幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 KESTREL

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 11月最初の「一生逸品」は、晩秋近い時節柄に相応しく大英帝国屈指の名作・名盤にして、良質なるポップさと優雅でジェントリーな旋律を謳い奏でつつも、70年代後期のブリティッシュ・ロックシーンに於いて一抹の栄光を夢見つつ、かのイングランドと同様“運”に見放されながらも、唯一無比の音世界を構築し現在もなお音楽性が色褪せる事無く新鮮さに満ち溢れた伝説的存在として語り継がれている“ケストレル”に今一度焦点を当ててみたいと思います。

KESTREL/Kestrel(1975)
  1.The Acrobat/2.Wind Cloud/ 
  3.I Believe In You/4.Last Request/
  5.In The War/6.Take It Away/ 
  7.End Of The Affair/8.August Carol 
  
  Dave Black:Lead&Rythym-G, Vo 
  John Cook:Key, Syn, Mtn, Vo 
  David Whittaker:Ds, Per 
  Fenwick Moir:B 
  Tom Knowles:Vo

 1974年…あの『レッド』リリース前夜のクリムゾン解散声明を境に、ブリティッシュ・プログレッシヴは大きな転換期を迎えたと言っても過言ではあるまい。
 『リレイヤー』発表後のイエスの活動休止=ソロ活動への移行、低迷期に差し掛かったEL&P、『狂気』の世界的大成功以降、巨万の富を得ながらもウォーターズとの軋轢が次第に表面化しつつあった感のフロイド、ゲイヴリエル脱退後に作風と路線の変革を余儀なくされたジェネシス…と、俗に言う5大バンドの猛者達が時代の波と共に少しずつ変わり始め、片やその一方でキャメル、GG、VDGG、エニドといった精鋭達は気を吐きつつ地道に好作品を発表し、パンク&ニューウェイヴ一色に染まりつつある当時のブリティッシュ・ムーヴメントに於いて、プログレッシヴ最後の砦の如く生き長らえていたと言えよう。
 そんな時代の波に呼応しつつも、決して安易な商業路線・産業ロック系に妥協する事無く、かつてのビートルズをルーツとする純粋なブリティッシュ・ポップフィーリングを脈々と受け継ぎプログレッシヴのエッセンスを融合した、後々のメロディック・シンフォの源流ともなる新たなスタイルを模索していた…ドゥルイドを始め、イングランド、ストレンジ・デイズそして今回の主人公でもあるケストレルといった、単発・短命ながらも好バンドの輩出に至った次第である。
 未だに多くの…ブリティッシュ・ロックのみならずユーロ・ロックの愛好者達の心を捉えて離さない、ケストレルの不思議な魅力と長きに渡って愛され続けている理由とは一体何なのだろうか? 
          
 ケストレル…直訳するとハヤブサ科で猛禽系の鳥類“チョウゲンボウ”と名乗る彼等のスタートは1971年の夏、海岸沿いの小さな街ホワイトリーベイにてリーダー兼ギタリストDave Blackと盟友のキーボーダーJohn Cookを中心に、ドラマーのDavid WhittakerにベースのFenwick Moir、そしてメインヴォーカリストにTom Knowlesを加えた5人で結成された。
 当時の彼等に多大な影響を与えたのは、イエス、ジェネシス、EL&Pに大御所のビートルズ(後の彼等のポップ・センスとフィーリングのルーツが見て取れよう)、ブリティッシュ系以外ではフォーカスにサンタナを挙げている。

 彼等のホームタウンでもあるホワイトリーベイを活動拠点に地道にギグの回数を重ねてきた甲斐あって、73年名門大手デッカ・レコードのスカウトマンにして本作品プロデューサーのジョン・ウォルスに見出され、デッカ傘下のキューブ・レーベルより、大いなる期待を集めて珠玉の名作が生み出された次第である。
          
