幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 CATHEDRAL

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 今週の「一生逸品」は、アメリカン・プログレッシヴ史上において金字塔の如く燦然と輝き、今もなお至高の名作の称号として誉れ高い奇跡の最高傑作を世に送り出した“生ける伝説”的存在の“カテドラル”に、今再び栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。


CATHEDRAL/Stained Glass Stories(1978)
  1.Introspect
  2.Gong
  3.The Crossing
  4.Days & Changes
  5.The Search
  
  Paul Seal:Vo
  Rudy Perrone:G, Vo
  Mercury Caronia Ⅳ:Ds, Per
  Fred Callan:B, Vo
  Tom Doncourt:Key

 21世紀の今にして思えば…前世紀の更にひと昔前におけるアメリカン・プログレッシヴの随分と偏見じみた扱われ方と言ったら、余りにも笑い話では済まされない、“プログレッシヴ=イギリスとヨーロッパ諸国”みたいな特権音楽とでも言うのか、それこそ口汚い言い方で申し訳ないが“アメ公なんぞに…”といった妄信や愚考が横行して、カナダを含めた北米大陸のプログレッシヴ・シーンについては今ひとつ関心が薄くて、全貌が明らかにされず終いであったのが正直なところであろう。
 勿論、70年代において大メジャーで大御所のカンサスやスティックス…等が素晴らしい作品を世に送り出して頑ななプログレ・ファンからも高い評価を得てそれなりの認知もされ、イーソス始めハッピー・ザ・マン、ディキシー・ドレッグス、スター・キャッスル、パブロフズ・ドッグも、その追い風に追随するかの如く精力的にアメリカン・プログレッシヴの一端を担ったのは最早言うまでもあるまい。
 80年代に入るとマーキー誌の尽力の甲斐あって、さらにアンダーグラウンド且つマイナーな範疇ながらも…ペントウォーター、バビロン、アルバトロス、イースター・アイランド…等の名作級が次々と発掘され、それを境にネザーワールド、ノース・スター、レルムといった新進勢も登場し、90年代以降~21世紀は言わずもがなドリーム・シアター始めスポックス・ビアード、エコリン…等、時代の移り変りと共に高水準なバンドが輩出され、全米の各地で開催されているプログフェストの貢献で、プログレ・ファンのアメリカ産のバンドに対する認識も驚くくらいに変わったと言っても過言ではなかろう。
           
 話は些か横道に逸れたが、(良くも悪くも…)MTVやら巨大な音楽マーケットを誇る産業音楽大国のアメリカにおいて、長きに渡る試行錯誤と紆余曲折の道を辿ったアメリカン・プログレッシヴシーンで、特異中の特異の存在とも言える彼等カテドラル(カシードラルと呼称する向きもある)の結成から活動の経緯、解散、各メンバーの経歴等に至るまでの詳しいバイオグラフィーに関しては、これはもう…本当に残念な事に!全くと言っていい位に解らず終いで、SYN-PHONICレーベルからの再発CDのインナーでも触れられておらず、これといった資料や記事すらも発見には至らなかったのが正直なところである。
           
 78年にDeltaなるマイナーレーベルより唯一リリースされた作品に収録されている全5曲共、イエス始め初期ジェネシス、そして『宮殿』の頃のクリムゾンからの影響を窺わせつつも、アメリカン・プログレによくありがちな突き抜けるような明るさとは程遠い。
 アメリカ風な趣や雰囲気を極力控えめに、ヨーロッパ的な幻想・抒情性にリリシズムとイマジネーションを重視した静粛で且つ荘厳な、バンド・ネーミングに相応しくも恥じない位の緻密で繊細な音の構築美を物語っている。あたかも教会の大聖堂というマクロコスモスと人間の持つ内面性・心象風景というミクロコスモスとのせめぎ合いを目の当たりにしているかの様ですらある。
 メンバー誰一人としてリードを取ること無く、バランス良く役割を担って創り上げる各一曲々々がまるでパズルのピースを埋めていくかの如く、5人の修道士が一枚のステンドグラスを描いていく様は崇高にして厳粛でもある。
 特にオルガンやメロトロンを操るTomの技量も然る事ながら、Mercuryのドラミングにパーカッション群の効果的な配し方・使い方には音楽的な素養の深さと幅広さが至るところで滲み出ていて好感が持てる事に加えて、物悲しげなPaulの歌唱も聴きものである。
          

