幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 SPRING

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 今週の「一生逸品」は数ある70年代ブリティッシュ・ヴィンテージ系名作の中でも、群を抜いた比類無き完成度とクオリティーを誇り、大英帝国独特の物憂げな儚さ…光と陰影が同居した詩情溢れる世界と、ドラマティックなメロトロン群が木霊する、まさしく名作・傑作の名に恥じない珠玉の一枚でもある“スプリング”を取り挙げたいと思います。

SPRING/Spring(1971) 
  1.The Prisoner(Eight By Ten)/2.Grail/
      3.Boats/4.Shipwrecked Soldier/
      5.Golden Fleece/6.Inside Out/ 
      7.Song To Absent Friends(The Island)/
      8.Gazing
  
  Pat Moran:Vo, Mtn 
  Ray Martinez:G, Mtn 
  Adrian‘Bone’Maloney:B 
  Pique Withers:Ds, Per 
  Kips Brown:Piano, Organ, Mtn

 もう長きに渡りプログレッシヴ・ロック始めシンフォニック・ロック、果てはブリティッシュ・ロックの名だたる名作・名盤に慣れ親しんでこられた方々にとって、必ずと言って良い位に避けて通れない一枚。
 今回紹介するイギリスのレア&マスト・アイテムな名盤と謳われ続けてきたスプリングの唯一作。 
 71年…それこそレア・アイテムの宝庫と言われているネオン・レーベルに唯一の作品を残しつつ、それ以降バンド並びメンバーの現在に至るまでの動向及び消息は、毎度の事ながら(苦笑)残念な事に皆目見当が付かないのが正直なところである(雲を掴むような話…)。 
 オリジナルのイギリス原盤は当然の如く、ひと頃と比べたらプレミアム的にもダウンしているが、それでも未だにン万円単位で取引きはされているそうな(苦笑)。
 80年代の愚行・悪夢ともいうべきブリティッシュ系レア・アイテムの安手で陳腐な体裁を繕ったブート再発で思いっきり信用を地に落とした感は無きにしも非ずではあるが、それはそれで高い評価と人気を持っていたが故の有名税たる悲しい宿命とも言えよう。
 90年代に入りアメリカのレーザーズ・エッジ・レーベルにて漸く正規にCD再発され(かのキーフがデザインの3面開きのジャケット仕様も見事に復活)、マーキーのベル・アンティークからも国内盤(後年の紙ジャケットSHM‐CD化も含めて)でリリースされたのは記憶に新しいところである。
 まあ…やっとと言えばやっとであるが、デヴュー当時の71年日本国内盤もリリースされる予定があったにも拘らず諸々の事情で中止という憂き目に遭っていることを考慮すれば、結構国内リリース向けの良質で親しみ易い内容であることだけは付け加えておきたい(レア作品に有りがちな、お堅くもキワモノ扱いみたいな中身でないこと)。 

 70年初頭にレイチェスターのローカル・バンドとして経歴をスタートさせ、その後当時の新興レーベルだったネオンの目に止まり、インディアン・サマー、トントン・マクートに次いで期待と注目を集めるものの、セールス的に伸び悩みつつバンド自体もたった数回のギグを経て、ギリギリの綱渡りに近い活動を強いられながらも、そんな不遇な状況に臆する事無く彼等は1973年の2ndリリースに向けたリハーサルとレコーディングを行っており、漸く何とかマスターテープを完成させるものの、時既に遅くネオンレーベルとの契約も終了し、他のレーベルからのリリースも見込まれないままメンバー各々がそれぞれの道に四散し、結局僅か2年足らずでスプリングはその短い活動期間に幕を下ろし表舞台から消え去ってしまう。
 メンバー達のその後の動向はスタジオ・ミュージシャンへの道を歩む者、ローカル・バンドに移行した者、音楽活動からすっかり足を洗って堅気(!?)の道を選んだ者とに分かれるが、スタジオ活動に携わった者の中で注目すべきはロバート・プラント始め、イギー・ポップ、ルー・グラム、マグナ・カルタ、ダイアー・ストレイツとのセッションもあったそうな。
          
