幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 KLOCKWERK ORANGE

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 2月最終週の「一生逸品」は、近年国内盤SHM-CDにてリイシューされめでたく陽の目を見る事となったオーストリアきってのカルト的存在でもあり、長い年月もの間…幻と謎のベールに包まれていた孤高にして珠玉のプログレッシヴ・バンド“クロックベルク・オランジェ”に今一度焦点を当ててみたいと思います。

KLOCKWERK ORANGE/Abrakadabra(1975)
  1. DuonyunohedeprincesR
  2. The Key
  3. Abrakadabra
   a) Abrakadabra
   b) Temple Sh.Thirty Five
   c) Mercedes Benz T 146.028
  
  Hermann Delago:G, Trumpet, Key, Vo
  Guntram Burtscher:B, Vo
  Markus “WAK” Weiler:Key
  Wolfgang Böck:Ds, Per

 先ず冒頭初っ端から、このバンドの名前にまつわる由来の誤りを正さねばなるまい…。
 クロックベルク・オランジェ…英訳読みに解せばクロックワーク・オレンジ、所謂かの故スタンリー・キューブリック監督のカルトSF映画の名作『時計じかけのオレンジ』からバンド名を採ったものと長年解釈されてきたが、ネット時代である昨今バンドリーダーにして中心人物でもあったHermann Delagoの言葉を引用すると…当時バンドで使っていたオレンジ色のドラムセットがバンドネーミングの由来との事。
 ドイツ語でいうKlocken=“叩く”+オレンジ色のドラムセットでクロックベルク・オランジェという訳である。
 名前の由来をお聞きになって幾分肩透かしを喰らった様な気持ちにもなるが、それ故に長年謎のベールに包まれていた存在というのも頷けよう。
 まあ、今となっては彼等が遺した唯一無比の素晴らしい音楽性の前では、キューブリックの映画であろうとドラムキットの色云々であろうとも、もうこの際どうでも良いのではと思えてならない(苦笑)。

 些か乱暴な書き出しから始まったが、ヨーロッパ大陸中部オーストリアの秘宝とも言えるクロックベルク・オランジェは、60年代末期から70年代前半にかけて地元チロルのハイスクールバンドから派生したSATISFACTION OF NIGHT、ORIJIN、そしてPLASMAといったサイケ系やビートロック系のバンドが母体となっている。
 当時は専らストーンズを始めフロイドのカヴァー等がレパートリーで、クロックベルク・オランジェへと移行してからは時代の空気に呼応するかの様にEL&Pやオランダのエクセプション等に触発された本格的プログレッシヴ路線へとシフトしていく事となる。
 当時の黎明期に於けるオーストリアのロックシーンは、隣国のドイツやイタリア、ハンガリーといった現在もなお脈々と続くユーロ・プログレ系譜の大国に囲まれた…実に条件的・環境的にも恵まれていたであろうにも拘らず、古くから根付いていたクラシック音楽の拠点ともいえる土壌が強かったが故に、認知度から支持率にあってもなかなかこれといった決定打に欠ける向きが無きにしも非ず、その封建的な雰囲気は今日に至るまで一向に変化が無いというのも実に口惜しい。
 日本の歌謡曲と同様、オーストリアの英才教育的クラシックの前ではロックやポップスなんぞは多かれ少なかれまだまだ格下だったのかもしれない…。
 それでも自主リリースでデヴューを飾ったイーラ・クレイグを始め、今やオリジナル盤が世界的な高額レアアイテムとなったヴィータ・ノーヴァそしてアート・ボーイズ・コレクションが俗に言う第一世代だとすると、彼等クロックベルク・オランジェやキリエ・エレイソンなんかは第二世代に当たると言えよう。

 クロックベルク・オランジェとは、ギターからトランペット、鍵盤系をマルチに駆使するHermann Delagoの特異な個性やら音楽性そのものが反映されつつも決してワンマンオンリーに陥る事無く、メンバー4人それぞれ互いの個性とが程良い具合に呼応し合って絶妙な音楽世界を醸し出している稀有な存在ではなかろうか…。
 バンド結成から程無くして、エルビゲナルプ地区で至極マイナーなれどスタジオ運営を兼ねたレーベル(イギリスのヴァージンよろしくと言わんばかりに)Koch Recordsを興したフランツ・コッホとの出会いによってバンドは更なる大きな転機を迎える事となる。
 そして1974年、フランツの運営するスタジオにて当時10代後半から20代前半だった彼等が、なけなしの貯金と全財産を投げ打って、魔法の呪文めいた意味深な記念すべき(最初にして最後の)デヴュー作『Abrakadabra』の録音に取りかかる。
 サウンドエンジニアはフランツが担当。そして妖しげな如何にも自主製作然といった感のカヴァーアートを手がけたのはドラマーのWolfgangとRoland(バンドのスタッフも兼ねる)のBöck兄弟という、まさに絵に描いた様なホームメイド指向で製作に臨んだ事が窺い知れよう。
          
