幻想神秘音楽館

プログレッシヴ&ユーロ・ロックという名の夢幻の迷宮世界へようこそ…。暫し時を忘れ現実世界から離れて幻想と抒情の響宴をお楽しみ下さい。

一生逸品 MUSEO ROSENBACH

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 8月第一週目の第二弾「一生逸品」は、先日の「夢幻の楽師達」でイルバレを取り挙げたからには、必然的に彼等も絶対出さなければと決めていました。
 名実共に70年代イタリアン・ロック史にその名を燦然と輝かせ、イタリアン・ヘヴィプログレ至高の決定版でもあり金字塔と言っても過言では無い、まさしく真の伝説的存在という名に恥じないであろう“ムゼオ・ローゼンバッハ”をお届けします。

MUSEO ROSENBACHZarathustra(1973)
  1.Zarathustra
   a)L'ultimo Uomo/b)Il Re Di Ieri/c)Al Di La' Del Bene E Del Male/
   d)Superuomo/e)Il Tempio Delle Clessidre
  2.Degli Uomini
  3.Della Natura
  4.Dell'eterno Ritorno
  
  Stefano“Lupo”Galifi:Vo
  Enzo Merogno:G,Vo
  Pit Corradi:Key
  Alberto Moreno:B,Piano
  Giancarlo Golzi:Ds,Per,Vo

 70年代イタリアン・ロック史に於いて、至宝の如き名作・名盤として燦然と輝き続け今もなお語り継がれている、俗に言うイタリアン・ヘヴィプログレッシヴ名盤の代名詞…イル・バレット・ディ・ブロンゾ『YS』、ビリエット・ペル・リンフェルノ『地獄への片道切符』と共に(個人的には)三大傑作としてその名を留めている、今回の主人公ムゼオ・ローゼンバッハの『ツァラトゥストラ組曲』。

 “ローゼンバッハ博物館”なるバンドの歴史は、1969~70年の初頭にまで遡る。
 長年イタリアン・ロックを愛して止まないファンにとっては、まさに知る人ぞ知る伝説的ヘヴィ・プログレバンド“IL SISTEMA”(1971年のデヴューに向けて何曲か録音されていたものの、バンドの解散と重なり諸般の事情でお蔵入りしていた。90年代初頭にかけてMellowレーベルを通じてLPとCD化されてる)こそがムゼオの母体である。
 IL SISTEMAのギタリストだったEnzo Merognoと、フルートとサックス兼エレピを担当していたLeonardo Lagorioがバンド解体後、どういった経緯でメンバーと知り合い合流し、ムゼオ・ローゼンバッハという奇異なバンド名にまで辿り着いたのかは今もって定かではないが、程無くして初代のヴォーカリストにWalter Franco、ベーシストにAlberto Moreno、ドラマーを…後にマティア・バザールの中心人物となるGiancarlo Golziを加え、ひたすら地道にギグとリハを積み重ねてデヴューの機会を窺っていたものと推察されよう。
 当時それらの動向を裏付ける証とも言うべき貴重な未発表曲含むライヴ音源等が、90年代初頭にMellowレーベルを通じてLPとCDそれぞれジャケットデザインと収録曲の違いこそあれど3作品立て続けにリリースされている。
 音質的には…ややと言うべきかかなり難があれど、ある意味当時の狂騒と猥雑的で生々しい演奏が堪能出来るという意味合いを差し引いても一聴の価値はあるだろう(苦笑)。当然メロトロンも入っており、自らのオリジナルナンバーのみならずビートルズ始めユーライア・ヒープ、コロシアム…等といったブリティッシュな曲のカヴァーも演奏し、彼等の後の『ツァラトゥストラ組曲』へと繋がる音楽性とルーツを窺い知る上で非常に興味深い。
 バンドは漸く軌道の波に乗ってきたところで、キーボードがLeonardoからPit Corradiに交代し、ヴォーカリストもWalterからStefano“Lupo”Galifiに変わり、1973年を皮切りにバンコの『自由への扉』、レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカのデヴュー作といった名作・傑作を多数世に送り出し俄然気を吐いていた70年代イタリアン・ロックの中枢を担っていたであろう大手リコルディからのデヴューへと結び付いた次第である。
 ちなみに…余談ながらも、ムゼオを抜けた先代キーボードのLeonardoは、IL SISTEMA時代のドラマーCiro Perrinoを誘ってチェレステ結成へと向かったのは周知であろう。

 徹頭徹尾、本作品の全篇に漂っているであろう…イタリア・ファシズムの象徴とも言うべきムッソリーニを、皮肉さを込めてコラージュで描いたという一種異様にして異彩なカヴァー・アートに包まれた彼等の音世界から感じ取れるのは、後期クリムゾンは言わずもがな…バンコの『ダーウィン』『自由への扉』、オザンナの『パレポリ』にも相通ずる重苦しさ、そして唯一無比の“闇”と“混沌”であると言っても差し支えはあるまい…。
 ちなみに5人のメンバーに加えて、かのジャンボの最高傑作の3作目『18歳未満禁止』にも参加しているキーボード奏者Angelo Vaggiがミキシングとモーグシンセサイザーのプログラミング兼エフェクトといったサポート面で参加しており、全曲の作詞はMauro La Luce、そして作曲はベーシストのAlbertoが手掛け、仄暗く陰鬱なフルート・メロトロンに導かれて…賞味40分近い狂気と錯乱の音世界が全面に亘って繰り広げられる。
          

