一生逸品 STRANGE DAYS
4月新年度最初の「一生逸品」をお届けします。
先日告知した通りの2ヶ月間シャッフル企画と銘打って、今週は「夢幻の楽師達」にてフランスのアジア・ミノール、そして今回の「一生逸品」は70年代後期のブリティッシュ・プログレ珠玉の一枚に数えられる秘蔵級の存在と言っても過言では無い“ストレンジ・デイズ”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。
STRANGE DAYS/9 Parts To The Wind(1975)
1.9 Parts To The Wind
2.Be Nice To Joe Soap
3.The Journey
4.Monday Morning
5.A Unanimous Decision
6.18 Tons


Graham Word:Vo, G
Eddie Spence:Key
Phil Walman:Vo, B
Eddie Mcneil:Ds, Per
70年代中盤から後期にかけて、プログレッシヴ・ロック・ムーヴメントはひとつの大きな分岐点を迎えつつあった。
74年のクリムゾンの終焉を契機にフロイドを始めイエス、EL&Pがそれぞれ活動休止状態に陥り、フィル・コリンズ主導のジェネシスを筆頭にキャメル、ジェントル・ジャイアント、ルネッサンス…等の精力的な活動に加え、ヨーロッパ諸国でもイタリアのPFM、バンコ、フランスからはアンジュ、タイ・フォン、オランダのフィンチ、スウェーデンのカイパ、アメリカのカンサス、オーストラリアのセバスチャン・ハーディー…etc、etcがこぞって台頭し独自のムーヴメントを形成していったのは、よもや説明不要であろう。
プログレッシヴ・ムーヴメントのメインストリームとも言うべき本家イギリスも御多分に漏れず、5大バンドに続けとばかりに1975年を皮切りにキャメルやエニドといった後の大御所に追随するかの如く、ケストレルを始めドゥルイド、イングランドにアフター・ザ・ファイアー…等といった前途有望なバンドが続々とデヴューを飾った次第である。
惜しむらくは…当時これだけの新鋭達が出揃いながらも、時同じくしてイギリスに台頭したパンク・シーンやNWOBHMによって、尽く表舞台の片隅へと追いやられてしまい、以後、80年代初頭のマリリオンを筆頭とするポンプ・ロック・ムーヴメント勃発までの間、文字通り誉れ高き大英帝国のプログレッシヴ・ロックは沈静・停滞化し陽の目を見ることすらもままならなかったのが正直なところである。
そんなワンオフ的で短命ながらも、ブリティッシュ・プログレッシヴ史に燦然と輝く珠玉の名作・名盤を遺したケストレルやイングランドと共にもうひとつ加えられるべき隠された至宝にして、70年代後期におけるブリティッシュ・プログレッシヴの良心にして最後の砦ともいえるストレンジ・デイズ。
マーキー刊の「ブリティッシュ・ロック集成」にたった一度だけ紹介された以外、彼等唯一の作品は噂が噂を呼び良質なブリティッシュ・ポップスフィーリングに裏打ちされた、ジェネシス、イエス、10CCにも相通ずる伝統的且つエレガントなプログレッシヴを演っているといった内容と触込みで瞬く間に高額なプレミアムが付き入手困難な一枚となったのは言うまでもない。
個人的な話で恐縮だが…筆者は一度、西新宿の某廃盤専門店で彼等のLP原盤と御対面した事がある。試聴した直後一気に購買モードになりつつも、とにかく当時にしてン万円代であったが故泣く泣く諦めたという苦い経験がある…。
彼等、ストレンジ・デイズの4人の詳しいバイオグラフィー並び各メンバーの経歴に至っては、毎度の事ながら誠に申し訳なくも(本当に今回ばかりは申し訳なくも!)一切合切が不明で皆目見当がつかないのが現状である。
