幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 LOCANDA DELLE FATE 

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 9月終盤に差しかかった第三週目、今週の「一生逸品」は、名実共に正真正銘の真打登場といった感の70年代後期イタリアン・ロック最大の大御所“ロカンダ・デッレ・ファーテ”に今再び栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

LOCANDA DELLE FATE
 /Force Le Lucciole Non Si Amano Più(1977)
  1.A Volte Un Istante Di Quiete
  2.Force Le Lucciole Non Si Amano Più
  3.Profumo Di Colla Bianca
  4.Cercanco Un Nuovo Confine
  5.Sogno Di Estunno
  6.Non Chiudere A Chiave Le Stelle
  7.Vendesi Saggezza
  
  Leonardo Sasso:Vo
  Ezio Vevey:G,Vo,Flute
  Alberto Gaviglio:G,Vo
  Michele Conta:Key
  Oscar Mazzoglio:Key
  Luciano Boero:B
  Giorgio Gardino:Ds,Per

 今更言及するまでもなく、イタリアン・ロック…否!70年代の全世界規模のプログレッシヴ・ムーヴメントが(一時的だったとはいえ)衰退期に差し掛かっていた1977年、イギリスのイングランド、そしてスイスのアイランドと同年期に華々しくもデヴューを飾った、文字通りイタリアン・ロックシーン最後の砦にして、溢れんばかりの抒情美を紡ぐ申し子と言っても過言では無い位の絶対的な存在感と地位を保持しているロカンダ・デッレ・ファーテ。
 私ごときのセミプロ的な書き手には余りにも恐れ多い位の大御所にして、多くのイタリアン・ロックのファンや愛好家・有識者の方々から“今更何をいわんや”と思われるのも当然いた仕方あるまい(苦笑)。
 あの悪夢の様な70年代後期のプログレ衰退と共に、見開きLPジャケットの需要が徐々に少なくなりつつあった中、大手ポリドール・イタリアーナの寄せる期待を一身に受けて世に送り出された7人の楽師達の命運は、あの儚くも朧気な幻想美漂う妖精の意匠の如くもう既に決定づけられていたのかもしれない。
 ロカンダ・デッレ・ファーテの詳細なルーツやバイオグラフィーは、私自身でも30年以上経った今の現時点に於いて未だ曖昧模糊といった感ではあるが、その点は私よりも詳しく伊語に堪能精通し心得のある有識者の方にお任せしたいと思う。
 現時点で解っている事は、ロカンダ・デッレ・ファーテのメンバー大半が長年のキャリアを積み重ねてきたセッションマン達で構成されており、その美しくも瑞々しいサウンドの要とも言うべきメロディーメイカーはEzio VeveyとAlberto Gaviglioの両ギタリストと、ツインキーボードの片翼を担ったMichele Contaであると思われる。
          
