一生逸品 DICE
4月最終週の「一生逸品」は、名実共にシンフォニック・ロックの王道を地で行く北欧スウェーデン珠玉の名作にして現在もなおその類稀なる高水準な完成度を誇り、根強いファンはおろか新たなファンをも生み出している、かのカイパと共に70年代後期の至高の匠的存在である“ダイス”に、今一度栄光のスポットライトを当ててみたいと思います。
DICE/Dice(1978)
1.Alea Iacta Est
2.Annika
3.The Utopia Suntan
4.The Venetian Bargain
5.Follies
a)Esther
b)Labyrinth
c)At The Gate Of Entrudivore
d)I'm Entrudivorian
e)You Are?
f)You Are…


Leif Larsson:Key,Vo
Orian Strandberg:G,Vo
Per Andersson:Ds,Per,Vo
Fredrik Vildo:B,Vo
Robert Holmin:Vo,Sax
個人的な思い出話みたいで恐縮ではあるが、86年秋にマーキー誌のコレクターズ・コーナーにて彼等=ダイスが取り挙げられてから、以来…自分の頭の中には、入手困難で99%手が届かず無理とは分かっていても、粗悪なテープ・ダビングでも構わないから是非聴いてみたい存在になったのは最早言うまでもあるまい。
誌面に掲載の白黒で不鮮明なジャケ写ながらも、“プログレッシヴ・ロック演ってます!”と言わんばかりのどことなく自信に満ちた、一見ロジャー・ディーンを思わせるようなファンタジックなイラストに、兎にも角にも大いに興味をそそられた22歳当時の若く燃えていた自分がそこにいた。
だが…運命とはどこでどう転ぶか分からないもので、彼等の唯一の作品との御対面は意外にも早く半年後の春に訪れるのである。マーキー誌のワールド・ディスク経由の稀少盤扱いで25,000~30,000円。当時の自分にとっては清水の舞台から跳び降りるかの如く結構高い買い物ではあったが、それでも値段が高いから云々なんてお構い無しに、夢にまで見た念願のダイスを手に入れた無上の喜びの方が大きかった。
恐る恐る盤をターン・テーブルに乗せ針を落とす…ダイス=サイコロの転がる音に導かれ、軽快なメロディーと共にオルガンとメロトロンが木霊した瞬間、あのドラゴンフライ以来久々に思う存分自室で感動の涙でむせび泣いた事を今でも記憶している。

ダイスの出発は1966年、スウェーデンの首都ストックホルムの進学校にて二人の少年Leif LarssonとOrian Strandbergの運命的な出会いで幕を開ける。
二人とも既に当時からクラシック音楽の正式な教育(Leifはピアノ、Orianはチェロ)を受けてはいたものの、当時の若者と同様このままありきたりな現状に満足する訳ではなく、お決まりの如くビートルズにのめり込み、その後は当然の如くプロコル・ハルム、ナイス、クリムゾン、イエス、EL&P、GG…等から多大なる影響を受け、まさにプログレ道一直線とばかりに、自分達でバンドを組み場所を問わずに幾多ものライヴ活動を積み重ね、互いの家を行き来しては作曲活動に明け暮れたとの事。
「今でもそうだけど、プログレッシヴな音楽を作り演奏する事に快感と喜びを覚えたんだ」とは、当時を振り返ったLeifとOrianの弁であり、嗚呼…まさにプログレッシャーの鑑たる姿勢がここにある!
本作品のデヴュー作に収録された殆どの曲、並び数年後未発マテリアルとして世に出る『The Four Riders Of The Apocalypse』の全曲とも1973年に既に完成させ、本格的なレコーディングに臨む為、知り合いの音大生でパーカッションを専攻し作詞作曲も出来るPer Anderssonを迎え、2年後の1975年には、楽器店に貼ったメンバー募集の告知を見て応募してきた、同楽器店員にして様々なローカル・バンドも経験してきたFredrik Vildoをベーシストに迎えて、ダイスのラインナップはほぼ整った次第である
この不動の4人編成で国内ツアーを行い、ライヴハウス始め野外コンサート、ハイスクールでの積極的なギグが次第に注目され、国営ラジオでもその模様がオンエアされ“カイパに次ぐ新星”とまで言われたとか。
その後メンバーの共同出資で自らのスタジオを設立し、決定的なヴォーカリスト不在ということを踏まえ、オーディションでサックスも吹けるRobert Holminを抜擢し、1978年インディーズながらも遂に自らのバンド名を冠した念願のデヴュー作をリリースする。
イエス、ジェントル・ジャイアントを彷彿とさせる変拍子全開にして変幻自在で煌くようなシンフォ・ナンバーの1曲目と4曲目、『ハンバーガー・コンチェルト』期のフォーカスを想起させる2曲目、ラグタイム・ピアノに導かれ軽妙且つコミカルな曲展開が微笑ましい3曲目、そして全曲中最大の呼び物、22分に渡る組曲形式の5曲目は、イエスの“危機”、ジェネシス“サパーズ・レディー”、フォーカス“ハンバーガー・コンチェルト”と並び負けず劣らずのシンフォニック大作で、不思議な余韻と感動を残して締め括られる。
しかし…バンド側は、音楽配給のパブリシング会社並びレコード会社側の方針に今ひとつ満足が行かず、デヴュー作以後は自分達の理想たる創作環境を求め奔走する一方で、後に未発マテリアルとして1992年満を持して世に出る事となる『The Four Riders Of The Apocalypse』の録音並び新曲の製作にも着手するが、広い様で何かと狭い音楽業界に於いて交流・人脈絡みでジャンル違いなバンドやシンガーにも力を貸していくのである。

結果的には、バンド本隊は現在もなお開店休業状態で、バンドの各メンバーも著作権・版権関係の会社に就いたり、広告関係並びテレビ・舞台・映画音楽関係、ライヴ・エンジニア、セッションマン、ツアーミュージシャンとして現在もなお多忙を極めているとのこと…。(実は、有名なところで35年前の「つくば万博」にて、ギタリストのOrianのみが環境音楽家として一度来日を果たしているとのこと。ちなみにマーキーのワールド・ディスク経由で彼のソロも何枚か販売されたこともあるとのこと。)
開店休業状態ながらも、Leif始めOrian、Per、Fredrik、Robertの5人は現在も一生涯の友として強固な友情の元で定期的に顔を合わせ、お互いに仕事をし合ったりセッションに参加しているとのこと。
余談ながらも…LeifとOrianは1982年にお互いの妹さんと結婚し義兄弟になっている。
北欧諸国並び日本、世界各国でも根強いファンを獲得している彼等ではあるが、メンバー同士お互いの時間的余裕が作れて、周囲の状況が好転し次第、新作の準備に取り掛かれるとの事だが…果たして?
何が起こっても不思議ではない21世紀のプログレッシヴ・ロック業界…カイパ(+カイパ・ダ・カーポ)、トレッティオアリガ・クリゲットの再結成~現役復帰という奇跡を目の当たりにしている昨今の事であるから、不可能がいつ可能になってもおかしくはないのである。
一笑に伏されるかもしれないが、今はただ“奇跡はいつの日にか必ず”という事を信じて止まないばかりである。
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