Monthly Prog Notes -February-
2月最後の「Monthly Prog Notes」をお届けします。
新型コロナウイルス肺炎やらインフルエンザの蔓延が巷に不安の影を落としている昨今ですが、そんな暗澹たる空気と風潮をほんの少しでも…暫しの間だけでも(ほんの気休めでも)音楽の力で和んで頂けたらと思います。
この場をお借りして、新型肺炎で生命を落とされた方々に慎んで心より深く哀悼の意を表すると共に、一日一刻も早い収束が訪れる事を願わんばかりです。
今回は長い歴史を誇るであろう真の正統派ユーロ・シンフォニックたる王道と流れを脈々と継承したベテランとニューカマーによる強力ラインナップが出揃いました。
今や大御所アンジュと並ぶであろう、フレンチ・シンフォニック界きっての吟遊詩人にして大道芸にも似通ったエスプリとトラディショナルを纏った至高の楽師へと上り詰めた“ミニマム・ヴィタル”の通算8作目の2020年スタジオアルバムは、改めてロックバンドとしての初心と原点回帰に立ち返った繊細さと豪胆さが同居した最高の充実作に仕上がってます。
久し振りのスイスからは21世紀シンフォニックやネオ・プログレッシヴといった概念をも超越した、文字通りシンフォニック・ロック+オーケストラというプログレッシヴたる基本の雛型を、膨大な時間と日数を費やして実践した新鋭“スパイラル・オーケストラ”衝撃のデヴュー作は白眉の出来栄えと言っても過言ではありません。
イエス、ジェネシス、クリムゾン、果てはスポックス・ビアードからアフター・クライングといったエッセンスに管弦楽と現代音楽までもが見事に融合した、ハイレベルにしてハイテンションな宇宙創生神話は必聴必至で感動と興奮以外の何物でもありません。
北欧フィンランドからも名は体を表しているといった感で、さながらキャメルばりの抒情性と泣きを孕んだ眩い白夜の陽光と森の神話を謳い紡ぐ“サンヒロー”のデヴュー作がお目見えしました。
21世紀北欧物というと漆黒の森の暗闇を思わせるクリムゾンばりのヘヴィでダークさが主流といった感が無きにしも非ずですが、そんな作風や佇まいとは全く真逆なヴァイオリンをフィーチャーした時にクラシカルで時にフォーキーな牧歌的で詩情溢れる世界観は聴く者の心を清らかに洗い流してくれることでしょう。
冬からいよいよ春へ…季節の移り変わりを奏で告げる真摯で清廉なる音の匠達の響鳴に心震わせ、去りゆく冬に訣別の思いを馳せながら耳を傾けて下さい。
1.MINIMUM VITAL/Air Caravan'
(from FRANCE)


1.La Compagnie/2.Air Caravan'/
3.Praeludium Tarentella/4.Tarentelle/
5.King Guru/6.Le Fol/7.Sliman/
8.Vole(Voyageur Immobile)/9.Jongleries/
10.El Picador/11.Djin Alzawat/12.Nimbus/
13.Hugues Le Loup
1983年のバンド結成以降、実に30年選手のキャリアを誇るフレンチ・シンフォニックの雄ミニマム・ヴィタル。
本作品は数えて通算8作目となる2020年の新作に当たり、2015年の前作『Pavanes』ではPayssan兄弟にバンド結成当初からのオリジナルベーシストEric Rebeyrolによるトリオスタイルで2枚組という長尺なヴォリュームながらも重厚にして流麗、従来通りのヴィタルサウンドが存分に堪能出来た好作品であったが、今作は4作目『Esprit D'Amor』に参加していたドラマーのCharly Bernaが再びバンドに加わり、改めてロックバンドという意識に立ち返って…デヴュー作『Les Saisons Marines』始め『Sarabandes』、『La Source』の頃を彷彿とさせる様な、原点回帰と初心に戻るという意味合いが窺える変幻且つ緩急自在で一曲毎がヴァラエティーに富んだ力強い意欲作に仕上がっている。
今までの彼等の作品と比べると些か似つかわしくない様な一見するとモダンでカラフルな意匠ながらも、さながらステンドグラスをも想起させるイメージ通り(見開きデジパック内側も彼等なりのユーモアセンスとジョークが微笑ましい)、フランスらしい小粋なエスプリと吟遊詩人(大道芸人)にも似通っているトラディショナルな趣が全面に押し出された粒揃いの小曲で占められており、聴き手を決して飽きさせる事無く曲作りの上手さと巧みさで惹き付ける彼等の持ち味は今回も不変で健在である。
ラスト終盤でGGの『In A Glass House』のエンディングを連想させる流れに思わずニヤリとしてしまうのは私だけだろうか(苦笑)。
Facebook Minimum Vital
2.SPIRAL ORCHESTRA/Atlas Ark
(from SWITZERLAND)


