夢幻の楽師達 -Chapter 12-
今週の「夢幻の楽師達」はプログレッシヴ&ユーロ・ロック史において、現在もなおその強い個性と秀でた音楽性でプログレ・ファンのみならず各方面(特にギター関連方面)から絶大なる賞賛を得ているオランダの“フィンチ”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。
FINCH
(HOLLAND 1975~1977)


Joop Van Nimwegen:G
Peter Vink:B
Cleem Determeijer:Key
Beer Klaasse:Ds,Per
海を隔てていながらにして、オランダという国そのものがまるでイギリスとは地続きではないかと錯覚する位に、音楽的な文化・ムーヴメントにあっては大いなる影響を受けていると言っても過言ではあるまい。
60年代末期~70年代初頭にかけて台頭し、少なからず世界各国のミュージック・シーンをも席巻した、俗に言う“ダッチ・ポップス”の波は“ヴィーナス”を大ヒットさせたショッキング・ブルーを筆頭に、多数の名作を生んだアース&ファイアー、ゴールデン・イアリングによってダッチ・ロック・ムーヴメントは第一期を迎え、同時期に前後して登場のエクセプション(後のトレース)、世界的にビッグ・ネームとなるフォーカス、カヤック、スーパー・シスター、ソリュージョンとともに、フィンチも栄光の70年代の第二期ダッチ・ロックシーンを華々しく彩ったのは言うまでもあるまい。
フィンチの歴史は…サイケ・ポップ、ブルース、R&Rを基調としたヘヴィ・ロックがメインだった“Q65”なる伝説的バンドに属していた、ベーシストのPeter VinkとドラムスのBeer Klaasseの両名が、当時まだ弱冠19歳ながらも既にヤン・アッカーマンと並んで高い評価を得ていたギタリストのJoop Van Nimwegen、そしてキーボーダーのCleem Determeijerを迎え、その当初はヴォーカリストも迎えて5人編成でQ65名義として存続させるつもりだったが、彼等の創作する新たなサウンド・ヴィジョンに合うヴォーカリストが見つからなかった事に加え、バンドのアイディア並び全ての曲を手掛けていたJoopの案でインスト・オンリーのバンドとして、バンド名も新たにフィンチに至った次第である。
フィンチの音楽性とカラーは、まさにJoopとCleemの両名によって位置付けられたと言っても差し支えはあるまい。
以後この4名の布陣で75年デヴュー作に当たる『Glory Of The Inner Force』、続く翌76年に2nd『Beyond Expression』と立て続きにリリースし、大作主義ながらもそのテクニカルで高度な音楽性と完成度を持ってして、あのフォーカスとともにオランダにフィンチ在りと世界各国に知らしめる事に成功へと導いたのは言うに及ぶまい。

ベーシストのPeterは当時の事をこう回顧している…。
「俺達はメンバー間でお互いに敬意を持ち合ってたんだ。あの当時フィンチみたいなバンドは他のどこにも無かったと思うね…。ライヴで誰かが素晴らしいプレイをしたらそれを皆が認めてたし、例えば…JoopやCleemが演奏中にアドリヴで長いコード進行を弾いてる場合、毎回バック・ステージにて出番待ちで聴いていたけれど、数え切れない程のステージをこなしている俺ですらも時折トリ肌が立つ思いだったよ。とにかく…フィンチは毎回のライヴが自分自身との闘いみたいなもんだったよ」
しかし、そんな順風満帆な彼等に重大な危機は突如として訪れる。クラシック音楽を更にもっと追究したいという理由でCleemが脱退し、その後を追うかの様にドラムスのBeerも脱退。
バンドはすぐさま新たなメンバーを補充し、KeyにAd Wammes、DsにHans Bosboomを迎えて心機一転イギリスのBUBBLEレーベルに移籍し、77年3rdにして最終作そして最高傑作でもある『Galleons Of Passion』をリリース。
全3作品中…内容的に前作、前々作以上に最もJoopが出来に満足し気に入っている作品に仕上がったとの事である。

だが、運命とは皮肉なもので…オランダとは違いディストリビュートの不備でセールス的にも伸び悩み、Joopはこれを機に自分自身の目指す音楽像の追究の為バンドの解体を決意する。
解散前夜、当時の事をJoopはこう振り返っている…。
「僕はいつだってフィンチというバンドの1/4でいたかったんだ。でも、結局は僕自身いつも90%を背負い込んでいたし…。自分の背中に当てられるスポットライトをもうそろそろ外して欲しかったしね」
メンバーのその後の動向は…Joopは現在もなお音楽関係の仕事に携わっており、音楽関係の学校の講師、後進の指導、ミュージカル等の舞台での音楽監督と多方面に活動中で多忙を極めているとの事。
Peter Vinkも自身の音楽事務所・マネジメントとスタジオを経営し今も母国にて現役を続行し、Cleemは完全にロック業界から離れクラシック・ピアニストとして第一線で活動中である。
そんなさ中の1999年に突如未発表曲と3rdの別ヴァージョン並び3rd発表前のライヴ・マテリアルを収めた2枚組CD『The Making Of… Galleons Of Passion / Stage'76』がリリースされ、Peterを中心に初代DsのBeer、二代目KeyのAd(彼はフィンチ加入当時、前任のCleemからメロトロン以外の鍵盤楽器を譲り受けている)、そしてミュージック・メーカーのJoopの黄金時代のラインナップでフィンチの再編を計画しているとの事だが、いかんせん当のJoopの気持ち次第やらスケジュールの調整次第にもよる…というのが何とももどかしい(苦笑)。


未発マテリアルのリリースと共にメンバーの口から語られた、まさしく“21世紀版フィンチ再編”というまさに青天の霹靂、或いは寝耳に水ともいえる驚愕のアナウンスメントから、数えてもう今年で早20年…再編はおろか新作云々といった情報が未だに届く事無く、フィンチという存在自体も少しずつ人々の記憶から忘却の彼方へと消え去りつつあり幾久しい限りといった感ではあるが…まあ、これも全ては神のみぞ、ギタリストのJoopのみぞ知るといったところであろうか?
スポンサーサイト