幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 JETLAG

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 11月第二週目の「一生逸品」、今回は21世紀プログレッシヴバンドには珍しいワンオフ作品の中から、PFMやアレアといったイタリアの大御所級の名匠から多大なる影響を受けた、超絶バカテクなプログレッシヴ・ジャズロック伝承者の名に相応しい、2001年に唯一作をリリースし、イタリアン・ロックの歴史にその伝説的な名前を刻んだ“ジェットラグ”を取り挙げてみたいと思います。

JETLAG/Delusione Ottica(2001)
 1.Il Camaleonte/2.King Of Fools/
 3.Illusione Prospettica/4.Castelli Di Rabbia/
 5.Delusione Ottica/6.Audiopoker/
 7.Re Nudo/8.Elusione Ottica/9.Mare Nostrum
  
  Fabio Itri:G
  Saverio Autellitano:Key
  Luca Salice:Vo, Flute
  Bruno Crucitti:Ds, Per
  Marco Meduri:B

 70年代にその輝かしい栄華と引き潮の様に衰退を経たイタリアン・ロックであるが、80年代にイギリスから勃発したポンプロックの洗礼を受けてポツポツと自主製作のテープ作品レベルながらも、イタリアン・プログレッシヴ再興の契機・端緒となるべく、あたかも雨後の筍の如く続々と新世代の担い手が登場し、テープ+アナログLPの時代から90年代のCD時代への移行と同時に、70年代物のリイシューが主力だったヴァイニール・マジックやメロウが新人の輩出・育成に力を注ぐ様になり、更にはカリフォニア、ブラックウィドウ…等といったイタリア国内のプログレッシヴ専門レーベルまでもが発足、果てはフランスのムゼアからも強力なバックアップを得て、21世紀の今日までに至る新世代イタリアン・ロックへの紆余曲折の道程は確立されたと言っても過言ではあるまい。
 以降は皆さん御周知の通り、70年代のリコルディやフォニット・チェトラ、ヌメロ・ウーノ、果ては大手ポリドール、RCAイタリアーナにも匹敵すべく、21世紀の現在に於いて様々なプログレッシヴ専門レーベルが百花繚乱に競合しあい…筆頭格のAMS始め、ma. ra. cash、Altrock/Fading Records、そして新進のAndromeda Relixに、Lizard傘下のLocanda Del Vento…etc、etc、極小な自主製作インディーズ系と合算しても枚挙に暇が無い。
 ややもすると21世紀のイタリアン・ロックの現在(いま)は、70年代をも遥かに上回る位のプログレッシヴ・オンリーのレーベルが存在しているのではあるまいか…。

 前置きが長くなったが、90年代を境に多種多彩なプログレッシヴ・レーベルが発足した中でも当時の我が国に於いてはまだ無名に近い存在のレーベル、今でこそイタリア国内の様々なプログレレーベルと連携とリンクを密にして多方面で大きな展開を見せている、蜥蜴マークのレーベル“Lizard”
 1996年の発足以降、現在ジェネシス・フォロワーの最右翼として活躍中のウォッチ(その前身だったナイト・ウォッチ時代を含めて)を始め、バンコ影響下のイマジナリア、ロックテアトラーレ調のフィアバ、イタリアン・チェンバー系のガトー・マルテ、単発系のワンオフ的なスピロスフェア、そして今回本篇の主人公でもあるジェットラグもその内の一つに数えられる。
 ジェットラグの詳細なバイオグラフィーについては、誠に残念ながら各メンバーの経歴並び音楽経験、バンド結成の経緯に至っては全くと言って良いほど分からずじまいで、唯一判明している事は1995年に結成し度重なるギグとセッション、リハーサルを積み重ね、結成から3年後の1998年に自主製作EP“Difference”をリリースし、それを足掛かりに当時新興のレーベルとして勢いのあったLizardと契約し、2001年に現時点での唯一作『Delusione Ottica』で正式にフルレングスのデヴューを飾る事となる。
 彼等自身も御多聞に洩れずクリムゾンやフロイドといったブリティッシュの大御所からの影響も然る事ながら、やはり根底にはイタリアンの大御所にして御大でもあるPFMからかなり大きな影響を受けており、マウロ・パガーニ脱退後にリリースされた佳作『Jet Lag』からバンド名を採ったのは紛れも無い事実と言えよう(ちなみにJetLagの意は“時差ボケ”とのこと…)。
 但し本家との決定的な違いはヴァイオリンは一切使用しておらず、あくまでパガーニ影響下の強いフルートを大々的にフィーチャリングしている事であろう。
 クラシカル・シンフォニックな要素も希薄で、やはり後期のPFM然り地中海サウンドのエッセンスを巧みに盛り込んで、アレアやアルティ・エ・メスティエリと同傾向のジャズロック風味を存分に効かせたインタープレイを得意としており、デウス・エクス・マッキーナやDFAといった90年代イタリアンの代表格の名作にも匹敵するであろう、彼等の唯一作『Delusione Ottica』を耳にしたリスナーの方なら、その攻撃的で超絶バカテクな演奏技量と高水準なスキルの高さに舌を巻くこと必至であると言っても過言ではあるまい。
          
