幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

夢幻の楽師達 -Chapter 29-

Posted by Zen on   0 

 今週の「夢幻の楽師達」は、少数精鋭ながらも数々の名立たる名作・傑作を輩出しプログレッシヴ・ロック史に栄光の軌跡を刻んできたスイス勢から、先般取り挙げたサーカスやアイランドの登場以前にシンフォニックで崇高な音宇宙の空間を築き上げた、メイド・イン・スイスのロック・シーンに於ける伝説と栄光の象徴に相応しい“SFF”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。

SFF
(SWITZERLAND 1976~1979)
  
  Eduard Schicke:Ds,Per
  Gerd Fuhrs:Key
  Heinz Frohling:G,B,Key

 「夢幻の楽師達」にてプログレッシヴ・トリオを取り挙げるのは、イタリアのラッテ・エ・ミエーレ、そしてカナダのFMに次いで今回のSFFが3番手になるだろうか…。
 キーボードを多用したプログレッシヴ・トリオといったら大方の見解として、当然とでも言うかEL&Pの名を挙げる方々が圧倒的であろう。まあ…プログレ・ファンによってはトリアンヴィラートとかレ・オルメ、トレース、レフュジー辺りを挙げる方もいるかもしれないが。
 兎にも角にも…ナイス→EL&Pが打ち出してきたサウンドスタイルは多種多様に全世界に波及してエマーソンのシンパ(リスペクト)とでもいうべきキーボーダー、そしてキーボード・トリオ系プログレを出来不出来に拘らず多数世に送り出してきた次第であるが、御多分に洩れず今回の主役とでもいうべきスイスのSFFも多かれ少なかれエマーソンのスタイルないし方法論、音世界に共鳴・共感したバンドであろう。
 私自身も大昔のまだ若い十代後半の時分に、初めてマーキー誌にてSFFなる存在を知った時は、極単純に“ああ…多分EL&Pみたいな類なんだろう”と高をくくって、そんなに興味を示した訳ではなかったのが正直なところである。
 その若さ故の先入観と浅はかな思いは、二十代前半にマーキー誌と関わってきた数年間ですらも変わる事無く、あるプログレ好きの知人が聴かせてくれた2作目の『Sunburst』のやや単調な作風に触れてからは、ますます余計に“このバンドのどこが凄いんだろう…?”と理解不能に陥ったから、今に
して思えば無知な青いガキみたいな思考回路で本当に困ったものであると恥ずかしくなる事しきりである(苦笑)。
 そんな若い時分の私の誤った認識と先入観を見事きれいさっぱり払拭してくれたのが、今はプログレ業界からすっかり足を洗った横浜の友人が聴かせてくれた彼等のデヴュー作『Symphonic Pictures』の圧倒的で重厚な音のうねりと波濤だったのは最早言うに及ぶまい。
 前置きがかなり長くなったが、SFFというバンドネーミングは言わずと知れたドラムとパーカッションのEduard Schicke、キーボードのGerd Fuhrs、ギターとベースそしてキーボードとマルチにこなすHeinz Frohling…といった3人の名うてのパーソネルの姓名の頭文字を取って命名された。

 バンドの結成に至る経緯は(私自身の乏しい語学力も加えて)現時点では定かではないが、おおよそ1975年を境とした辺りが有力であろうと思われる。
 まあ…手抜きという訳ではないがその詳細辺りはマーキー/ベル・アンティークがリリースした国内盤紙ジャケCDのライナーに譲る事にして、ここでは彼等がリリースした作品を年代順に追って私論めいた解説に留めておきたいと思う。
 彼等SFFが創作する音世界のバックボーンは、70年代ドイツ=俗に言うジャーマン・ロックから…エロイ、ノヴァリス、ポポル・ヴフ、ノイといったジャーマン・ロック史の一時代を築いた影響下が及ぼしていた。
 基より彼等の目指す方向性が、クラシカルな素養をベースにスペース・ロックとアヴァンギャルド、そしてエレクトリック・ミュージックをコンバインさせた唯一無比の世界観だったことが、76年の鮮烈なデヴュー作『Symphonic Pictures』を孤高にしてシリアスなシンフォニック・ロックへと集約させた要因と言っても差し支えあるまい。
  
