、1973年バンド名と同タイトルでデヴューを飾り、一躍活況著しいシーンの真っ只中へと躍り出たる事となる。
 後述でも触れるがPietro旧知の盟友にしてもう一人のアルファタウラスのメンバーともいえる、アドリアーノ・マランゴーニ画伯の存在無くしてデヴュー作は成し得なかったと言えまい。
 “重爆撃機の鳩”なるバンドカラーを決定付けた印象的な意匠に3面開きの特殊ギミックのアルバム・ジャケットはインパクト的にも効果は絶大で、荒々しく攻撃的…そして神がかった啓示的な両面性を持ったイマジネーションをも想起させ、「平和と戦乱」「調和と破壊」といった二律背反なテーマが如実に表れた、デヴューにして野心作・傑作と言っても差し支えはあるまい。
          
 EL&Pの『タルカス』の世界観を更に拡大解釈したかの様なカオス渦巻く終末の世界観、核爆発、蛇足ながらも…さながらウルトラセブンに登場した恐竜戦車(!?)もどきが描かれたカタストロフィーの中にも、時折寂寥感漂うハッとする様なリリシズムが秘められている事も忘れてはなるまい。
          
 オープニング“Peccato D'orgoglio(傲慢の罪)”は、不穏な気配とダークな緊迫感を感じさせる重々しいピアノと銅鑼に導かれ、オザンナ或いはイルバレを彷彿させる妖しげなギターのアルペジオに重厚なハモンドに支配されながらも、朗々たる神の啓示の如く謳われるヴォーカル。アコギが被さって徐々にイタリアン・ヘヴィプログレの真骨頂が見え隠れし、曲終盤への息をもつかせぬ怒涛の展開は、まさしくアルファタウラスの世界へようこそと言わんばかりの幕開けに相応しいでナンバーと言えよう。
 “Dopo L'uragano(ハリケーンの後)”はタイトル通りの、嵐が過ぎ去った後の荒廃感を枯れたアコギが厳かにして朧気な響きで謳いつつも、暴力的で破壊感なヘヴィサウンドとが交差する秀曲。中間部のアートロック風でブルーズィーな流れが、ブリティッシュからのリスペクトを思わせて実に興味深い。
 唯一のインストナンバー“Croma(クローマ)”は、荘厳にして暗雲の中にも一抹の光明が見出せるクラシカルでシンフォニックな、アルファタウラスのもう一つの側面をも窺わせる好ナンバー。不協和音を思わせるスピネッタ(チェンバロ)とベースのリフレインにシンセによる重厚なオーケストレーションは、リーダーのピエトロの嗜好する音楽性がここでは強く反映され全曲中、安堵感と希望に満ち溢れている。
 遥か彼方から聞こえて来るチェンバロとシンセ・オーケストレーションという、あたかも“Croma”の延長線上の様なイントロダクションが印象的な“La Mente Vola(駆け抜ける精神)”も、ブルーズィーで且つ中間部のジャズィーな曲調への展開が小気味良い秀曲と言えよう。ラストのメカニカルで実験的なシンセの残響が時代感を象徴している。
 ラストの大曲“Ombra Muta(無言の影)”のブリティッシュナイズとイタリアン・ロックのエナジーとの応酬に加え交互にせめぎ合う様は、パープルないしヒープ影響下を思わせるハード・ロックな側面が彼等なりに見事に昇華・結実し、作品は大団円を迎える事となる。ラストの余韻の部分も聴き応え充分で、最後まで飽きさせないところが実に心憎い…。

 デヴュー作リリース以降、好調な売れ行きと共に国内外のロックフェスへの参加で多忙を極めていた彼等ではあったが、次回作の準備も同時進行で進められており、その時の音源は後の1992年メロウレーベルより未発表音源集『Dietro L'uragano』として陽の目を見る事となるが、この録音当時メンバー間の様々な諸事情(決して喧嘩別れやらすったもんだが無かった事だけは、どうか御理解頂きたい)で、ヴォーカリスト不在のまま顔合わせする機会も徐々に少なくなり、プロデュース面の弱体に加えてそもそもが実績にも乏しく短命的な弱小レーベルだった事が致命的となり、EL&Pのマンティコアと同様マグマレーベルも閉鎖という憂き目に遭い、アルファタウラスは半ば解散に近い長きに亘る活動休止へと追いやられてしまう。
 その後…栄光のイタリアン・ロックの時代を担った多くのアーティスト達がそうであったように、アルファタウラスの面々も音楽業界に留まる者、音楽から離れて地に足の着いた仕事に就いた者とに別々の道を歩み、時代は70年代~80年代~90年代へと移行していった。
 その時点で分かっている事といえば…音楽的リーダーのPietroはPFM関連始めリッカルド・ザッパ等の幾数多ものカンタウトーレとの仕事で多忙を極め、ヴォーカリストのMicheleはソロ活動の道を歩み近年まで継続していたとの事。ドラマーのGiorgioも活動休止以降、一時期ハードロック系バンドのCRYSTALSに参加し録音にも参加したいたものの、結局音源がお蔵入りしたままバンドが解散し、以後は数々のセッション活動等で音楽に携わっていた
そうな…。(CRYSTALSも1993年にメロウから再発されている)
 ギタリストのGuido並びにベーシストのAlfonsoに関しては、活動停止直後の動向は現時点で不明だったものの、ただ唯一この場で言える事は…長きに亘るアルファタウラス活動停止という時間が経過してもメンバー全員が互いに密に連絡を取り合って親交を深めていた事が、ファンとしては実に嬉しくもあり喜ばしい限りでもある。
 その長い時間を経た友情の証が、後年大きな動きとなろうとはこの時点で誰が知る由もあっただろうか…。