 一見してポーキュパイン・ツリーの『Fear Of A Blank Planet』を思わせる様な意匠(厳密に言えば、ポーキュパイン・ツリーの作品の方が後出であるが)に包まれた唯一作の冒頭1曲目、70年代から脈々と流れるイタリアン・ロックスピリッツ全開の何とも狂騒的でせわしなくもけたたましい、フルート…キーボード…ギター…リズムセクションの互い同士が闘いながらもせめぎ合いヘヴィでスピーディーな疾走感と超絶バカテクプレイが堪能出来る事だろう。
 皮肉屋風な某プログレ・ライターが自らのネット上でPFMが躁鬱気味になったらこんなサウンドになったと揶揄しているが、的を得ている様な当たらずも遠からずといったところだろうか。
 続く2曲目もオープニングと同傾向の作風ながらも、寄せては返す波のように緩急を持たせて英語の歌詞を存分に活かした歌物ナンバーであるという性格上、歌メロと楽曲との対比が絶妙で且つ、要所々々で意表を搗いたかの様に展開するイタリアン・ロック独特のメロディーラインに時折ハッとさせられる。
 この時点でもう彼等の術中に完全にハマっているという事に改めて溜飲の下がる思いですらある…。
 抒情的なピアノのイントロダクションに導かれて70年代風なギミックを効かせたユニークなシンセに転調する僅か1分にも満たない3曲目の小曲から、いきなり断ち切られるかの様にフルートとヘヴィなサウンドが怒涛の如く雪崩れ込んでくる2曲目に次ぐ歌物ナンバーの4曲目はイタリア語による正調イタリアン・ロックを楽しませてくれる。
 地中海を思わせるたおやかなエレピに、パガーニへのリスペクト調のフルートとアレア風のメロディーラインが渾然一体となった、寸分の隙すらも与えない超絶音空間に舌を巻く思いですらある。
              
 ジェットラグの音世界が絶え間無く続く5曲目で脳内はもうすっかりリラックスムードと快適なグッドトリップの夢への疾走感を満喫している途端、断ち切られたかの如く任天堂ゲームボーイないしゲーセンのアーケードゲーム風な電子音が突如乱入し、快適な音空間のトリップ体験が一気にプログレとサイバースペースとがミクスチャーされた空間に放り出されたかの様な錯覚すら覚えてしまう6曲目の小曲に戸惑いは隠せない。
 余談ながらも…GGの“Time To Kill”冒頭のテーブルテニスのゲーム音を連想したのは私だけだろうか(苦笑)。
 “チョコレート・キングス”があたかも荒々しくヘヴィに転化しストイックでクールな印象すら与える感の7曲目の凄まじさを経て、8曲目は収録されている全曲中で唯一静的な異彩を放つアコギによるソロパートがフィーチャリングされた、押しの印象が強い本作品に於いて牧歌的ながらもメディテラネアなイマジンと情熱が色鮮やかに甦る、一服の清涼剤にも似た郷愁すら抱かせる好ナンバー。
 ラスト9曲目はモンゴルのホーミー風な些か不気味な印象を抱かせる呪術や呪文にも聴こえそうなボイスのイントロダクションに一瞬困惑すら覚えるが、徐々にイタリアン・ロックならではの節回しや曲調へと転じていく6部パート構成のトータル16分以上に亘る、まさにラストナンバーとして相応しい大曲に仕上がっており、物悲しさを湛えたピアノソロに、クリムゾンやバンコ…等の多才なヴァリエーションをも盛り込んだ、アルバムの大団円へと一気に突き進む心地良い潔さと気概が実に好印象を与える素晴らしい出来栄えを誇っている。
          

 リリース直後イタリア本国でもかなりの好感触と手応えを得て、新人ながらもかなりの成果を得た彼等ではあったが、ここまで秀でた素晴らしい完成度とハイテンションを有していたにも拘らず、不思議な事に日本では当時あまり話題に上らなかったのが意外といえば意外である。
 都内のプログレ専門店でも当時は多分極限られた枚数で入荷したものの、その後はパッと話題に上る事無くこぞって当時主流だったメロディック・シンフォ系へのセールスに重きを置いたのかどうかは定かではないが、以後再入荷する事無く数年前ストレンジ・デイズ刊行の「21世紀のプログレッシヴ100』にて漸く取り挙げられ再びその脚光を浴びるまでの10数年間…人知れずLizardレーベルの倉庫で静かに眠っていたのかと思うと、申し訳無い気持ち半分と自身の無知さ加減に何とも悔やまれてならない…。
 話がすっかり横道に逸れてしまったが、高水準な完成度を誇るデヴューを飾り今後の動向が注目されつつ期待を一身に集めていたにも拘らず、彼等はそれ以降次回作のアナウンスメントすることも新作準備に向けたリハーサルやプロモーションをすることも無く、たった一枚のデヴュー作で完全燃焼しましたかの如く…自らが演りたい事はもう全て出し尽くしたと言わんばかりに、誰に知られる事も無く静かに表舞台から遠ざかってしまう。
 ただ…それ以降の唯一表立った活動を述べるとすれば、3年後の2004年にメロウレーベル主催のキング・クリムゾン・トリヴュート・ライヴへ参加している旨のみが伝えられており、以後今日に至るまで解散声明を出すこと無く所謂“開店休業”に近い状態で、各メンバーがそれぞれの音楽活動ないしプロジェクト活動に携わっているとのこと…。
 秀でた才能を有しているにも拘らず、どこか臍曲がりで歪なニヒリズムを漂わせて、“潔さが無い”などと陰口を叩かれながらも常に冷静沈着でクールに振舞っている彼等の巌の様な創作意欲とプログレッシヴ・パイオニアに対し、聴き手側である我々自身も“こいつら、まだまだ何かしらやってくれそうな気がする!?”などと、決して当てにならない匙を投げたかの様な諦め感を覚えつつも、心の片隅ではまだ何かしらの期待感を抱きつつあるのだから全く世話は無い(苦笑)。
 でも…解散してン十年間音沙汰無かったバンドが、いきなり再結成して新譜を出すといった事が日常茶飯事起こっているプログレッシヴ業界、何が起こっても不思議では無い御時世であるが故、ちょっとした“もしかしたら!?”みたいな期待感を寄せているのも流石に否めないから困ったものである。
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Zen

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