 『Symphonic Pictures』以降から一貫してSFFサウンドを支えているのは、Schickeの多彩なパーカッション群に、クラシックの素養が遺憾無く発揮されたFuhrsの端整なピアノ・プレイにクラヴィネット、メロトロン、モーグのアンサンブルの壮麗さ、そしてFrohling奏でる流麗にして幽玄+エモーショナルなギターは、並み居るキーボード・トリオ系プログレとは一線を画す事をアピールする上で強力な武器にして自己主張を物語っているかの様ですらある。
 Frohling自身もメロトロンを弾きFuhrsを好サポートするポジションとして自覚しているのも好感が持てる。
 まあ…兎にも角にも何よりギブソン・レスポールとリッケンバッカーのベースとを半々にドッキングさせたFrohlingのオリジナル仕様には何度見ても感心するやら溜息が出るやら(苦笑)。

 荘厳でシリアス・シンフォニックな内容にも拘らずデヴュー作『Symphonic Pictures』の評判は上々で、ドイツ国内と母国スイスで精力的なライヴをこなしてきた甲斐あって12000枚ものセールスを記録し、翌77年にはデヴュー作を手掛けたブレイン・レーベルの名プロデューサーDieter Dierksを再び起用し、2作目に当たる『Sunburst』をリリースする。
 前作の荘厳且つシリアスで堅さの感じられた硬派な作風から一転して、肩の力を抜いて幾分リラックスした雰囲気と環境下すら伝わってくる2作目は、昔聴いた時分は今一つピンと来なかったものの、年齢的に成長して耳が肥えた今なら無難に聴ける、『Symphonic Pictures』のエッセンスを濃縮還元した、凝った作風から脱却したアーティスティックで渋味を感じさせる作風ながらも、曲の端々で緻密なリリシズムすら想起させる全曲オールインストながらもポエジーな側面をも垣間見せる、やや人間味溢れる内容に近付いたと言ったら言い過ぎだろうか。
 ちなみに本作品では、ベーシストにEduard Brumund-Rutherをゲストに迎えて最初で最後の4人編成で製作に臨んでいるが、Frohlingがギターオンリーに専念したかったのかどうかは定かではないが、SFF自体“ロックバンド”という意識に改めて立ち返って自己を見詰め直したかった意味合いも含まれているのだろうか…。
    
 そして1978年、SFFは今までの思いの丈をぶつけるかの如く…創作意欲と自己の活動の集約を意識していたかの様な3作目に取り掛かり、Dieter Dierksを再びプロデューサーに迎えて実質上のラストアルバム『Ticket To Everywhere』をリリースする。
    
 好みの違いと差こそあれど、前作並び前々作に負けず劣らず彼等の音楽的素養が存分に活かされ発揮された素晴らしい完成度であるという評価を得ている一方で、商業ベースに乗ったとか垢抜け過ぎてSFFらしくないといった苦言を呈する輩がいたのもまた然りであった。
 結果的に本作品リリースを最後に、SFFは(音楽的な方向性の相違も含めて)解体し、Schickeはヘルダーリンの後任ドラマーとして参加し、残ったFuhrsとFrohlingは“Fuhrs & Frohling”というデュオ形態へと移行し、よりアーティスティックで且つアコースティックで内省的な方向性の作風を
目指し、SFF解体の同年『Ammerland』をブレインからリリース。以後、同傾向な作風の『Strings』(79年)、『Diary』(81年)をリリースした後、ブレイン・レーベルの路線変更も重なって)人知れず表舞台から姿を消し以後消息を絶った次第である。
 …が、そんな終息期の真っ只中、一時はSFFの評判を聞きつけた生前のフランク・ザッパが一緒にコラボレート・セッションしないかと持ち掛けられた事もあったそうな。
 残念ながら契約面といった諸問題が絡んで結局実現までには至らなかったが、もしもこの時点でザッパと何らかのセッション等の機会に恵まれていたならば、SFF自体も今後の展望に向けて何らかの新たな活路を見出せたのではと思うのだが…。
 加えて…1992年11月にキーボーダーのFuhrsが逝去する(死因は不明)という不幸に見舞われ、この事でSFFはもう実質上消滅したと言っても異論はあるまい。

 SFFという存在が無くなった現在、彼等が遺した3枚の作品は国境やレーベルこそ転々としつつも、時代と世紀を超えて何度もリイシューされては新たなファンをまた増やしつつあるみたいだ。
 3人の男達が歩み築き上げた軌跡こそ伝説となってこれからも語り継がれていくだろうが、伝説は決して伝説のままで終わらないだろう…。
 彼等の生き様と魂がプログレッシヴを愛する者達の心に生き続ける限り、SFFはこれからも未来永劫神々しく輝き続けていく事だろう…私はそう信じたい。
スポンサーサイト



Zen

Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua. Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation.

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。