Part 1:
I.Dawn
1.Overture/2.Seven Parsecs From The Sun/3.Exodus Games
II.Zenith
4.Hesperides Gardens/5.Ghost Memories/6.Atlas Ark:Arrival
Part 2:
III.Twilight
7.The Sephirot Artefact/8.Fractal Breakdown/9.Uprising
IV.Midnight
10.Voidseeker
Artefact I/Artefact II/Artefact III/Hesperian Sunrise/
Atlas Ark:Revival/Awakening Of The Voidseeker/
The Battle Of Atlantis/Atlas Ark:Apotheosis/Epilogue
昨秋辺りから大々的な触れ込みでリリースの告知がされてはいたものの、様々な諸事情で製作が遅延し年明けに漸くその全貌を現した21世紀スイス・シンフォニック期待の新鋭スパイラル・オーケストラ。
シンフォニック・ロックとオーケストラとの融合というプログレッシヴの定番にして鉄板という一度は避けては通れないであろう普遍的な命題に臆する事無く果敢に挑んだ本デヴュー作であるが、まさしく看板に偽り無しの…アートワーク総じてもう如何にもといった否応為しに期待感が高まる、広大な宇宙と悠久の神話世界をも想起させるイメージと寸分違わぬダイナミズムとスペクタクルが同居した重厚で深遠且つ荘厳で圧倒的な音の壁に、聴く者の心はいつしか鷲掴みにされ時間が経つのも忘れてしまう位にのめり込んでしまう事必至であろう。
イエス、ジェネシス、クリムゾン、果てはスポックス・ビアードやアフター・クライングといったプログレッシヴ界の巨匠達からの影響下にクラシックと現代音楽がハイブリッドにコンバインした、ネオプログレッシヴやメロディック・シンフォすらも凌駕超越するであろうハイレベルな完成度を物語る音世界観に加え、ギタリストでもありバンドの中心人物でもあるリーダーThomas Chaillanの秀逸なコンポーズ能力が光り輝く、改めてプログレッシヴ・ロックを創作するとはこういう事であると言わんばかり、徹頭徹尾プロフェッショナルで素晴らしい仕事ぶりが存分に堪能出来る事だろう。
作風の差異こそあれどウクライナのモダン・ロック・アンサンブルと互角に亘り合える逸材が登場した事に心から惜しみない拍手を贈りたい。
Facebook Spiral Orchestra
3.SUNHILLOW/Eloise Borealis
(from FINLAND)


1.Intro/2.Eloise Borealis/3.No New Words/
4.Beyond The Dreams/5.Out There/6.For A Moment/
7.Kuovi
白夜の国北欧フィンランドより新たなる抒情の調べが届けられた。
あたかもジョン・アンダーソンのソロアルバムをも連想させるサンヒローなるニューカマーの2020年デヴュー作。
心穏やかな陽光が降り注ぐ北欧の森を夢見心地に彷徨う…そんなイメージすら思い起こさせる、北欧プログレッシヴ伝承の旋律にキャメルばりの泣きのメロディーラインが実に素晴らしく美しい。
男女混声ヴォーカルによるハーモニーの絶妙さも然る事ながら、ヴォーカルも兼ねる女性ヴァイオリニストのリリシズム高らかに奏でられる旋律に、ヴィンテージ感と相まってどこかしら懐かしさを感じさせるオルガンとエレピの残響、広大な草原の風を思わせるスカンジナビアン・フォーキーな佇まいにトラディショナルで温もりのある土臭さが聴く者の心を惹き付けるであろう。
5人編成によるメンバー全員が過去にフィンランド国内幾つかのプログレッシヴ・ロックバンドで培われた音楽経験者であるが故、言わずもがな素人臭さ皆無のしっかりと安定した演奏力に私を含めリスナーの誰しもがいつしかゆったりと身も心も委ねてしまいたくなる。
クリムゾン影響下のヘヴィでカオスなダークシンフォが主流といったイメージの昨今の北欧勢に於いて、幽玄且つたおやかに詩情と浪漫を謳う彼等の存在はノルウェーのウィンドミルと並んで今後も抒情派シンフォニックの重要なポジションとして注視される事だろう。
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