幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 BIGLIETTO PER L'INFERNO

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 今週の「一生逸品」は、70年代イタリアン・ロック黄金時代に於いてひと際異彩を放ち、21世紀現在もなお熱狂的にしてカリスマさながらな人気を誇り続け、近年再結成を果たしながらもイタリアン・ヘヴィプログレッシヴ孤高の雄にして頂と言っても過言では無い“ビリエット・ペル・リンフェルノ”に、今再び栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

BIGLIETTO PER L'INFERNO
 /Biglietto Per L'inferno(1974)
  1.Ansia/2.Confessione/ 3.Una Strana Regina/
  4.Il Nevare/5.L'Amico Suicida/6.Confessione(Strumentale)
  
  Giuseppe“Baffo”Banfi:Key 
  Marco Mainetti:G 
  Claudio Canali:Vo, Flute 
  Giuseppe Cossa:Key 
  Mauro Gnecchi:Ds 
  Faust Branchini:B 

 21世紀の現在もなおカリスマ的人気・絶大なる支持を得ている、イタリアン・ロック界きってのヘヴィ・プログレッシヴの雄ビリエット・ペル・リンフェルノ。
 直訳で「地獄への片道切符」と名乗る彼等の詳しい経歴・バイオグラフィーは、現時点で判明している限りの情報で恐縮だが、1972年にミラノからやや北側に位置する地方都市レッコで活動していたハードロック系の2バンドGEEとMACO SHARKSが翌73年に合体して結成されたもので、イタリア国内で度重なるギグをこなしつつ人気と実力を付けた後、翌年の1974年新興レーベルのトリデントから唯一の作品をリリース。
 デヴュー作リリース以降も更に精力的な演奏活動をこなしつつ、このまま順風満帆な軌道の波に乗って次なる2作目までに漕ぎつけたかと思いきや、肝心要のホームグラウンドでもあったトリデント・レーベルの倒産閉鎖という憂き目に遭い、活動年数もたった僅か1年経過したかしないかみたいな…2作目に向けた録音がほぼ9割方終わっていたにも拘らず宙ぶらりんな状態のまま、メンバーは失意とどん底の狭間に苦悩しつつ解散せざるを得ない状況にまで追い込まれたのは最早言うまでもあるまい。
 名実共に本作品はムゼオ・ローゼンバッハ『Zarathustra』、イル・バレット・ディ・ブロンゾ『YS』と並ぶイタリアン・ヘヴィ・プログレッシヴ系の傑作にして名作であるが、決して技巧的なテクニックを持ち合わせているという訳でもなく、録音状態も時代性背景云々やらお世辞を抜きにしても決してベストとは言えないだろう…。
 にも拘らず、現在でもなお多くの根強いファン並び新たなファン層を獲得し名声を得ているのは、本作品の根底にある邪悪な雰囲気の中にも抒情的な美しさが混在している処にあるのかもしれない。
 それはあたかも…激しくも攻撃的なアグレッシヴさとどこか崇高で浪漫深いリリカルさの二面性を如実に表しているかの様だ。
            
 一部では、昨今のゴシック・メタルないしドゥーム・メタルの元祖的存在と謳われているものの、安易に形を繕った表層的且つ見てくれそのもの的な類よりも、技術的マイナス面を差し引いても彼等の方が数段強い邪悪なインパクト丸出しながらも楽曲的に完成度が遥かに高いのも頷ける。
 余談ながらもイタリア原盤のLPでは全5曲の収録だが、近年のCD化に際しボーナス・トラックとして2曲目“Confessione”のインスト・リミックス・ヴァージョンがラストに収められているが、恐らく当時は大人の事情とでもいうか、収録時間と製作予算諸々等の関係で泣く泣くカットされたものではと推測される。
                     
 本作品収録の全曲とも、ツインKeyが…ギターが…フルートが…リズム隊が互いにぶつかり合い・せめぎ合いながらも、寄せては返す波の如く…押しと引きのバランスが見事に調和しており、いかにもイタリア的なたおやかさと抒情味たっぷりな出だしから、いきなり転調し牙を剥いて襲いかかるかの如くヘヴィで攻撃的、邪悪な雰囲気を醸し出していると言ったらお分かり頂けるであろうか…。
 特にその傾向が顕著に見られる2、3、5曲目は背筋が凍りつく位に震撼し感動・興奮すること受け合いにして聴きものであり、改めてビリエットというバンドの面目躍如にして真骨頂と言えよう。