 抒情と哀愁を帯びた物悲しげなトランペットと、クラシカルで荘厳なハモンドに導かれて幕を開ける記念すべきデヴュー作『Abrakadabra』は、フロイド、クリムゾン、EL&P、ジェネシス、果てはVDGGからGG、フォーカスといった名立たる大御所達をリスペクトした作風が色濃く反映されてて、惜しむらくはホームメイドな録音が災いして音質が今一歩といったマイナス面こそあれど、ユーロ・ロック史にその名を刻むに恥じない位の素晴らしいクオリティーを有している事を念押しで断言しておかねばなるまい。
 冒頭1曲目のタイトルの意に至っては、余りにも人を喰ったかの様な長ったらしい…あたかもジェネシスのゲイヴリエルを意識したかの様な言葉遊びの影響下すら思わせる。
 変拍子を多用したハモンドの響きとトランペットとのぶつかり合いと応酬、それを強固に支えるリズム隊の絶妙さが堪能出来る。
 お国柄を反映したかの様なシンセとハモンドの高らかなるファンファーレのイントロが好印象を与えている2曲目に至っては、フォーカス+フロイドを思わせる曲調に加えキーボードの早弾きのパッセージが目まぐるしい(個人的にはフランスのWLUDを連想した)秀曲である。
           
 そしてラストのトリを飾るアルバムタイトルでもある21分強の大曲の素晴らしさと言ったら…。
 緻密な曲構成に加えてスキルとコンポーズ能力の高さを耳にして、改めて単なる物珍しさだけでは無かった、幻の一枚と言われ続け今までロクに正当且つ真っ当な評価がされてなかった彼等の面目躍如ともいうべきこの大作だけでもかなり高ポイントな“買い”と言えるだろう。
 どうかキワモノ的な捉え方で彼等の音楽に接するのを一切合財止めて、今一度頭の中を空白にして彼等の描く音楽世界の細部に至る隅々まで聴いて欲しいと願わんばかりである。

 一年間かけて録音し完成した『Abrakadabra』のマスターテープを携えて、当初はドイツのベラフォンへのリリースアプローチを試みたものの、結局は無しのつぶてにも等しい返事しか得られず、結局Hermann自らが一念発起で遠路遥々首都ウィーンのCBSオーストリア支社へマスターテープを持参し直談判へと駆け込む。
 幸いチロルでのバンドの評判を耳にしていたCBSにとっては、まさに渡りに舟と言わんばかり願ったり叶ったりが舞い込んだものだから、即決1000枚プレスという条件付きでレコードディールを快諾し、1975年3月バンドは晴れて漸くデヴュー作のリリースに辿り着ける事が出来た次第である。
 店頭には少数しか出回らない関係上、地元チロルでのお祭り(付近の村祭りを含め)の際のライヴイベントやロックフェス等でメンバー達による直接の手売りが専らの流布手段であった。
 決して辛く苦しいとまでは言わないが、結構難儀な思いをしつつもそれなりにライヴ活動等を含めて楽しい青春時代を謳歌していたのではあるまいか…。
 メンバー4人とも当時はまだ学生という身分であったが故に、74年から解散までの76年の2年間地元チロルのみで概ね20回ものライヴしか出来なかったのが惜しまれる。
 その辺りはマーキー/ベルアンティークからリリースされた国内盤SHM-CDのライナーで宮坂聖一氏が事細かに詳細を記しているので是非とも御参照頂きたい。
 ピート・シンフィールドばりのライティング・ショウに加えて、消防関係者が読んだら思わず呆れて怒り心頭になる様な危険な化学実験ばりのライヴ演出に苦笑いせざるを得ないエピソード満載である(苦笑)。

 主要メンバー兼リーダーのHermannの進学とインスブルックへの転居を機にバンドはあえなく解散し、その後Hermannを含めメンバー全員音楽活動から離れたカタギの職業に就き、クロックベルク・オランジェは静かにその幕を下ろした次第だが、実は仕事の傍らHermannは地元オーストリアと東南アジアを股にかけ、如何にも才人らしい彼自身の創作活動が現在もなお継続進行中で、その延長線上と言わんばかり1994年にはバンド結成20周年ライヴなるものを開催し、カルト的バンドの復帰を祝ってヨーロッパ諸国始め世界規模のプログレ・ファンから熱狂的に迎えられたそうな…。
 そして現在、音楽活動を継続していたHermannとMarkusの2人に加え、オリジナルメンバーのリズム隊GuntramとWolfgangもめでたくバンドに合流復帰し2014年には久々の新作発表と併せて40周年記念のギグ等も多数企画されているとの事だったが真偽の程は定かではない(苦笑)。

 『キューブリックは天国に逝ったが、俺達はまだ終われない!』

 そんな軽いノリのジョークさえ聞こえてきそうな…まだまだこれから先も何かしらやってくれそうな彼等の今後に期待しつつ、気長に末永く見守り続け付き合っていきたいものである。
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