 冒頭1曲目の“The Prisoner”は、そこはかとなく始まるメロトロンに導かれ、タイトル通りの哀感の篭ったバラード調の流れの中にも一条の希望の光が見出せそうな展開である。
 2曲目“Grail”もオープニングと同傾向の作品で、決して派手になることも大仰な曲展開になることもない極めて淡々とした地味で薄い印象ではあるが、元を正せばブリティッシュ・フォークに裏打ちされた「唄」を聴かせる意図なのかもしれない。
 続く3曲目“Boats”も河を漂う小舟の如きフォーク・タッチなアコギに導かれこれまた淡々としたヴォーカル・ナンバーの小曲。
 間髪入れずにマーチング・スネアとメロトロンに導かれ、軽快なブリティッシュ・ロックンロール風の趣きが堪能出来る“Shipwrecked Soldier”も旧A面を締め括るに相応しいナンバーである。
 “Golden Fleece”は厳かで明るめな曲想のメロトロンをイントロに、如何にもビートルズからの影響をも伺わせる軽快なナンバー。
 続く“Inside Out”も前出と同傾向の好作で、美しいピアノが奏でるラヴバラード調の“Song To Absent Friends”も忘れ難く、シングル・カットされてラジオでオンエアされたとしても何ら違和感の無い味わい深いものを感じる。
 旧LP盤のラストを締め括るに相応しい“Gazing”は、一瞬クリムゾンの“エピタフ”を思わせるような出だしながらも、夕暮れ時の黄昏感漂う映像的な光景が目の前に浮かび上がってくるかの様な感傷・感動的な終曲である。
          
 昨今のCD化に伴うボーナス・トラックの未発表3曲も聴きもので、LP盤でしかスプリングを知らない方達には「へえ…!あのスプリングに、こんなに良い曲が残ってたんだァ!?」と驚嘆すること請け合いである。
 メロトロンよりもオルガンとギターをメインにした乗りの良いプログレ・ハード&ヘヴィ色の濃いナンバーで占められており、私自身も初めて彼等の未発表曲に接した時は、伝統的なブリティッシュ・フォークに根付いた曲想ばかりと抱いていたが故「意外だよなァ…」と更に再認識を改めた次第である。

 「トリプル・メロトロンだけが売り文句で、内容なんかさほど大した事ない」「トリプル・メロトロンなのに、コマ切れ状態みたいな鳴らし方で、厚みが無い…薄い!聴く価値ゼロ!!」といった巷での陰口・悪口は確かに無きにしも非ずではあるが(申し訳無いが、結局そんな悪口雑言でしか評価している輩は、付加価値だけ重視したくだらない俄か的レコード蒐集家被れ…所謂アーティストへの愛情の欠片も無い、レコード=物としか扱っていない最低な類だと思えてならない)、そんな悪口雑言なんてどこ吹く風とばかりに、彼等の唯一の作品にはイギリスの牧歌的な風景に土と水と風の匂い、流れる雲に木霊する樹々…キーフの描くジャケット・アートの如く、川の水面を自らの血で染めた悲しくも美しさを湛えた兵士の亡骸を象徴しているかの様に、悲しみという深淵の奥底からほんの僅かながらも仄かで明るい光明と希望溢れる世界を見出そうとしている、寒い秋風の中にも温かさを感じる、ある種“”の通ったヒューマニズム溢れるブリティッシュ・シンフォニック黎明期とも言える秀作と言えよう。 

 ただ単に…古臭い時代物の音楽だけで片付けて欲しくないし、今一度再評価・再認識を促したい、これこそ真の“逸品”であろう。

 こうして時は瞬く間に流れ、21世紀真っ只中の2007年…奇跡と運命の輪は再び回り始める。
 スプリングが遺した、73年リリース予定だった2ndアルバム用に録音された幻の音源がメンバー自身からの提供で、実に34年振りに陽の目を見る事となり、先に触れたボーナストラックの3曲もアレンジを変えたヴァージョンで再録され『The Untitled II 』という意味深なタイトルながらも、決して一作のみの打ち上げ花火程度では止まらない真の実力を発揮した会心の一枚として世に出る事となり、翌2008年にはイタリアのAKARMAレーベルからも『Second Harvest』と改題されてリイシュー化され、2016年にはかのロジャー・ディーンによるイラストでアナログLP盤『Spring 2』として陽の目を見る事となった次第である。
 
 改めて振り返ってみると、スプリングとは万人に愛されるべき、極めてヒューマンでミュージシャン・シップが強く打ち出されたバンドだったと思えてならない。
 何よりも彼等の“音”がこうして未来永劫愛され続ける限り、決して伝説のままで終わらせてはなるまい…。
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