 ビリエット解体後の各メンバーのその後の動向は、一番有名なところでツインKeyの片方でもあるGiuseppe“Baffo”Banfiが、ドイツのクラウス・シュルツェのレーベルからシンセサイザー・メインのソロを何作か出しスタジオ・ミュージシャンへ転向後、更にはサウンド・エンジニアを経てそれと併行して自らの映像製作会社を設立し現在に至っている。
 もう一人のKey奏者でもあるGiuseppe Cossaは音楽学校で教鞭を取り後進の育成に当たっており、ギタリストのMarco Mainettiは音楽業界から身を引いてコンピューター・エンジニアへ、ベーシストのFaust Branchiniはバンド解体後一時兵役に就き、除隊後幾つかのジャズ・グループに参加するも現在はすっかり音楽界から身を引いて音信普通との事。
 ドラマーのMauro Gnecchiは今もなお現役のジャズドラマーとして、PFMのフランコ・ムッシーダのソロに参加したり数々のジャズセッションに参加している。
 そしてビリエットの邪悪な部分の要ともいえるClaudio Canaliに至っては1990年近くまで音楽活動していたとの事だが、現在は音楽界のみならず俗世間からも離れて、何とも実に意外な転身を遂げキリスト教会の修道士として布教活動に勤しんでいるというから意外といえば意外である。
 かつては“地獄”やら“邪悪”をテーマに謳って(歌って)いたClaudio自身がよもやその真逆ともいえる神に仕える神父として従事しているのだから、改めて人生や運命とはどこでどう転ぶか解らないものである。
 余談ながらも…デヴュー作のジャケットでペインティングされた飛び上がる男のフォトグラフのモデルは、かのClaudio自身であるという事も付け加えておかねばなるまい。

 かつては…入手が極めて困難で、幻のレーベルからのまさに幻と伝説的(カリスマ的)な存在とまで言われた彼等ではあったが、バンドそのものが既に消滅し不在と言われながらも、現在までもなお燻し銀の如く光り輝き私達をも惹き付けているその魅力とはいったい何であろうか…? 
 トリデント・レーベルに唯一の作品を遺し解散してから18年後の92年には、かのお蔵入りしていたままの幻の2nd音源がメロウレーベルの尽力により『Il Tempo Della Semina』なるタイトルでCDリイシュー化され、それと前後してビリエットのファン・クラブの手により、本作品もリミックス・リマスタリングされジャケも若干装いを新たにLP盤による再発を遂げている。
    
 その後、未発の2作目と同様にデヴュー作もヴァイニール・マジックからもCD再発され、2作品共後々年数と回を重ねる度にデジタルリミックス→紙ジャケット→SHM-CDへと移行し時代にマッチした音質として改善・向上され、果ては先のファン・クラブが中心になって…1st~2ndからの選曲+未発表曲も含めた、当時の秘蔵ライヴ映像・未公開映像・プロモ云々を収めたCD+DVDボックスもリリースされており、それらの作品媒体がリリースされる度に時代を超えて新たなファン層をも開拓し増やしているといった様相を呈している。
 ちなみに、そのCD+DVDボックスのビデオ撮影はKey奏者だったGiuseppeが一切合財手掛けたものである。
 終わることの無い伝説に拍車が掛かり、熱狂と興奮の坩堝はラブコールとなって彼等の復帰再結成の原動力へと変わり、カムバックに必要な時間を要としなかったのは言うまでも無い。
 2010年の幕開けと共に届けられた再結成の復帰第一作でもある『Tra L'Assurdo E La Ragione』は、かつての主力メンバーだったGiuseppe“Baffo”Banfi始め、Giuseppe Cossa、Mauro Gnecchi3人を核に、女性ヴォーカリストのMariolina Salaを含む新メンバーを加えバンド名を装いも新たにBIGLIETTO PER L'INFERNO.FOLKと改名し、イタリア北部地方のトラッド・ミュージックのエッセンスと往年のヘヴィ・プログレを融合させた、21世紀に相応しい新機軸を打ち出している。
 更にはかつてのヴォーカリストで現在修道士に勤しんでいるClaudio Canaliが緊急ゲスト参加し、彼のペンによる新曲及び未発曲が収録されているのも実に興味深い…。
    

 5年後の2015年には前作のメンツだったMariolina Sala、Giuseppe Cossa、Mauro Gnecchiに加え、オリジナルヴォーカリスト兼フルートにClaudio Canaliが正式に参加し、多数ものゲストプレイヤーを迎えた現時点での新作『Vivi. Lotta. Pensa.』をリリース(バンドネーミングも再びビリエット・ペル・リンフェルノ名義に戻している)。
 収録されている曲の大半がかつてのナンバーのセルフリメイクで占められており、時代の変遷と共に幾分穏やかになった感を与え、かつての邪悪さこそやや薄れたものの、そのカラフルながらも毒々しい胡散臭さを思わせるアートワークの意匠に、イタリアン・ロック40年選手らしいプライドと底力が垣間見れて、新旧アーティストが混在している今日のイタリアのシーンに於いてもその異色たる健在ぶりを示しているのが実に嬉しくも頼もしい限りである。
    

 この本文を御覧になっている方々…並び地獄への片道切符を手にした者、そして地獄への入り口に魅入られた者…ビリエット・ペル・リンフェルノの描く地獄絵図の如き音の迷宮世界は、麻薬に溺れる危険な魅力にも似た、時代と世紀を越えた決して終わる事の無い無限地獄の回廊へと続き、これからも聴く者の脳裏に漆黒の闇と禁忌でエロスな時間と空間を刻み付けていく事だろう…。
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