 バンドそのものの活動期間はアルバムリリースを含めて概ね1年弱と思われるが、何度かのロック・フェスでの活動を経て、次回作の為の録音やマテリアル・作品化されなかったマスターを何本か残しつつも、様々な諸事情が原因で解体したものと思われる。
 バンド解体後、メンバーの中で唯一ギタリストのRudyが、81年に『Oceans Of Art』というアンソニー・フィリップスやスティーヴ・ハケットに触発された、アメリカンなイマージュとヨーロピアンなリリシズムに彩られた素晴らしいソロ好作品をリリースし、我が国でも後年限定枚数で入ってきたがそれ以降の再プレスもなされていない寂しい状況である(改めて是非CD化を望みたい!)。
 ちなみにこのRudyのソロ作品にはカテドラルのメンバーも全面的にバックアップで参加している為、ある意味カテドラルの2作目みたいな向きをも感じさせる。
        

 カテドラルが残した唯一の作品は、その後Syn-Phonicより、90年にジャケットを改訂したLP盤、翌91年にオリジナル・ジャケデザインに戻しバンドロゴとタイピングを改訂したCDでリイシューされ、21世紀以降は2010年と2019年にマーキー/ベル・アンティークより二度に亘る紙ジャケット仕様SHM-CD化が成され、今では容易に入手が可能であるが、それでも尚オリジナルのLP原盤は相も変わらずプレミアム価格が5桁~6桁へと上がり調子である。
 まあ…皮肉といえば皮肉なものであるが(苦笑)。

 彼等が残したユーロマンな趣と嗜好(志向)性は後年、ザムナンビュリスト、クルーシブル、パペット・ショウ、アドヴェント…等といった現在の精鋭達に脈々と受け継がれているが、実は…天上の神々はそう簡単に彼等カテドラルを見捨てたりはしなかった。ここ数年イギリスのイングランド始め、アメリカでもペントウォーター、スター・キャッスルが再結成された動きに呼応して、右に倣えという訳ではないにしろ青天の霹靂よろしく2007年の10月…ギタリストがRudy PerroneからDavid Doig(ギターからシンセ、サックス、チェロまで手掛ける)に交代し、それ以外はオリジナルメンバーが再び集結するという新たなラインナップで実に29年振りの新作『The Bridge』という好作品をリリースし復活を遂げたのは御周知の事であろう。
    
 再結成当時アメリカ国内にて様々なプログフェスに出演し賞賛を浴びたのも然る事ながら、キーボーダーでもあり工芸作家でもありアメリカ自然史博物館の学芸員の肩書きを持つTom Doncourt(過去に日本の京都にも何度か訪れている)も自身のレーベルよりソロワークを展開し、2014年『The Mortal Coil』そして翌2015年に『The Moon Will Rise』を発表しその健在ぶりをアピールするものの、残念ながら持病の悪化で特発性肺線維症を併発し2019年3月20日ニューヨークのブルックリンにて鬼籍の人となる。
  

 こうしてカテドラルの物語は静かに幕を下ろした次第であるが、長年プログレッシヴを愛し信じていればこそ必ず奇跡は起こる…そんな言葉では決して一括り出来ない位にカテドラルとその作品、そしてバンドに携わった者達の軌跡と人生こそ、紛れも無く生ける伝説として未来永劫語り継がれ、大聖堂のステンドグラスの眩い輝きの如く神々しく人々の脳裏に刻まれていく事であろう。
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