夢幻の楽師達 -Chapter 15-
11月第二週目、今回の「夢幻の楽師達」はFC2ブログに移行してから初の21世紀プログレッシヴ・バンドを取り挙げてみました。
時代を遡ること…90年代のイタリア国内にてヴァイニール・マジック並びメロウレーベルが新たな試みとして立ち上げたニュー・プログレッシヴの波及は、カリオペ始めシンドーネ、果てはシトニアといった新世代を輩出し、21世紀に移行してからもその波及は衰える事無く、今日までに至る新世代イタリアン・ロックの礎或いは指針にして完全復活の決定打となった、名実共にイタリアン・ロックの伝統と王道復古の先導にしてキーパーソン的な存在としてその名を轟かせている“ラ・マスケーラ・ディ・チェラ”に焦点を当ててみたいと思います。
LA MASCHERA DI CERA
(ITALY 2001~)


Fabio Zuffanti:B,G
Alessandro Corvaglia:Vo
Agostino Macor:Key
Andrea Monetti:Flute
Marco Cavani:Ds,Per
今となってはとても想像がつかない…一笑に付される様な話かもしれないが、長い間イタリアン・ロックに慣れ親しんだ方々にとって、よもやこの様な形で伝統的旋律のイタリアン・ロックの息吹きなるものが、21世紀の今日に聴けようとは夢にも思わなかった事であろう。
事実、あの栄枯盛衰が隣り合った1973年の世界的なオイル・ショックを契機に、あれだけの栄華と一時代を築いたイタリアン・ロックの殆どが衰退・壊滅の一途を辿った事を考慮すれば、尚更の事であろう。
俗に言うロカンダ・デッレ・ファーテとセンシティーヴァ・イッマジーネの登場を最後に70年代末期から暫くの間は、イタリアン・ロック=イタリアン・プログレッシヴはアンダーグラウンドな範疇で地下深くに潜伏するかの如き、時代の片隅に追いやられた感が無きにしも非ずではあったが、それでも80年代初頭におけるイギリスからのポンプ・ロック勃発を契機に、ヨーロッパ諸国への波及と追い風を受け、御多分に漏れずイタリアにもプログレッシヴ・ロック復活を目論む…バロックを始めエツラ・ウィンストン、ヌオヴァ・エラ…等といった創作意欲旺盛なアーティストが80年代半ばから90年代全般にかけて再び多数輩出するに至った次第であるが、当時は母国イタリア語によるヴォーカルは全体の3~4割といった比率で、やや大半が英語によるヴォーカルを用いた無国籍風な音作りに終始する傾向があったのもまた然りでもある(当時、ワールドワイドに展開していたイタリアン・メタルの影響があった事と符合してはいるが…)。
90年代半ばになると、イタリアン・ロックのリイシューを一手に請け負っていたヴァイニール・マジック社が新人発掘の名目でニュー・プログレッシヴシリーズをスタートさせ、カリオペ、シンドーネ、カステロ・ディ・アトランテを世に送り出し、プログレに理解を示していた多方面の自主レーベルもこぞってイル・トロノ・ディ・リコルディ、ディヴァエといった往年のファンをも唸らせる高水準なレベルのアーティストが登場し、一時的とはいえあれだけ衰退したイタリアン・ロックを再興させた尽力たるや、頭の下がる思いである。
余談ながらも、離散集合を経たPFM始めバンコ、オザンナ、ニュー・トロルス、オルメ、果てはRDMやメタモルフォッシ…等といった往年の名手が再びプログレッシヴ・フィールドに返り咲いた事も、シーンの再興に一石投じた事を忘れてはなるまい。
前置きが長くなったが、そんなイタリアのシーンが再び熱気を取り戻しつつあった80年代末期から90年代全般にかけて、かつての70年代イタリアン・ロック黄金期の熱気と感動を取り戻すべく陰ながらもひたすら地道なる復興に尽力してきた一人の男の存在Fabio Zuffantiを忘れてはなるまい。
Fabio自身フィニステッレ始め自らのソロ・プロジェクトでもあるホストソナテンをも手掛け、イギリスのクライヴ・ノーラン始めブラジルのマルクス・ヴィアナ、更には近年のロイネ・ストルトやマティアス・オルスンと並んで多方面に活動している…所謂ワーカホリック系プログレッシヴアーティストとしても確固たる地位を築いた先駆者と言っても過言ではあるまい。
先のフィニステッレを始め、ソロ活動、ロック・オペラ“MERLIN”のプロジェクト、果ては畑違いなジャンルのチャレンジといった創作活動に携わりつつも、現状に決して甘んずる事も満足する事も無く、Fabio自身常に貪欲にロックの持つ可能性に対峙してきたが故に、いつの頃からか自らが為すべき事はイタリアン・ロック史の王道を守るべき“気概”であると言う事を自覚したと察するのが正しいだろう。