 バンド休止から10年後の1983年、我が国キングレコードのユーロ・ロックコレクションにて、アルファタウラスの作品が再発されるや(オリジナル仕様の3面開き特殊ジャケットで無いのが残念ではあるが)多くのプログレッシヴ・ファンやユーロ・ロックファンは驚嘆し彼等の実力と素晴らしさが改めて再評価され、LPからCDへと時代が移行してもその熱は決して冷める事無く、彼等の評判は年代世代を越えて国内外でも更に高まる一方で、時代の追い風とファンの後押しが叶ったのか、前述で触れたセカンドアルバム音源が1992年にイタリアの当時の新興メロウレーベルからリイシューされ、プロデュースの力不足とヴォーカリスト不在というマイナス面こそ否めないが、その圧倒的なコンポーズ能力と完成度にファンは再び驚嘆し、事実この幻の2ndでアルファタウラスの人気は不動のものとなったと言っても過言ではあるまい。
 しかし…あくまで個人的な見解で誠に恐縮ではあるが、これだけの完成度を持つ未発音源であったにも拘らず何かしら釈然としないものを感じていたのは私だけではあるまい。
 直接聞いて確かめた訳では無いにせよ、多分…当事者のPietro自身も“何かが物足りない”と感じていたのではなかろうか。
 そう!その答えはあの重爆撃機の鳩を描いたアドリアーノ・マランゴーニ画伯の意匠では無かった事が唯一の心残りであったと言っても異論はあるまい。
 確かに音楽的にも完成度は優れてはいたものの、あのアマゾネスが乗ったドラゴンのイラストはいくらメロウ側が準備した付け焼刃的で間に合わせな装丁とはいえ、ちょっと大仰で且つ大袈裟過ぎないかと危惧をも抱いた位だ。
 担当者には誠に申し訳ないのだが、あのファンタジック・ノベライズ風なイラストはアルファタウラスのイメージ的にも的外れでぼやけてしまった感は流石に否めない(苦笑)。
 しかし逆に考えてみれば…イエス+ロジャー・ディーン、或いはピンク・フロイド+ヒプノシスという長きに亘るロックとジャケットアーティストとの連携関係に於いて、イタリアン・ロックでサウンドとイラストレーションが見事に合致したという意味で、アルファタウラスとアドリアーノ・マランゴーニ画伯との密接な関係は極めて稀であると言わざるを得ない。

 そんな国内外のファンが長きに抱いていたフラストレーションも、21世紀の2012年に見事に解消されたのは言うまでもあるまい!
 Pietro Pellegrini、そしてギタリストのGuido Wassermanの主導によって再結成されたアルファタウラスが長きに亘る眠りから目覚めて活動を再開の報に多くのファンは一気に色めき立ったのは言うには及ぶまい。
 そんな吉報に呼応するかの如く、遠方に居を構えている関係で不参加だったMichele BavaroとAlfonso Olivaからの後押しと激励もバンドにとって大きな助力・原動力となり、2010年11月にイタリアで開催されたプログヴェンション2010への出演でその神々しい姿を再び多くの聴衆の前に現した彼等アルファタウラスは、30年以上に亘るブランクをも感じさせない健在ぶりをアピールすると共に、その模様を収録した彼等初のライヴ音源『Live In Bloom』として2年後の2012年春にめでたくリリースされ、その2年間もの時間をたっぷりと有意義に使い同時進行であの奇跡の復活劇となった新譜2nd『Attosecondo』の製作に着手していたのは最早御周知であろう。
     
 加えて当然の如くではあるが…2012年の『Live In Bloom』そして『Attosecondo』の両作品のジャケットイラストデザインは、言うに及ばずアドリアーノ・マランゴーニ画伯が担当しており、特に『Live In Bloom』での鷲の頭を持ったミューズは、さながら重爆撃の鳩の進化形態を見る思いで、ファンならずとも驚嘆と感動で身が打ち震える思いになった事だろう。
     
 オリジナルドラマーのGiorgio Santandreaが製作直前に方向性の相違で抜けてしまい、ドラマー交代のハプニングこそあれどそんな事に臆する事無くPietroとGuido、そして新たに迎えたヴォーカリストを始めとするツインキーボードによる6人編成の新布陣で臨んだ新生アルファタウラスの勇姿まさにここにありといった感である。

 そして今…アルファタウラス始め私を含む多くのファンとリスナーにせよ今声を大にして言える合言葉として…
    “俺達、まだまだ終わらないぜ!”
の一言に尽きるという事だろうか。
 いつの日か重爆撃機の鳩が日本公演で舞い降りる日もそう遠くはあるまい…。
スポンサーサイト



Zen

Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua. Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation.

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。