幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 BRAM STOKER

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 今週の「一生逸品」はつい最近めでたく通算3枚目にして待望の再々復活作をリリースし、世界的規模で大いに話題と評判を呼んでいる、ブリティッシュ・ロックシーンきっての隠された至宝にして類稀なる秀逸な存在と言っても過言では無い“ブラム・ストーカー”に今再び焦点を当ててみたいと思います。

BRAM STOKER/Heavy Rock Spectacular(1972)
  1.Born To Be Free/2.Ants/3.Fast Decay/
  4.Blitz/5.Idiot/6.Fingals Cave/
  7.Extensive Corrosion/8.Poltergeist
  
  Tony Bronsdon:Key
  Pete Ballam:G
  Rob Haines:Ds
  John Babin:B

 60年代末期から70年代全般に於ける…まるで蟻の巣の如き厚い層を形成しているブリティッシュ・プログレッシヴ・ムーヴメントの中で、今回取り挙げるブラム・ストーカーはまさに知る人ぞ知る存在と言っても異論はあるまい。
 あくまで推察の域ではあるが、おそらくリーダー兼KeyのTony Bronsdon自身、昔も今も自身のキーボードヒーローでもあるキース・エマーソンに触発されてこのバンドを結成したのではあるまいか…。
 ホラー小説の祖にして古典的怪奇小説『ドラキュラ』の作者でもあるブラム・ストーカーをバンド名に冠したものの、おどろおどろしさ全開の悪魔崇拝的な恐怖感に彩られたヘヴィサウンドとは皆無にして真逆な…所謂ブリティッシュ・オルガンロックの範疇ではあるが、ヴァーティゴやネオンレーベル系の作品にありがちな変に英国独特の陰りや情緒感に彩られた泥臭さというかブルーズィーな感触が幾分抑えられた、アクやクセの無い…まあ比較的ストレートでクリア、構築的で親しみ易くスンナリと耳に馴染む稀有な好作品だと言えるだろう。
 良い意味で人懐っこく取っ付き易くも、悪い意味で英国情緒薄味な(ワールドワイドな作風を目指したのか?或いはあくまで自国に根付いた作風だったのか?)どっち付かずでも無い中途半端さがマイナス面といったところではあるが、いずれにせよ1972年に唯一作でもある『Heavy Rock Spectacular』は、40年以上を経た21世紀という今日まで根強い支持を得て名作・名盤という確固たる地位を保持しているのは紛れも無い事実と言えよう。

 バンドの結成やバイオグラフィーに関しては誠に申し訳無くも、ここ数年間私自身の貧相な脳細胞やら思考回路を駆使し、あらゆるネット関連で検索しても兎にも角にも全くと言って良い程の解らずじまいであったものの、極最近になって判明した事として…バンドは1969年にキーボードのTony 
Bronsdonを中心に結成され、ロンドンの老舗マーキークラブを拠点に様々なロックフェスやギグに出演、果てはイギリス国内そしてオランダの大学の学園祭等で精力的に活動し、早くからその類稀なる音楽性で高い評価と話題を集めていたとの事。
 そして1972年イギリスはロンドンのWINDMILLなるマイナーレーベルから、ブルーを基調に女性とおぼしき頭部のみがグラデーション化された、その何とも形容し難い印象的なジャケットに包まれた『Heavy Rock Spectacular』をリリースする。
 ただ…いかんせん困った事にオリジナルLP原盤にはバンドメンバーのクレジットが無いという体たらくな有様が何とも腹立たしく思えてならない(当時の製作者と責任者を呼べ!と声高に叫びたくもなる)。
 その結果(良い意味で)謎と秘密のベールに包まれた伝説のバンドという、プログレ・ファンやブリティッシュ・ファンなら間違い無く飛び付く事必至ともいえる名誉(!?)な称号を得たまま、後年高額プレミアムな一枚として世に出てしまい…ブリティッシュ・ロックの造詣に深い有識者ですらもますます頭を悩ませ混迷を極めてしまうのだから全く以って世話は無い(苦笑)。
 しかし幸いかな…今世紀ネットとSNS隆盛で様々な情報と検索ワードが飛び交う昨今、多種多様なジャンルのCDリイシュー化の波及でブラム・ストーカーも御多聞に漏れず、今まで数々の知られてなかったバンドの秘話やらバイオグラフィー、アーカイヴに至るまでが多くのロックファンに知られる事となり、2008年ドイツ国内でプレスリイシューされた(お粗末な装丁ながらも)デジパックCDを皮切りに、2014年のマーキー/ベル・アンティークから未発音源CD付豪華2枚組仕様+詳細なる経歴まで網羅された紙ジャケットリイシューまでもがリリースされ、かつての幻・伝説的存在から徐々に21世紀シーンへの再浮上への追い風となったのはもはや言うには及ぶまい(ただ未だにヴォーカルを誰が担当しているのか解らないが困り者であるが)。
          
