幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 TAURUS

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 今週の「一生逸品」は80年代初頭のオランダ・プログレッシヴから伝統的にして正統派ユーロ・ロックの抒情派、親しみ易くてどこかしら人懐っこくホットでポップスなメロディー・ラインが魅力的な“タウラス”を取り挙げてみたいと思います。

TAURUS/Illusions Of A Night(1981)
  1.Back On The Street/2.The Gurus/3.Mountaineer/
  4.Farmers Battle/5.Illusions Of A Night/6.Kaboom/
  7.My Will/8.Barbara/9.Nickname/
  10.Same Old Story/11.Sutton
  
  Martin Scheffer:Vo, G
  Rob Spierenburg:Key, Vo
  Rex Stulp:Ds, Per
  Jos Schild:B, Moog-Taurus

 タウラスというバンドが我が国に初めて紹介されたのは、今を遡る事32年前の1987年。
 その前年の1986年オランダからコーダが衝撃的なデヴューを飾ったのを契機に、Sym‐Infoレーベルが設立され呼応するかの様にディファレンシスやエグドン・ヒースといった当時のニューカマー達が雨後の筍の如く登場した同時期に、デヴューから6年遅れでマーキー誌面で初登場したのを今でも記憶している。
 コーダの登場で興奮冷めやらぬといった感の80年代のオランダのシーンではあるが、前述のディファレンシスやエグドン・ヒースに於いては未だ見切り発車を思わせる様な稚拙で未熟な部分が散見出来て、私自身でさえもコーダに続く新たな波というものに正直なかなか乗り切れなかったというのが当時の本音でもあった(苦笑)。
 そんなさ中のタウラスの登場は、既に高額なプレミアムが付いていたとはいえ幻影的なイマジネーションを脳裏にかき立てる意匠に一抹の期待感を抱かざるを得ないのは言うまでもあるまい。
 それから3年後に漸く苦労の末…新宿の某中古廃盤専門店から入手した彼等のサウンドは、まさしく幻影的なジャケットのイメージ通り期待に違わぬ70年代ヴィンテージな空気と色合い・風格をも兼ね備えた威風堂々たる素晴らしい出来栄えに、一人静かにプレイヤーの前で感動の余韻に浸りつつタウラスの紡ぐ夢物語と欧州浪漫を暫し噛み締める思いであった。

 タウラスの結成は76年説と78年説とがあるが、後年リリースされた未発表曲集から察するに結成は1976年とする方が正しいと思える。
 70年代ダッチ・プログレッシヴ全盛期に於けるフォーカス、フィンチ、アース&ファイアー、トレース、カヤック…等よりも次世代的に若い部類ではあるが、彼等もまた前述の先人バンド並びブリティッシュ系のイエスやキャメル影響下を思わせるメロディーラインを踏襲したユーロピアン・フレーヴァー溢れる泣きの抒情性を色濃く打ち出しつつも温かみある良質なポップスセンスをも兼ね備えた、バンド自らが正統派プログレの継承者たるものを強く意識した趣が感じられる。
 バンドリーダーと思えるギタリスト兼リードヴォーカリストのMartin Schefferを筆頭に、メロディーメーカーとおぼしきキーボーダーのRob Spierenburg、ドラマーのRex Stulp、そしてベーシストのJos Schildの4人で結成され、曲作りとリハーサルに1~2年間費やされ、78年頃を境に精力的にライヴ活動を開始し、当時に於いて既に7~10分強の長尺の曲をもレパートリーに取り入れつつ数々のフェスティバルに参加して、かつてのプログレ・ファンの心を鷲掴みにすると共に新しいファン層をも増やしていった。

 ここで肝心要なバンドネーミングの由来について…メンバーの誰かの誕生日が牡牛座だったからとか、ベーシストの所有しているモーグ・タウラス(ペダル・ベース)が同じ牡牛座の名前だからそれでいいやと冗談で命名したとか、まあ兎にも角にも諸説様々な経緯が語られている彼等ではあるが、まあ今となっては一種の笑い話として留めておきたいところであるが(苦笑)。
 2年以上に亘る精力的なライヴ活動とプロモートの甲斐あって、1980年にフォノグラムとの契約を交わし同年8月に待望のデヴュー・シングル“Meadow/Undiscovered”をリリースし、オランダの国営ラジオ局やFMから40回以上もオンエアされて、(大ヒットまでには至らなかったものの)国内の幅広いプログレッシヴ・ロックのリスナーやファン層から好評と支持を集めるまでに至る。
          