 Michele Contaのペンによる端整なピアノの調べが美しいイントロダクションに導かれ、シンセにオルガン、ツインギター、フルート、そしてリズムセクションがあたかも絹織物の様に複雑且つ緻密に紡がれていく様は、イタリアの伝統に裏打ちされた独特の泣きの旋律を踏襲した“美”以外の何物で
も無い唯一無比の音世界の幕開けに相応しいオープニングを経て、続く2曲目も一連のカンタウトーレ系やイタリアン・ラヴロック系にも相通ずる歌心溢れる歌唱法と演奏とのハーモニーが見事にコンバインした秀曲に、暫し時が経つのを忘れる位に只々耳を奪われる事必至と言えよう。特に曲中間部のContaが奏でる早弾きのハープシコードが実に美しく、私自身若い時分初めて耳にした時は思わず言葉を失った事を未だに記憶している。
 かのキャメルをも彷彿とさせる抒情性とエッセンスに、たおやかで広大な地中海の蒼色のイメージを湛えつつ繊細で且つ良質なポップス感覚を兼ね備えた3曲目と4曲目も素敵な愛らしいナンバーで好感が持てる。
 5曲目と6曲目は小曲ながらも、前者は初期のPFMと真っ向からいい勝負が出来そうな…緻密にして構築的な70年代イタリアン・ロック全盛期の作風をリスペクト継承した力強いナンバーで、後者はややフォークタッチで牧歌的ながらも実に味わい深い優しさと詩情が滲み出ておりロカンダのもう一つの側面が垣間見える佳曲と言えよう。
 ラストの7曲目に至っては彼等の紡ぐ物語のエピローグに相応しい、ロカンダ・デッレ・ファーテの面目躍如にして彼等の思いの丈と理想の音楽像たるもの全てが凝縮された、まさしくアルバムタイトル『Force Le Lucciole Non Si Amano Più』(直訳すると“蛍が消える時”という意)に加えて、幻想的でファンタジックなジャケットの意匠のイメージと寸分違わぬ、幽玄にして優雅な大団円とも言えるだろう。
 特筆すべきは…全曲を通してMichele Contaのピアノワークの上手さと楽曲の素養、スキルの高さには溜飲の下がる思いであるという事であろうか。
 それはかのフェスタ・モビーレとはまたひと味違う瑞々しさと的確さはもっともっと評価されても異論はあるまい。
 なお後述でも触れるが、翌1978年若干のメンバーチェンジを経てシングルリリースされた『New York/Nove Lune』が、後年のCD化に際しボーナストラックとして収録されている事も付け加えておく。
 ちなみに上記で貼り付けたYoutube動画の『Force Le Lucciole Non Si Amano Più』フルアルバムバージョンには彼等のラストアルバムとなる『The Missing Fireflies…』に収録された“Crescendo”がボーナストラックとして収録されているのも非常に興味深いところである。
          

 だが…運命とは皮肉なもので、これだけ高い演奏力と素晴らしい完成度を持った作品を引っ提げてデヴューを飾ったにも拘らず、当時のイタリア国内もまたイギリスやアメリカと同様御多分に漏れず、他のヨーロッパ諸国と共に右に倣えとばかり、テレビやラジオ向きにオンエアされる商業路線の売れ線ポップスやら、映画『サタデーナイト・フィーバー』で瞬く間に火が付いた当時のディスコミュージックばかりがもてはやされ、更にはイギリスで勃発したパンク・ニューウェイヴムーヴメントという時代の追い風が拍車を掛け、プロモート不足というマイナス面で出鼻を挫かれた形でセールス的にも振るわず、結局アルバムをリリースした同年の春から秋にかけて、ポリドールとフォノグラムの2社が共同企画したレーベル主催のツアーにて数回ギグを行った(後の1993年にメロウレーベルからライヴCD化された)後、翌78年に若干のメンバーチェンジを経てシングル『New York/Nove Lune』という、時代相応の音作りながらもロカンダの持つ良質で親しみ易いポップスさが活かされた好作品をリリースするものの、結局時代の流れには到底逆らえず次回作の目途も立たずいつしか人知れずバンドは自然消滅という憂き目に遭ってしまう。
 バンド解体から2年後の1980年、Ezio Vevey、Michele Conta、Luciano Boeroの3人で“LA LOCANDA”なるトリオを組み、Rifiレーベルからラヴロック調の『Annalisa/Volare Un Po'Piu' In Alto』というシングル一枚をリリースするも、出来は良いが結局セールス的には結び付かず、善戦虚しくこれもたった一枚だけで自然消滅を辿ったのは言うまでも無かった。