 過去にキングのユーロ・コレクション始め各プログレ専門誌、CDリイシュー企画といった多方面にて紹介されている通り、狂気の哲学者ニーチェの哲学叙情詩「ツァラトゥストラはかく語りき」からインスパイアされたトータル作品にして、プログレッシヴの法則ともいうべき暗く深く重くといった三拍子がきっちりと揃った、まさしくあの熱かった70年代のイタリアン・ロックシーンが産み落とした珠玉にして至宝ともいうべき一枚であろう。
 豆知識みたいな余談で恐縮だが…キングのユーロ・コレでの山崎尚洋氏の解説を拝借するところ、バンド名でもあるローゼンバッハとは…多分にしてニーチェと同時代を生きたブレスラウ大学の教授にして神経科を専攻していた医師オットマール・ローゼンバッハではないかとの事。
 精神を病んだ末に廃人となったニーチェの超人思想に神経医の権威のローゼンバッハというから、何とも偶然というか、的を得た様な複雑怪奇さをも感じるが如何なものであろうか…。

 まあ…小難しい事云々はこのブログでは敢えて触れないでおくにせよ、ゾロアスター教始め哲学的な命題やら超人思想、神の死、当時のイタリア国家を牛耳っていたであろうキリスト教政権への嘲笑と皮肉、ニヒリズムといった、人間の深層心理やら魂の根源・深淵をも揺さぶる様々なカテゴリーが、まるであたかもジグソーパズルの1ピース1ピースが埋められて行くかの様に大団円へと向かって結実していく様は、時に厳かでリリシズム溢れる抒情的な側面と、畳み掛ける様にヘヴィで攻撃的な側面とが背中合わせにして二面性を持ったアンサンブルとなって押し寄せる怒涛なまでの音の波のうねりそのものであろう。
 それはまるでダンテの「神曲」を垣間見るかの如く、地獄巡りの回廊を彷徨う狂人或いは孤高の超人の投影そのものと言っても過言ではあるまい。

 攻撃的で且つ野心的なデヴューを飾った彼等ではあったが、当時隆盛を極めていた多くのバンドと同様御多分に洩れず時代の波に抗える事も儘ならず、あの悪夢ともいうべき極右的なキリスト教政権の弾圧でレコードは製造中止・廃盤=バンドの解散へと追い込まれ、各方面で国内外のアーティストが一同に会するロック・コンサートも全面的に禁止されるという憂き目に見舞われるといった体たらくな始末である。
 73~74年の全世界に吹き荒れたオイルショックに加えて、これらの様々なイタリア国家が病める要因がイタリアン・ロックの衰退と低迷期を引き起こしたのは紛れも無い事実と言えよう。
 ムゼオ解体後のメンバーの動向については、一番有名なところでドラマーのGiancarlo Golziが、同国のプログレ・ハード系で唯一作を遺したJ.E.T(ジェット)のメンバーと共に、今やイ・プーと並んでイタリアン・ポップス界の大御所となったマティア・バザールを結成した事であろう。
 他のメンバーの動向については皆目見当が付かないといった感であるが、ある者はスタジオ・ミュージシャンに転向し、ある者はCM・映像業界に進み、ある者はイタリアポップス界で有名アーティストのバックバンドに就いたり、またある者は音楽業界と手を切って穏やかな生活を選んだ…とまさに多種多様の人生を歩んでいる事であろう。

 が…しかし事態は思わぬ方向へと急変し、2010年突如降って湧いた様な…それこそ長年待ち望んだ奇跡とも言うべき朗報が飛び込んで来たのである。
 ムゼオのヴォーカリストStefano“Lupo”Galifiが、70年代イタリアン・ロックとヴィンテージ系鍵盤をこよなく愛する若手の女性キーボード奏者Elisa Montaldoと共に、ギター、ベース、ドラムを迎えてイル・テンピオ・デッレ・クレッシドレ(IL TEMPIO DELLE CLESSIDORE)というバンドを結成しイタリアン・ロックの第一線に復帰。
 あの熱き70年代イタリアン・ロックの血筋を見事に継承したデヴュー作をリリースし堂々たる現役復帰を遂げる事となる。
          
 嬉しい事にそのバンド名もムゼオにリスペクトするかの様な…否!実はあの『ツァラトゥストラ組曲』の最終パートのタイトルをそのままバンド・ネーミングで甦らせたというから、ファンなら狂喜乱舞といえよう。まさしく21世紀版のムゼオ・ローゼンバッハがここに降臨したと言っても異論はあるまい。
 だが、このまま順風満帆の追い風に乗って次回作へと期待が高まるさ中Stefanoはイル・テンピオをElisaとベーシストのFabio Gremoを中心とした未来ある若手達に託して袂を分かち合った後、かつてのムゼオのオリジナルメンバーAlberto Moreno、そしてマティア・バザールに在籍していたGiancarlo Golzi(結果、2015年にマティア・バザールを脱退)と再び合流し、新たな若い新メンバーを加えてムゼオ・ローゼンバッハを再結成し、2013年…バンド名義としては実に40年ぶりの2nd新譜『Barbarica』をリリース。
 こうして今もなおムゼオ名義の次回作のニュースが待たれる中で、彼等は俄然気を吐き続けて精力的に活動している昨今である。
     

 混迷ともいえる21世紀の気運と時代の荒波が彼等を再び呼び戻したのか、或いは神の啓示の如く天の声の導きで舞い戻ったのか…いずれにせよ脈々たるムゼオの血とあの邪悪で混沌たる闇のエナジー漂う音世界がこうして帰ってきたという事を心から祝福せねばなるまい。
 はっきり言える事は伝説は決して伝説のままで終わらないという事…私自身、あの麻薬にも似た危険な魅力が秘められた旋律(戦慄)の宴に身も心も震える思いですらある。
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Zen

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