 知名度を上げた彼等は翌1981年に心機一転、CBS傘下のMULTIと契約し遂にユーロ・ロック史にその名を刻む名作『Illusions Of A Night』のリリースまでに漕ぎつけた次第である。年明けの1月~2月にかけて録音され5月にリリースされた本作品の魅力は、やはりダッチ・プログレの伝統を継承しつつも変にベタベタした泣きの叙情性だけに寄りかかる事無く、70年代独特の色合いと気概に満ちた作風の中にも80年代という新たな時代の幕開けに相応しい突き抜けるような開放感に、ソフィスティケイトされた極上なポップス的風合いとが見事にコンバインされたところに尽きると言えるだろう。
 決してブリティッシュ・ポンプな方向性や後々のメロディック・シンフォ風に寄りかかる事無く、自らの信念と情熱に基づいた正統派の王道を歩む真摯な姿に、誰しもが“嗚呼、これこそがユーロ・プログレの真髄である”という事をまざまざと見せ付けられた思いになった事であろう。
          

 ハモンドにメロトロン、ギブソン・レスポール、リッケンバッカーといったプログレ愛好者なら言わずもがな納得出来る往年の名器級ともいえる機材のオンパレードにも狂喜乱舞される事だろう。
 全曲共クオリティーの高さはお墨付きながらも、やはりMartinとRobのメロディーメイカー二人の力量と音楽的素養の深さとスキルの高さには筆舌尽くし難いものがあると言ったら大袈裟であろうか(苦笑)。
 どことなくアンダーソンをも彷彿とさせるMartinの歌唱力に時折ハッとさせられたり、Robのキーボード・ワークはバーデンスやウェイクマン風というよりもトニー・バンクスに近いものが感じられたり、彼等の唯一作を回数を重ねて耳にする度に新たな発見と驚きがあるのも特筆すべきであろう(特にロブの瑞々しいピアノワークには是非注目して欲しい)。
 それぞれの恋人に捧げたであろうMartinのアコギのソロナンバーが泣かせる8曲目や、ラストのRobのピアノソロも必聴曲として聴いて貰いたいところだ。
 アルバムリリース直後と前後してオランダ国内ツアーを行い、ツアーの途中でドラマーがRexからDennis Plantengaに交代しつつも彼等は歩みを止める事無く精力的に演奏し、オーディエンスの期待に精一杯応え次なる展開へと模索しつつあった(このライヴツアーの模様は後年『See You Again~Early Live』で完全収録された形でリリースされた)。 
    

しかし…運命とは何とも皮肉なもので、あれだけの精力的な活動とは裏腹に彼等もまた時代の流れに抗う事も叶わず、活動意欲の停滞に加え人気の方も徐々に下降線を辿らざるを得ないという過酷な現実を目の当たりにしてしまう。
 結果、1983年に77年~解散直後の1982年までのライヴ・マテリアルを編集した『Live Tapes』という企画物ライヴ盤をリリースし、長い様で短かった創作活動に終止符を打ち彼等タウラスはその数年後に発掘されるまでの間忘却の彼方へと追いやられてしまった次第である。
 件の『Live Tapes』の方も、年代によって音質のバラつきこそあれど各曲のクオリティーはどれも高くて流石タウラスの面目躍如と言いたいところではあるが、いかんせんモノクロのライヴ・フォトのみがプリントされた何とも自主製作然とした、お世辞にも見た目の印象が薄くて正直余りピンと来ないのが本音であり、バンドの終焉を飾るには余りにも寂しいものを感じてならない(私自身も、過去に一度新宿の某中古廃盤専門店で一度お目にかかった事があるものの何だか直視出来なかったのを記憶している…)。
 1987年にマーキー誌の尽力の甲斐あってタウラスの唯一作が陽の目を見る事となり、漸く世界的規模に知名度が知れ渡る事となったのは最早言うまでもあるまい。バンドサイドの方もそれに呼応するかの様に、古巣のMultiを経由して未発表曲集の『Works 1976-1981』(肝心なドラマーのみが不在で、ドラムパートをリズムマシンによる打ち込みで補ったというマイナス面こそあれど)をリリースしその健在ぶりをアピールし、タウラスの紡ぐファンタスティックな音世界を待ち望んでいたファンにとってはまさしく素晴らしい贈り物となった筈であろう。
          
 特筆すべきはその『Works~』のトップを飾るのがデヴュー・シングル曲の“Meadow”というところが、彼等にとってもタウラスというバンドの持てる力を、未発表曲集という形で思いっきり出し切ったまさに会心作と言えないだろうか…。
 その後、未公開のプロモーションとライヴ・フォトを網羅掲載した2枚組ライヴ盤のヴォリュームに匹敵する『See You Again~Early Live』をリリースし、その後も忘れかけた頃になると未発のマテリアル作品やコンピ作品集を単発でリリースし、現在にまで至っている次第であるが、肝心なメンバーのその後の動向が皆目見当が付かないのが正直なところで大いに気を揉ませているから困り者である(苦笑)。
 音楽活動から完全に身を引いて各々が新たな人生を謳歌しているのか、或いは運命に導かれるかの如くいきなりまたサプライズ級で度肝を抜く様な作品でも模索しているのだろうか…。
 いずれにせよ、彼等タウラスの唯一作があと数年後には紙ジャケット仕様のSHM-CDで聴かれる日もそう遠くはあるまい。
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