 ロカンダ・デッレ・ファーテが表舞台から消えてから5年後の1982年、日本に於いてキングのユーロ・ロックコレクションに続き、ポリドールからも“イタリアン・ロックコレクション”として、イル・バレット・ディ・ブロンゾやラッテ・エ・ミエーレと共にロカンダ・デッレ・ファーテが国内盤リリースされるや否や(余談ながらもポリドールの国内盤イタリアン・コレクションは、ジャケット自体も見開きやら変形部分含めてイタリア原盤と何ら寸分違わぬ精巧な出来栄えで今でも人気が高い)、日本のプログレ・ファン並びイタリアン・ロックファンの心を鷲掴みにし、海を超えたこの遠い国での出来事が後々ロカンダ・デッレ・ファーテにとって大いなる運命の転機の訪れと、果ては2012年の初来日公演へ繋がったと言っても過言ではあるまい。
 時代は80年代から90年代へ…音楽フォーマット自体もLPからCDへと移行し、ひと昔前なら想像はおろか思いもよらぬ音源が世界各国から発掘され、未発表曲集からライヴ音源と、兎に角あの当時は枚挙に暇が無い位の堂々たるラインナップが出揃ったものである。
 イタリアからも(音質の良し悪し云々を問わず)ムゼオ・ローゼンバッハ始めラッテ・エ・ミエーレ、クエラ・ベッキア・ロカンダの未発ライヴ音源が続々とリリースされ、当然の如くロカンダ・デッレ・ファーテもライヴ音源がリリースされ、その演奏水準の高さにイタリア国内外にて改めて人気が再燃焼し、折からイタリア国内にて降って沸いたかの様な70年代イタリアン・プログレへの再考と見直し・再結成ブームが追い風となり、93年のライヴCDリリースから6年後の1999年、Ezio Vevey、Alberto Gaviglio、Oscar Mazzoglioのオリジナル・メンバー3人によってロカンダ・デッレ・ファーテは漸く待望の再結成・復活を果たし、同じく元メンバーのLuciano Boero、Giorgio Gardinoもゲストとして参加し、5人編成によるロカンダ・デッレ・ファーテ名義でヴァイニール・マジックより『Homo Homini Lupus(邦題「妖精達の帰還」)』をリリース。
 ヴォーカルのLeonardo Sassoと中心人物でもあったMichele Contaを欠いた、心無しかやや物足りないというきらいとマイナス面こそあれど、時代相応の音作りながらロカンダらしい純粋無垢で良質なサウンドが楽しめる好作品に仕上がっている。
     

 このまま順風満帆で次なる作品へとステップアップして大いに期待が寄せられると言いたいところではあるが、その後またもや降って湧いたかの如き活動休止宣言…。多くのファンはどれだけ気をやきもきした事だろうか!?
 ただ…ひと昔前とは明らかに違う点でネット社会となった今日、彼等の公式ウェブサイト上に於いて手に取る様にバンドの動向と情報が把握出来るというだけでも幸いなのが嬉しい限りである。
 こうして2012年、度重なるメンバーチェンジを経てリハーサルを繰り返しロカンダ・デッレ・ファーテは我々の前に再び華麗に舞い降りてきた。
 オリジナルメンバーのOscar Mazzoglを始め、Luciano Boero、Giorgio Gardino、そしてオリジナルヴォーカリストのLeonardo Sassoが待望の復帰を果たし、新たなギタリストMax Brignoloと新たなキーボードにMaurizio Muhaを迎えた6人編成で13年振りの待望の新作『The Missing Fireflies…』をリリースしその健在振りをアピールし、同年春の4月27~29日の3日間、川崎クラブ・チッタにて開催の『イタリアン・プログレッシヴロックフェス~春の陣~』にイ・プーやオルメと共に遂に初来日を果たす事となったのは最早言うまでも無かろう。
        
 幸運の女神の微笑みか…或いはあのデヴュー作で描かれた妖精のお告げなのか…いずれにせよ彼等のここまでに至る長い道程は決して無駄では無かった事だけは確かであろう。

 だが惜しむらくは、1977年のデヴューから数えて40周年目の2017年、突如彼等の口から語られた衝撃のアナウンスメント“ロカンダ・デッレ・ファーテ活動終了宣言”にはイタリアや日本のみならず世界各国の彼等のファン達が落涙し、彼等の潔い終焉に惜しみない拍手と喝采を贈ったのは言うまでもあるまい。
 
 それでも彼等の伝説は決して終わる事無く、彼等を愛して止まないファン達がいる限り…彼等の作品が生き続ける限り、その崇高で高潔な音世界は未来永劫語り継がれていくであろう。
 …私はそう信じたい。
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Zen

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