一生逸品 NEUSCHWANSTEIN
2020年、今年最初の「一生逸品」をお届けします。
今回はドイツ(旧西独時代)から、70年代最後の正統派シンフォニックの申し子にして…同国のアイヴォリーと共にジェネシス・チルドレンの最右翼という名誉と称号を得ていると言っても過言では無い、まさに「一生逸品」という名に恥じない金字塔的秀作を唯一遺した“ノイシュヴァンシュタイン”に焦点を当ててみたいと思います。
NEUSCHWANSTEIN/Battlement(1979)
1.Loafer Jack
2.Ice With Dwale
3.Intruders And The Punishment
4.Beyond The Bugle
5.Battlement
6.Midsummer Day
7.Zartlicher Abschied


Thomas Neuroth:Key
Klaus Mayer:Flute, Syn
Roger Weiler:G
Frederic Joos:Vo, Ac-G
Rainer Zimmer:B, Vo
Hans-Peter Schwarz:Ds
「初期及び中期のジェネシスに影響を受けたグループは世界中に数多く存在するものだが、それらのうち出来の良い例と余りにもお粗末な駄作の二つに大別されるケースがかなり見受けられる様だ。ここに登場するノイシュヴァンシュタインは、ゲイヴリエル在籍時のジェネシスの血筋を見事に脈々と受け継いだグループであると言える。が、それ以上にスリリングかつドラマティックな曲の展開や各パートの奏法において、オリジナルよりもはるかな力量を発揮している。朽ち果てた中世の城跡のカヴァーワークをそのまま音にしたと言ってもいいだろう。単なる物真似やコピーという低次元な目標にとどまらず、より以上に彼等の根底にはヨーロピアン古来の構築美と様式美が生き続けているのである。」 (マーキー刊・1987年版『ユーロピアン・ロック集成』より抜粋)
お恥かしい限りではあるが、上記の余りにも拙い文面…これは私自身がまだ若い時分マーキー在籍中にユーロ・ロック集成にて執筆したノイシュヴァンシュタインの紹介レヴューである。
改めて今読み返してみると、あの当時は情熱には燃えていたものの些か未熟な部分が散見出来る事この上ないなぁと思えてならない(苦笑)。
70年代~今世紀の現在にかけて、全世界中のプログレッシヴ・ロック・フィールドにおいて多大なる影響を及ぼしたジェネシス。
ゲイヴリエルないしハケット在籍時の黄金期の名作群『侵入』~『静寂の嵐』で培われた気運と精神、そして作風は後のプログレ停滞期(低迷期)の70年代末期~80年代のアンダーグラウンドなフィールドにおいて、その威光と気概を受け継いだ子供達=若きプログレッシャー達…顕著なところで、本家のイギリスからはイングランドやIQ、オーストリアのキリエ・エレイソン、スイスのデイス、アメリカのバビロン、我が日本からは新月やページェント…etc、etcの輩出に至ったのは最早言うまでもあるまい。
皮肉な話だが…プログレスする事を捨て去り安易なポップ化による商業路線に転換した本家ジェネシスとは対照的に、前述のジェネシス・チルドレン達は「プログレ冬の時代」と言われた苦難な時期において、自らのプログレス精神を初志貫徹の如く、嘘偽り無く貫き通し短命(昨今のイングランドやIQを除き)ながらも珠玉の名作を遺していった。
ドイツにおいても旧西独時代、ジャーマン・ロック(ハードロックやプログレッシヴも含めて)特有の臭さから漸く脱却が感じられつつあった70年代末期、ジェネシス影響下の最右翼アイヴォリーと共にその名を轟かせる事となる彼等こと、ノイシュヴァンシュタインは唯一の作品『Battlement』で79年ラケット(ロケット?)・レーベルより細々とデヴューを飾った次第である。
バンドの歴史はムゼアからのバイオグラフィーによると(私自身拙い語学力で誠に申し訳ないものの…)、1971年Saarlandという地方都市にて幼少の頃からクラシック音楽の教育を受けていたハイスクールのクラスメイトだったThomasとKlausの二人を中心にノイシュヴァンシュタインの母体となるべきバンドが結成される。