 厳粛でジェントリーな部分と驚く程に明るく軽快且つポップな部分とが全く違和感無く融合した1、4、5、そしてラストの8曲目こそが彼等ケストレルの身上にして至高のサウンドと言っても過言ではあるまい。
 特に4曲目、5曲目とラスト8曲目の終焉部分のメロトロン・オーケストレーションはブリティッシュ・プログレ史上、クリムゾンの“宮殿”とジェネシスの“サルマシス”と共に上位の部類に入る位の高揚感と荘厳さで圧倒される。
 ビートルズやプロコル・ハルムばりの俗に言う“英国風”バラードの2曲目とオルガン・ロック風に始まりながらも、しっとりとしたピアノと甘いメロディーな7曲目も実に泣かせてくれて、国は違えどタイ・フォンを初めて聴いた時の衝撃と感動を思い出したと言っても過言ではあるまい。
 プログレ=暗いといったイメージを払拭するかの様な爽快な3曲目と6曲目にあっては、まさにドライビング・ミュージック向きで…成る程ポップスなメロディーラインながらも魅力的で聴く者を惹きつける曲作りの上手さとセンスは時代と世紀を超越しても感嘆の思いですらある。 
  
 …が、運命とは皮肉なもので、期待を一身に集め鳴り物入りでデヴューを飾ったにも拘らず、最早イギリスの音楽シーンは世代交代の如くパンク・ムーヴメントの夜明け前であったのは言うまでもない。 
 当然の如くセールスは伸び悩み、バンド自体も活動が思うように行かず低迷に瀕する次第である。
 結果…バンドは解散しリーダーのDaveはスパイダース・フロム・マースに加入し活路を見出そうとするも結局長続きする事無く、Dave自身も音楽業界の表舞台から遠ざかるに至った次第である。 
 ケストレルにせよ、イングランド、ストレンジ・デイズといった70年代後期のプログレ・バンドにとっては正に冷遇された、乱暴に言ってしまえば“時代遅れ”というレッテルが貼られたまま、音楽的に素晴らしい作品が必ずしも賞賛される訳ではない…という当時の軽薄短小な英国の音楽シーンの愚
考・浅はかさを如実に物語っているようですらある。 

 その後Dave Blackはセッション・ミュージシャン・作曲家に転身し成功を収め、故郷のホワイトリーベイにて現在も時々不定期ながらも自身のバンドを率いて活動中とのこと。 
 John Cookはテレビ局の音響関係の仕事に就き、ドラムスのDavid Whittakerはスティール・ドラマー奏者に転向し地方のパブやクラブでの演奏活動に加えてニューカッスルにて自身のバンドで活動中。
 ユニークなところでヴォーカルのTom Knowlesは家族が営むベーカリー関係のビジネスに乗り出し、これが大当たりした後ダーハムにて家業の代表取締役兼コンピューター・システムのアナリストとして成功を収めている。
 最後に残るベースのFenwick Moirの所在だが、1980年前後にフランスに移住した以降は残念ながらその所在や動向は不明である。 

 同じ70年代後期に活躍したイングランドが奇跡的な復活を遂げ、昨年新作をリリースし気を吐いている一方、ファンの心理上“ならば是非ケストレルも!”と大いに期待を寄せたいところだが、悲しいかな…やはりそればかりは不可能に近いようだ。 
 稀代の名演・名作と賞賛されながらも、決して成功という栄光の階段には上れなかったケストレル。
 70年代という激動のブリティッシュ・ロックシーンに雄々しく放たれながらも、大きく羽ばたく事無く時代の彼方へ飛翔し消え去ってしまった彼等。
 そんな彼等が遺した唯一の作品は、どんなに時代が移り変わろうとも決して色褪せる事無くこれから先数十年の時を経ても神々しく光輝き続けていく事だろう。

 晩秋の青空と秋風に誘われて遠出する道中で久々にカーステレオでケストレルを聴いてみよう、冬の訪れはもう間近である…。
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