 冒頭1曲目のいきなりパーカッシヴなハモンドと心地良く軽快なメロディーラインに思わず惹き込まれる事だろう。ヴォーカルの力量は平均的なれど決して下手な部類ではあるまい。
 むしろこの手のオルガン・プログレには適材と言えるヴォーカリストではなかろうか。それでもオープニングを飾るに相応しいダイナミズムを感じずにはいられない。
 2曲目と3曲目はインストゥルメンタルナンバーでここでもTonyのハモンドは絶好調に冴えまくっている。
 彼のオルガンワークを支えるメンバー誰一人前面に出しゃばる事無く、あくまでアンサンブルを重視したサウンドワークに徹した姿勢が端々に垣間見える。3曲目の中間部にバッハのフレーズが出てくる辺りは御大のキースやジョン・ロードをも意識しているのだろうか…なかなか堂に入った演奏で思わずカッコイイの言葉すら出てきそうな、改めてブリティッシュ・ロックの奥深さが窺い知れる好ナンバーと言えるだろう。
 不穏な雰囲気を醸し出す空襲警報めいた厳かなサイレン音と重々しいハモンドとベースに導かれる4曲目は唯一のバラードナンバーで、英国の湿り気を帯びた白い曇り空と広大な田園風景が目に浮かぶ様だ。
 Vo入りの5曲目、そしてオールインスト6曲目にかけての流れも実に素晴らしい出来栄えで、この辺りともなるとブリティッシュ系の音というよりも、むしろダッチ系プログレ…初期のフォーカス或いはブラスセクションを抜いたエクセプションの面影すら垣間見える作風で、イギリスのバンドでありながらも海峡を越えて更なるヨーロピアンな感性と様式美との融合を意欲的に試みている、バンド的にもひと味違った側面すら窺い知れよう。
 やはり彼等も当時のロックシーンを席巻していたオランダ勢の流れというものを意識していたのだろうか…。
 軽快で疾走感溢れるギターとテクニカルなオルガンとの応酬が印象的な7曲目に至っては、中間部でのさり気ない管楽器パートの導入やピアノが初めて顔を覗かせたり、伝統的なブリティッシュ・フレーバーの流れが堪能出来る秀逸さが光る好ナンバーと言えよう。
 オカルティックな題材にインスパイアされた8曲目は、物憂げでミスティックなイメージと緊迫感溢れるスリリングさとが同居した、ライト感覚ながらもブラム・ストーカー流のオルガン・シンフォニックが縦横無尽に繰り広げられ、まさにラストのトリでありつつも彼等の音世界のフィナーレを飾るに相応しい真骨頂で締め括られる…。

 このまま順風満帆な波に乗ってマイナーレーベルから一気に大手メジャーな流通へ…という周囲からの期待を他所に、彼等はたった一枚きりの作品を遺し理由を告げぬままブリティッシュ・ロック史の表舞台から姿を消し、前述の通り製作スタッフからバンドメンバーに至るまでのクレジットが伏せられたまま、まったく謎だらけのベールに包まれた不名誉な称号を背負った高額プレミアム作品として世に出て、それ以降各々のメンバーの消息やらその後の足取り等は掴めぬまま、作品の素晴らしさだけが一人歩きしつつ21世紀を迎えるまでに至った次第である。

 しかし、プログレッシヴ・ロックの神様はそういとも簡単にお見捨てにはなさらなかった…。

彼らが唯一作を遺してから40年余、時代は好転し世界各国から次々と70年代の栄華を彩った名グループ達がカムバックを遂げ、ブラム・ストーカー自体も御多聞に漏れずリーダーTony Bronsdonを中心に2013年実に40年余振りの待望の新作『Cold Reading』で見事に復活を遂げ、今や世界的規模に達したプログレッシヴ・ムーヴメントの第一線に華々しく返り咲いたのは最早既に周知の事であろう…。
    
 ブラム・ストーカー解散後…Tony Bronsdon自身、ジュリアン・レノン、ロジャー・ダルトリー、サイモン・タウンゼント、ヴィサージュ、ペット・ショップ・ボーイズ、フィル・ラモーン、トーヤ、ジョン・フォックスといった名立たる面々との共同作業といった長年に及ぶ数々の音楽的経験や、新たな盟友にして現ESPプロジェクトを主宰するTony Loweとの出会いを経て、紆余曲折、試行錯誤、自問自答の果てに漸く辿り着いたブラム・ストーカーへの帰還は、まさに原点回帰に立ち帰るばかりでは無く、彼=Tony Bronsdon自身の思い描く音楽の存在意義と自己証明をも問うた第2の新たなる挑戦であったと言っても過言ではあるまい。
 当初はTony自身のソロプロジェクトの発展進化形とも取れるスタイルだったブラム・ストーカーであったが、このまま顔見せ程度のワンオフ的な復活劇で終わるのではといった危惧があったのも正直なところで、次回作なんて果たしていつの事になるやらと静観していた…そんな我々の下世話にも似た余計な心配を他所に、Tonyを中心に新たな3人のメンバー(女性ベーシスト兼ヴォーカルJosephine Marks、ギタリストNeil Richardson、ドラマーWarren Marks)を迎えた布陣で、2019年名は体を表すの言葉通りドラキュラ伯爵らしき妖しげな人物が描かれた6年ぶり通算3枚目にして現時点での新譜『No Reflection』をリリースしたのは記憶に新しいところである。
       
 アートワークこそややもすればゴシックメタル風な意匠といった感こそ否めないものの、肝心要のサウンド面にあってはかつてのデヴュー作や復活した前作から一転して、往年のカーヴド・エアないしエニドばりの正統派ブリティッシュ・シンフォニックへと完全シフトに成功した好作品に仕上がっているのが実に驚きである。

 現在こうしてバンドスタイルとして再復活を遂げた新布陣の彼等が、いつの日か…或いは遠い将来かは定かではないが、我が国日本のステージの壇上で白熱のライヴ・パフォーマンスを繰り広げてくれるであろう、そんな夢物語にも似た他愛の無い妄想を頭に思い描いただけでも期待に胸が熱くなってしまう。
 そんな感慨深い衝動を抑えつつ、彼等の新旧3枚の作品を何度も何度も繰り返し聴いている自分がそこにいる今日この頃である…。
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Zen

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