幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

夢幻の楽師達 -Chapter 21-

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 年の瀬の押し迫った今週の「夢幻の楽師達」は、色とりどりの花々が咲き乱れる百花繚乱なる天上界の楽園をそのまま音楽にしたかの如く、荘厳でリリカルな神話を紡ぎ…まさしく神々しい煌きを纏った夢幻の楽師達という称号に相応しい、80年代ジャーマン・シンフォニックに於いて珠玉の至宝的存在にして孤高なる唯一無比の音楽集団として一躍その名を世に轟かせた“エデン”に、今再び焦点を当ててみたいと思います。

EDEN
(GERMANY 1978~1981)
  
  Dirk Schmalenbach:Violin, Ac-G, Sitar, Key, Per, Vo
  Annette Schmalenbach:Vo
  Michael Dierks:Key, Vo
  Anne Dierks:Vo
  Markus Egger:Vo
  Michael Claren:B, Vo
  Hans Fritzsch:G
  Hans Müller:Ds, Per
  Mario Schaub:Flute, Clarinet, Sax, Vo
  Michael Wirth:Conga, Per

 70年代イタリアン・ロックと共に双璧を成し、その多種多様なスタイルでユーロ・ロックの歴史に大きな足跡を残し、幾多もの偉業と実績を築き上げたドイツ(当時西ドイツ)のロックシーン…所謂通称ジャーマン・ロック。
 ジャーマン・ロックの王道ともいえるエレクトリック・ミュージック始め、サイケデリック、アシッド、メディテーショナル、トリップ・ミュージックといった様々なキーワードを孕みつつも、時代の推移と共にある者はニューウェイヴ、テクノ、ダンスミュージックへと移行し、またある者は映像向けの音楽へと活路を見出しているのは周知の事であろう。
 その一方でジャーマン・ロックはブリティッシュ影響下の正統派ともいえるハードロック系、シンフォニック・ロック系と更なる多岐に亘り、前者は後年のNWOBHMに参入して世界的マーケットを視野に入れ、後者はドイツというお国柄を反映したロマンティシズムとイマジンを纏った自国に根付いたロック・シンフォニーを追求し、後年に於いては幾分メロディック・シンフォへと歩み寄った作風を主流に21世紀の今日まで至っている。

 今回紹介する本編の主人公エデンも70年代後期~80年代初期に於けるジャーマン・シンフォニックの立役者としてカテゴライズされているが、彼等自身シンフォニックである一方…70年代初期のPILZレーベル時代のエムティディ、ヘルダーリン、そしてレーベルこそ違うがパルツィファルにも相通ずるカラーと系譜を擁しており、果てはスピロジャイラ、メロウ・キャンドルといったブリティッシュ・フォーク界の大御所が持っていたリリシズムとシンパシーすらも禁じ得ない。
 余談ながらも、私見で恐縮ではあるが世界的視野でフランスとカナダにもエデンという同名バンドは存在しているものの、音楽性+作風、アートのイメージからしてドイツのエデンが一番的を得ていると思うのは穿った見方であろうか…。

 遡る事1977年、ドイツのNordrhein-Westfalen州の地方都市Üdenscheidにてエデンの母体ともいえるFREIE CHRISTLICHE JUGENDGEMEINSCHAFTに在籍していた、後にエデンのコンポーザー兼リーダーとなるDirk Schmalenbachを含む3人の主要メンバーが中心となってバンドは結成される。
 エデンのメンバーの大半が身内絡みという実質上ファミリー系のバンドであり、職業もキリストの基督協会の修道関係、聖職者、或いは学校の教師、音楽学校の関係者と様々である。

 バンド結成から程無くして身内を含め多数もの協力者・支援者の賛助を得て、手作りの温もりとホームメイドなゆったりとした雰囲気、アットホーム感溢れる環境の下、1978年地元マイナーレーベルのLordよりデヴュー作『Erwartung』をリリースする(ちなみにバンドリーダーのDirkはLordレーベルのレコーディング・エンジニアも兼ねている)。
          
 “期待”という意味の通り、日本の錦絵を思わせるジャケットアートのイメージと違わぬ音楽性、太陽の輝き…大自然…都会との調和といった万物創生或いは森羅万象をも想起させ、あたかも宗教的な意味合いをも孕んだ奥深く哲学的なテーマが全曲の端々から垣間見えつつも、開放的で洗練された明るさを伴ったサウンドはまさしく新たな時代への予見すら抱かせるエポックメイキングな傑作として、ドイツ国内の各方面から賞賛を得てエデンは幸先の良いスタートを切る事となる。
          
 70年代後期に於いてジャーマン・シンフォニックも大きな転換期を迎える事となり、グローヴシュニット始めノヴァリス、ヘルダーリンが持っていた良くも悪くも一種のドイツ的な香りからの脱却が試みられ、エデンのデヴュー作並びその翌年にデヴューを飾るエニワンズ・ドーターが顕著な実例と言っても申し分はあるまい。
 エデンはその後牛歩で地道な演奏活動を行いつつも他のバンド系列とは一線を画し、決して商売っ気たっぷりな意欲を示す事無くあくまで自らの信ずる道を慌てず焦らずただひたすら歩み続ける事で自らの身上としていた。
 その一方でLordレーベルに所属している多数ものアーティストとの相互交流、レコーディングへの参加といった懇親を深めながらも、2年間のスパンと創作期間を費やし水面下で着々と新作の録音に取り組んでいた。 
 そしてデヴューから2年後の1980年、周囲からの期待に応える形で満を持してリリースされた2作目『Perelandra』は、若干名のメンバーチェンジを経て(Markus Egger、Mario Schaub、Michael Wirthの3名が抜け、後任メンバーとしてブズーキ奏者のChristosとKiriakosのCharapis夫妻、新たなフルート奏者にDieter Neuhauserを迎えている)、Lord傘下の自らのバンドネームを冠したセルフレーベルからのリリースで、前デヴュー作を遥かに上回る構築美とテンションで再び聴衆を驚かす事となる。
      