結成当初から、イエス始めリック・ウェイクマン、ジェネシス、ジェスロ・タル、キャラヴァン、ウィッシュボーン・アッシュ、果てはアトール、ノヴァリス…等から影響を受けたシンフォニック・ロックを目指していたとの事であるが、結成から3年後の1974年ルイス・キャロル原作の「不思議の国のアリス」をモチーフに曲を書き、同年に開催されたロックコンテストにてシンフォニック・スタイルのプログレッシヴなサウンドで聴衆を魅了し見事優勝を遂げ、これを機にアリスの世界観をステージで再現した演劇仕立てのロックショウで一躍注目を集め、以降2年近くドイツ国内並びフランスでギグを展開し(その間も若干メンバーの変動こそあったが)、基本インストオンリーでドイツ語による語りという作風で、初期の傾向としてはジェネシスよりもむしろノヴァリスやグローブシュニット、ヘルダーリンに近いジャーマン・シンフォニックを演っていたと捉えた方が妥当かもしれない。
同時期にホームレコーディングで収録された『不思議の国のアリス=Alice In Wonderland』のデモ音源を完成させ、ドイツ国内の大小を問わず各方面のレコード会社に持ち込むものの、門前払いなのか方向性の相違なのかは定かではないが、結局諸般の事情等が運悪く重なってしまい『Alice In Wonderland』はお蔵入りという憂き目に遭い、以後数十年間寝かされたまま長い沈黙を守り続ける次第であるが、21世紀の後年『Alice In Wonderland』は意外な形で陽の目を見る事となる…。
バンド結成以降初めて挫折なるものこそ経験したが、その半面バンドにとっては最良の出来事が待っており、件のアリスツアーの途中でフランス人ヴォーカリストFrederic Joosとドイツ人ギタリスト
Roger Weilerとの出会いはバンドの音楽性を更なる飛躍へと向かわせ、ヴォーカルをメインとしたスタイルへと変えたノイシュヴァンシュタインは御大ジェネシスをリスペクトした楽曲へと自己進化(深化)を遂げ、当時既にビッグネームだったノヴァリスのオープニングアクトを務めながら、1978年10月かの名作級のデヴュー作『Battlement』の録音に着手する事となる。
概ね10日間という限られた日数と分刻みのスケジュールで半ば突貫工事に近いレコーディングではあったものの、バンドメンバーは臆する事無く録音に臨み苦労の末漸くマスターテープの完成までに漕ぎ着けたのは言うに及ぶまい。
その後当初のミックスダウンに満足出来ず、翌1979年に再度リミックスを試みプレスの段階まで辿り着いたのも束の間、ヴォーカリストのFredericとベースのRainerの両名がバンドを抜けるという予期せぬ出来事が追い討ちをかけ、難産の末にデヴューリリースされた『Battlement』も成功にはやや程遠い6000枚近いセールスで終止するといった結果となってしまう。
オープニングの冒頭から12弦アコースティック・ギターのトラディッショナルでたおやかな調べに導かれ、分厚いキーボード群にリズム・セクションが軽快に加わると、そこはもう紛れも無くジェネシス・ワールド…或いはスティーヴ・ハケットないしアンソニー・フィリップさながらの音世界が繰り広げられ、続く2曲目以降もアコギとフルートによる雄大な調べにゲイヴルエル調の演劇がかった歌い回しに古のジェネシスの残像を見出す事が出来るだろう…。
然るに今回は全曲云々がどうとかの紹介は抜きに、全曲総じて徹頭徹尾に至る初期ジェネシスイズムで染め上げられ、ラストまで一気に中弛み無しに中世欧州浪漫が堪能出来る筈である。
ちなみにオリジナルアナログLP原盤とムゼアからリイシューされたCDとで比較してみると、要所々々で楽曲に若干の変化が見受けられるが、バンドギタリストだったRoger自らが運営している音楽スタジオにて、ムゼアサイドのリイシューCDの為に、『Battlement』のマスターテープを再度リミックス・リマスターしたもので、その甲斐あってかオリジナルLP原盤をお聴きになって既に音を知っている方々でも、まるで全く別な新しい作品を聴いているかのような新鮮な気持ちになる事だろう。