Fabioの言葉を借りれば「ムゼオやビリエット、バレット・ディ・ブロンゾみたいな栄光の70年代イタリアン・プログレッシヴの伝統を再生する為に、このバンドを作った」、そんな宣言とも豪語ともとれる言葉通り、2001年初頭に「蜜蝋の仮面」なる如何にもダークな雰囲気を湛えた直訳の意で、本バンド…ラ・マスケーラ・ディ・チェラはジェノヴァにて産声を上げた次第である。
Fabio自身の手掛ける通算7つ目のバンドであるのも然る事ながら、推測の域で恐縮なれど…結成と同年かそれと前後して同じく70年代回帰型のもう一方の雄“ラ・トッレ・デル・アルキミスタ”がデヴューを飾った事もあり、Fabioにとっても良い意味で刺激にもなり対抗心が芽生えたと思うのは考え過ぎだろうか。
こうして周囲からの期待と注目を一身に背負い大いなる挑戦ともいうべき一歩を踏み出したラ・マスケーラ・ディ・チェラであるが、決してFabioのワンマンバンドに終始する事無く、彼を支えるべく強固なるバンドメイトが一丸となって70年代の模倣でも懐メロでもない原点回帰やリスペクトを超越した完全新生を目指してデヴューに臨んだと言っても過言ではあるまい。
ヴォーカルのAlessandro Corvagliaは先に紹介したロック・オペラ“MERLIN”で主役を務めた経歴を買われてそのまま活動に参加し、ハモンドやメロトロン、モーグといったヴィンテージ・キーボードのコレクターでもあるAgostino Macorと強固で的確なテクニックのドラマーのMarco Cavaniの両者が一番Fabioとの活動歴が長く、共にフィニステッレ→ホストソナテン→ラ・ゾナと渡り歩いてきた強者で、フルートのAndrea Monettiも意外な経歴の持ち主で何とあのドイツのエンブリヨのメンバーも経験したという、バンドメンバー各々が実力者揃いというのも頷けよう。

結成の翌年2002年のデヴュー作を経て、翌2003年には2作目に当たる『Il Grande Labirinto』を立て続けにリリース。両作品共に全世界のプログレッシヴ関係のプレスやメディア等でも大絶賛され、70年代回帰型のイタリアン・ロックの作風に飢えていた各国の熱狂的ファンからも支持を得て空前のベストセラーにもなった事は未だ記憶に留めておられる方々も多いことだろう。
デヴュー作での怒涛の如き衝撃も然り、粘っこく絡みつくイタリアン独特なフルートの響きに、ヴィンテージな空気を湛えたハモンドにメロトロン、モーグ、重厚感溢れるヘヴィなリズム隊に、邪悪な中にも壮麗なイマジネーションを想起させる伊語によるヴォーカルといった揃い踏みに、全身が震え上がる位に震撼したのは言うまでもあるまい。
2作目にあっては前作の延長線上なれど、数名のゲストミュージシャンを迎え様々な音楽的素養にアヴァンギャルドなギミックさが加味された、シャレではないが確信犯的な革新さと貪欲なまでの創作心に満ちた意欲作に仕上がっている。
翌2004年には、待望の初ライヴ・アルバムをリリースしスタジオ作品と何ら変わらぬヴォルテージと熱気を帯びたパフォーマンスが繰り広げられるものの、翌2005年には次なる新展開と新作リリース準備の為一年間の沈黙期間に入る。
その間、フィニステッレ時代含めて長年住み慣れたメロウ・レーベルから離れ、ドラマーがMarco Cavaniから同じくFabio人脈の伝で招かれたMaurizio Di Tolloに交代し、バンドは心機一転し新興レーベルBTF傘下でPFMのフランツ・ディ・チョッチョが設立したImmaginificaから、同じくフランツのプロデュースの許で通算4枚目にしてスタジオ3作目に当たる実質上の3rd『Lux Ade』をリリースする。
本作品も過去2作のスタジオ作を遥かに上回るヴォルテージを有し、前2作品の中から必要最小限に抽出された良質な部分を濃縮還元した内容に仕上がったと言えば分かり易いであろうか。ヘヴィな佇まいの音作りながらも要所々々に仄かなダークさと朧気なリリシズムが融合した唯一無比な世界観は、かつてのムゼオないしビリエットでは到底辿り付く事が出来ない位の領域にまで極まった感がある。
なるほどフランツのプロデュースが功を奏したせいからか、無駄な部分を極力削ぎ落としてスッキリと聴き易くしたのも特色であろう。



『Lux Ade』リリースから3年後の2009年、ギタリストMatteo Nahumをゲストに迎えた4th『Petali Di Fuoco』、そして4年後の2013年にはかつてのレ・オルメの代表作にして名作でもある『Felona E Sorona』の続編的新解釈で製作した意欲的な試みの5th『Le Porte Del Domani』(色違いの英語ヴァージョン『The Gates Of Tomorrow』も同時期にリリース)を発表し更なる注目を集める事となる。

バンドはそれ以降活動を休止し新作リリースのアナウンスメントも聞かれなくなって実に久しい限りであるが、まあ所謂次なるステップに向けた充電期間というか開店休業に近い状態で今日まで沈黙を守り続けていると言った方が妥当であろうか。
Fabio自身も新人バンドの育成やらデヴューの為のレーベルを設立したり、多方面でのプロジェクトに関わったりと今もなお精力的に創作活動を継続し多忙を極めているといったところである。
今やイタリアン・シンフォの新進気鋭な輩の中にはマスケーラ・ディ・チェラをリスペクトしたいというのもチラホラと囁かれている昨今である。
70年代の栄光あるイタリアン・ロックの伝統を復興する為に結成された彼等ではあるが、よもやその存在にしてイタリアにマスケーラ在りとまで謳われるようになり、世界的にも堂々と胸を張れる大御所的な風格すら漂っている。
かつての黄金時代の気運の再生をも上回った彼等であるが、もはや伝統をも超越しイタリアン・ロック史の新たな一頁をこれからも更に枚数を増やしていく事であろう。
さて、彼等の待望の新作となるであろう次なる一手は、はたして…?
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