 キリスト教関連の同名タイトルのSF小説にインスパイアされた本作品は、エデンの持つシンフォニック・スタイルの音楽性の中に時代相応のスタイリッシュでモダンなエッセンス、良質なポップス性がふんだんに鏤められ、思わず目を奪われる美麗で幻想的なジャケットアートのイメージ通り、旧約聖書のアダムとイヴのエデンの園、そして宇宙創生の物語が違和感無く融合した一大シンフォニック絵巻に仕上がっていると言っても過言ではあるまい。
 後述で恐縮だが…何よりもデヴュー作と本作品におけるDirkのコンポーザー、アレンジャーとしての手腕は白眉の出来と言うには余りにも恐れ多い力量を発揮しており、ヴァイオリニスト兼キーボーダーとしてのスキルの高さは、かのブラジル・シンフォの筆頭格サグラドのマルクス・ヴィアナと対等に亘り合えるであろう、そんな数少ないうちの一人であると断言出来よう。

 バンドとしての活動は順調ではあったものの、それに比例するかの如く各メンバーの正業が多忙を極め、エデンは次第に表立った創作活動や演奏もままならない状態が頻繁に回を重ねる様になる。
 Dirkは翌1981年に苦肉の延命策(Lordとの契約履行も考慮して)としてデヴュー以前の1974年~1976年にかけて収録されたデモ音源と未発表曲を集め再編集盤として『Heimkehr』(“帰省”という意)という意味深なタイトルでリリースし、エデンの変わらぬ健在ぶりをアピールするが、作品として好評価は得られるものの相反するかの様にメンバーのモチベーション低下は止まること無く、結局僅か数年の活動期間を以ってエデンは敢え無く解散の道へと辿ってしまう。
     
 ちなみに『Heimkehr』という作品自体、バンドサイドからも“これは3rdアルバムに非ず”と触れられているが、デヴュー以前の創作意欲に満ちていた初々しさが際立って、デヴューと2作目の両作品から比べると確かに見劣りこそ否めないが、聖書を題材としながらも後々のバンドスタイルとしての骨子が垣間見える、決して貴重なもの珍しさ云々だけで片付けられないエデン・ミュージックの原点が存分に堪能出来る妙味を忘れてはなるまい。
 バンド解体から2年後の1983年、エデンの元ヴォーカリストだったMarkus Eggerがソロアルバム『Lebenstanz』をリリースし、バックにDirkを始めエデンの面々も参加しているが、音楽性がエデン時代と異なった商業路線のポップス作品であったが為に余り話題にはならなかったみたいだ。
 だがDirkはこのMarkus Eggerのソロでの経験を糧に、再び一念発起し翌1984年エデン・サウンドの流れを汲むシンフォニック系の新プロジェクトとしてYAVANNA=ヤヴァンナ(“果実をもたらす者”の意)を結成。
     
 唯一作となった『Bilder Aus Mittelerde』(ミドルアースの創造者)は、かのトールキンの「シルマリリオン」から着想したトータルアルバムとなっており、Dirk自身の冴え渡るヴァイオリンプレイも然る事ながら、時代相応に当時のデジタルキーボード(オーヴァーハイムからYAMAHAのDX7等が使用されている)を縦横無尽に駆使した、エデン時代の作風と趣を偲ばせる、まさしく80年代初期のジャーマン・シンフォに於いてトップクラスと断言出来る素晴らしい出来栄えと内容を誇っている。
 特筆すべきは純白の白地のジャケットに施された樹木を模したレリーフの美しさは、アナログLP盤時代ならではのプログレッシヴ・ファンにとって最高の贈り物として他ならないと言えるだろう。
 惜しむらくは唯一のCD化に際し若干手が加えられ筆が入れられてレリーフの面影の微塵すらも感じられず、オリジナル原盤を知っている者としては些か中途半端でぞんざいな扱いに些か残念な限りでもある。
 私を含め世界中のプログレッシヴ・ファンがヤヴァンナの今後の動向に注視せざるを得ないと期待と予感を抱いていたものの、ファンの思惑とは裏腹にDirk自身ヤヴァンナでの活動を最後にバンドスタイルという形での創作活動から一時的に身を引いてしまったものの、喜ばしい事にここ数年彼自身ソロ・プロジェクトに近い形で地道にマイペースで音楽活動を再開させ今日までに至っている。
          
 本文の締め括りとして、FaceBookでDirk Schmalenbachと入力して検索するも、たしかにそれらしき人物が何人かヒットこそするものの、果たしてそれが本当にあのエデンを率いたDirkなのかと思うと、確証が無いままコンタクトするのは早計だと思い躊躇と同時に歯がゆい思いをしている今日この頃である。
 とは言え、エデンの園の住人…天上界の楽師達はやはり伝説としてこのままそっとしておいた方が、元メンバーだった彼等達にとって穏やかで幸福なのかもしれない。
 エデンの楽師達が奏でる饗宴は、貴方(貴女)達の心の中で未来永劫光り輝き、そして至福に満ちた思い出と共に生き続ける事だろう…。
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