音がムゼア流にきれいにキチッと整理されている分、オリジナルで感じられた牧歌的でトラディッショナルな趣、初々しくも荒削りな魅力の良い深味が半滅気味というきらいは無きにしも非ずではあるが作品としてのクオリティーは決して下がる事は無いので誤解無きように…。
付け加えておくと…冒頭1曲目のみドラマーがHans-Peterではなく、かのジャーマンメタルの大御所スコーピオンズに在籍していたHermann Rarebellであるとの事。
更にはオリジナルLP盤未収録でシングル向きに録音された“Midsummer Day”がボーナストラックとして6曲目に収録されているというのも実に嬉しい限りである。
ジェネシス影響下のテイストも去る事ながら、やはり一見地味な趣ながらもセピア色にくすんだ中世の城跡のフォトグラフにオリジナルLP盤の裏面のフォトグラフ…暗雲垂れこめる空の下、広大な山々に囲まれた湖畔の水面を思わせる悠久の調べと幽玄なまでの美を体感出来る事だろう(個人的にはもっとプログレッシヴを意識したそれっぽい意匠であれば、また違った評価を得られたと思うのだが…)。
FredericとRainerがバンドを去った後も、新たなヴォーカリストとベーシストを迎え音楽的方向性やら路線を変える事無く、デヴューアルバムのセールスこそ振るわなかったものの、ドイツ国内での人気は決して衰える事無く、以降もノヴァリスやルシファーズ・フレンドと共演しながら活動を継続していくものの、バンド内部での心身の疲弊に加え音楽活動に見切りを付けて生業に就きたいというメンバーの意向を汲んだ形で、ノイシュヴァンシュタインは1980年静かに人知れず自らの活動に幕を下ろすこととなる…。
ノイシュヴァンシュタインも他のプログレッシヴ・バンド達と同様御他聞に漏れず、バンドは解散した後に於いてもその素晴らしき唯一作だけが独り歩きし、人気と実力が鰻上りに再評価されて見直されるといった具合に、1992年にムゼアからのリイシューCDを経た後、更には21世紀ともなると1976年にデモ音源のマスターテープだけが遺された『Alice In Wonderland』がムゼアの尽力により、2008年遂にCD化されて陽の目を見るという快挙を成し遂げ、ノイシュヴァンシュタインは名実共にその名をプログレッシヴ・ロック史に刻む事となった次第である。

バンドが改めて再評価されるという機運を得たかつてのリーダー兼コンポーザーThomas Neurothは、再び創作意欲を取り戻しバンドの再建へと自らを奮い立たせ『Alice In Wonderland』リリースから8年後の2016年、Thomas主導で大所帯の新メンバーによるノイシュヴァンシュタイン名義実に37年ぶり現時点での珠玉の最新作『Fine Art』をリリースし、正統派ユーロ・シンフォニックロックが持つ芸術性と美学、アーティスティックな感性が光り輝く、バンド本来の持ち味に加えて長年培われた実力と底力が垣間見える最高の贈り物となったのは最早言うまでもあるまい。

ノイシュヴァンシュタインが70年代に遺した…ジャーマン・シンフォニックシーン随一のロマンティシズムとリリシズムの結晶とも言うべき唯一作にして偉大なる遺産。
伝統美に裏打ちされつつも、ある種突き抜けた様な開放感を伴った明るく垢抜けた音楽性と方法論は、後々のエニワンズ・ドーターを始めとする80年代ジャーマン・シンフォニック…そして21世紀今日のメロディック系シンフォニックへと伝統の如く脈々と流れ、新たに生まれ変わったノイシュヴァンシュタイン共々ドイツ・ロマンティック街道さながらの美意識が今もなお生き続けているのである。
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