何年か前に音楽誌ストレンジ・デイズ(奇しくもバンド名と同じだが)からリリースされた、紙ジャケット仕様CDのライナーノート上でさえも、全くのお手上げ状態でメンバーの所在度・認知度からいったらイングランド以上に深い霧に包まれて困難を極める云々しか記されていない位だから、バンド解散以降の各メンバーの動向なんて当然の如く雲か霞を掴む難解なレベルであると言っても過言ではあるまい。
唯一判明しているのは原盤LPの発売元であるリトリート・レーベルがイギリスEMI傘下であることから、バンドそのものは決して一朝一夕で出来たレベルのバンドではないということくらいだろうか…。そういった類似点ではアリスタから唯一作品を遺したイングランドとも共通しているのが何とも皮肉ですらある。
収録されている全曲共に共通して言える事だが、プログレにして明るい曲想とポップなフィーリングながらもやはりそこは英国的センスの陰りや湿り気がちゃんと隠し味になっているところがミソであろう。それは、御大ジェネシス然りケストレル、イングランド…等にも共通している、ある種のお決まり(?)みたいな要素なのかもしれないけど。
メロディアスなピアノに導かれ、キーボードとギター、リズム隊が幾重にも織り重なってイエスを思わせる様なイントロからポップ感溢れる明るい曲調へと展開する1曲目なんて、まさにオープニングに相応しくも彼等の身上とブリティッシュ・ポップスの伝統に裏打ちされた気風をも如実に表しているかのようだ。
クラシカルで魅力的なハモンドに導かれる(偶然にも共にシングルカットされた)2曲目並び4曲目の力強い演奏は、往年のブリティッシュ・プログレの王道ここに極まれりといった感で聴く者を圧倒し溜飲を下げる事必至と言えるだろう。両曲ともシングルカットされたヴァージョンの素晴らしさも然る事ながら、長尺にして素晴らしい演奏がダイレクトに聴ける本作でのオリジナルヴァージョンをここは是非推しておきたいものだ。

3曲目のどこか寂しげでムーディーな雰囲気を醸し出した冒頭…あたかも朝靄の中に木霊するかの如きバラード調から、一転してアップテンポで軽快な曲風に変わり、更には後半部にかけての抒情的で泣きのリリシズムが綴れ織りする辺りは、流石というかやはりイギリス人だからこそ出来る曲想と言えよう。
5~6曲目の流れともなると、あたかも『フォクストロット』から『月影の騎士』の頃のジェネシスの幻影を彷彿とさせ、単なる影響を受けたリスペクト云々の次元をも超越した、それこそ80年代初期の同じジェネシス影響下の凡庸なポッと出のポンプロックなんか軽く一蹴されるであろう、そんな気概と気迫に満ちていると言ったら言い過ぎだろうか…。
ただ、個人的な意見で恐縮ではあるが…本作品に於いてプログレ必携アイテムともいえるメロトロンが使用されていないのが何とも惜しまれるところである(誤解の無い様に付け加えておくが、メロトロンの有無で作品の評価を決めるというのは個人的には懐疑的でもあるし、使用されてなければそれはそれで決して作品そのもののクオリティーや評価が落ちるとか劣る訳でもないからね)。
でも…もし本作品にて大々的にメロトロンがフィーチャーリングされていたら、それはそれで大なり小なりまた違った好評価が与えられていたと思う。小生意気な様で恐縮であるが…機会あらばプログレ業界の有識者の方々の御意見を是非聞いてみたいものである(苦笑)。
たった一枚の作品を遺し長きに亘り忘却の彼方へと追いやられ、封印が解かれたかの様に近年漸く(SHM-CD化を含めて)紙ジャケット仕様でCD化され、こうしてまた改めて再評価が高まりつつある彼等ではあるが、それは決して“幻の逸品”だとか“秘蔵の一枚”といった骨董級のレベルでは収まりきれない、プログレやユーロ・ロックのファンのみならず、もっと万人のロックファンの為に在るべき作品ではなかろうか。
往年のブリティッシュ・スピリッツに酔いしれたい方々始め、長年プログレッシヴ・ロックを愛し続けファンであった事に改めて喜び誇れるような、そんな素敵な出会いをも保証する充実感に満ちた魅力ある一枚であろう。
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